手のひらの京

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103326236

感想・レビュー・書評

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  • 生まれた時から京都に暮らす三姉妹の日々を、四季の巡りと京都の風物と共に描いた作品。

    生真面目で堅実なタイプだけど、30歳を超えて実家暮らしで恋人もいないことに焦りを感じている長女・綾香。 

    気が強く自己中心的な恋愛体質で、男女問わず常に誰かしらと諍いを起こしながらもそんな自分を意外と冷静に俯瞰している社会人1年目の次女・羽依。

    大学院で研究に取り組みながら、常に守られ小さくまとまった京都以外の広い世界で一度は自立して生きてみたいと、東京就職を目指す三女・凛。

    小説としては特別な急展開や大どんでん返しはない平坦なつくりなのだけど、その分、それぞれの等身大の日々を生きている姉妹たちの姿が丁寧に描かれていて、親近感があり、愛おしい。

    凛の感じた、狭い世界にこもって人生が終わってしまうことへの不安や外への渇望も、綾香の感じた加齢に伴う焦りも、私自身、少なからず無縁ではなかったな、と思ったり。 

    とはいえ、私は根暗で人付き合いも苦手なタイプなので、誰かと揉めようと常に気を抜かずに人の優位に立つことを目指し、異性と駆け引きを繰り返すことにありったけのエネルギーを注ぐ羽依のようなタイプは、正直、理解しがたかったけど…。
    でも、意外とそんな自分を冷静に眺めて今どんな立場にいるか考え続ける彼女の姿が興味深くて(失礼!)、そんな子もおんねんなあ…と思ったり。
    (ただ、会社でのわかりやす過ぎるイジメ描写は怖くて引いてしまった…。まあ、さすが羽依さん、したたかに対抗する描写出ていたけど…。途中で読むのやめようかな…てぐらい、根暗な人間には胸に苦く残った場面でした。)

    …脱線してしまったけど。

    何より本書の魅力は、折に触れて挟まれる、京都の風物の描写。

    よそ者にもお馴染みな観光地として有名な神社仏閣も祭りも、地元の人しか知らないだろう風景も、彼女たちにとっては同列の日常なんだな、と思うと、なんだか不思議な気もするけど、それがまた、この、「日常小説」を華美過ぎず、けれど確かに彩っていて、読み応えになっている。

    帯に、「綿矢版『細雪』」とあったけど、確かに。

    谷崎潤一郎の「細雪」も、四姉妹の日常の中に、昭和初期の京阪神を中心とした生活習慣や季節の風物がふんだんに盛り込まれてて、それが、物語の魅力に繋がっている。

    また、本書は母親がいきなり「卒母」宣言したことにより、姉妹が当番制で夕食を作ることになった場面から始まるのだけど、姉妹それぞれの料理へのスタンスや献立といった部分からも、彼女たちの個性が感じ取れ、物語の導入からの細かい設定に恐れ入る。

    山や谷は少ないお話なので、劇的な展開を求める人には向かないかもだけど、京都に興味がある人にはおすすめ。

    「引っ越したこともない。その事実がときどき怖くなるねん。世界はもっともっと広いのに、私はなんにも知らないまま小さく守られたところで一生を過ごすのかなと思うと、息がつまりそうになる。」

  • 綾香、羽依、凛。
    京都で生まれ育った3姉妹の、恋と成長をえがくホームドラマ。

    京都のいい面だけでなく、悪い面も。
    筆者自身が京都で生まれ育ったそうで、観光ではない生活感がある。

    妹ふたりの葛藤が、印象に残る。
    特に「聞えよがしのいけず」と対決する羽依が、よかった。

  • ちょっと物足りない読後感。京都に暮らす3姉妹の淡々としたそれぞれの日常が描かれているけど非日常的な出来事はほぼ無い。もちろん京都育ちの著者だから京都の祭事や風景や町並みは手に取るように描写してある。所謂 婚期を過ぎた図書館勤めの長女、新社会人で背伸びしながら自我を表したい次女、大学院を出たら専門を活かす勤務先を東京に求めたい三女。たしかに京都住まいの市井の家族は作品のように生活する人が多い。しかし読み物としては少し物足りなかった。

  • 京都で暮らすある一家。

    ここで生まれ育った両親。

    長女の綾香。
    図書館司書で、しっかり者、おっとり、真面目。

    次女の羽衣。
    OL。奔放な性格だけど、芯はしっかりしている。気が強い。派手なせいか女性に嫌われやすい。

    三女、凛。
    男性と付き合ったことはなく、院で研究に没頭してきた。京都が好きだからこそ、就職を機に一度外に出たいと思っている。


    3姉妹の物語というと、そのうち誰かがダメ男に恋なんかしちゃって、家族もぐちゃぐちゃに〜なんていうお話が多かったのですが、この3姉妹は(ちょっと危うい場面はあったものの、)違ってて、まずとても仲がいい。そして、それぞれの悩みに苦しくなったり、切なくなったりしながら読んでました。



    作者の綿矢さん自身、京都の方ということで、それならではの表現も楽しかったです。

    京都の伝統芸能「いけず」の説明がとても面白かったです。
    京都人が皆、「いけず」の使い手ではなく、学校のクラスでいうと2、3人の割合ということは覚えておこうと思いました。

  • 京都に住む三姉妹の日常の物語。
    長女の綾香、次女の、三女の凛。それぞれの悩みや成長を京都という、古くておっとりした街の雰囲気と共に描かれている。
    京都独特の雰囲気や文化のなかで、姉妹が成長していく姿が興味深い。東京を舞台にしたらやっぱり違う感じになるだろうと思う。

  • まさに現代版「細雪」。両親と三姉妹の家族が一つ屋根に住み、それぞれの意志で前に進みながらも家族を気にかける。女性の機微もおもしろかったし、何より明るく清々しいのが良かった。2022.8.30

  • 関西の盆地生まれから東京に出て来たからいろんなシーンのニュアンスが分かる気がした。大学は京都やったし。

    ホンマに東京は晴れが多い!

  • 京都の人じゃないと書けない京都感。
    自分も住んでたからわかるけど、とても閉鎖的で融通の効かない「京都」が、登場人物が織りなす日常を通じてうまく表現されてる。
    京都は余所者を受け付けない敷居の高さが確かに存在するけど、生まれ育った人も同じように窮屈さや煩わしさを感じているんだなって。

  • 16年前に芥川賞受賞作を読んで以来の綿谷さんの著作。私は京都の地の人間じゃないけど、40年以上京都市近郊に住んで市内の職場に通ってたので、書かれてる内容、分かるわ。話としては正直私には特に面白いこともなかったが、なんかこの家、分かるわって感じで読み終えた。三女さん、衣笠の大学なのね。後輩だ。そう云えば、この作者は入社以来の地元の友人の高校の後輩やったなあって思い出した

  • 何気ない日常や京都の風景がよく描かれている。 その点はこの作者の力量というものを高く評価できる。 が、作品自体評価するかといえば読み手側の力量が見合ってないのか物語にがっつり引き込まれない。 こういった筆力で勝負してくる小説が好みになったらかっこいい気もする? 己の読書力のなさを実感した作品。

著者プロフィール

小説家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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