辺境・近境

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103534211

作品紹介・あらすじ

1990〜97年、瀬戸内海の無人島に渡り、メキシコでバスに揺られ、モンゴル平原の戦場跡を訪ね、北米大陸を横断し、香川で讃岐うどんを食べ、震災後の神戸を歩く。村上春樹のロード・エッセイ。カラー口絵収録。

感想・レビュー・書評

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  • 本を読んでて「?、読んだことあるかも?」ということが何冊かある。この本は僕にとってまさにその類の本で、メキシコのあたりから「?」になり、香川の讃岐うどんで「!」となるのである。もう5回くらい読んでいるかも。でも全く損をした気持ちにはならない。好きな曲は何度聴いても良いものでしょう?

    さて、僕は決して村上春樹大好き!というわけではない。僕は男でストレートだから性的な対象ではないし(当たり前だけど)、割合上手く付き合ったり、離れたりしているほうじゃないかと思う。(もちろん好きな作家の一人です)
    ただ(あんなに売れている)「1Q84」を途中で放り出していて、もしかしたら自分がおかしいんじゃないかと思ったのだけれども、また時期が来れば読めるのかもしれない。みんなよく読めるなぁ。と感心する。
    あ、そうそう、この本の感想を書かなくては。この本は、彼の旅行記です。以上。ではつまらないので5回読んで初めて分かったことを。
    僕は今まで、彼の文章は割に平坦で冷静で起伏に富むことは少なく、平面のような文字通り2次元上の紙の上にある世界であると思っていた。もちろん、紙に書かれるということではあるのだけれど、1ヶ月旅をするメキシコも、アメリカ横断も、四国の香川県のうどんも、神戸を歩くのも同じ彼独特の軸があることがわかった。
    それは彼(村上春樹)の時間軸だ。3時間の話を20ページ書き、1ヶ月の話に60ページを割く(例えばですよ)ということは、それらが等しく平らにページに収まるように扱われているのだ。何が平等なのかというと、そこで村上春樹自信が感じた「出来事に対する思いの時間」だ。つまらなければ早く、興味深ければ遅く進むその時計の存在を決められたページの中に収めるということ。E = mc2(2乗)。真理は常にシンプルで美しい。

    そして、彼の時間軸と自分の時間軸がうまくシンクロすると本当にがつんとはまるのだ。頑丈な四輪駆動車の車輪が道に開いた穴ぼこに上手くこれ以上無いタイミングではまるように。
    僕の場合だとエッセイやメモアールに多いが「遠い太古」「走ることについて」とか良い例だ。
    そして読書5回目となるこの本では、チベットが「がちっ」とはまってしまった。前は、うどん、その前は、神戸とメキシコ、その前はアメリカの話ではまった気がする。

    二次元の地図の上を進む彼の時間軸によるエッセイという村上春樹敵3次元世界。彼が感じたこと、どうでも良いと思ったこと、生ビールを何杯のんでいるのか、締め切りやページ数が決まっている中で、その彼を通したこの世界は、どこに時間をかけるのか、何を感じるのか、そして何を感じたのか、そのタイミングがいつ、どこでくるかわからず、そして都度、機知に富み非常に興味深かった。

    マラソンが好きな著者は、決まった距離を極力同じリズムで走り続けること(もちろん、様々な条件で難しいけど)。それも一つの「限られた距離の中での時間」という考え方で見るとどうなるのだろう。残念ながら彼のように、ある程度規則的に進む針をもたないではない僕の時計は、また同じ本を読んで違う感想を書くのかもしれない。
    けれども、村上春樹はおそらく心に自分だけの時計(時間)をもっている、といっても良いと思うぞ、と僕は自分の中で確信したことをここで明らかにする。これを意識して読めば、また次の村上春樹の本が彼の3次元的世界を、まさに「行ってみなくてはわからない」旅のように、「読んでみなくてはわからない」彼の世界を自分の肌で感じる位に読めるんじゃないかと思うと楽しみでならない。(知らなかったのが僕だけだったら今更ですいません)

    旅は自分を変え、自分で想像した「こうであるはず」の旅を追記憶していくものだ。でもその奥深さは、やはり筆者の言うとおり、自分が何を見て、何を触って、感じて、そして自分というバイアスを通して何を伝えるかなのだと思う。
    だから近境も辺境も実は心持次第で、散歩も、通学路も、通勤も全てが旅となりえるのじゃないかと思う位、突発的偶発的なそのときでしか味わうことの出来ない旅をしたいと思った。

  • 旅とは現実的感触、そして疲れるもの

  • 2020/2/12 読了
    うどんを、食べたい!うどん、、。

  • 村上春樹の長編はいつも始めの早いうちに挫折させられるが、短編はいい。
    讃岐うどん紀行は、メモにとり後追いしたい気分になる。
    ノモンハン鉄墓場は、もやもやした世界に連れて行ってくれる。
    この中の「メキシコ大旅行」が面白い。1ヶ月ほどを街から田舎まで旅した43才のころの大旅行紀。
    都会に出てきたインディオの青年から聞いた話として、
    村は貧乏だったが「こんにちは」の言葉の響きでお腹を減らせているなと御飯を食べさせてくれた。
    都会では、言っても誰も理解してくれなかった。このような旅の深味が随所に出てくる。

    ここにはない「熊本旅行紀行」も、メモにとり後追いしたい旅行紀で、
    人吉でうなぎを、八代で鮎を食べ荒尾の世界遺産のレンガ造りを見る。
    行きたい気にさせるこの旅行紀も面白い。

    これもこの本ではないけれど、短編の「眠り」は眠れないを、不眠と覚醒を、存在基盤を語っている。延々と何かが「できない」を書き連ねているように思えてならない。
    手を変え品を変え、できない、できないをショートショートにしている。
    これは長編ノルウェイ発表の2年あとのもので、次の長編ねじまき鳥が3年あと、丁度40才のころの短編作品である。
    無尽に涌き出る文筆も、得心する泉に当たらない「眠り」の瞬間があるのか❗

  • いろいろな人の旅行記があるが、さすが村上さん‼︎って感じ。もちろんいい意味で。時々クスっと笑わされた。

    海外だけでなく、国内もあるところが、いい。四国に行ってうどん食べたくなった。

    ノモンハンは、ねじまき鳥を読んでいたので感慨深かった。今も戦争の跡あるのかなー。

  • 通常の配架場所: 2階開架
    請求記号: 915.6//Mu43

  • アメリカが好きな村上春樹さんもアメリカを車で横断しているときの食事情の単調さにうんざりしているのが、共感できた。

  • 日本の無人島、メキシコ、中国とモンゴルの国境ノモンハン、アメリカ横断の旅行記と震災後の神戸を歩いたりアメリカのある町のことをかいたり。
    メインはノモンハンなんだけど、ホカも面白いです。個人的には無人島に1泊しかできなかったのが好きです。その理由が笑える。
    同行カメラマンは朝日堂でもおなじみのエイゾーさんです。身体はタフなように見えて、精神的に弱いという。メキシコではタフな人だなと思ったけど、無人島とラスベガスのカジノでは悲しいところを見せてくれます。

  • 村上春樹の旅行記。世界、国内に旅した記録。入院中に気晴らしになるかと思い、読了。
    まぁ、旅行記。ノモンハンの草原で、戦争のことを思い出したり、香川のうどん屋をめぐったり、アカプルコの飛び込みを眺めたり、瀬戸内海の無人島で虫に追い回されたり、メキシコのバスのBGMに苦悩したり、どこでもビールを呑んでいたり。

    ただ、のんびりとしているようで、旅行記を書くにあたりただの感想ではなく、人に伝える難しさが書かれているあとがきは秀逸でした。

    --------------------
    こんなことがあったんだよ、こんなところにも行ったんだよ、と誰かに話しても自分がほんとうにそこで感じたことを、その感情的な水位の違いみたいなものをありありと、人に伝えるのは至難の技。それをなんとかやるのがプロ。

  • さぬきうどん屋めぐりの参考に。
    なかむらやさんは死ぬ前に一度は行ってみたいものです。

  • 世界各地を旅した文章を集める。無人島でのキャンプや香川でのうどんの食べ歩きはユーモアが漂い、メキシコや中国、モンゴル国境、アメリカ横断などの文章にはいつものニヒリスティックをかなぐり捨てて、戸惑いながらも異文化と接触を試る生の著者の姿が。

  • あまり声を大にして言えないのですが…。村上春樹は小説よりこういう旅行記のほうが好き。

  • 2011.11.19 開始
    2011.12.18 読了

    村上春樹の紀行集。
    いろんな時期、いろんな場所、いろんな考え。
    ひとつひとつそれぞれがそれぞれの色。

    ノモンハンに関するエッセイがいちばんグッときた。

  • 村上さんの小説はどうにも楽しみ方がわからないのだけど、これは面白い。
    山口県の無人島。無人島体験は誰もが(?)心ひかれることだけれど、そんな優雅なものでもないらしい。怪我をしても助けてくれる人はいないし、海にはくらげ、夜には虫がぞわぞわ出てきて、浜辺を埋め尽くすとか。そのあたりの敗北をかっこつけるでなく、笑い話にするでなく、あーだめでしたーという調子で書くあたりに等身大の人間を感じる。
    「辺境」とか「秘境」がほぼなくなった時代の新しい旅行記。

  • 世界的なベストセラー作家の村上春樹が、1990年から1997年にかけて体験した旅行記だ。雑誌やカード会社の会報誌など、発表媒体はさまざまで、訪れる場所もメキシコのバックパック旅行あり、香川の讃岐うどん巡礼ありとなんでもありだ。
    もう当時には、村上春樹は作家としてかなり著名だったと思うのだけれど、そのわりには身軽でフラットでてらいのない旅をしていることに驚く。
    メキシコでは現地人とオンボロバスに揺られ、中国でも「便所」と呼ばれる劣悪な環境の列車に乗って旅をする。
    彼の視点はひどく冷静で、旅に対して過度な熱はなく、読んでいてすっと気持ちに入ってくる。そのくせ、何度か戻って読み返さないと意味を理解できない深い思考がこぼれたりもする。
    あとがきで、彼自身が狙ってその視点を持って旅行記を書いたことを知り、頭のいい人だなと改めて感じた。
    ノモンハンを旅したくだりで、村上春樹が、遠くに行けば行くほど、発見するものは「自分自身」でしかなく、旅先で発見したものはすでに自分の一部であって、それは自分の「中で」待っていただけなのではないかということ、たとえそうであったとしてもその発見を忘れないことが自分にできることだ、というようなことを述べているのだけれど、ものすごく強く共感した。
    安易な「自分探し」の旅と、村上春樹の言っている自分の内部にあるものを発見する旅はまったく違う。
    旅には確かに、そういう部分がある、と思う。

  • 再読。初読2001

    うどんを食べに行くので。

  • メキシコのところがおもしろかった

  • うどんが食べたくなりました。

  • 村上さんを超久しぶりに読んで、ああ私はやっぱり村上春樹が好きだなあと思った。

  • ノモンハンの鉄の墓場

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

村上春樹の作品

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