指の骨

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著者 : 高橋弘希
  • 新潮社 (2015年1月30日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (122ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103370710

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指の骨の感想・レビュー・書評

  • 戦争を描いた作品。受賞はならなかったものの、芥川賞候補作です。戦争というと空襲や原爆を思い浮かべることが多いかもしれませんが、これは南方戦線の話です。戦っている場面より、野戦病院とその周囲の話が多いくらいで、野戦病院の一種長閑とも言える描写は、このまま戦争が終わってくれたらいいのに、との願いを抱かせます。しかし再びやってくるのです。野戦病院は絶海の孤島とも言うべき非日常の楽園でした。戦争という理不尽な日常に叩きこまれ、死んでいった若者たちが、あの当時どれほど多かったのだろうと思うと、胸がつぶれるような気持ちです。とくに野戦病院からあとの戦争は、何と戦っているのか、戦いであるかどうかも分からない、まるで死ぬのを待っているかのような戦いです。ここを凌いで運よく帰国できたとしても、見聞きしたことは絶対に語らないだろうと感じました。その意味でも、この作品は読まれる価値があると思います。描写も素晴しく、情景が目に浮かぶようでした。

  • なぜこれが書かれたのかという疑問だけが宙に浮いている。でもそれはわからなくてもいいこと。
    とにかく、本書のリアリティーにまず舌を巻くしかない。とにかく、始めから終わりまで、読み手を飽きさせない。

  • エンタメ的な要素もあって、個人的にはとても読みやすかった。
    この題材でありながら、少し笑ってしまうような場面も。
    部分的に現代的な表現もあって、
    たぶん意図的にやってるっぽい。このへんに妙な魅力を感じる。

  • 高橋弘希という名を覚えておこう。
    そう思ったのは文芸誌で新人賞を受賞した際の著者のプロフィール写真を見てからだ。
    34歳。ミュージシャン。ぼさぼさの髪と覇気のない表情。まるで病み上がりの病人みたいだった。
    なんでか分からないけれど、この人はこれから作家として生きていくんだろうな、と思った。



    最後まで読ませる。
    戦争を描いているのに感傷的ではない。具体的なモノを通した記憶の描写が生々しい。ディテールを積み重ねた展開が巧い。ホントに新人?と思うほど文体が完成している。
    特に野戦病院での描写がよかった。マラリアに罹った兵士がおかしくなって蕎麦屋の店主に扮する様子はリアルだ。回想で同級生の兵士が仲間の誤射でころりと死ぬシーンはほんと巧い。死がすとーん、と、やってくる唐突の感の描写が絶妙である。大した想像力。
    デビュー作を読んで、他の作品を読んでみたい、書き続けてほしいと思える新人作家はそういない。できれば長編も書いてほしい。才能が滅び消え尽きるまで永く書き続けてほしいと思う。

  • 久々の再読。
    高橋弘希という作家の、現時点での姿を正確に掴んでみたいという気持ちが大きくなる。
    よく評される、端正な、という言葉が本当に似合う小説だということを確認した。

    この作品にも、『朝顔の日』『短冊流し』に連なる美しいイメージがこれほど溢れていたことに驚く。
    詳細は稿を改めたいと思うが、「光(影)」「色彩」「線」といったモチーフを巧みに変奏させながら、抑制の効いた文体で紡がれる世界は読み応えがある。フィクションとしての強度を圧倒的に持っている。

    戦争という舞台設定の持つ力の大きさで、高橋弘希は戦争作家というようなイメージを持たれているが、本質はそこではないことは、今はもう証明されている。
    この作品は、野戦病院を中心に書いているに他ならないのだった。
    死ぬ間際にこそ正気に戻る、その頭の冴えの恐ろしさ。
    高橋弘希の本質は、そういった命の冴える刹那の描出にあるのではないか。

    それは並々ならぬ仕事だと感じる。

  • 21世紀に太平洋戦争の記憶もまったくない若い世代が戦争をテーマに小説を書いた!と話題になってたのできになってました。芥川賞候補にもなりました。

     物語のあらすじはシンプルで、ニューギニアで兵隊として戦っている主人公の「私」が野戦病院に行き、そこで兵士や軍医との交流が主に語られます。
    なんとなく大岡昇平の「野火」を思い出します。
    私はこの物語の舞台となるイスラバという場所は全然知りませんでしたが、ちょっと調べますとやはり悲惨な末路らしく、主人公の運命も「野火」と同じく暗いものでした。

     21世紀に戦争を知らない世代が「戦争」を描くことに興味がありましたが、なんとなく今まで描かれてきた小説以上に何かがあるかというと…疑問に感じます。
    戦争を知らないからこそ、戦争を俯瞰してみたり、新しい視点を期待していましたが、主人公が「私」という一人称だったりすると、どうしても実際従軍経験のあるような作家にかなわないような気がするのです。
    主人公の「私」には特に故国にとても帰りたいわけではなく、恋人や妻もおらず、なんとなくぼんやりとした恐怖や不安に苛まれている感じは、現代的な感覚かもしれません。

    私はこの小説が「リアル」だとは思いませんでしたが、リアルに戦争を描くことが戦争小説の唯一の道だとは思いません。
    戦争の戦闘や現地での経験だけが「戦争小説」ではなく、戦争を描かなくても「戦争小説」は描けるのかもしれないです。
    この作者が次にどのようなテーマを選ぶのかはわかりませんが、ぜひ次は今の人間だからこそかける「戦争」をかいてほしいなあ、と期待します。

  • リアル。淡々と戦場が描かれて、情景はなるべく浮かばないように読むのが大変。これはもっと世に読まれるべきだ。

  • 戦地でのある兵士の姿。
    次々斃れてゆく仲間。ある者は敵兵の銃弾で、またある者は病によって。
    野戦病舎での暮らし、地元民との交流、ささやかな愉しみ。描かれるのは、兵士というより、ごく普通の青年の日々。「普通」でないのは、そこが戦地であるということ。
    数千、数万の兵士達にも、それぞれに出自があって想いがある。当たり前だけど、こうして描かれるとそれを一段と強く感じる。

  • ある兵士の回想。幼なじみと踏んだ戦地、九死に一生を得て過ごした病舎での日々、負傷兵達との交流と死別、そして退却行軍への参列。
    手榴弾を抱える手、死に向かう覚悟、水晶の目、カナカを描いた10枚の鉛筆画
    戦争を知らない世代が描いた、戦場の生と死、それを見つめる普通の個人。生きようとする日常と、隣り合わせにある死の観察。同列の平坦さで語られる、大袈裟でなさがより実感を伴ってやりきれない。
    正義とか勇気とか悲劇とか、わかりやすいテーマでないから読みやすくはない。でも個人的にはだからこそ読めた。茶番感が少しでもでてしまっては読み進められなかった。得るものがあった確信はなくとも、苦手な戦争ものでも読んで後悔はなかった。救いのない物語に違いないけど、たぶん絶望を描いただけのものでもないからかな。

  • 指の骨 戦地にて、苛まれゆく心
    2015/3/4付日本経済新聞 夕刊

     話題の小説だ。戦争を知らない世代が描く「戦争小説」として、注目された。第152回芥川賞候補にもなった。


     とにかく描写が巧(うま)い。小説を構成している要素は様々あるが、文章力に申し分がなく、描写や比喩が卓越していれば、それは純粋な意味で、すぐれた小説なのではないか。そんな気にさえなった。


     太平洋戦争末期。「赤道のやや下に浮かぶ、巨大な島。その島から南東に伸びる細長い半島」。ここが小説の舞台だ。主人公は怪我(けが)をし、野戦病院に入り、そこを出て、さまよい歩く。丁寧な心理描写が嫌味にならない程度に書き込まれる。主人公は、戦争への疑問に苛(さいな)まれ、徐々に気力を失っていく。


     この小説をめぐって様々な議論がこれから起こるだろう。すでに賛否両論、ある。戦後70年という区切りの年にリリースされるという時期的符合も拍車をかけるだろう。


     戦争を描くこととは何か、何を描けば戦争を描いたことになるのか。原初的とも言える問いに、この小説は私たちを立ち返らせる。それだけの力を持った小説であることだけは確かである。


    (陣野俊史)

  • 2017.10.14 図書館

  • ーー黄色い街道がどこまでも伸びていたーー一本の欅に似た樹木の下に身を預け、飢えと病による死を目の前にして、同輩たちの最期を思い返す一人の若き兵士がいた。
    太平洋戦争で激戦地となった南洋の島、その殺戮の描写は少ない。むしろ、確実に死が迫ってくる野戦病院の日常を、そこに収容されている負傷した兵士たちを描くことでしか表せない戦争の姿がある。
    人の死が日常になり、心身に空洞ができたように、もはや哀しみも感じなくなった兵士。
    この作品の淡々と、そして乾いた描写が悲惨な状況を読み進めることをかろうじて助けてくれる。

    ーー果たしてこれは戦争だろうか。・・・我々は誰と戦うでもなく、一人、また一人と倒れ、朽ちていく。ーー
    飢えと、病と、手榴弾による自決・・・敵機は最早、攻撃すらせず、通り過ぎていく。これも戦争。

    タイトルの表す意味、それがわかるとき、こみあげてくる何かがある。それでも、故郷に帰って行ける者はまだいい。
    遠く離れた南洋の島に、今なお眠る遺骨が多数あることに思いを巡らすにつれ、哀しく、辛い気持ちを抑えられない。

  • 戦争の虚しさと絶望。救われない死。

  • 目新しさやリアルさを感じるかと言われると疑問を覚える。
    でも線や陰影の美しさ、いい意味での入りやすい人間像に、これは伝記ではなく戦争小説なんだと思った。

    戦争に興味があり、既に何冊も読んできた人には物足りなさを感じると思う。
    でも「永遠の0」が映画化され大きな反響を生んだように、若い世代が共感し戦争を知ろうと思う一歩になる。そういう小説にはきっととても価値があるんじゃないかと思う。

  • 戦争がテーマの本は数あれど、これほどに戦闘や被害を語らずに戦争の悲惨さを表現した本を読んだことがない。目を背けたくなるような場面はなく、淡々と語られる死へ導かれる兵士たちの様子は少し観念的で、それでも戦争のない世界を実現したいと思わせる新しい切り口。若い作者の初の著書とのことで、今後も期待。

  • 太平洋戦争での日本兵は、実際の戦闘による死よりも圧倒的に戦病死のほうが多かったのです。兵站を軽視して戦線を拡げるだけ拡げた結果、飢えと熱帯地方特有の病に侵され多くの命が失われていきました。戦闘場面はわずかで、多くは野戦病院での日常の様子や現地人との淡い交流が、乾いた文体で描かれています。そして、死の影がひたひたと忍び寄ってくるのを、多くの兵士が自覚しながら死んでいった様子が描かれています。

  • 2014年の新潮新人賞受賞作で、芥川賞候補作。
    34歳の人が書いた戦争小説で良評判ということで借りて読んだ。
    作中にある語り手の「戦争を知る」という言葉が残る。
    戦争の渦中にいるということは戦争を知るということでもあるのか、と。
    その冷静さというか俯瞰的感覚が、描写が痛々しくも静かに乾いた筆致にさせ、読み易い文章にしているのかもしれない。
    野戦病院から出て行くところから、先が分かって辛かった。読後脱力。 読んで良かった。

  •  ニューギニア戦線における日本軍の一兵士を描いた小説。
     敵軍との戦闘場面は少なく、野戦病院や行軍時にひとりまた一人と戦友が亡くなっていく。次々と増えていく死者を見ながら、亡くなった戦友の指の骨を大事に持ち、主人公もまた死者の行軍に加わっていく。
     戦争とは何か、という主人公の問いは、戦後70年目にして本書を書いた30代の作者の思いなのだろう。

  • 第46回新潮新人賞受賞作であり、第152回芥川賞候補作。戦争を知らない、体験すらした事がない。そんな世代の作家が描く、戦争小説。正直、そんなに期待をしてはいなかったのだが読んでみると違和感なく、すんなりと文章や描写が頭の中に入ってきてびっくりした。戦争を知らない世代が戦争を執筆する事により、戦争の惨劇が次の世代へと受け継がれ、語られていくのではないだろうか。そんな風に思った。

  • 太平洋戦争で野戦病院に収容された兵士。激しい戦闘シーンはない。戦ってない、でもこれも戦争。戦争のごく一部。兵士の虚しさ、疲れ、諦めなど反映しているからか激情がなく淡々としている。

    短い話だが、描写は迫力や心揺さぶられるほどの感情を持つことはないけど、詳しくて新人賞をとり芥川賞候補にもなったのはなるほどと。戦争以外を書いた時どうなるかな?

  • 20150824 芥川賞候補作になった作品。戦場の描写がリアル過ぎて、描写がすごい。もっと人に読まれるべき。次回作が気になる。

  • 芥川賞候補作品だったんですね(納得) あまりにリアルな内容だったので…感想らしい感想はやめときます(^^;;

  • 現代の作家が描いた戦記物って言う処が新しいのかな。
    戦闘シーンは冒頭のみで、殆ど野戦病院を舞台とする一見のどかな場面が多い。
    情報が不足している時代だから前線が前進しているのか後退しているのか、日本軍は勝っているのか負けているのかも判らないままに医薬品不足から傷病兵はバタバタ死んでいく。
    タイトル名は死んだ戦友の遺骨の一部を主人公が故国へ持ち帰ろうとするところから取ったのだと思うが、それも果たせずに行軍の最中にあっけなく死んでしまう。
    苦い余韻が残る小説でした。

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指の骨の作品紹介

死を覚悟したのではなく、死を忘れた。そういう腹の決め方もあるのだ。果たしてこれは戦争だろうか。我々は誰と戦うでもなく、一人、また一人と倒れ、朽ちていく。これは戦争なのだ、呟きながら歩いた。これも戦争なのだ。しかしいくら呟いてみても、その言葉は私に沁みてこなかった──。34歳の新鋭が戦争を描き、全選考委員絶賛で決まった新潮新人賞受賞作にして芥川賞候補作となった話題作。

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