ひらいて

著者 :
  • 新潮社
3.54
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本棚登録 : 2082
感想 : 349
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103326212

作品紹介・あらすじ

やみくもに、自分本位に、あたりをなぎ倒しながら疾走する、はじめての恋。彼のまなざしが私を静かに支配する――。
華やかで高慢な女子高生・愛が、妙な名前のもっさりした男子に恋をした。
だが彼には中学時代からの恋人がいて……。
傷つけて、傷ついて、事態はとんでもない方向に展開してゆくが、それでも心をひらくことこそ、生きているあかしなのだ。

本年度大江健三郎賞受賞の著者による、心をゆすぶられる傑作小説。

感想・レビュー・書評

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  • これが綿矢りさか!
    いいのか悪いのかは別にして勢いが半端なかった。
    中盤からは疾走感が溢れて一気に読んだ。
    エキセントリックな主人公と言い、予想を覆す展開と言い、いい意味で裏切られた感じ。
    でもこれって純文学?
    純文学とも読めるけど笑っちゃう感じが少女漫画みたいで。

    ストーリーや構成は他の作家では味わえない独特な感じもあって、またそれぞれの登場人物の個性の描写が冴えわたってこの作家の才能を感じさせる。
    ただ、ちょっとレトリックに凝り過ぎてないだろうか。
    あまりにもしつこくて読み進めるのにげんなりする。
    話が展開し始め勢いがついてくると気にならないし、会話の部分の言葉の選び方は文句をつけようがない。
    ただちょっと主人公の心情の比喩がしつこくて。
    シンプルに書いたらもっと良くなるだろうに。
    この辺は好みの問題だろうけど・・・。

    高校生特有の傲慢さやナイーブさ、大人になる一歩手前の純粋な心が残っている感覚。
    これをナイフのように鋭く描く綿矢さんはやはりすごい。
    これからどんな作家になって行くのか非常に楽しみ。
    これからも追いかけて行きたい作家になった。

  • きゅんきゅんしてしまうような感じではなかったけど片思いをしていたらたぶん心に刺さると思います。面白かったです。

  • ──心を「ひらいて」、からだを「ひらいて」
    過剰なまでの自意識と欲望は、いつか無意識という名に変わる。

    註:新潮5月号でこの作品を読んでのレビューです。
    それにしても、雑誌掲載から僅か2ヶ月で単行本になるなんて。

    「ひらいて」というタイトルを聞いたとき、ふと官能的な響きに聞こえたのは何故だろう。
    自分でも不思議だ。ぼんやりと淫靡なイメージが頭に浮かんだのだ。
    綿矢りさの小説だというのに……。

    それにしても、やはり綿矢りさはすごい。

    自意識の塊のような女子高生が、同級生の男の子に寄せる秘かな思い。
    思い描くことは、ある意味ハチャメチャで、自分勝手な妄想世界だけでの苦しみと、それとは真逆な破天荒さが入り混じった意識の塊が肉体を作り上げているような主人公。
    その意識の表現が素晴らしい。まさに綿矢節である。
    言葉の一つ一つに無駄がない。心に染み渡ってくる。
    かと思えば、思わず爆笑したくなるような表現が突然出現。
    本当にこの人の頭の中はどうなっているのだろう、一度脳みその中を覗いてみたいものだ。
    そのうえこの作品は意識だけではなく、主人公の行動までもが驚くべき方向へ向かう。
    「蹴りたい背中」では行動にまで及ばなかったが、この作品は違う。もっと進化した意識。
    片思いの男に振られた腹いせに、その彼女と……。
    ──かかってきなさい、気分は博打女郎だ。
    という表現は彼女の何の作品だったろうか。
    まさに怖いものなし。
    綿矢りさ、長年の苦しみを乗り越えて、書きたいように書いた作品だと思う。

    途中で「まさかねえ……」と読み進めたら、そのまままっしぐらに突き進んで行った主人公の行動には驚いたが、それもとりたてて小説の流れとしては不自然ではない。
    合間合間に挟みこまれた独特の表現やたくみな比喩も相変わらずだし、シリアスな場面であるにもかかわらず、時として吹き出しそうな笑いを誘う表現もあったりと、まさに小説を読む醍醐味を思う存分感じさせてくれる作品。

    この作品のテーマは“愛”なのでしょうね、やはり。主人公の名前も愛なのだから。
    その愛は、彼女の場合、いつも途轍もなくいびつな形で表現される。
    「蹴りたい背中」然り、「勝手にふるえてろ」また然りだ。そして、この「ひらいて」でも。
    綿矢さんは登場人物のネーミングも秀逸だ。「たとえ」君とか、普通思い浮かばん。

    ストーリー的に、核心の部分に少しでも触れるとネタバレになり、この小説の面白さが半減すると思うので、この程度までにしておきます。

    とにかく、面白い小説を読ませてもらった、という読後感。
    最後にお約束の、この「ひらいて」に出てくる綿矢りさ『名文・名表現・名比喩集』を載せておきます。
    美しい文章も、官能的な描写も、笑える表現も、すごいですわ、やはり、この人。
    あんな可愛い清楚な顔をしてるのに。
    講談社で出会った生綿矢さんの顔を思い出しながら読んでいました。

    1. どんなものでも丁寧に扱う、彼のゆったりした手の所作。付き合う人も、あんな風に大切に扱うのだろうか。
    2. ぬるい水で何倍も希釈された薄くけだるい午後の授業のなか──
    3. 「女子は帰って勉強しろ」(中略)やだ~、なんて言ってみるけど、私は推薦入試だから、実はそれほど勉強しなくていい。
    4. でも少しでも食べ過ぎたと感じると、透明なジェル状の後悔が、体の表面にたっぷりと垂れて皮膚を覆い、(中略)ポテトの二本目を食べ終わると、満足感が急激に同じ体積のまま後悔へ変質していく気配があったから──
    5. 男の子みたいにふるまうと、男の子は喜ぶ。仲間だと思うのだろうか。
    6. 手だけはつないだ、というリアルな告白に、自分から聞いたくせに腹が立つ。
    7. 嬉しそうな美雪の顔に苛立ちがつのる。たとえと分かり合えるなら私だって病気になりたい。
    8. 女とキスしている生理的な嫌悪が私の肌を粟立たせて、喉元までゆるい吐き気がこみ上げる。
    9. 1ミリの勝負だ。たった1ミリ動かすだけで美が生まれ、たった1ミリずれるだけで美が消える。
    10.勝手に嫉妬して、横取りしようとして告白した挙句、ふられて逆上して捨て台詞を吐いて出てきた。
    11.もちろん私だって女など嫌だ。こんな良い雰囲気のなか抱き合っているという事実にさえ、ぞっとして鳥肌が立つ。
    12.おもしろい勘違いじゃないか。最後までその勘違いに付き合ってやろう。私はカップルの両方に告白する変人になってやる。(これ大爆笑)
    13.私はどうしても悦ばされる側にはなりたくなくて──
    14.この、相手を摑んで握りつぶしたくなるような欲を、男の子たちが今まで“かわいい”という言葉に変換して私に浴びせてきたのだとしたら、私はその言葉を、まったく別なものとしてひどく勘違いしていたことになる。(これ、秀逸!!!)
    15.私はなぜ、好きな人の間男になったのだろう!(この表現、夜中なのに大声で笑ってしまった)
    16.でもそれじゃ、ただの破壊じゃないか。(これも笑えた)
    17.心と同じスピードで走れたら、どんなに気持ち良いだろう。(これは言い得て妙)
    18.本能で求め合い、後戻りできる道を二人して粉々にぶっ潰した。

    これだけ書いても、この小説の表現の面白さが分かると思います。読みたくなりませんか?
    是非、ご一読ください。

    • mitsukiさん
      自分のレビュー後に、こんなにきちんとしたレビューがあるなら書かなくて良かった位♪一番手を担ってもらえて、光栄。という思いを込めて、コメントし...
      自分のレビュー後に、こんなにきちんとしたレビューがあるなら書かなくて良かった位♪一番手を担ってもらえて、光栄。という思いを込めて、コメントしてゆきまーす。
      2012/07/29
    • あずきさん
      コメントありがとうございます。
      この名文集、いいですね!
      芥川賞のときに誰かが言ってましたが、とても容姿に恵まれた人の書ける文章じゃないです...
      コメントありがとうございます。
      この名文集、いいですね!
      芥川賞のときに誰かが言ってましたが、とても容姿に恵まれた人の書ける文章じゃないですよね。
      2012/08/09
  • ずっと前に買ったはいいけど積んでて、本棚の整理で発掘されてやっと読めた。「蹴りたい背中」の書き出しもそうだけど、この人の表現は誰にも真似できないと思う。好きな相手に振り向いてもらえないから、その彼女に近づく主人公。

    彼を好きすぎるあまりどんどん普通じゃなくなっていく主人公が哀れでみっともなく感じるんだけど、ほんとに周りが見えなくなるとなりふり構っていられないんだよね。主人公と彼女との会話と、心内描写の掛け合いがこれまたリアルでえぐい。これ会話文だけ読むと普通の友達同士の恋バナなのに目の前のこの女を、一生許せそうにない。とか挟んでくるからもう読んでるこっちは嫌な汗かきそうなくらいだし。顔で笑って心で泣くってこういうことなのよね。

  • ほぼ初の恋愛小説。

    まず、綿矢さんの綴られる言葉がとにかく素敵。
    「正しい道を選ぶのが、正しい。
    でも正しい道しか選べなければ、なぜ生きているのかわからない」
    これは『雪国』の「なんとなく好きで、そのとき好きだと言わなかった人の方が、いつまでも懐かしいのね。忘れられないのね」に並ぶ、自分の中で伝説的な一文になった。多分一生忘れないな

    つらつらと普通に読んでいたら、途中からとんでもない展開になってた。もうあそこの場面は衝撃的すぎて5回くらい読み直した笑
    愛の行動ってたまに理解不能だったりする。
    でも、「理解」はできなくてもなんとなくわかってしまう気もする。
    それはまさに、「正しい道しか選べなかったら、なぜ生きているかわからない」というのに私が共感できてしまうからなんだろうな 
    あの頃の無鉄砲さってその時は持て余すものだけど、いざ失ってみるとなんだか寂しい。
    その失くしたものをもう一回思い出させてくれたような本でした。

  • 高慢で華やかな女子高生がもっさりした男子に恋をした。

    むき出しの感情が痛々しくて清々しい。若さ?

  • 白を基調とした装丁とは程遠い衝動的な主人公。その行動は狂気だ。
    嫌悪を抱いてまで美雪を抱き全裸でたとえに迫る愛も、たとえを受け入れ愛を受け入れひらいていく美雪も、愛に怯えながら一緒に来いと告げるたとえも私には理解し難い。恋愛と呼ぶにはあまりにも違和感がある作品。ただ、読み手を鷲掴みにする何かがある。
    心に残る暖かい作品ではないけれど、ガツンと鈍器で頭を殴られるような衝撃がある。ジンジンと揺れが響いて、その揺れが収まらないままに読み終えた。文学なんて難しい読み方は出来ないけれど、文学として評価できる作品なんだと思う。

  • 面白い、綺麗、つまらない、わからない、という言葉で片付けるにはもったいない作品。
    主人公のする全ての行動に理由がついて回らない。
    彼女や私達が理由をくっつけてあたかも理由があるように威張るだけなのだと思う。
    若くて多感で、走り回っているような主人公。
    自分の心や気持ちよりもっと内側で深い底にある何かに正直な主人公。
    私も彼女と同じように急いてページをめくりました。
    きめの細かい作者の言葉が、じわりじわりと気持ち悪さを伝えます。
    読後は言い訳のできない気持ちがねっとりと残ります。
    読まないとわからない気持ちです。
    この気持ちが作品や作者の魅力だと思います。

  • 高校3年の「私」は同じクラスの男子、西村に恋をし、彼の特別さに気付いているのは自分だけと思い込む。

    別のクラスの美雪が彼の恋人であることを知り、「私」は恋人への接触を試みる。

    思い込みで作り上げた彼への気持ちは彼女を走らせる。
    彼女は彼の前で裸になるが彼の心はひらかない。彼の恋人は心も体も簡単にひらいていく。

    思い込みの恋愛が作る破綻劇。

    -----------------------------------------------------

    狂気といってしまえばそれまでなんだけど、そういう強い言葉で片付けられないのは誰もが通る道というか、誰にでも起こりうることだからだと思う。

    感情の多くは思い込みで、いやだと思えば心は閉じるし、好きだと感じれば簡単に心も体もひらく。

    『君の顔が好きだ 君の髪が好きだ 性格なんてものは僕の頭で勝手に作りあげりゃいい』
    と斉藤和義が歌ったように、話したことなんてなくても、いくらでも勝手に思いつめるような恋愛はできる。

    『会えない時間が愛育てるのさ』
    と郷ひろみが歌ったように、美雪と西村は二人の世界を作っていた。

    思い込みで練り上げた感情は理性を鈍らせ、倫理観も働かなくなる。
    主人公「私」はその感情の行き場をどこに向けていいかわからず、暴走してしまう。自分が心をひらいてほしいひとには拒否されるのに、その恋人は心も身体も簡単にひらく。
    「私」はすごく痛い存在なんだけど、それは誰もが感じる痛みだからリアルなんだと思った。

    彼女たち三人の未来に、よろしく哀愁。

  • 高校3年生の愛は、同じクラスの西村たとえのことが好きだ。
    愛は、たとえが糖尿病を患う他クラスの美雪と付き合っていることを知る。
    そして、その事からどんどんエスカレートした大胆な行動になっていく。

    ひゃー、なんだこれ。こわいこわい。
    人を好きになるということはこういう事なのか?

    愛が承認欲求ばかりで、周りに求められる人であり続けようとしていた所から一皮剥ける感は心地よい。
    しかしながら、最後の終わり方があまり好きではないかな。

    0.3mmよりも細いようなペンで描かれた繊細さに溢れた作品だった。

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著者プロフィール

小説家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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