爪と目

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (125ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103345114

感想・レビュー・書評

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  • また美人芥川賞作家かよ! とか思いながら読んだら、逆に、これは取るわ……と打ちのめされました。ものすごーく面白かったです。しかもぜんぶ。爪と目ももちろん、「しょう子さんが忘れていること」、「ちびっこ広場」、どれも「やられた……」と。
    意見としては、古本屋に目をいじられる場面と、「わたし」が「あなた」の目をいじる場面と二回あるのだけれど、ラストシーンの強烈さが古本屋のせいで少し失われているのではとか思うものの、それはまあちょっとしたツッコミであり、文句なし。(偉そうだけど)
    母親を殺したんじゃないか。母殺しの話じゃないかというのがいい。
    しょう子さんの、あの正体不明の、夜に抱きついてくる存在も、その正体は薄々感づくものの、まさかそうじゃないんじゃないか? というのがいい。
    そしてちびっこ広場。これもとてもよい。
    クラスの子と大樹。結婚パーティーの面々とお母さん。その図式のなかに存在する「広場の幽霊」。それを二人で観に行くこと。す、素晴らしい……。とくにいいのは、その少女の幽霊がなんで少女なのかも、何なのかもまったくわからないということ。

    藤野氏の小説は一番の中心がわからない不気味さをうまく書くのがすごい。だからホラー作家っぽくなるのだろう。
    ベランダで死んだ母。自殺なのか、娘が殺したのか。なんで死んだのか。
    毎夜抱かれるきょう子さん。抱いているのはいったい何なのか。なぜなのか。どうなるのか。
    広場の幽霊。観に行って二人はどうするのか。
    一番の中心が消えていて、それでいてそのまわりがぼやけていたりハッキリしていたり、実に丁寧にできているなという印象。
    あー面白かった。

  • 149回(2013年上半期) 芥川賞受賞作

    わたしの爪とあなたの目の痛々しさ
    どちらも自傷
    爪は他傷にも及ぶ

    あなたとわたしの間には
    笑いや愛情などのあたたかなもの
    は育まれない

    死んだ母のブログがとてもリアル
    そういう人っているいるって思う
    ある意味無個性
    でももっと無個性なあなたが
    その無個性を模倣してそれっぽい
    生活を築き上げていく

    わたしも与えられたお菓子やジュースを
    もくもくと消費していく

    現代社会の闇というか
    現代社会を生きる普通の人たちの不気味さを描いた
    作品なのかなと思った


  • 「あんたもちょっと目をつぶってみればいいんだ。かんたんなことさ。どんなひどいことも、すぐに消え失せるから。見えなければないのといっしょだからね、少なくとも自分にとっては」
    ときには図太い神経を持つことも必要だと感じた。子どもは感受性が高いために、大人の細かな態度の変化や心情に気づいてしまう。3歳児視点で進むのが恐怖をより掻き立てている。

  • 第149回芥川賞受賞『爪と目』。ざらついた気持ち、うまく言いあらわせないような違和感を、語り手の継母のハードコンタクトレンズの感触と、爪を噛むのが癖になっている語り手の幼い頃のギザギザした爪で表して、2人で過ごした日々を回想する。気分のいいお話ではないけどとても引き込まれました。『しょう子さんが忘れていること』脳梗塞のリハビリで病院に入院中のしょう子さんの元へ夜毎訪れる男は妄想、あるいは幻覚、あるいは怪奇現象…?性的な衝動に嫌悪感を抱きつつ翻弄される老齢の女性。なんだかじわじわと怖かったです。『ちびっ子広場』4時44分に「ちびっ子広場」に居たものは少女の霊に呪われる…子供たちが作り上げた怪談話を信じてしまって呪われると怯える息子を守ろうとする母。子供たちの罪悪感無しの遊びがこんなふうに一人の少年の心を追い詰める。怖いのは幽霊より子供たちのそういう無邪気さなのかも。
    みんな読みやすくて面白かったです。わかりやすいながら含蓄があり深みが感じられるというのでしょうか。これからも藤野可織さんの作品を読んでみたいです。

  • いわゆるエンターテインメントばかり読んでる自分のような読者にすれば、ああ、こういうのが「文学」(あえてカッコつき)なのだろうか...と思わせる作品でした。なんだかさっぱり意味は分からなかったし、面白かった、という読後感はまったくないです。ただ、三篇とも、著者の日常において著者が何にどういう風に目線を向け、どんな風に何かを感じ取ったりしているのか、というのを、ああ、著者はこういうところ(もの)をそういう風に見る人なんだろうな、と自分との(感性?の)違いを、折々文中に気づかされる箇所があって、まあ、そういう読み方もひとつの楽しみ方かな、と。そういった気づきが、なんだかさっぱり分からなかった三篇の小説に対しての記憶、おそらく少しの間は残り続ける余韻、みたいなものになり、それがこれら三篇の作品の「文学」らしさなのかなあ...と思っています。読んで損はなかったとは思います。芥川賞作品、読んだよって言えるし。超ひさびさだけど。

  • 150812読了。
    コンタクトレンズをつけた義母・あなたと、爪を噛む幼女・わたし。何かと共感の多い作品で、久々に食べた好物のようにぺろりと平らげた。
    コンタクトレンズについては、私にとって明確なメタファーを持ち得なかったが、いつも痛みと傷を連想させるものだった。眼科でことが始まり、コンタクトが汚れ、目が痛み、でもそれがないと顔はぼんやりのっぺらぼうだ。同じような景色を私も見ている。その薄皮のような一枚で目を覆っただけで、なんだかうそみたいに他人行儀で無責任になれるかのようだ。
    爪を噛む「わたし」から、真っ先に思い出したのが中学の頃の記憶。友人が、「○○ちゃんは言葉遣いが乱暴で、鼻もほじるし爪も噛むからかかわらない方がいい」と言っていて、”かかわらない方がいい”なんて、当時の女子が嫌いとははっきり明言しないいやらしさを感じるが、私はそれを聞いてすぐに「それは私も人のことは言えない」としっかり距離を置いた。私だって、家で人が見ていなければ、鼻をほじるし爪を噛む。私の爪を噛む癖は、中学から高校の、勉強にいそしんでいる頃がピークだった。大学に入って、無為に伸びた爪に気が付いて、爪を噛むことは私にとっては反骨だったのだと身に染みた。
    少し前にこれを読んでいたら、私は幼女のわたしの目線をもっと強く感じていたのかもしれないが、私はいつの間にか義母のあなたに心が重なっていった。
    器用に浮気し、無関心になることは到底共感できないものの、かつてその空間を作っていた、今はいない以前の女性に盲目な関心を寄せることはまったくもって同じ気持ちを味わった。私はそれらの面影を少しずつ埋葬してくタイプだったが、あなたはより忠実に復元していく性分のようだった。その、少しの手がかりをもって、しらみつぶしに調べ上げて、追いかけていくところがなんとも、一緒だなぁと思った。
    物語はわたしの、あなたへの仕返しによって終幕する。少しずつ残酷なふたりが、最後には重なり合っていくのが、なんとも面白い。

    • rin--kさん
      レビューそのものが、一つの作品のようになって、一気に読ませてくれました。
      レビューそのものが、一つの作品のようになって、一気に読ませてくれました。
      2015/08/21
  • ちょっと怖い作品。

    こうゆう出来事が本当にあったらいやだなと思う。
    どこか漫画的なエッセンスを感じました。

  • 芥川賞って、わっかんないな〜(笑)。これまでの受賞作もそれほど読んでるわけじゃないけど、概して読後感が良くない印象があります。どんな評価基準で選出してるのかしら…(°_°)

    今作では冒頭の一文から、「え、どういうこと?話し手、誰目線?」と軽く混乱してしまいました。
    日本の小説には珍しい、二人称の短編小説です。

    「あなた」の義理の娘である幼稚園児の視点で語られる「あなた」は、あらゆることに無頓着な女性として描かれます。
    刹那的な人間関係、周囲の自分に対する評価、そして自身の感情に対してすら、関心を寄せていないように見えます。浮気相手と結婚した後、今度は自分が浮気をされても「ま、いっか」。結婚相手に連れ子がいても、「ま、いっか」。
    そんな彼女自身も新しい浮気相手を見つけるのですが、時を同じくして巡り合ったあるサイトにのめり込んでいく描写がホラーです。その心の機微はわかんねーぞ…と慄きながら読んでいくと、本当の恐怖は最後に待っていました。痛ーーーい!!!
    最後の最後の描写は、何が言いたいのか良く分からなかったです←
    ガラス板(コンタクトレンズ?)が身体を腰から真っ二つ…??うーん???笑

    そんなこと言ったら、次の話もどういう意味か分からなかったし、やっぱり芥川賞は良くわっかんねーな〜と己の読解力の低さを嘆くのでした(°_°)



    ◉爪と目…あなたは私の父と結婚をした。コンタクトレンズでしょっちゅう目を痛めているあなたと、ベランダを恐れている私の物語。

    ◉しょう子さんが忘れていること…川端くんは、とても面倒見が良い好青年。の筈だった。

    ◉ちびっこ広場…友人の結婚式に参加している私に、自宅から一本の電話がかかってくる。息子の大樹の尋常ではない様子に、私は慌てて家に帰ることにしたが…

  • 芥川賞受賞作の作品は、この状況をこんな風に描写するのは大変難しいのでしょうね。

    誰が一番「気持ち悪いか」で、評価や感想が分かれそうですが…
    まあ三歳児も不倫女も父親もみんな気持ち悪いです。
    不倫女もとい継母が、三歳児の本当の母親の生活様式をたどって行くところが何とも言えないいやらしさというか、必死さというか、病んでるというか。
    好きか嫌いだけで言えば最近の芥川賞作品なら「abさんご」の方が好きだし、「共食い」の方が面白いと個人的には感じました。
    あと、一緒に収録されている他の作品の方が馴染めました。

    私の読解力が足らんのでしょうかねぇ…。
    しかし芥川賞はいつからこういう筋より「文体勝負」みたいになったんですか?こういう風に書かないと駄目なんでしょうか…。

  • はじめは二人称という書き方のおかげで、かなり混乱。「あなた」と「わたし」を理解するまで時間がかかった。一方、描写がとても分かりやすくて、入り込みやすい。三歳の私が、義母をあなたとして見て、生活のすべてを大人になってから綴ったような書き方。実際はどうなのかは不明。
    凄く難しいけど、納得いくまで読み込みたくなるような作品。

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著者プロフィール

藤野可織(ふじの・かおり)
1980年京都府生まれ。2006年「いやしい鳥」で文學界新人賞を受賞しデビュー。2013年「爪と目」で芥川龍之介賞、2014年『おはなしして子ちゃん』でフラウ文芸大賞を受賞。著書に『ファイナルガール』『ドレス』『ピエタとトランジ』『私は幽霊を見ない』など。

「2022年 『青木きららのちょっとした冒険』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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