- Amazon.co.jp ・本 (138ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103359517
作品紹介・あらすじ
人間はつい目の前の現実を世界のすべてだと思ってしまう。でも、実はそうじゃない! 祖父危篤の知らせに故郷の熊本に戻った僕は、認知症の曾祖母と再会。彼女に導かれるように出かけたドライブで、徘徊老人を乗せて時空を旅するタクシー会社を思いつく。この世にボケ老人なんていない。彼らは記憶の地図をもとに歩いているだけなんだ。『独立国家のつくりかた』の著者による新しい知覚と希望に満ちた痛快小説!
感想・レビュー・書評
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『徘徊タクシー』というアイデアは面白いと感じたが、この物語の落とし処はよく分からなかった。
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坂口氏の体験したことそのまま?
作者の天真爛漫な性格と近親者への思いが伝わってきた。
ところどころ夢なのか現実なのか、覚醒していないような場面があり、認知症のかたの認知の様子を辿っている感じで面白いと思った。その点が芸術家風な色合いを作品に添えている。 -
話題の1冊である。
主人公「恭平」は、都会の建築事務所でボランティアのようなことをして過ごしていたが、祖父の葬式で田舎の熊本に帰る。
亡くなった祖父が認知症の曾祖母をよくドライブに連れて行ったという話を聞き、曾祖母を車に乗せて出かける。曾祖母は着いた先を「ヤマグチ」だという。曾祖母は気が済んだようにおとなしく家に戻る。
徘徊行動が周囲を悩ませている彼女が、なぜおとなしくなったのか疑問に思った恭平は、あれこれ聞くうち、「ヤマグチ」とは、曾祖母が生き生きと暮らしていた頃の山口の炭坑町だったのではないかと気づく。
彼女の脳内は呆けているのではない。そこでは、過去と現在、そして遠い地とここを結ぶ、四次元世界が展開されているのだ。その扉を開くのが車なのだとしたら。
恭平は認知症老人を客として、望むところに連れて行く「徘徊タクシー」の営業を思いつく。
この作品を読む気になったのは、『驚きの介護民俗学 (シリーズ ケアをひらく)』の六車由実さんの好意的な評をどこかで目にしたためだ。読んでなるほど、と思った。どこか、六車さんの研究とも結びつく話だ。
138ページほどの本作は、小品といってもよい作品だろう。
著者と主人公は同じ名だが、そもそもどこまでが著者の実体験がベースになっているのかよくわからず、そして小説世界の中の空想と現実が手際よく整理されているとは言えず、読み手によっては読みにくさを覚えそうにも思う。
また、曾祖母の他に「客」となる認知症老人が1人であるのもいささか心許ない。数多くのエピソードを重ねることによって説得力が増すテーマであるように思うからだ。このあたり、小説の「書き手」としての基礎体力がもっとある人ならば、取材を重ねるなり、空想をふくらますなりして、重厚な大部に練り上げることもできたのではないか。
ただ、著者略歴を見るに、この人は小説家となることを目指して歩いてきている人ではなさそうで、だからこそこの世界が作れたのかもしれないとも思う。
すなわち、既存の枠ではない「何か」を探し続けている人だからこそ、見えるものがある、ということなのだ。
「介護」は重い問題である。
かくいう自分も自分が第一責任者となって認知症の人の介護をしたことはまだないわけだが、その「重さ」は想像するに余りある。
「恭平」の発想がお気楽に思える人がいるだろうというのも想像は付く。
だが。
全般にふわふわした感じを受けるが、しかし、こうしてふわふわした人が存在する「余裕」が、実は大切なことなのではないか。
例えば、落語の世界に与太郎が存在できたように、例えば、縁台でヘボ将棋を指しさらにはそれを眺めて好きなことを言っていられる暇人がいたように、ばあちゃんの「いつもの話」をはいはいと聞き、ときにはばあちゃんの行きたいところに付き合ってあげる、そんな「余裕」こそが実は必要なものなのではないか。
ふわふわしているけれど、豊かな世界。
不思議な読後感である。付いてくる付録は決して軽くない。
*以前住んでいた家の隣に、認知症のおばあさんがいた。息子さんはおばあさんの介護のために、住み込みで面倒を見ては、時々おばあさんを叱っていた。ある日の夕暮れ、おばあさんは「子どもが帰ってこない」と近所を探し歩いていた。「あなたの息子さんは、相変わらずあなたのことを思っているけれど、もう髭面のおじさんで、あなたの探している小さい子はもう帰ってこないんですよ」と思うと何だかちょっと悲しかった。
あのとき私は、何と言うべきだったのだろう。 -
最近その名前をよく聞く、坂口恭平。「徘徊」と「タクシー」という、一見結びつきにくい2つのワードに惹かれて読んでみた。
自らの祖母の認知症をきっかけに、徘徊するお年寄りを乗せ、行きたいところに連れて行く「徘徊タクシー」という仕事を考えた主人公・恭平。「目の前に見えていることだけが現実ではない」「思い立ったらまずは行動してみる」を是とする作者自身の自叙伝のようでもあり(主人公も同名である)、新しい物の見方を教えてくれる一冊でもある。 -
作者がみた夢をそのまま文章にしたような話で文中もよくわからない表現が所々に差し込まれて「ん? ん?」ってなりながら読んだ。
なるほど徘徊タクシーとはそういう意味かとは納得したが、そんな荒唐無稽な商売だれが納得して依頼しようものかと突っ込みを入れたくなる。ラストも曖昧。
読んだ、ただそれだけの感想に近い。 -
認知症の人から見る世界、常識と言われてるものと違う次元での着想はとてもよかったし、人への理解が広がりました。
ただ、文章は読みにくくて、苦労しました。 -
文学