空から降ってきた男:アフリカ「奴隷社会」の悲劇

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著者 : 小倉孝保
  • 新潮社 (2016年5月18日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103500612

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空から降ってきた男:アフリカ「奴隷社会」の悲劇の感想・レビュー・書評

  • 「貧困は相対的なものである」この意味を正しく認識し直した。比較対象を認識しなければ、貧富の差に気付くこともなく、貧しさに悩むこともない。生きてていくのがやっとであったとしても、生まれ育ったコミュニティで生活していく、それが幸せだったのかもしれない。1日あたり何ドル以下の極貧生活という表現に意味はない。
    物質的豊かさを求めて、故郷を捨てて国外まで出稼ぎに行く。グローバリゼーションの影の部分がこの事件なのであろう。
    しかし、もう過去には戻れない。

  • ロンドン五輪に引き続いて行われたパラリンピック閉会式の日。ロンドン
    郊外の住宅地。通行人からの通報で駆け付けたスコットランド・ヤードの
    捜査員たちは、路上に倒れている黒人男性を発見する。

    周辺住民の話では警察が到着する前に「どすん」という何かが落ちる
    ような音が聞こえたと言う。捜査員たちは空を見上げる。上空には
    ヒースロー空港へ向かう旅客機がひっきりなしに通過していた。

    頭部の激しい損傷、耳に詰められた丸めたティッシュペーパー。警察
    は男性が何らかの理由で航空機の主脚格納庫に潜んで密航しよう
    として格納庫が開いた際に墜落したとの結論に至った。

    持ち物はアンゴラ紙幣2枚とボツワナ硬貨1枚に携帯電話。他に男性の
    身元が確認できる持ち物はなかったのだが、携帯電話とは別にポケット
    に入っていたSIMカードの通話記録からスイスに住む白人イスラム教徒
    の女性と連絡が取れ、遺体の身元が判明する。

    路上で亡くなっていたのはモザンピーク出身のジョゼ・マタダ。彼の身元
    を確認した女性はジェシカ・ハント。本書はこのジェシカへのインタビュー
    が大半を占めている。

    以前のジェシカの結婚相手はカメルーンの大富豪一族の一員。その家で
    使用人として働いていたのがマタダだ。

    当初は平穏な結婚生活ではあったが、夫の家族から財産目当てだと疑わ
    れ、使用人から監視される生活のなかで孤独感を募らせたジェシカが心の
    安らぎを求めたのが物静かな青年であったマタダだ。

    これがマタダがロンドン郊外で墜落死する遠因になる。前夫の支配から
    逃れる為のふたりの逃避行。しかし、離婚も成立しておらず職もない
    白人女性と貧しい黒人青年との放浪は時を置かずに破たんする。

    ジェシカは母の助けを借りてヨーロッパに戻る。必ずマタダを呼び寄せる
    との約束をして。

    私はこのジェシカの気持ちがまったく分からない。抑圧された結婚生活
    のなかでマタダに救いを求め、手を取り合って逃げ、マタダがヨーロッパ
    に渡れるようにすると約束までしたのに、前夫との離婚成立後に別の
    男性と結婚している。

    「弟に注ぐような愛情」だとジェシカは言う。だが、マタダにしたらどうだった
    のだろう。ジェシカとの結婚を夢見ていたのではないだろうか。

    本書はサブ・タイトルに「奴隷社会」との言葉が入っている。アフリカのなか
    でも、同じ黒人の社会の中でも貧富の差は明確だ。モザンピークは国全体
    が貧しい。だから、マタダは故郷を離れ出稼ぎに行っていた。

    出稼ぎ先で豊かな暮らしに触れた。貧困からの脱出を夢見たこともある
    のだろう。その夢を実現できるかもしれないとの希望をマタダに与えた
    のもまた、ジェシカではなかったか。

    だから、少しでもジェシカへの近くへと危険を冒して旅客機での密航を
    決行したのではないだろうか。気温は氷点下に下がり、酸素の薄くなる
    主脚格納庫に身を潜め、マタダは何を思ったのだろうか。切ないわ。

    著者はマタダの故郷であるモザンピークの村を訪ね、思ってもみなかった
    貧困の現実に直面している。これは私にも衝撃だった。マタダの死によって
    残された家族・親戚も辛い現実に直面していた。

    昨今の移民問題の影も部分も理解出来る良書。著者がマタダを描く時の
    優しさが余計に悲しみを感じさせる。

    それにしてもジェシカなんだ。彼女へのインタビュー部分を何度か読み返し
    たけれど、結局は自分のことしか考えていないんじゃないか?と言ったら
    酷だろうか。

  • 遠い昔の話でも、全く知らない国の話でもなく、現代のロンドンで起きた青年の墜落事件をきっかけとして、アフリカに未だ根付く奴隷社会の実情が紐解かれて行く。

    選択肢がある、ということはどれだけ恵まれたことだろうか。そしてそれは過去の人々が必死で勝ち取った権利なんだということを、この本を読んで改めて思う。

    植民地の時代から連綿と続く、自然の摂理を無視し、民族の意思や尊厳を踏みにじった行為の結果生まれた、この理不尽極まる歪められた社会構造に対して誰も責任を取らない。なぜ。そこに強く憤りを感じる。

  • 「物質的繁栄が真の豊かさではない」とは、ソレを食い散らかした後に言えるセリフ。
    インターネットやら衛星放送やらで外の世界を見せつけられるアフリカの若者に罪はない。
    賄賂を要求する役人に騙されるばかりで、パスポートどころか出生証明書すら手に入らない。イカロスよろしく「飛ぶ」ことを選んだジョゼ・マタダ。哀れに思いこそすれ、愚かと責めることはできない。

  • ある日、ロンドン郊外で一人の男が降ってきた。彼は何者で、どうして空から降ってくることになったのかーー。

    実在の事件のルポルタージュであるが、ミステリーのように読ませる。

    一人の男の人生を通して、アフリカの現在を垣間見ることができる、著者の狙い通りの良書と思った。ただ、Amazonの内容紹介やコメントでの「グローバル社会の闇を独自の視点で暴く」、「傑作」等の文句は言いすぎな感がある。

  • [その先を目指して]着陸態勢に入った飛行機から落ち,ロンドンのアスファルトに叩きつけられた一人の男。新聞のベタ記事を飾るようなそのニュースに興味を持った著者は,「空から降ってきた男」の素性を知ろうとするのだが,彼が直面したのは,移民をめぐる大陸をまたいだ一つの厳しい現実であった......。著者は,日本人として初めて英国外国特派員協会賞を受賞した小倉孝保。


    着眼点だけで満点を与えたくなるノンフィクション。ニュースで数字として取り上げられることの多い移民問題ですが,マタダという男性の人生を通して見ることによりその複雑な背景事情を浮かび上がらせることに成功しています。

    〜欧州を目指す人の波の裏に何があるのか。普段は集合体でしかとらえることのない移民現象を,マタダの人生を通して,具体化してみせることが可能だと思った。〜

    それにしてもこの終焉は切なすぎる☆5つ

  • 帯文:”ロンドン郊外の住宅地でひとりの黒人青年の死体が見つかった。所持品は僅かな現金と携帯電話のみ。SIMカードに残されたデータを頼りに事件の謎を追い、真相に迫るなかで見えてきたものとは!? 難民問題が生んだ衝撃の実話――。” ”彼はなぜB777から墜落し、路上で息絶えていたのか?”

    目次:序章 異様なほど晴れ渡った朝、突然 第1章 ルアンダ発ヒースロー行きBA76便 第2章 いったい彼は「誰」だったのか? 第3章 空飛ぶ棺 第4章 ジュネーブへ 第5章 現代のおとぎ話 第6章 ケープタウンでの運命の出会い 第7章 悲劇の始まり 第8章 嫉妬と狂気の果てに 第9章 モザンビークへ 第10章 永遠の別離 第11章 絶対に越えられない壁 第12章 ジュネーブで出会った第三の男 第13章 最後の日々 第14章 モザンビークの現実……他

  • 2012/9/9-0750AM
    ロンドン警視庁に緊急通報が入る。
    ロンドン西部、リッチモンド・アポン・テムズ区、モートレイクのポートマン通りに人が倒れて死んでいるように見える、とのこと。

    普段は静かな住宅街に、多くの警察官が集まり、現場での捜査が始まった。
    しばらくすると、警察官は上空を気にし始めた。
    現場はヒースロー空港から13キロ程度。
    被害者は、どうやら現場上空で着陸のために車輪を出したとき、格納部から墜落したようだと考えられた。

    身元確認などで捜査は難航するが、次第に状況が明らかになってゆく。
    亡くなったのはモザンビーク出身の男性、ジョゼ・マタダ。
    死亡した日はマタダの26歳の誕生日だった。

    おりしも事件の日はロンドンパラリンピックの閉会式。
    世界が一つにまとまり、スポーツの祭典が大団円を迎えるその日に、アフリカから逃げ出してきた一人の若者が息を引き取った。

    「未だに、世界には命の危険を冒してでも、海を渡る事を熱望する人がいる。彼らが、命と引き替えにしてまでも手に入れたいものとは何なのだろう」(p.27)
    集団として“移民問題”を論じるのではなく、今回の事件について、一人の男性の生涯を取材することで、社会の不平等な実態を暴くドキュメント。

    「慎重な性格だった」と家族が語る男性が、飛行機の車輪の格納庫でヨーロッパを目指すなどという無謀な行動に出たその理由について、ともに考えられる作品。

  •  ヒースロー空港の直前で着陸態勢に入ったアンゴラからのBA便の主脚格納部から墜落して死亡した26歳の男の人生を追うノンフィクション。主題はアフリカ人がアフリカ人を奴隷のように扱う現状と、行政の不正、絶対的な貧困なんだけど、僕が興味を持ったのは、その男性が欧州を目指すことになった要因の一つとなった女性の人生。実はこちらも凄まじい。
     女性は82年生まれ。父親は英国人で母親はスイス人。母方は祖母がブラジル人で祖父がドイツ人。国籍はスイスとドイツで、望めばイギリス国籍もすぐに取れる。日常的に母親のフランス語、父親の英語、祖父母のポルトガル語とドイツ語に囲まれて育った。2歳の頃から家族でサハラ砂漠に渡り、ランドクルーザーで移動しながら、モロッコ、アルジェリア、モーリタニア、マリ、ニジュール、ナイジェリア、カメルーン、チャド、中央アフリカと行く先々で車を止めてテントを張った。そのように7歳まで暮らした。その後高校まではジュネープにある、国連の機関に働く人たちの子女が通う国際学校で教育を受ける。高校在学中にカメルーン出身で富豪、2歳年長の同じ高校の男性と結婚。18歳でイスラム教に改宗。そのあと同居することもなく、高校を卒業してイギリスの大学で学ぶ。2008年に南ア、ケープタウンの豪邸で一緒に住むようになるが、まるで幽閉されているような生活。ただ、お金の心配だけは無用であった。そこで、住み込みの庭師だった件の男性、墜落した男性と出会う。そして、二人でケープタンウの豪邸を脱出。男の故郷、モザンビークに逃げるが、資金もつき、路上での生活に。死の間際まで追い詰められて、母を頼って一人ベルリンへ。そこで生活を立て直して、ジューネーブへ再び。カメルーン人の夫と正式に離婚して、今はガンビア人の夫と暮らしている。
     
     いやはや、こんな人生もあるんだ。何々人とか、国籍は何々・・とか、そんなことを完全に超越している。こんなふうに、いずれ地球人になっていくのかなー、と感じたのであった。

  • 飛行機から墜落死した一人の黒人男性の生涯から、格差の不条理を見事に表現している。これぞルポタージュと言える内容で、一気に読みきってしまった。

    このレビューを読むのが一番。
    http://kangaeruhito.jp/articles/-/1714

  • ある快晴の朝、着陸態勢に入った飛行機からロンドン郊外に転落し、命を落としたモザンビーク出身の黒人青年。無謀と見える密入国に駆り立てた背景に何があったのか。丁寧な取材が掘り起こす衝撃の事実と、アフリカの今を活写する傑作ルポルタージュ。

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空から降ってきた男:アフリカ「奴隷社会」の悲劇の作品紹介

彼はなぜ命を懸けて欧州を目指したのか? 難民問題が生んだ愛と悲しみの実話。ロンドン郊外の住宅地の路上で、ひとりの黒人青年がB777から墜落し息絶えていた。彼の持ち物はわずかな現金と携帯電話だけ。ジュネーブ、ケープタウン、アンゴラ、モザンビーク―― SIMカードに残されたデータを頼りに事件の謎を追い、真相に迫るなかで見えてきたのは、現代の奴隷社会と言うべき過酷な現実だった。

空から降ってきた男:アフリカ「奴隷社会」の悲劇のKindle版

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