縫わんばならん

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 94
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (138ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103507413

作品紹介・あらすじ

選考委員の星野智幸氏、桐野夏生氏絶賛、新潮新人賞受賞の新鋭の話題作。九州長崎の漁村の島を舞台に、一族をめぐる四世代の来歴を女性の語りで綴る。ほころびていく意識から湧き出る声を聴き取り、「縫わんばならん」と語り継ぐ……「過去に、記憶に、声に、もっと深く、まっすぐ向き合っていきたい」―― 語り合うことで持ち寄る記憶の断片を縫い合わせて結実したものがたりは、人生の彩りを織り成す。

感想・レビュー・書評

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  • 6年前、祖母の葬式があった。22年同じ家で暮らしてきた、頑固で偏屈な祖母であった。背は小さく、料理は下手だったが、南瓜の煮物だけは得意で出された時はよく食べていた。生前付き合いが少なかった祖母であったが、盛会となり、会場は酒が振舞われ、寿司や揚げ物が盛り付け並べられ、笑い声が多くあり、これまで近親者の死に立ち会ったことのない私は、なぜこの人たちは大声で笑っているのだろう、と悲しむとともに理解できずにいた。
    また別の話だが、実家に暮らしていた時、兄弟3人、同じ部屋の三段ベッドで寝て起きていた。三段ベッドといっても、1番下はコロがついていて、引き出して使用するものだったので、実際には二段ベッドだったが。誰が言い出したかわからないが、ベッドの並びも上から生まれた順に使っており、1番上の私は天井に1番近く、祖父が設計し、当時で築30年の間に染み付いて取れない雨漏りの染みを眺めながら寝ていた。

    読みながらそんなことを思い出した。どこか遠くの出来事を見させられているようで、しかもその出来事は大したことはなく、取り上げる、書かれる内容なのかどうかわからない。いまも不思議な気分だ。ただ、この小説を読み進めるうちに、これまで忘れていた、記憶の蓋が開いては中断し、閉じてはぼんやりしながらまた読み進める、物語に没入するというより、たわいもないエピソードを通じて、自身の家族を省みる、そんな読書体験だった。

    p127
    みんなでほどけていった婆ちゃんの代わりに話しよるんやもんな。ほどけて…、そう、婆ちゃんの周りの白か部分ば、花で覆われて真っ白なその周りば、話し続けて埋めてやりよる。昔のことば代わりに思い出して、忘れ果てて、ほどけてしまった婆ちゃんの記憶ば縫い合わせよる…

  • 面白かったし、最後まで読めたけど、なんか既視感がある。あ、多分「ミシンと金魚」に似ているんだ!若い人が昔の人になった文体って流行りなのかな。

  • 文芸的ではあるが、ぐいぐい引き込まれて行くようなパワーが感じられない。

  • 福岡県からの芥川賞受賞☆彡
    これは、古川さんが以前に書かれた本。

    最近、ミステリーものばかり読んでいたので息抜き。

    長崎県の離島のお話だけど、私の地元の方言にも似ていて、それに長崎に住んでいた大好きだった大叔母の方言と一緒でとても懐かしくホッとした。
    このくらいのバリバリの方言は、さすがに祖母の時代くらいまでだけど、お葬式で親族が集まったところなど、ものすごく親近感がわいた。

    私の実家も本家で、昔はたくさんの親族が事あるごとに集まってきていたけど、父母の世代になるとそれもだんだん少なくなり、私たちの世代になるとほぼない。というか集まる親族がいない。
    だんだんこうやって、親戚付き合いも薄れていくんだろうな。

    本の内容は、ただただ淡々と各世代の女性が親族の思い出に浸る。というだけなんだけど、すごく丁寧な描写で、不思議と気持ちが落ち着く。
    サプリのような本でした。

    ちなみに、装画が草間彌生さんでかわいい。

  • 縫わんばならん
    著作者:
    タイムライン

  • 島に住み続ける、あるいは出て行く一族の主に女達を巡る連作短編集。
    閉塞感はあるがそこここにぽかっと、屋根に開いた空が見えるような穴があり、妙な解放感もある。
    「意識の流れ」を描いていて、繋がり(と人物相関図)に混乱もあるが、私にとっては心地好い文章だった。
    読み終えてしばらく経っても、ふと場面が私の意識に立ち上って来る。
    今後の作品も読んでいきたい。

  • なんにも起こらないのにぐいぐいと先を読ませる筆致がすごい。そのかわりオチもないんだけどね。まあそういう話だからな。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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