ソロモンの偽証 第III部 法廷

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 753
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  • Amazon.co.jp ・本 (722ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103750123

感想・レビュー・書評

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  • 小説なんだから、「あんな中学生いない」とか「学校裁判なんてリアリティがない」とかいうのはナンセンス。その世界に引き込んでくれさえすればいいんです。とはいうものの、あんな嘘っぱちの告発書をもとに裁判なんて、どう物語を展開して行くのだろうと思いましたが、さすが宮部さん!第三部では、それまでの登場人物の人間関係を描く中で示したどんな伏線も見事に回収。そして、最後の証人によって転落死した柏木卓也自身のグロテスクな一面が明らかになって行く終盤には、弁護人、神原和彦がこの裁判で明らかにしようとする本当の狙いが明らかになってきます。第一部、第二部と、長い長い助走ではありましたが、読み続けた甲斐がありました。全てが解き明かされた後も、最終弁論、評決に至る過程を丁寧に描き、長い余韻を楽しませてくれます。さらには、10年後のエピローグまで。宮部ワールドを久しぶりに堪能できる大作でした。

  • 面白かった。それは確かだ。昨日一気に読んでしまった。なのに…。どうしてこんなにモヤモヤした気持ちになるんだろう?

    これから読む人は以下はパスしてください。






    Ⅰ部Ⅱ部とわくわくしながら読んで、もう本当に楽しみにしていた。金曜は予定を入れないようにして、家事も早めに済ませ、準備万端整えていざ第Ⅲ部、読む前からこれほど入れ込んでいたことってあったかしら、というくらいの意気込みだったのだ。

    序盤はややまだるっこしい展開だが、どんどん事の成り行きに引き込まれていく。登場人物、殊に中学生達の人間像がそれぞれくっきりした輪郭でうかびあがってくるところなんかは、今さらながら宮部みゆきの独壇場だ。まるで映像を見ているかのようなあざやかさに感嘆する。

    その一方で。手に取る前からふくらんでいた期待が、中盤以降少しずつしぼんでいく。いやいや宮部さんのことだもの、きっと何かあるはず、と思い続けてとうとう最後まで読んでしまった。正直、え?という感じだった。

    だってだって、新刊案内には「驚天動地の完結編!」ってあるんだよ。読者の思いも寄らない真実がベールを脱ぐのかと思うじゃないですか。蓋を開けてみると、そういうものはないのだった。最後の証人があの少年であろうということはほぼ想像できたし、「真相」にも驚きはない。帯の惹句「もしかしたら、この裁判は最初から全て、仕組まれていた?」もピントはずれに思える。

    そうなのだ。本書の読みどころはミステリとしての意外性なんかじゃないのに、そういう期待を煽られたことが不満なのだ。タイトルももうひとつしっくり来ない。どうしたって賢者があえて偽証をして正義を為す、という構図を思い浮かべてしまうんじゃないだろうか。でも、これはそういう話ではないよね。

    もちろん、本書自体に文句はない。宮部さんの最高傑作とは思わないけれど、読みごたえ十分で、繰り返しになるが、人物のリアリティにかけては並ぶものがないと思う。倉田まり子や向坂行夫のような中学生を書けるのはこの人だけだ。宣伝文句なんかに惑わされずに読めば良かったのだね。でも、紹介を読んでわくわくする気持ちも捨てがたい。うーん、難しい。

    • カレンさん
      >これから読む人は以下はパスしてください
      ガマンしきれずに読んじゃいました。
      宮部さんなので、読みたいなぁ、と思いつつ、あまりに今の世情...
      >これから読む人は以下はパスしてください
      ガマンしきれずに読んじゃいました。
      宮部さんなので、読みたいなぁ、と思いつつ、あまりに今の世情と重なり合うような見出しに躊躇していました。たまもひさんの感想、参考になりました。
      2012/10/13
    • たまもひさん
      とりとめのない感想を読んでくださってありがとうございます。

      宮部さん久々の現代物ですものねえ。期待するなというのが無理というもの。おも...
      とりとめのない感想を読んでくださってありがとうございます。

      宮部さん久々の現代物ですものねえ。期待するなというのが無理というもの。おもしろくって当たり前、度肝を抜いてくれなくちゃ満足できないよ~という実に困った読者のサガであります。でも本当に良い作品だと思いました。

      2012/10/13
  • クリスマスイブに起こった男子生徒の落下事故をきっかけにして起こる、それぞれさまざまな立場の生徒たち、大人たちの人間模様とさまざまな波紋、事件。そのすべての大小さまざまな「余波」は、「裁判」というかたちでもって、事件のすべてを白日にさらす。ひとりひとりへ寄り添うように描いた丹念な描写でもって、けして派手ではない物語をじっくりと飽きさせずに読ませます。
    生徒の死亡事件というのはひとつのきっかけに過ぎなかったはずが、いろんな形で実は様々な人びとに杭のようなものを穿っていたのだ、とだんだんと思い知らされていきます。胸苦しくなるような三巻目の応酬には、勝者も敗者もなく、陪審員たちの下した「判決」の途方もない無力さが空虚にも感じる読後感を残します。
    けれどその空虚さは、裁判にかかわった生徒たちがすべてを出し尽くした、やりつくした末の結果であって、まったく無駄ではなかったことは確かでした。その真摯な「裁判ですべてを明らかにする」という想いの結実が、とても胸に残りました。彼らは長い闘いの末に、みな、自らを救い、成長させていったのだな、と思えたのでした。

  • 2015.10.6

    柏木君は 結局 人の価値も自分が決めようとした。
    自分の人生に人を巻き込んで蔑んで 何様だ。
    最近の事件も似たような事なんだろうな…いつの時代にもいるから逆に気付いて欲しい
    自分には価値が無い=自分は特別=だから何してもいい(自殺幇助の強制)
    本当にそーゆー考えはいつの時代にもあるから!そしてなんとなく過ぎて大人になるから!
    その価値が何か を人生のテーマにすればいい
    本当に失敗したら死ねばいい(人様に迷惑かけないように)

    私がそうして現在も生き続けてる。

    そんな事を考えた ソロモンの偽証。

  • 全三巻、総ページ2,000ページ超。それでもスラスラ読める。
    宮部さん特有の微に入り細に入りの表現。それを飽きずに読ませる筆力は相変わらず。
    ちょうど今、映画が公開されているが、文章とはどんなに違うのだろう?というか大半が法廷なのに映画として成り立つんだろうか?などの疑問を感じる。でも、映画は映画、小説とはまったく違う物だからね。
    小説だから許してしまうが、こんな大人な中学生っている?高校生、いや大学生だってここまで本格的な検事役や弁護士役なんてできるなんて思えない。
    ま、面白ければいいんだけどね。

  • ふぅ、完結!。一人の少年が求めた悲劇の虚像、、代償の産物連鎖と真実の謎を解いていく主軸。各キャスト毎、人物造形が細かく多彩で深い、、その上"ふっくら"♪。奇想な舞台設定と相当な頁数に、じっくりと時間をかけるだけの価値ある面白さの一作。

  • 心の内を言葉に表すのは難しい。
    自分でも、なんだかちょっとこのニュアンスじゃないんだけどな、とすっきりしないこともある。語彙の少なさ、表現への熱意の足りなさ。
    しかし、この本の中学生たちのなんと熱いこと。(ちょっとすごすぎる。高校生ならうなずけるけど、今は中学生でもこんなにしっかりしているものなのか)
    言葉が、聞く人にまっすぐ伝わりますようにとの願いがエネルギーとなって放たれている。

    そしていつもながら後味の悪くない終わり方に、心からほっとする。野田君、よく頑張ったね。神原君、大出君の弁護引き受けてくれてありがとう。藤野さん、損な役回りと分かっていて全力投球かっこいいです。ひとりひとりに心からねぎらいの言葉をかけたい。

  • この作品は、一冊に付き700頁超の大作でしかもⅢ部作ときたら、いかに本屋大賞のノミネート作品だとしても高価過ぎるのではないかと思いますが、作品の内容の濃さを深さについては、宮部みゆきの代表作に相応しいと思っています。
    中学生が主人公ですが、裁判としては重すぎる「殺人事件か否か」という題材は、子どもの域を超えており、勿論大人が書いた裁判模様は迫力満点であります。一気に読んでしまいたい衝動にかられながら、睡眠時間を削るわけにもいかず小分けに読みましたが、すっかり深入りしてしまいました。本屋さんが売りたい作品の一作品に上げる意味(エンターテイメント性)については申し分がありません。
    第Ⅲ部 法廷にこそ、この小説で作家さんの訴えの本質が窺えるが、第Ⅰ部から読まないと、その伏線が解らないでしょうね。(当たり前ですが・・・。) 楽しめました。

  • 3部作の終了。1、2部の時点で、大体の展開は読める。が、それでも登場人物の心の動きを追って行くのが面白い。宮部ものの真骨頂かなと思う。
    最後の、それから僕たちは友だちになれた、という言葉に救われる。

    1部の時点では、学校の隠蔽体質を糾弾する話になるかと思ったけど、そのトーンは早々に消えてなくなった。花火師の話もおどろおどろしく出てきた割に、脇役だった。結局は柏木と神原、告発人の女生徒の話がメイン。
    個人的には、柏木はもっと悪いヤツだったら映えたろうにと思わんでもない。ピースみたく。きっと後味悪い話になったろうけれど。
    涼子はずっと狂言回しの役だった。休廷日に、野田、神原と打合せた時に、誰の何に想いして泣いたのだろう?
    野田が教師になったのは、何か思うところがあったのだろうか?
    色々と余白があっていい読み終わり感だ。

  • 真実に向き合うことは勇気がいる。真実は、相手と刺し違え、自分と向き合うことがないと得られない。第三部では、主人公の女子が中学生であることを忘れてしまうくらいに裁判で真実が解きほぐされる様子が素晴らしかった。
    子供は天使ではなく、悪魔である。利己的で妄想に塗れ、簡単に他者を傷付ける。思春期の自分を思い出してもそういう危うい生き物だった。この小説は、その思春期の様々な子供達を一人ひとり見事に描いていて飽きずに読了した。
    これでもかこれでもかと思わせぶりな前振りのまどろっこしい文体にイラっとするとはいえ、最初からプロットがしっかりしているから、文体のムラがなく、途中結果が見えても、結果を導く過程が面白く、最後までグイグイ読ませられた。

著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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