壮大な世界観といい文体といい最高だった。詳細は省かれているが、どうやら核戦争から気候変動が起き一度は文明が崩壊したらしいアメリカ中西部からメキシコが舞台。崩壊直後には大量に人が死に、食料の欠乏から人肉食まで行われるようになった大混乱から、少し時間がたち秩序ができつつあるという時代設定らしい。食力不足を補うために牛と人間の遺伝子を掛け合わせた「牛」まで作り出し、その「牛」と人間が交うほどの狂った世界だ。私たちの倫理観を皮肉るかのように、男たちは生きるために殺人、盗み、果ては強姦しまくる。この弱肉強食の世界では命はとても軽く扱われるのに、捜査官のバードや強盗団のレイン兄弟たちは、家族の絆に執着する。善悪の判断を超えて人間の業みたいなものを感じた。「人肉を食べる時に感謝するのは当たり前だが、自分が食べられる時にも感謝しなければならない」という言葉が印象的だ。あらゆる生物は他者に生かしてもらい自らも他者を生かす存在であり、それは人でも牛でも虫でも変わらないということなのか。しばらく読後の余韻から抜け出せそうにない気がする。