避難所

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103333722

感想・レビュー・書評

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  • 初めて読んだ作者の本・・・だけに期待せずに読んだら中々良かった。
    内容はタイトル通り、東北大震災の被害にあった世代の違う3人の女性の避難所で過ごした後に立ち直っていく様子を描いたもの。
    3人の女性は、
    夫が働かないせいでずっと自分が保育士として働き、家計を支えてきた55歳の福子。
    夫の家族と同居し、まだ生まれたばかりの赤ん坊を抱え被災した若く美しい遠乃。
    シングルマザーで飲み屋のママとして働いてきた40代の渚。

    3人は別々の場所で被災した後、避難所で顔を合わせる事となった。
    その避難所は独善的な初老の男性がリーダーになり、訳の分からないルールをふりかざすような場所で居心地がよくない。
    8時に消燈。
    仕切り板を使わない。
    プライベートや自由のない避難所の生活。
    さらに、避難所の女性を夜に襲う男共がいたりと安心して過ごす事ができない。
    3人はやがてそれぞれ仮設住宅で暮らすようになり、ひと心地つくがそこでこれからの自分の行く末を真剣に考え向き合う事となる。

    私は今まで被災の事をとりあげた本は何冊か読んだけど、この本のように避難所の事をとりあげた本は初めて。
    実際はもっともっと過酷だったんだろうけど、この本では避難所の様子やそこで過ごす人の心情がリアルで誇張せずに描かれていると思う。
    読んでいると、不謹慎かもしれないけど、私だったら「いっそ死んだほうが楽だった」と思うだろう、と思った。
    そしたら、登場人物も同じように思っていた。

    だけど、彼女たちはそこから再生していく。
    結末はちょっとご都合主義な所がなきもしにあらずだけど、やはりその結末にホッとする。
    今まで苦労してきた人たちだから、しかも3人とも幸せになっていい人たちだから・・・。
    多分、一度死んでやり直すというのはこういう事を言うのだと思う。
    地獄を見て、そこを生き抜いたからこそ、それまでの自分を捨てて変わるという決意ができたのかもしれない。
    死んだほうが良かった・・・と思う所からの再生。

    この本では出てくる男性が見事に嫌なやつらばかりだった。
    弱い者には偉そうにしたり、古い観念をふりかざしたり、強欲だったり、怠け者だったり・・・。
    特に3人の女性の中で最も若い遠乃の様子が見ていて哀れでかわいそうだった。
    そんな彼女に同情し、親切にしながらも後半にちゃんと自分が出来ない事は出来ないとはっきり言う福子に好感がもてた。

    幸せになれる人って、やっぱりもがいて自分なりに頑張った人なんだな・・・。
    最後は遠乃の話で締めくくられるけど、それを読んでいて私も頑張ろうと素直に思えた。

  • 忠実な取材に基づいた、ドキュメンタリータッチの小説。
    「避難所」という題名だけれど、文庫本バージョンが「女たちの避難所」となっているように、登場人物や視点はすべて女性です。
    彼女たちの目から見た3.11の被災地や避難所は、どんなふうだったのか。
    その一端が垣間見える小説です。
    巻末の参考資料を、いつかあたってみたいと思います。

  • なんか、色々納得。被災者って言っても色んな人がいるよね。

  • 福子さしん、遠乃さん、渚さん、3人の女性たちの避難所生活についての話。驚いた、いつの時代?と思ってしまった。本当にこんなに保守的なのだろうか、理不尽だ。遠乃さんの舅には憎しみさえ感じてしまった。被災したのは男性も女性も、年寄りも若者も変わらないはずなのに、どうしてこんな不自由を強いられなくてはいけないのだろう。大変な思いをしていることは知っていた、が、理解は足りなかったかもしれない。「当たり前みたいな顔で受け取る人もいる。受け取るエチケットも指導せねばってボランティアで話し合っっていた」その文章を読んで、ハッとした。上から目線に耐えないと物はもらえないと思わせてしまうボランティアたちの態度。そんなつもりはないが、被災した人からすれば、そう思えてしまう態度を知らずととってしまっているのだろう。

  • 垣谷作品はいつもながら一気読みしてしまいます

    生きるということは
    人との協力も大切にしながらも頼りすぎず
    自分をしっかり持つ心の強さが必要だと思いました

  • 3人の女性の視点から被災から避難生活の過酷さ、問題点やその後のトラブルが見られて興味深く読めました。

  • 垣谷 美雨 4作品目。

    「東京を避難所にしてしまえばいい」。東京に出てきた人間には、この言葉は刺さります。

    東日本大震災のときの避難所の物語です。でも、それは単にデフォルメされた縮図で、田舎にいまだ残っている「和を乱さない」同調圧力社会から逃避する物語。

    すべての避難所が本書どおりではないとしても、酷い所があったことは事実、らしい。地域で生きている人に、地域でしか生きていけない人を人質にして、”我慢”を強制することは、やはり、許せない。と感じるのは、福子さんの息子夫婦の立場に近いからでしょうか(彼らほど優秀でも裕福でもないですが)。

    そして考える。きっと、わかって欲しい方、変わっていただきたい方には、本書の願いは届かない、と。そして、誰もその状況を劇的に変えることができない。きっと。だから、田舎なのか。

    「そらあ家も流され仕事も無くした男たちも苛々しているから。~」そんなことを平気で口にする人たちと同じ空の下にはいたくない。

    ”東京”がいつも良い訳ではありませんが、少なくても、”田舎”にある”しがらみ”はないし、意見は言いやすい。生きていくには大変かもしれないが、選択と自由がある、気がする。だから、疲弊する前に、”東京”に避難して、と。東京でなくてもいい。田舎がダメなら、自由な都会へ。

  • 出張の移動時間に一気読みした。テレビで流れる震災の復興番組とか24時間なんとかでの、絆だとか、一体になってとかいかにもな、綺麗なわかりやすい表現と現実が乖離してることがわかる。これも小説なんだけど現実に近い部分が多いんじゃないかなあ。体験していない自分には永遠にわからないんだろうけど読んでよかった。

  • 東日本大震災について、主に避難所を舞台に、女性3人の視点から描かれる。
    ノンフィクションを元に書かれた、フィクションだと思う。避難所の格差や、被災者とボランティアの溝、地域ならではの伝統的な価値観からくる窮屈さなど、メディアに取り上げられていない課題についても書かれてあった。
    主人公たちのように、最終的に上手くいった人ばかりではないと思うが、女性の視点から被災者の困難を描いた作品。

  • 避難所生活、仮設住宅、ニュースで目にする耳にする珍しくない言葉を、知ってるつもりになってただけだと実感した。それが自分の身に起こってみなければ本当に知れたとは言えないけど。
    それらの言葉から理不尽な苦労や不自由さが、この物語のように次々と湧いてくるんだ、きっと。物語の一人になってみる事で、どれもこれもあぁ確かにこの状況はしんどい、こんな時必要なのはこういう事だ、と思わされるシーンが多々あった。
    遠乃が舅や義兄から逃れられて良かった。
    福子が義捐金すらパチンコに注ぎ込む旦那とわかれられてよかった。
    渚が息子の昌也と一緒に再スタートを切れて良かった。

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著者プロフィール

1959(昭和34)年、兵庫県生れ。明治大学文学部卒。2005(平成17)年、「竜巻ガール」で小説推理新人賞を受賞し小説家デビュー。結婚難、高齢化と介護、住宅の老朽化などの社会問題や、現実に在り得たかもしれない世界を題材にした小説で知られる。著書に『リセット』『結婚相手は抽選で』『七十歳死亡法案、可決』『ニュータウンは黄昏れて』『夫のカノジョ』『あなたの人生、片づけます』『老後の資金がありません』『後悔病棟』『嫁をやめる日』『女たちの避難所』『四十歳、未婚出産』などがある。

「2023年 『うちの父が運転をやめません』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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