手のひらの京

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103326236

作品紹介・あらすじ

なんて小さな都だろう。私はここが好きだけど、いつか旅立つときが来る――。おっとりした長女・綾香は31歳、次第に結婚への焦りを募らせる一方、恋愛体質の次女・羽衣は職場で人気の上司と恋仲になり、大学院で研究に没頭する三女・凜はいずれ京都を出ようとひとり心に決めていた。生まれ育った土地、家族への尽きせぬ思い。奥沢家三姉妹の日常に彩られた、京都の春夏秋冬があざやかに息づく、綿矢版『細雪』。

感想・レビュー・書評

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  • 京都の四季折々の情景の中で、奥沢家の三姉妹(綾香、羽依、凛)、それぞれが悩みながら前に進もうとする姿が描かれいる。
    生まれ育った風土は、そこに住む人が意識せずとも影響を与える。京都のような歴史がある土地には独特なものがあるのだろう。
    そのことが、三姉妹の心情を追いながら分かる。

    三女凜は東京への就職を希望し、京都を出ていこうとする「待たれへん。待ったら、私のなかの大切ななにかが死ね気がする」という強い衝動を持って。
    それに対して両親は反対する。
    三姉妹が魅力的なのに比べて両親がなんだか…。
    父親の定年と同時に、これからは自分の時間を大切にしたいと食事の支度から解放を宣言(それには拍手!)しながら、凜が京都を出ていくことを必死になって止める。さびしくて心配だからと。それが子を思うというのか?
    そんな親のことを凜は、本当に私のことを心配してくれいるのだと感謝し申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
    子は親を思いやり、優しい。それで飛べなくなる子もいるだろう…。

    「京都の伝統芸能「いけず」は先人のたゆまぬ努力、また若い後継者の日々の鍛練が功を奏し、途絶えることなく現代にも受け継がれている。」
    には笑った。綿矢りさ調を堪能した。
    そんな「いけず」文化の中でたくましく生きていく次女羽依もいい。
    長女綾香の真面目で臆病な背中をそっと押したくなる。
    京都の町の雰囲気に包まれたながら、三姉妹のこれからに想いを馳せ、みんな幸せになってねと祈る。

  • 綾香・羽衣・凛。
    京都を舞台に繰り広げられる三姉妹の物語。

    三姉妹それぞれに共感できる部分があって、応援しながら読みました。

    「京都」というと、よその人はそう容易く受けいれてもらえないような、
    柔らかく押し戻されるイメージがあります。

    生まれた場所で育ち、生き続けるということ。
    その閉塞感のようなものが、転勤族の自分にはよくわからないんですが…
    故郷って、
    たとえ離れて暮らしていても、変わらずそこにあって、
    自分のすべてを包み込んでくれる場所。
    そういう故郷があることが、羨ましかったりもして…。
    ないものねだりですね。

    京都に住んでいらした著者ならではの、
    古都の街並みや、四季おりおりの景色の描写がとても素敵で、
    京都に行きたくなりました。

  • 生まれた時から京都に暮らす三姉妹の日々を、四季の巡りと京都の風物と共に描いた作品。

    生真面目で堅実なタイプだけど、30歳を超えて実家暮らしで恋人もいないことに焦りを感じている長女・綾香。 

    気が強く自己中心的な恋愛体質で、男女問わず常に誰かしらと諍いを起こしながらもそんな自分を意外と冷静に俯瞰している社会人1年目の次女・羽依。

    大学院で研究に取り組みながら、常に守られ小さくまとまった京都以外の広い世界で一度は自立して生きてみたいと、東京就職を目指す三女・凛。

    小説としては特別な急展開や大どんでん返しはない平坦なつくりなのだけど、その分、それぞれの等身大の日々を生きている姉妹たちの姿が丁寧に描かれていて、親近感があり、愛おしい。

    凛の感じた、狭い世界にこもって人生が終わってしまうことへの不安や外への渇望も、綾香の感じた加齢に伴う焦りも、私自身、少なからず無縁ではなかったな、と思ったり。 

    とはいえ、私は根暗で人付き合いも苦手なタイプなので、誰かと揉めようと常に気を抜かずに人の優位に立つことを目指し、異性と駆け引きを繰り返すことにありったけのエネルギーを注ぐ羽依のようなタイプは、正直、理解しがたかったけど…。
    でも、意外とそんな自分を冷静に眺めて今どんな立場にいるか考え続ける彼女の姿が興味深くて(失礼!)、そんな子もおんねんなあ…と思ったり。
    (ただ、会社でのわかりやす過ぎるイジメ描写は怖くて引いてしまった…。まあ、さすが羽依さん、したたかに対抗する描写出ていたけど…。途中で読むのやめようかな…てぐらい、根暗な人間には胸に苦く残った場面でした。)

    …脱線してしまったけど。

    何より本書の魅力は、折に触れて挟まれる、京都の風物の描写。

    よそ者にもお馴染みな観光地として有名な神社仏閣も祭りも、地元の人しか知らないだろう風景も、彼女たちにとっては同列の日常なんだな、と思うと、なんだか不思議な気もするけど、それがまた、この、「日常小説」を華美過ぎず、けれど確かに彩っていて、読み応えになっている。

    帯に、「綿矢版『細雪』」とあったけど、確かに。

    谷崎潤一郎の「細雪」も、四姉妹の日常の中に、昭和初期の京阪神を中心とした生活習慣や季節の風物がふんだんに盛り込まれてて、それが、物語の魅力に繋がっている。

    また、本書は母親がいきなり「卒母」宣言したことにより、姉妹が当番制で夕食を作ることになった場面から始まるのだけど、姉妹それぞれの料理へのスタンスや献立といった部分からも、彼女たちの個性が感じ取れ、物語の導入からの細かい設定に恐れ入る。

    山や谷は少ないお話なので、劇的な展開を求める人には向かないかもだけど、京都に興味がある人にはおすすめ。

    「引っ越したこともない。その事実がときどき怖くなるねん。世界はもっともっと広いのに、私はなんにも知らないまま小さく守られたところで一生を過ごすのかなと思うと、息がつまりそうになる。」

  • 綾香、羽依、凛。
    京都で生まれ育った3姉妹の、恋と成長をえがくホームドラマ。

    京都のいい面だけでなく、悪い面も。
    筆者自身が京都で生まれ育ったそうで、観光ではない生活感がある。

    妹ふたりの葛藤が、印象に残る。
    特に「聞えよがしのいけず」と対決する羽依が、よかった。

  • 京都の街で暮らしたくなる。

  • 京都に住む年頃の三姉妹、綾香・羽依・凛の3人と両親の姿を描いたホームドラマ。
    京都出身の綿矢さんが初めて書いた京都を舞台とした小説ということで、京都人の視点から京都を見ることができたのがとても面白かった。
    四条でかわいい和小物の店がたくさん開かれているのを見て、ヒロインの一人が「いつの間に京都はこんなに商売上手な街になったんだろう?私の小さい頃は伝統的なお菓子がお土産だったのに」と思うシーンがあるが、綿矢さんもこんなことを想ったりしたのかな?と感じた。

    三姉妹の個性や生き方も様々で、長女の綾香は手堅く紹介で出会った彼氏と結婚に向けて着実に進んでいき、次女の羽依は恋に奔放な姿を見せるが、京都人の一部でまだ残っている「いけず(意地悪)」には決して屈しない。三姉妹の中で羽依の登場するシーンが、一番動きがあって面白かった。
    三女の凛は霊感があるのか、京都の土地に根づく怨念を感じやすいのと、東京に就職先を探していて、京都から離れたがっている。雅やかで素晴らしい文化の残る京都だが、歴史の陰にやはり、何かしらあるのだろう。鳥獣戯画の絵巻の絵が動き回り、おばあさんがつぶやく「ミユキガトオル」の夢はちょっと怖い。あれは一体何だったんだろうか?これが最後まで気になった。
    それぞれの生き方を見つけていき、一見ハッピーエンドを迎えたに見える三姉妹だが、父の病気という不安な予兆を残して物語は終わる。小説の中だけではない、現実のどこの家だってそうなのだろう。

    自分も成長して親の元を巣立つ年齢にあった時のことなどを思い出させる、とても親近感を感じる小説だった。

  • ちょっと物足りない読後感。京都に暮らす3姉妹の淡々としたそれぞれの日常が描かれているけど非日常的な出来事はほぼ無い。もちろん京都育ちの著者だから京都の祭事や風景や町並みは手に取るように描写してある。所謂 婚期を過ぎた図書館勤めの長女、新社会人で背伸びしながら自我を表したい次女、大学院を出たら専門を活かす勤務先を東京に求めたい三女。たしかに京都住まいの市井の家族は作品のように生活する人が多い。しかし読み物としては少し物足りなかった。

  • 三兄弟の話ってなんとなく
    物語にならない気がするけど、
    三姉妹の話って不思議な魅力がある。

    京都の話なのか、家族の話なのか。
    京都弁が心地よくてふわふわ読んだ。

  • 京都で暮らすある一家。

    ここで生まれ育った両親。

    長女の綾香。
    図書館司書で、しっかり者、おっとり、真面目。

    次女の羽衣。
    OL。奔放な性格だけど、芯はしっかりしている。気が強い。派手なせいか女性に嫌われやすい。

    三女、凛。
    男性と付き合ったことはなく、院で研究に没頭してきた。京都が好きだからこそ、就職を機に一度外に出たいと思っている。


    3姉妹の物語というと、そのうち誰かがダメ男に恋なんかしちゃって、家族もぐちゃぐちゃに〜なんていうお話が多かったのですが、この3姉妹は(ちょっと危うい場面はあったものの、)違ってて、まずとても仲がいい。そして、それぞれの悩みに苦しくなったり、切なくなったりしながら読んでました。



    作者の綿矢さん自身、京都の方ということで、それならではの表現も楽しかったです。

    京都の伝統芸能「いけず」の説明がとても面白かったです。
    京都人が皆、「いけず」の使い手ではなく、学校のクラスでいうと2、3人の割合ということは覚えておこうと思いました。

  • 3姉妹を中心とした物語。良い。
    みんなの気持ちが分かる。
    とくに羽衣ちゃんが好き。いけずに啖呵切ったの良かったわ~~
    羽衣ちゃんにはそういう強さの裏にある弱さにも気づいてくれる人がきっと現れると確信した。

    でも最後の父からの宣言‥あれは必要あったのか?と思い、読んだ後もモヤッとしている。
    そこが綿矢さんの味なのかな‥リアルにも感じた。

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著者プロフィール

小説家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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