ニッチを探して

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 330
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103622086

作品紹介・あらすじ

会社を辞めたい人、すべてを捨てて失踪したい人、居場所を探している人、必読! 大手銀行に勤務する藤原道長は、行内で背任の容疑をかけられ、妻と娘を残し失踪する。サラリーマン生活の離脱初日は優雅に鮨をつまみ高級ホテルへ、翌日からは下町の酒場、公園の炊き出し、路上、そして段ボールハウスへ――。所持金ゼロで生き延びるためのニッチ(適所)はどこにある? 東京をサバイバルする実践的サスペンス。

感想・レビュー・書評

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  • 家族から職場から、突然の失踪。中年銀行マン、藤原道長は会社のカネを着服し、にわかホームレスとなり、誰も知らない自分だけの居場所「ニッチ」を求めて東京都内を歩き回る。先住のホームレスから教えを受けたり、施されたり。オヤジ狩りにも遭い、痴呆症の美魔女から自宅に招待されたり。そんなこんなを繰り返し、彼は立派なホームレスへと成長する。

    しかし、「ニッチ」はなかなか見つからない。やがて、彼の着服金を追って、悪の組織が動き出す。

    小説という形式だが、これは都内ホームレスのHow To本だ。どこで時間をつぶせるのか、食事ができるのか、睡眠をとれるのか、具体名をあげて詳細に説明されている。おそらく、著者もプチホームレスを体験したのだろう。ものすごく具体的。屋根と壁が人間の安らぎの源なんて表現は体験しないとわかるまい。

    沢木耕太郎の「深夜特急」を読むと一人旅をしたくなるように、この本を読むと、無性に野宿をしたくなる。

  • 背任の容疑をかけられ、失踪した銀行員が、ホームレスの体験をしながら生き延び、最後は助かる設定だが、その間の心情の変化が興味深い。
    人間は自己の生きる力を大切にすべき。

  • 「21世紀版東京版ユリシーズ」と帯に書かれた作品。

    とある事情で逃走という名の放浪生活を余儀なくされた中年男の東京近郊ロードムービー。「ニッチ」=生物に適した生存の場所・条件、は多様である。しかし存外、人は家を持ち、仕事を持ち、家庭を持っていると日常=「自分のニッチ」以外のニッチには目が行かないものである。
    主人公道長は、放浪生活の中で東京近郊にもかくも多様な生命と日常が存在していることを知るのである。

     島田雅彦自体は、キザな二枚目、サヨク、独身貴族・・・みたいな鼻持ちならないイメージが強かったが、新書「酒道入門」を読んで完全にイメージが間違いであったことに気付いた。この作家は、世界や周縁的なもの、に対して愛着をもった眼差しを持っている。最近読んだ中では、開沼博さんの「漂白される社会」と共通点を感じる。
     多様なニッチにおける生の営みから、都市における現代社会の問題を独特の視点で切り取っている。学生時代にデビューし、その後数年感に渡り世界各国を放浪した島田さんならでは、だ。途中、漱石の則天去私ではないのかなと思うような境地も垣間見えていて、このへんは自分が5年10年した時にどんな心境になっているのかも気になり、再読は確定な小説となった。

  •  おもしろかったー!!高校生とか大学生の頃、伊坂幸太郎さんの作品を読んで最後の最後で小さくスカッとするあの感じ、久しぶりに思い出した気がする。読めば読むほど虜になっていく、島田さんよ。
     主人公は40代の銀行員。裏取引で悪い奴らに流れそうになっていた20億円余りを勝手に慈善団体に全額寄付し、バレると家族もろとも殺されかねないからと誰にも何も言わずたった一人で「離脱」する。ところでこの「離脱」というワードが本当に秀逸。罪を犯した人間が行方をくらますことを表現するなら「逃亡」とか「失踪」とか「潜伏」とかいろんな言い方があるのに、その中であえての「離脱」を選んだという島田さんのセンスがわたしはすごく好きです。「離脱」前に用意しておいた軍資金はすぐに底をつき、小銭をやりくりする日々を経て、最終的に一文なしのホームレスとして過酷な日々を送ることに。警察の目を盗んでインターネットで家族に秘密のメッセージを送ったり、先輩ホームレスに助けてもらったり、親父狩りに遭ったり、裕福な認知症の未亡人と謎の同居をしたり、娘の親友ですと言って近寄ってきた女にまんまと騙されたり。お金も身体も精神も常にギリギリの状態で、それでもなお彼は自分が信じた正義を貫く。
     作者の島田さんは昔から登山が趣味で、子どもの頃は仲の良い友達と延々と森を探索するのが好きだったそう。この主人公が一文無しになった後の徹底的なサバイバル術は、島田さんの実際の経験に裏打ちされたものなのかも。
     「離脱」直後とか、競馬やUFOキャッチャーのくだりとか、ただでさえ金欠なのにそのお金の使い方はないでしょと思いそうにもなったけれど、でもどんな極限状態にあってもそういう遊び心というか「抜け」みたいなものを自分に許したからこそ「離脱」を長く続けられたのかもと思う。なんかこれを読み込めばとりあえず自分にも数ヶ月くらいの「離脱」ならやってやれないことはないかも、という妙に前向きな気持ちになれる本だった。いや無理か。せめて自分が男だったらなぁ。

  • これを言ってしまってはお終いだとは思うが、銀行の不正が許せなかったなら
    内部告発などの順当な手段では駄目だったのだろうか。
    突然一家の大黒柱が疾走し、容疑者扱いで勤務先にも警察にも扱われ
    妻子は辛い立場に置かれるわけだが、
    張本人は高級ホテルに泊まったり風俗を利用したりと呑気に散財しており
    妻の立場を考えると倫理的にもどうかと思う。
    逃亡してホームレスになりながら切り抜けている割には緊迫感がなく、
    節約に努めたつもり、と言われても疑問。
    地の文も一人称ではないのにゲットなど言葉遣いに違和感があった。

  • 普段触れ合うことのない世界で面白い

  • 後半ちょっと伊坂幸太郎風かなと感じるところもあるが、やっぱり違うのが面白い。

  • いやはやいやはや…
    これはなかなかになかなかなおもしろさ!
    ミステリー?どうなんだ?
    紀行?それも違うかな?
    失踪してみたくなっちゃうじゃないか!
    これは困った…

  • おもしろかった。
    初めての島田雅彦作品!
    ストーリーは結構好みだったが、表現が面倒くさいことが度々あった。
    まぁ、好みの問題ですけど…

  • 話自体は面白いのです。
    ただ、いかんせん序盤で、妻子持ちの男性があっさりデリヘルを利用しちゃうシーンが、免疫力のない私にはショックでした。

    娘さんとの信頼感溢れるやりとりの中でも、つい、序盤のことが思い出されてしまい、主人公・道長を素直に応援しきれませんでした。

    物語全体からすれば、かなり瑣末なことなのですが。

    話自体は面白いです。

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著者プロフィール

作家

「2018年 『現代作家アーカイヴ3』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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