- Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103534198
作品紹介・あらすじ
1988年、カビたパンを噛みしめながら聖地の山道を歩くギリシャ篇、謎の「泳ぐ猫」を求めて兵士と羊の国を廻るトルコ篇。村上春樹のロード・エッセイ。多数の未発表写真で旅の全行程を再編集。
感想・レビュー・書評
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梅雨である。じめじめである。
梅雨が明ければ暑い夏が待っている。
雨天炎天。
よそのサイトで知ったこの本、読むなら今だろう、と図書館で借りてみた。
前半はギリシャのアトス半島、後半はトルコ外周を訪れた旅行記の二本立て。
いずれも、楽しい観光だったり、旅情あふれたしっとりした旅だったりはしない。
男3人、あるいは2人の、タフでマッチョな旅路である。
寡聞にして知らなかったが、アトスというところはギリシャ正教の聖地なんだという。修道院が点在し、異教徒が訪れるには許可が必要。女人禁制、3泊限定。聖地であるので、当然、文明からは隔離されている。海沿いの山道をときに道に迷いつつ、ときに雨に打たれつつ、ひたすら歩く。
トルコでは、四輪駆動でひた走る。道がいきなりなくなったり、ゲリラ出没地域に迷い込んだり、タンクローリーの間を縫って走ったり。度はずれて親切なトルコ人に時に辟易し、書き物をする周囲に群がる子ども達に苛立つ(ギリシャに比べてトルコの記述が断片的であるのは不思議ではない)。
過酷な旅の途上、著者は休まず書き続ける。通過する者=旅行者の目から見たスケッチともいえるその記録は、無数の短編小説のようでもある。同行した写真家による多くの写真とともに、ギリシャへ、トルコへと、それは読者を誘う。
少し前の旅行記である。また、自分にとっては、決して訪れることのないであろう土地だ。ありえない、空想上の旅。それもまたよい。
異質なるもの、汝の名は「異国」なり。
*アメリカでレンタカーを借りて旅したことがある。借りる際、メキシコ側に入ってはいけないという規約があった。故意だったか偶然だったか忘れてしまったが、一度、メキシコに入り込んでしまった。距離にしたら大したことはないのに、国境を越えたら、がらりと雰囲気が違った。夕暮れは迫る。帰り道は見つからない。細い裏道に入り込む。アメリカナンバーの車にじろじろと向けられる目。
あのときは冷や冷やしたなぁ、というのを、本書のトルコ旅行記を読んでいて何だか思い出した。
*ギリシャの黴びたパンを食べる猫、トルコの「泳ぐ」猫(ヴァン猫)の話が印象深い。著者は猫好きなんですね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
アトス半島行ってみたいけど女人禁制だから行けない。
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もう何十年も前に読んで以来の再読。なんとなく内容は覚えていたが、アトス半島もトルコも著者の村上氏は大変な旅をされたようだ。アトスでは天候や道の悪さ、食べ物の粗末さに苦労し、トルコではクルド人のゲリラに遭遇して命の危険を感じている。著者は1988年に訪れている。
印象に残っているのは、アトス編ではカフソカリヴィアで足止めをくい泊まることになったのだ話だ。そこで出された夕食がとにかくひどい。パンは石みたい固くしかも一面に青黴がはえている。顔が曲がるほどの塩っぱいフェタチーズに酢がこれでもか入れられた冷えた豆のスープ。黴がはえているパンなんて食べられるのかと思うけどお腹が空いた著者は果敢にも食べている。トルコ編ではディヤルバクルの町の話。そこはクルド人が住む町で町のまわりは軍の基地だらけなのだが、町を守る基地でなく町を包囲している軍の基地なのだ。砲の先は町に向けられている。ガイドブックによれば、この町にはトルコでももっとも荒々しい公認売春地域があるという。著者はイスタンブールの公認売春地域を訪れているが、『本当に本当におぞましい代物だった』とその印象を書いているが、ディヤルバクルはさらにさらにおぞましいのだったろう。その他の売春地域には著者は訪れていない。 -
今時、そんな所があるなんて・・・
それで、そこへ行ってみたいって・・・
で、実際行っちゃった!!
満足なんでしょうねえ
切り取ったポイントの場所には惹かれても
行かないな~~ -
ギリシャとトルコの回遊エッセイ。
私にとって馴染みのない土地なので、不思議な気持ちになりました。
この世界には同じ時刻に全く異なる生活をしている人たちがいる。
普段は気にも止めないことを考えるきっかけになります。世界にはいろんな信仰を持っていろんな生活スタイルがあるんだなぁ。
訪れることはないだろう土地の、暮らしを垣間見ることができて面白かったです。
本はいいですね。
誰かの体験を通して知らない世界を知ることができる。 -
これぞ、今冬に面白い旅行記です!
私もいつかこんなに面白い旅をしてみたい。
でもこんなにしんどい旅をしたら
私は体がもたない気がするが。
でもとても旅行をしたくなるし、
海外の辺境にも行きたくなる。
私はそんな旅をすることは
死ぬまでないと思うけど。 -
2021年2月7日読了
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ストイックなロードエッセイ。淡々と土地と人々の描写が続くだけなのに、題材が想像を絶するせいで中味が濃い。それから独特の描写がいい。ツボに上手くはまると本当に面白い。ぶっきらぼうな修道僧が自分らより猫に対する方が親切かもとか、絨毯屋と提携しているトルコのホテルマンとか、討ち死にしたタンクローリーとか。
以下は猫好きとしての個人的な感想。JAFの会誌にヴァン猫が取り上げられた月があって興味を持っていたから、リアルな描写に触れられて嬉しかった。かなり有名らしい。