- Amazon.co.jp ・本 (441ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103328131
作品紹介・あらすじ
生まれ、育ち、生きて、病み、死んでゆく――。その瞬間、たしかにそこにあった生のきらめき。北の町に根づいた一族三代と、そのかたわらで人々を照らす北海道犬の姿。助産婦の祖母の幼少時である明治期から、父母と隣家に暮らす父の独身の三姉妹、子どもたちの青春、揃って老いてゆく父母とおばたちの現在まで……。百年以上に亘る一族の姿を描いて、読後、長い時間をともに生きた感覚に満たされる待望の新作長篇!
感想・レビュー・書評
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なかなか上質な作品でした。北海道の架空の町 枝留(エダル)に暮らした三代に亘る家族の静かな時の流れが淡々と語られています。誰かが何かがどの犬が目立つと言うことがないような設定ですが、それでも三世代目の姉弟のうち とりわけ姉の歩の人生が印象深い作品でした。伏線になっている基督教や天文学は作者の思い入れが大きいのでしょうかね? 今なら四世代に亘る暮らしも多い時代だから この物語にシンクロする読者も多いのではないでしょうか(笑) 長生きが必ずしも良いとは思えないけど。私自身は自然体が望ましい。
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人と人の繋がりは、たとえそれが血縁関係に基づくものであったとしも、存外容易に失われてしまうもの、とそんな事をふつふつと思う。その切っ掛けは距離であるかも知れないし、交わす言葉の密度や量の低下かも知れない。断片的に切り取られた複数の登場人物の生涯を通して、関係性の危うさに真っ先に思いが向かう。そこに過疎や高齢化といった社会的課題が通底し、重苦しい空気が全体を覆い被さるようである。その空気の重さが小児喘息の発作の逸話と共に主人公の一人の背中を圧し潰そうとする。しかし大きな課題には一般的な正解は存在せず、都度選択されたものを慣性の許す限り続けることでしか対処することができない。それ以上物語は何も語ろうとはしない。ある意味では潔く、もう一方では無責任に。
並走して流れる各々の物語の内には、かつて繋がっていた糸の反対側の端を握っていた人が、本人の意識とは無関係に存在し続けるという事実が書き連ねられてゆく。その印象は、物語が断片であるが故により強く印象的に語られている。他人の人生に存在し続ける自分の人生など誰も想像しないであろうけれど、むしろその間接的なつながりこそ本質的な人と人との繋がりを表すものなのかも知れない。
そのような観念的な思索とは対象的に、この作家の描く登場人物の肌はさらさらとしていて、湿度や粘性といったものとは無縁であるかのよう。そのせいだろうか、一つひとつの断片への執着というものが生まれる前に、次の断片が始まるように感じるのは。「火山のふもとで」も同じような印象だった。人との関係性を直接的に深めるように努力する泥臭い登場人物はほとんど出てこない。どちらかと言えばひたすらに内省する人物ばかりが登場する。それもひょっとしたら現代社会の都市という空間に巣食う人々の本質なのかも知れないが、それを北海道東部の「枝留」という町を巡って描かきだされると、すうっと胸の真ん中あたりを抜き取られたような思いがするのは何故だろう。人は土を離れては生きていけない、とアニメの主人公の言った言葉が正の連鎖反応を引き起こすように感じるのとは異なり、都会に出た主人公が故郷に戻る物語は、正の感情も負の感情も引き起こさない。不思議に宙空に置き去られたような思いを抱いたまま読み終わる。-
2019/06/21
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2019/06/25
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言葉で読ませる作品、久しぶり。
時代も行ったり来たり、章の中での視点も行ったり来たりしながら進んでいく物語。でも、だから余計に一人一人が引き立つ。時代とか、上下とかそういうフィルターを通さずに「個」が見える。家族だって、一族だって、個の集まりだ。
そんなそれぞれの想いや景色が織り上げられたような作品だった。 -
北海道の田舎町に暮らす添島家。祖父母、父母、父の3人の姉弟、孫世代になる姉妹、9人で構成される。そして、添島家を見守る代々の北海道犬たち。添島家の9人と、彼らに関わる人達が主人公となり紡がれる、様々な時代の様々な瞬間は、決してドラマになるようなストーリーが隠されているわけではない。にもかかわらず、ページをめくるたび、各主人公たちの息遣い、感情といったものが時にジワリと滲み出し、時に鮮烈で心を揺さぶられる。この作家さんの作品を読むのはまだ3作目だけど、今回もかの文章の魅力にとりつかれた。心地よい余韻に浸りつつ読了。
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良質な本に出会えた時の幸福感を味わう事ができる本だった、読んで良かった。
静かな文体で淡々としているものの、一家3世代のそれぞれの人物の視点から描かれ、時空も切り替わるのでどんどんこの本の世界に入れる。登場人物達ゆえか、それから熱を感じない文体からか、とても冷え冷えとした空気が物語から流れて来て、それに包まれるような感じで読み進めた。きっとこれは人が生きて行く中での切なさ、やるせなさを感じさせる小説なんだな・・と予感しながら。
歩の死は冒頭にそれらしいものが出てくるから予見はできてもそれでも驚く。そして最後の一椎とのかかわり。納得はいかないが、これで良かったのかな、とも。涙が出た。
タイトルに出て来る北海道犬の登場のさせ方も効果的。光を背にする母子の北海道犬のシーンは、この物語の雰囲気にぴったりはまって強く印象に残った。
この一家は途絶えてしまう。その過程を長く、ゆっくり読者の感情を道連れにしながら読ませてくれる本だった。 -
p193 自分は光を放つわけではない。死んで灰になれば、なにも残らない。いやそうではないかもしれない。真で残るものがあるとすれば、それは言葉ではないか、と歩みは思う。わたしが父にむかって言ったことば、母にむかっていったことばはつかのまの空気をふるわせて、端から消えていく。それでも父と母の記憶のなかに、いくつかのことばの断片は残るかもしれない。わたしの口からでたことばが、その人が死ぬまでのあいだ、耳の底にとどまる記憶として残ることがあるはずではないか。
p53 東方の賢人 3人からの贈り物 黄金、乳香、没薬(もつやく)
p359 カトリックの典礼 最後の祈り 終油の秘蹟
3世代にわたる物語 -
2020年に読了。静かによい。よいとつぶやいた。
読み終わりたくなくなる。年代記だからいつか終わる。でも終わってほしくない。
道場人物では、歩の動静に心惹かれた。面立ちが浮かんできそうで、すっと消えていく感じ。
また何年かしたら読む。読むはず。