劇場

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著者 : 又吉直樹
  • 新潮社 (2017年5月11日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103509516

劇場の感想・レビュー・書評

  • 上京したことのない私にも、上京感を味わわせてくれる、素敵な作品。
    青春小説。まどろっこしいとこもあるけど、それもよかった。

  • 恋愛小説ということで、普通によくある若い恋人同士の話でした。しかし、劇場というタイトルの通り、演劇をめぐる若い男女にはよくありがちな話でもあったりします。実際ない話じゃ無い。できる気になっている脚本家が、どうしても恋人を幸せにしたいが、その方法が手段が分からない。それはなぜなのか。そして、二人はどうなるのか。恋人同士を描きながらも、体の触れ合うシーンは少なく、文章は心情と行動、それと演劇とそれにまつわる文筆がほとんど。でも、この二人が一緒に居たいと想い合っていることは、はっきりと分かります。幸せにしたいと思い続けながら、その手段が分からない男にイラっとするかもしれませんが、それでもあがき、恋することを、胸が詰まる言葉で表現しているこの作品に触れた時、切なさを感じるのならば、それは大切な人をしっかりと愛せている証拠なのかもしれません。こういうエピソードを持つ友人がいるなら、他人とは思えず、きっと大切にしてしまうでしょうね。

  • デビュー作が評価された作家やミュージシャンは、往々にして「2作目のジレンマ」をどのように超えるかが大きな困難であり、そのジレンマを解決できずに歴史に埋もれた創作者は枚挙に暇がない。さて、本書を読了して真っ先に感じたのは、著者は一人の純文学作家としてのその陥穽を超克し、そのポジションを確立しただろう、という感覚であった。

    今作では演劇の脚本家である若者を主人公として、芸術という自己表現に従事する人間が、必ずどこかでぶち当たるであろう”自らの才能を信じることの不安”や”自分より評価されている他者への羨望や嫉妬”などの感情が、余すことなく描かれる。天才でない大多数の創作活動に従事する者でこうした感情を抱かないものはいない(抱かなかったのだとすれば、それは天才か馬鹿かのどちらかである)はずであり、その感覚の生々しさがこうした言語化され、ストーリーに中に自然と配置される技術は、著者の強い才覚に基づくものであろう。

  • 針先くらいの大きさしかない、つまらない、大したことない自己顕示欲にがんじがらめになっている主人公が大っ嫌い。
    今まで読んだどの本の主人公より、「こいつ嫌いだわ」って思った。

    心の狭さ、器の小ささ。
    逃げることでしか保てない自分の軸。
    でも、その人間臭さに惹きつけられた。

    うだつの上がらない毎日を、
    丁寧にしたいのにどうしたらいいかわからない恋人との日々を、
    自分で自分の首を締めながら生きてる様は、
    たとえ悪あがきだろうと、
    演劇という拠り所を通して「生きてる」そのものだったんだろうな。

    終盤の畳み掛けの熱量がすごい。
    登場人物たちの人となりはしんどいけど、結果、すごく良本。

  • すっっっごく良かった。好き。まじかーーー又吉。
    「報われない人間は永遠に報われない」とほんのり似てた。
    それにしてもデビュー作とくらべると気持ちのいいほど肩の力がぬけている。
    ちゃんと書きたいことを冷静にとらえて、話題性とか批評とか、そういう煩悩に惑わされることなく書き上げたんだろうなと思う(私だれ目線なんだ)。
    小説そのものもとても好感がもてるし、これを彼が書いたのだという事実もぐっとくる。
    本当にさりげなくそっとはさまれるジョークが絶妙にシュールで、芸人としての矜持も感じた。

    東京で劇団を立ち上げ脚本や演出をするも一向に売れない永田と、それを献身的にささえる天真爛漫な彼女の沙希ちゃん。
    永田の脳内をのぞいているような奇妙な生々しさが文章から滲んでいて独特の世界観を纏って話はすすむ。
    永田は自意識過剰で卑屈でどうしようもない男だ。明るくて優しい沙希ちゃんがとにかく不憫でならない。
    だけど永田が感じている劣等感や焦燥も、読み手の私にはどうしようもなく伝わってきてしまって、素直になれない彼が滑稽で、可哀想で、情けなくて、不甲斐なくて。
    空気に触れるべき言葉こそがでてきてくれないもどかしさが切ない。
    ラストシーンはそういうあれこれ全てが苦しく押し寄せてきて涙がとまらない。

    現実だって、どんなセリフを吐き、どんな演技をするか、すべて思いのまま。ここは劇場だ。

  • 屈折しているのに、大事な人を傷つけているのに、そんな主人公を客観視しない潔さ。どこかで間違えたはずなのに、ふと我に返る暇も与えず、剥き出しの激情だけで駆け抜けてゆく。
    ただ読者だけが冷静に、それを眺めている......そういう劇場なのだろうか。それでも最後ばかりは胸が締め付けられた。

  • 冒頭の技巧的な装飾的心理表現は辟易としたが、ストーリーが転がりだしてからの展開は凄くいい。主人公の彼女への想いを語るところはグッとくる。全体的にはよくあるストーリーで、そう思わせるのは作者の力量を感じた。

  • 『新潮』掲載時は『火花』より難解に感じ挫折しました。所々やはり難しかったのですが、今回は大切に読んだつもりです。
    神社の前の木から落ちた青い実を偶然一緒に見た彼女とのお話、又吉ファンにとってはお馴染みのエピソードだと思いますが、あのお話を思い出さずにはいられません。
    永田と沙希の関係とその流れは、恋愛小説でも現実でもよくあることかもしれないけれど、世界観や最後のやりとりの切なさは又吉さんらしくて良かったです。何とも言えない余韻があります。

  • 文芸紙に載っていたものを読んでみた。花火も読んだが、こちらの方が小説としてレベルが高いように思う。

    主人公のクズっぷりを読んでいると、だんだんこれは自分のことが書かれている本だという錯覚に陥った。

    愛しかたは人それぞれなのだが、愛しているが故に歪む事は多々ある。それは相手に対しての甘えということでも、我儘ということでもなく、その人の心からの愛の1つの発露として、何故か、そうなる。

    話題性だけではない、この作者の非凡な才能を感じた。

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