ひらいて

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著者 : 綿矢りさ
  • 新潮社 (2012年7月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103326212

ひらいての感想・レビュー・書評

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  • これが綿矢りさか!
    いいのか悪いのかは別にして勢いが半端なかった。
    中盤からは疾走感が溢れて一気に読んだ。
    エキセントリックな主人公と言い、予想を覆す展開と言い、いい意味で裏切られた感じ。
    でもこれって純文学?
    純文学とも読めるけど笑っちゃう感じが少女漫画みたいで。

    ストーリーや構成は他の作家では味わえない独特な感じもあって、またそれぞれの登場人物の個性の描写が冴えわたってこの作家の才能を感じさせる。
    ただ、ちょっとレトリックに凝り過ぎてないだろうか。
    あまりにもしつこくて読み進めるのにげんなりする。
    話が展開し始め勢いがついてくると気にならないし、会話の部分の言葉の選び方は文句をつけようがない。
    ただちょっと主人公の心情の比喩がしつこくて。
    シンプルに書いたらもっと良くなるだろうに。
    この辺は好みの問題だろうけど・・・。

    高校生特有の傲慢さやナイーブさ、大人になる一歩手前の純粋な心が残っている感覚。
    これをナイフのように鋭く描く綿矢さんはやはりすごい。
    これからどんな作家になって行くのか非常に楽しみ。
    これからも追いかけて行きたい作家になった。

  • 高校3年生の愛は、目立たないクラスメイト・西村たとえに恋をしている。
    話すらうまくいかない日々。ある夜、愛は夜中の学校に忍びこみ、彼の手紙を盗み読み、彼には同級生の美雪という恋人がいることを知る。
    彼に近づくために、美雪に近づき、友達になった愛だったが…。

    この主人公も暴走していた。
    でも、「かわいそうだね?」でのコメディのような暴走ではなく、まっすぐ盲目的に、狂気さえはらんだ暴走ぶり。愛は台風みたいな子だ。

    結婚式でよく耳にする、聖書の有名な一節。

     愛は忍耐強い。愛は情け深い。ねたまない。愛は自慢せず、高ぶらない。
     礼を失せず、自分の利益を求めず、いらだたず、恨みを抱かない。
     不義を喜ばず、真実を喜ぶ。
     すべてを忍び、すべてを信じ、すべてを望み、すべてに耐える。

    そんな「愛」の名前を持つ主人公。
    でも恋と愛は根源的に違うんだなと思った。
    恋はいらいらしたり舞い上がったり、めまぐるしく揺れ動くし、直情的で。
    相手よりも自分の気持ちが優先で,身勝手で、盲目的で、嫉妬して。
    甘酸っぱい恋もある。うきうき華やかな恋もある。
    でも恋とは、一皮めくれば、そこにあるのは生々しい激情。
    相手に好かれたい、振り向かせたいという気持ちと表裏で、相手を傷つけたい、壊したいと熱望する。
    器用に立ち回れて男女ともに友達がいて、大学を推薦ももらい、大学でそこそこの男を見つけて卒業後に結婚するのが理想の生き方だったのに。
    醜態だ、みじめだと思いながらも、もう自分では止めることはできない。

    “今しかこの恋の真の価値は分からない。人は忘れる生き物だと、だからこそ生きていられると知っていても、身体じゅうに刻みこみたい。一生の一度の恋をして、そして失った時点で自分の稼働も終わりにしてしまいたい。二度と、他の人を、同じように愛したくなんかない。”

    荒くて粗い。絶対自分だったらこんなことしないけれど、でも本当に感情の赴くままに動いたら、こうなるのかもしれないなんて、妙な納得をしてしまった。

  • ──心を「ひらいて」、からだを「ひらいて」
    過剰なまでの自意識と欲望は、いつか無意識という名に変わる。

    註:新潮5月号でこの作品を読んでのレビューです。
    それにしても、雑誌掲載から僅か2ヶ月で単行本になるなんて。

    「ひらいて」というタイトルを聞いたとき、ふと官能的な響きに聞こえたのは何故だろう。
    自分でも不思議だ。ぼんやりと淫靡なイメージが頭に浮かんだのだ。
    綿矢りさの小説だというのに……。

    それにしても、やはり綿矢りさはすごい。

    自意識の塊のような女子高生が、同級生の男の子に寄せる秘かな思い。
    思い描くことは、ある意味ハチャメチャで、自分勝手な妄想世界だけでの苦しみと、それとは真逆な破天荒さが入り混じった意識の塊が肉体を作り上げているような主人公。
    その意識の表現が素晴らしい。まさに綿矢節である。
    言葉の一つ一つに無駄がない。心に染み渡ってくる。
    かと思えば、思わず爆笑したくなるような表現が突然出現。
    本当にこの人の頭の中はどうなっているのだろう、一度脳みその中を覗いてみたいものだ。
    そのうえこの作品は意識だけではなく、主人公の行動までもが驚くべき方向へ向かう。
    「蹴りたい背中」では行動にまで及ばなかったが、この作品は違う。もっと進化した意識。
    片思いの男に振られた腹いせに、その彼女と……。
    ──かかってきなさい、気分は博打女郎だ。
    という表現は彼女の何の作品だったろうか。
    まさに怖いものなし。
    綿矢りさ、長年の苦しみを乗り越えて、書きたいように書いた作品だと思う。

    途中で「まさかねえ……」と読み進めたら、そのまままっしぐらに突き進んで行った主人公の行動には驚いたが、それもとりたてて小説の流れとしては不自然ではない。
    合間合間に挟みこまれた独特の表現やたくみな比喩も相変わらずだし、シリアスな場面であるにもかかわらず、時として吹き出しそうな笑いを誘う表現もあったりと、まさに小説を読む醍醐味を思う存分感じさせてくれる作品。

    この作品のテーマは“愛”なのでしょうね、やはり。主人公の名前も愛なのだから。
    その愛は、彼女の場合、いつも途轍もなくいびつな形で表現される。
    「蹴りたい背中」然り、「勝手にふるえてろ」また然りだ。そして、この「ひらいて」でも。
    綿矢さんは登場人物のネーミングも秀逸だ。「たとえ」君とか、普通思い浮かばん。

    ストーリー的に、核心の部分に少しでも触れるとネタバレになり、この小説の面白さが半減すると思うので、この程度までにしておきます。

    とにかく、面白い小説を読ませてもらった、という読後感。
    最後にお約束の、この「ひらいて」に出てくる綿矢りさ『名文・名表現・名比喩集』を載せておきます。
    美しい文章も、官能的な描写も、笑える表現も、すごいですわ、やはり、この人。
    あんな可愛い清楚な顔をしてるのに。
    講談社で出会った生綿矢さんの顔を思い出しながら読んでいました。

    1. どんなものでも丁寧に扱う、彼のゆったりした手の所作。付き合う人も、あんな風に大切に扱うのだろうか。
    2. ぬるい水で何倍も希釈された薄くけだるい午後の授業のなか──
    3. 「女子は帰って勉強しろ」(中略)やだ~、なんて言ってみるけど、私は推薦入試だから、実はそれほど勉強しなくていい。
    4. でも少しでも食べ過ぎたと感じると、透明なジェル状の後悔が、体の表面にたっぷりと垂れて皮膚を覆い、(中略)ポテトの二本目を食べ終わると、満足感が急激に同じ体積のまま後悔へ変質していく気配があったから──
    5. 男の子みたいにふるまうと、男の子は喜ぶ。仲間だと思うのだろうか。
    6. 手だけはつないだ、というリアルな告白に、自分から聞いたくせに腹が立つ。
    7. 嬉しそうな美雪の顔に苛立ちがつのる。たとえと分かり合えるなら私だって病気になりたい。
    8. 女とキスしている生理的な嫌悪が私の肌を粟立たせて、喉元までゆるい吐き気がこみ上げる。
    9. 1ミリの勝負だ。たった1ミリ動かすだけで美が生まれ、たった1ミリずれるだけで美が消える。
    10.勝手に嫉妬して、横取りしようとして告白した挙句、ふられて逆上して捨て台詞を吐いて出てきた。
    11.もちろん私だって女など嫌だ。こんな良い雰囲気のなか抱き合っているという事実にさえ、ぞっとして鳥肌が立つ。
    12.おもしろい勘違いじゃないか。最後までその勘違いに付き合ってやろう。私はカップルの両方に告白する変人になってやる。(これ大爆笑)
    13.私はどうしても悦ばされる側にはなりたくなくて──
    14.この、相手を摑んで握りつぶしたくなるような欲を、男の子たちが今まで“かわいい”という言葉に変換して私に浴びせてきたのだとしたら、私はその言葉を、まったく別なものとしてひどく勘違いしていたことになる。(これ、秀逸!!!)
    15.私はなぜ、好きな人の間男になったのだろう!(この表現、夜中なのに大声で笑ってしまった)
    16.でもそれじゃ、ただの破壊じゃないか。(これも笑えた)
    17.心と同じスピードで走れたら、どんなに気持ち良いだろう。(これは言い得て妙)
    18.本能で求め合い、後戻りできる道を二人して粉々にぶっ潰した。

    これだけ書いても、この小説の表現の面白さが分かると思います。読みたくなりませんか?
    是非、ご一読ください。

  • 評判は聞いていたけど、今までの綿矢作品と違い
    ちょっと爽快、疾走を感じました。
    若いって素敵だな~(もう中年には真似できない・汗)
    全身全霊で人を愛して、ひりひりするくらいの恋って素敵だ。
    未熟で不器用だけど、この時期じゃないと出来ない愛。

    恋の矢、想いが重過ぎて愛が突き抜けているような
    相手の身体ごと刺してしまうくらいの愛の矢だけど
    読んでいて楽しかった。
    愛に形なんてないからかな?

    つい引き寄せられて一日で読んでしまいました。
    好きな作品だな、と思いました。

    ラストの「ひらいて」って問いかける部分も
    私の(読者の)心を揺るがす鋭い巧みさに
    ノックアウトされてしまいました。
    「愛してる」って10回言われるよりも、一度「ひらいて」って
    言われた方が、深く心を揺さぶられる。

    『ひらいて』というタイトルも好き。
    表紙も素敵です。

  • 白を基調とした装丁とは程遠い衝動的な主人公。その行動は狂気だ。
    嫌悪を抱いてまで美雪を抱き全裸でたとえに迫る愛も、たとえを受け入れ愛を受け入れひらいていく美雪も、愛に怯えながら一緒に来いと告げるたとえも私には理解し難い。恋愛と呼ぶにはあまりにも違和感がある作品。ただ、読み手を鷲掴みにする何かがある。
    心に残る暖かい作品ではないけれど、ガツンと鈍器で頭を殴られるような衝撃がある。ジンジンと揺れが響いて、その揺れが収まらないままに読み終えた。文学なんて難しい読み方は出来ないけれど、文学として評価できる作品なんだと思う。

  • 面白い、綺麗、つまらない、わからない、という言葉で片付けるにはもったいない作品。
    主人公のする全ての行動に理由がついて回らない。
    彼女や私達が理由をくっつけてあたかも理由があるように威張るだけなのだと思う。
    若くて多感で、走り回っているような主人公。
    自分の心や気持ちよりもっと内側で深い底にある何かに正直な主人公。
    私も彼女と同じように急いてページをめくりました。
    きめの細かい作者の言葉が、じわりじわりと気持ち悪さを伝えます。
    読後は言い訳のできない気持ちがねっとりと残ります。
    読まないとわからない気持ちです。
    この気持ちが作品や作者の魅力だと思います。

  • 高校3年の「私」は同じクラスの男子、西村に恋をし、彼の特別さに気付いているのは自分だけと思い込む。

    別のクラスの美雪が彼の恋人であることを知り、「私」は恋人への接触を試みる。

    思い込みで作り上げた彼への気持ちは彼女を走らせる。
    彼女は彼の前で裸になるが彼の心はひらかない。彼の恋人は心も体も簡単にひらいていく。

    思い込みの恋愛が作る破綻劇。

    -----------------------------------------------------

    狂気といってしまえばそれまでなんだけど、そういう強い言葉で片付けられないのは誰もが通る道というか、誰にでも起こりうることだからだと思う。

    感情の多くは思い込みで、いやだと思えば心は閉じるし、好きだと感じれば簡単に心も体もひらく。

    『君の顔が好きだ 君の髪が好きだ 性格なんてものは僕の頭で勝手に作りあげりゃいい』
    と斉藤和義が歌ったように、話したことなんてなくても、いくらでも勝手に思いつめるような恋愛はできる。

    『会えない時間が愛育てるのさ』
    と郷ひろみが歌ったように、美雪と西村は二人の世界を作っていた。

    思い込みで練り上げた感情は理性を鈍らせ、倫理観も働かなくなる。
    主人公「私」はその感情の行き場をどこに向けていいかわからず、暴走してしまう。自分が心をひらいてほしいひとには拒否されるのに、その恋人は心も身体も簡単にひらく。
    「私」はすごく痛い存在なんだけど、それは誰もが感じる痛みだからリアルなんだと思った。

    彼女たち三人の未来に、よろしく哀愁。

  • 読み終わっての感想は「なんかすげーな、綿矢りさ…」って感じでした。

    高校生の、どこに向かっていくか分からない激しい感情がよく表現されていたとは思います。
    ただ、勢いがあるというか、文章から伝わってくるものが濃くてちょっとお腹いっぱいになってしまった。

    だけど、嫌いじゃないんですよね~。特に後半にかけては疾走感があって、今まで渦巻いていた屈託した感情がすーっとほどけていく感覚で読んでいて気持ちよかったです。

    う~ん、不思議な作家さんです。

  • 綿矢りささんの作品を読むと、いつも複雑な気持ちになる。
    その原因の一つとして、誰しもが一度は似た感情を持ったことがあるのではないかと思われる難しい年頃によくあるあの青臭さ。あの青さを思い出して、もやもやそわそわしてしまう。
    子供の頃、特に高校生の頃によく感じた、心の中に留められない苛々。
    抑え込む方法や消す方法を探しては見つからず、または見つける気もなく、結局なにかに当たり散らして、よく爆発させていたように思う。
    その時の複雑な気持ちが、この ひらいて でもよくわかる。
    一見おかしな行動ばかりとる主人公、もちろん自分は彼女のように動き回る心の強さはない。けれど、どこかしらで同じ気持ちを共有できるんじゃないだろうか。
    恋愛感情から変化していく過程がとても良い。逆に嫉妬心から変化していく、「美雪」への思いもとても好みだった。
    人を好きになるって、なんなんだろう。

    等身大の女の子である主人公に、いつの間にか気持ちが寄ってしまうお話だった。

  • 恋愛は破壊だと思う。正確に言うと、破壊になり得る、と思う。
    この話の主人公、愛は破壊した。関わる人との関係性も、そして自分自身も。強く惹かれたクラスの男子のたとえが、糖尿病を患う美雪と付き合っていたことを知った愛。たとえと近づくために美雪に近づき、ついには美雪と体の関係をも持ってしまう。急降下する成績、たとえに否定される自分、たくさんのものを失い、そしてこれから失うかもしれないという絶望感がありながらも、それを自分ではどうすることもできない。コントロールできない。制御できない。
    認めてほしい。受け入れてほしい。そして一つになりたい。そんなある種の"承認"行為こそが恋愛であるとするならば、それが実るのはかなり難しい。所詮他人は他人、その距離は埋められないから。いや、これは恋愛だけではない。人は個で存在しながらも、個では生きていけない、でも個であるしかない。
    人と繋がるというのはこんなにも難しいのか。言葉というものが人間にはあるのに。いや、言葉があるからこそなのだろうか。

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