あとかた

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著者 : 千早茜
  • 新潮社 (2013年6月21日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (186ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103341918

あとかたの感想・レビュー・書評

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  • 直木賞ノミネート作。
    惜しくも落選したけれど、個人的には割と好きな部類。

    作品全体を覆う、淋しさや孤独。
    誰かと繋がりたいけれど繋がれない。
    誰かに伝えたいけれど伝えられない。
    そんな不器用な人達に共感せずにはいられようか。
    いや、むしろ同情に近いかもしれない。

    6編それぞれに登場する主人公は、それぞれが心の隙間を抱えているように見えた。
    素直に感情を伝えられず、まるで何でもないように淡々と日常を生きる姿は痛々しい。
    あと一歩踏み込めば何かが変わるかもしれないのに。

    「うろこ」は良かったな~。
    松本君のキャラがたまらん。
    大学デビューする姿も、自分の気持ちを素直に認められない幼さも。唯一、ほっとできる一編かも。

    またしても初読の作家さんだけれど、なかなか良かった。
    他の作品はどうなんだろう。
    この本だけだとちと個性に欠けるか。
    最近女流作家の本が続いていて、食傷気味だったのもあるかも。
    今後が楽しみな作家であることは間違いない。

  • 直木賞候補作ということで、初読みの作家さん。
    6編入った短編集。
    関連する人物で、作品ごとに視点が変わっていきます。
    丁寧な文章で雰囲気があり、後半がよかったです。

    「ほむら」
    結婚を前に、心が揺れる女性。
    5年も一緒に暮らしてきたのに、急に結婚を決めた相手に違和感を覚えてしまう。
    ふと出合った年上の男性に誘われるままに何度か会う。
    どこか虚無的なような、すぐ別れるとお互いにわかっているはずの、でも付き合うにはそれだけの密度もある‥

    「てがた」
    上司の男性が飛び降り自殺をしたと聞く会社員の木田。
    飄々とした余裕のある態度だった黒崎副部長は、何か重い病があって移動してきたのだという。
    副部長は何を思っていたのかと、付き合っていたらしい女性に聞く。
    家庭では幼い子供の世話も出来ず、妻の明美に任せ切りの木田だが‥

    「ゆびわ」
    幸せな結婚をして子供も二人、努力が実って勝ったのだと感じている妻。ささやかな不満は押さえ込んでいればいいのだと。
    ふとしたことから、年下の愛人が出来る。子供がいることまでは相手に言えないでいた‥

    「やけど」
    家を出て、高校の同級生だった松本の部屋に転がり込んでいるサキ。
    ハーフで目立つ外見だが、背中にはひどい傷跡がある。
    アイリッュパブでフィドルを演奏する千影に憧れ、泊まりに行ったりもしていた。

    「うろこ」
    居候のサキが落としていったコンタクトレンズ。
    松本は、がり勉としか言いようのない外見の高校生だった。
    藤森サキにはとかくの噂があり、見かけたときもボロボロ。それでも綺麗という。
    互いにただ一時期の同居人と思っていたが、大学の友人に正直じゃないなと言われ‥

    「ねいろ」
    尊敬できる医師と付き合っている千影。
    だが国際的に派遣される仕事をしている彼は、結婚を望まない。
    半ばはそれでいいと理解しつつ、内心複雑な千影。
    サキに貰った金魚に困って店に行き、店番の男の子に出会う。ゲイとわかった彼を水草くんと呼び、いつしか打ち明け話を‥

    空しさや行き詰まり、ささやかでも解決できそうもない重ったるい感覚。
    最初はややねっとりした暗さがありますが、少しずつほどけて来て、悪くない展開に。
    作り話めいた部分も、総合すると説得力がありました。
    予想よりも救いがあって、よかったです。

  • 「鏡の花」のあとに読んだら
    ストーリーはもちろん全く違うけれど重なった。

    違う場面で登場する「男」が同一人物だったのだ。
    (「あとかた」のなかで)
    「あれ?」が「・・・え?」になり、「あ!」と変化する。
    そんな感覚が「鏡の花」のときとどこか似ていた。

    わたしは千早さんの本をなにかを受け入れる世に読んでいく。
    大きな感情の波がなくても
    ページをめくる手は先が読みたいといっているかのように止まらない。
    けっこう深いところをついているのに
    淡々と読んでしまうのはどうしてだろう。
    けれどそれがとても心地いいのだ。

  • 連作短編集。
    6人の主人公はみんなどこかで繋がっているのに、誰もが孤独を抱えていた。息が詰まるほど、静かな孤独。

    ここに描かれているのは、「距離」なのだと思う。
    人と人との距離、今と未来の距離、過去と記憶の距離。
    どれも確かに繋がっていて、すぐそばにあるように思えるのに、ほんとうは、それらは途方もなく遠いところにある。
    ようやく手が届いたと思う頃にはもう消えてしまっているのだ。あとかたもなく。

    涙が出そうだ。

  • この人の文章は本当に美しい。透明で寂しくてでも静かに人間が生きている。黒崎さんと千影さんと、水草くんが好き。

  • 著者の作品2つ目
    前回手にした『からまる』と同じく、連作短編集。

    5年も同棲していた彼との結婚を間近に控ええ、束の間妻子ある男性と関係を持つようになるOL…ほむら
    子どもが生まれ、妻との関係が変わってしまった洋平…てがた
    周りと同じように結婚して、子供を産んで、としてきたはずなのに、若い怪しげな男と不倫の関係を続けることになってしまった人妻明美…ゆびわ
    自分を痛めつけることで、過去から決別しようとし続けていた背中に大きな傷を持つハーフの美女サキ…やけど
    サキが転がり込んでいた部屋の主、松本…うろこ
    災害医療の現場で働く恋人を待ち続けるフィドル奏者…ねいろ

    それぞれの話が微妙につながって、少しずつ良い方向に向かっているような、そんな流れのストーリー。
    この方の文章、すっごく好きです。
    「ゆびわ」が切なくて良かったです。
    「うろこ」に救われました。

  • ずっしりと重いものが乗っかってくるような後味。あるいは出口のない袋小路に一人で迷い込んでしまう恐ろしさみたいな感じ。
    ほむら…もしかして本当に愛しているのではないかと読むうちに思った。結婚相手では得られないものがそこにあるのだろう。
    てがた…上司の自殺を反面教師として自らを戒めつつ、妻と子供を守る道を選ぶ。
    ゆびわ…てがたの奥さんの話。安定を手にするとその反動で不倫に走るのか。危険なものに近づきたくなる気持ちは少しわかる気がする。
    やけど…ゆびわの不倫相手の隣の部屋に居候する女の話。ほむらの男と繋がっていた。心を病んでいるようだけど不思議とまともに見える。病んでいるのはこっちなのではないかと。
    うろこ…やけどの女が居候している部屋の男の話。心の底では好きなのに男のプライドが邪魔をして本心を誤魔化している。だけど女が居なくなりそれにやっと気がつく。魚の痛覚の話は哲学的で面白かった。
    ねいろ…フィドルの女の話。うろこの男と同様に自分の感情を押し殺しよしとする。その感情は行き場をなくし自分の心の奥底に沈んでいく。そのうち自分の気持ちがわからなくなっていく。

  • この幸せがずっと続けばいいのに。

    愛する人への自分の気持ちに、その人の自分に対する気持ちまで永続を期待するのは酷です。
    時間が流れ、人は体験を通じて変わり、その望ましい状態は固着しません。

    彼とは別の中年男と交際する若い女性。
    接点の少なかった上司の自殺から家庭を見返る男。
    子供を預け若い男のもとにせっせと通う人妻。
    元同級生の部屋で居候する酷い傷跡をもつ20歳の女性。
    その女性を受け入れている有名大学の男子学生。
    災害救助の医師を愛し、自分の生き方が後ろめたい女性。

    人妻の結婚指輪は、目に見える形で現状を固定化の企てです。現在を固定には無力です。

    逆に生前は影の薄かった副部長が、自死後、周りの人たちの心に影を濃くしていきます。

    登場人物の心に秘めた本音を漏らしり、束の間の情事で紛らわせたりされる相手は、正体が定かではない匿名性の高い人です。漏らす本人の哀しい安全保障です。

  • ストーリーは滅々とするが、千早さんの文章は流麗で素敵だな。結婚直前の不実、不倫、自傷行為、煮え切らない男、登場人物達は何か現実に抗いたい、でも怖いのである。踏み出すことも踏み留まることもできなく、行為を繰り返すうちに心に残る跡形の情念、何度も梳くうちに心のひだに残るもの、それだけが自分の存在を繋ぎ止めておけるものである。

  • 初読み作家さん。
    イタい。イタすぎる。
    わかるなぁ。って思っちゃう自分に涙。
    イタいよ…

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きれいに洗っても、忘れようとしても、まだ残っているもの。それで、人生は満ちている――。結婚直前の不実も、不倫も、自分の体を傷つけてしまうのも、ここにずっといて欲しいとうまく言えないのも、ぜんぶ同じ。怖いから。抗いたいから。体と心が触れあった痕跡を遺すことだけが、私たちの唯一の寄る辺なのです――言葉にしたら消えてしまうかもしれない感情の奥底まで踏み込んで描ききった、痛くて優しい連作小説。

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