- Amazon.co.jp ・本 (399ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103750147
作品紹介・あらすじ
小説史に類を見ない、息を呑む大仕掛け。そこまでやるか、ミヤベ魔術! それは亡者たちの声? それとも心の扉が軋む音? 正体不明の悪意が怪しい囁きと化して、かけがえのない人々を蝕み始めていた。目鼻を持たぬ仮面に怯え続ける青年は、恐怖の果てにひとりの少年をつくった。悪が幾重にも憑依した一族の救世主に、この少年はなりうるのか――。21世紀最強のサイコ&ミステリー、ここに降臨!
感想・レビュー・書評
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徳川六代将軍の頃。
北見藩では、青年藩主・重興が、突然隠居を強いられ、主君押込にあい、座敷牢に閉じ込められた。
時に、重興は、違う人格になると言う。
元江戸家老・石部織部
各務多紀
多紀の従兄弟田島半十郎
らが、その謎を解き明かすために、奔走するが、
16年前の凶事の封印は解けるのか?
最終章まで読んで、題名の意味がわかった。
面白くて、ページを捲る手が止まらなかった。
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下野北見藩の北見重興は、主君押し込みにあい隠居させられる。各務多紀は、とある事情から重興に仕えることになる。主君押し込みの背景にあるものとは。
上下巻2冊もテンポよく謎が解き明かされていき、どんどん読み進められた。
とある事情から、人が変わったような態度になる重興。話を聞き関係を深めていくことで、解決していこうとする五香院の人々の描写がよい。それぞれの心情が伝わってくる。
好きなのは、次のように会話の間などにサッと情景を入れるところだ。美しい情景描写が、緊張感や静粛さを表している。
「大殿は、我らが名君であらせられた」
城南の一番筋にある石野家の屋敷の奥、坪庭に面した一間。雪見障子には秋の陽がさしかけているが、物音ひとつしない。
言ってしまえば現代の問題を時代を変えて取り上げているのだが、時代小説としてのおもしろさの中で書き込まれていくのはどうやはりすごいと思う。
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なるほどそうきたか!
父成興も狭間の桐葉を側女に置き、陰廻と狭間の一本化を図ろうとしていたのが、思うがままに桐葉に操られていたのだった
重興は悪霊に取り憑かれていたのではなく、自分の意思とは無関係に病むことによって、多くの男児が自分を苛めるために多くの生贄とされた過去の事件を告発していたのだった
何はともあれ、名君として家臣や領民から尊敬され慕われていた成興に稚児好みの性癖がなくてよかった
桐葉の呪の力が、蘭学かじりの青二才の医師の施術や多紀のような無力な女子の愛情になどに負けるわけがないと高を括っていたわけだが、見事その予想を覆した
重興が回復するにつれ、五香苑が明るさを取り戻していく様子、重興と多紀が夫婦となり、地域の人々のために防雷対策を研究していく様子は、それまでのおどろおどろしい展開とは打って変わるハッピーエンディングとなった
ハッピーエンディングと知った週刊誌の連載担当者や文芸担当者が「ええーっ」とのけぞったという
それほど宮部作品でハッピーエンディングは珍しいことなのか
成興・重興父子と対照的に描かれた石野織部・直治郎父子の深い信頼と尊敬の上に成り立った父子の描写が清々しく、大好きだった
「もともと織部も直治郎も、小才ある利け者とは違う。些事であれ大事であれ、人と人との関わりが生み出す軋みに、決してあせらず、短気を起こさず、寛容を持って地道に解決策を探し、愚直で勤勉であることが身上の似た者父子・・・」
宮部みゆきデビュー30周年記念作品「この世の春」さすがでした
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下巻は正に「解決編」だった(以下、ネタバレの中枢には言及していないけど、そこから波及する結果には言及しています)。
謎は大まかなところでは解けた。もっと、藩の中枢の政治的な歪みが、事件を起こしたのかと思っていたが、政治というよりも、やはり人の心の中の欲望、恨みなどが発動したのだ。相手が権力の中枢にいるだけに、慎重に慎重に行われ、その周辺の庶民に対しては、もっと簡単に殺されたり、隠微されたりしていたことが分かった。そういう意味では何時もの宮部みゆきなのだ。
しかし、謎は100%解かれたわけではない。「真の黒幕」(386p)は、未だ影さえ現してはいないように思える。しかし石野織部は「内訌が露わになれば、北見藩の存亡にも関わりかねぬ」とここで打ち切りを宣言する。若い政治家栗木も「獅子身中の虫を殺そうとして、獅子そのものを殺してしまう羽目」は避けるべきだと同意する。不満だが、下級武士に過ぎない半十郎も「堪忍します」と同意する。(387p)思うに、現代政治家に通じる「ずるい部分」である。宮部みゆきは、そのことにはあまり嫌悪を表さない。ただ、重興は出土村で新居を構えるだろう。その時、多紀を含めた新たな事件が、過去を蒸し返さないとは限らない。もちろん、それは新たな一編が必要になる。御霊繰の術は絶えてはいない。今回は医学的にはとても科学的に物語が進んだが、宮部みゆきの時代ものらしく、そこの謎も、総ては明らかにしていないのである。蓋し、エンタメの常道であろう。
2019年2月読了 -
上巻が終わって期待が大きくなりすぎただけに、下巻が今一つと感じてしまった。
いや、天下の宮部先生だからって期待を膨らませすぎてしまったかもしれない(^_^;)
多分普通なら★×4くらいの評価以上だろう(*^^*)
流石の表現力、文章力、語彙力!
圧倒される。
この手の多重人格、どこかで読んだ気がしたが思い出せず(^_^;)
最後は後味もよく、いい感じに纏まって◎(*^^*) -
上巻で原因の判らなかった重興の乱心は多重人格からであると確定し、その病に白田医師や多紀達と共に立ち向かう展開になる。過去のおぞましい記憶を掘り起こす辛い治療。始めは父親が原因と単純に収まるか、と思いきや様々な事件の真相がどんどん絡まって別々の方向から一つの流れに収束していく展開は無駄がなく流石。その時の最善を尽くしたのに悲しい結果になってしまったり単なるハッピーエンドではないからこそ、それでも未来を見つめ、考え続ける姿勢が光る。ただ最後の落とし処は安定の展開だけど安定し過ぎかなぁ。
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上巻はわくわく感いっぱいだったが、下巻はなぞがとけていくのに、あまり引き込まれなかった。
上下巻ではなくてもよかったんじゃないかな。 -
前半のワクワク感から期待値が高すぎたのか
だんだんと真実が見えてくると
案外肩透かしというか
うーん、あんまり盛り上がりに欠けたかな~
もっと意外性が欲しかったかな。
でも、お鈴や金一がとても
いい子たちで癒された。 -
久しぶりに読んだ時代物。
面白かった♪
心理学の基礎を勉強したことがあって、多重人格の症状とか治療法とかを知っていたからこそより深く楽しめたかなと思います。
面白いけど登場人物の誰にも共感できないなぁという本もありますが、今回は久しぶりにかなり感情移入して読みました。
重興と多紀の未来が幸せであることを思わず願ってしまいます。
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全体的にとてもやさしいおはなし。
御霊繰とか面の呪術とかの怪異要素と、父に苛まれた結果の乱心や神隠しされた少年たちの末路など人為的な恐怖が主立って描かれていているのだけど。
自我を失うほどの恥を恐怖を押し込めてきた重興と、嫁ぎ先で姑の仕打ちによる傷の癒えない多紀。
このふたりが、痛みを知るからこそ他人を思い遣れるとてもやさしい心根をしている。
そういう簡単なようで意外と難しいことが出来る人たちが、五香苑に集ってくる。
狭間の父娘が死んで一件落着とはならない執念深い真相がありそうだけど、重興の心が救われて父成興の名誉も回復し、多紀の思いも報われて五香苑に春がきて、この先何度も四季が巡って春を迎えるんだろうなって思える最後でよかった。
しいていえば登場人物が多くて散漫な印象はあるし、そういえばあの人どうしてるのかな?ってなるけど。
医師の白田先生は仕方ないが、まるでアピールできてない半十郎がとてもかわいい。 -
「この世の春上下」のところにレビューしている
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読み応えたっぷり、続きが気になって気になって、一気読みした。
現代にも通ずる多重人格、幼児虐待、殺人を何とも思わないサイコパス。
設定を江戸時代に置くことでより謎や不思議が深まり、久しぶりの宮部ワールドを堪能した。
主従関係も温かく、イヤミスじゃないところがすごくいい。
ボロボロに傷ついた繁興が医師と付き添う人々によって少しずつ自分を取り戻し、明るくなっていく様子は清々しい。
ハッピーエンドなのも良かった。 -
面白い、読みやすい、美しい、温かい、と言ったところか。残酷なストーリーではあるけれど、それだけにならないのは全ての人が誰かを常に想っているから。
最後の最後、由衣と多紀のシーンでは涙を拭いながら読んだほど、ストーリーに入り込んでいた。
素晴らしい。
五香苑チーム解散は惜しいけど、みんなに幸あれ。 -
主な登場人物が5人を超えると混乱してしまう私も、個々の人物が細かく深く描かれているからか、時々相関図を見る程度で読み切ることができました。
** この先、ネタバレあります。**
『模倣犯』を読んだ後は、読まなきゃ良かったと何年も苦しみ続けたので、今回もそうかも…と途中までは思いましたが、温かなエンディングでよかったです。
人それぞれに正義や理想がある。それが他の誰かのものと対立する時、犯罪は生まれてしまう。別れたい男(女)と、別れたくない女(男)とか。当事者でなくても巻き添えを喰うこともある。男の子たちがそうだったように。どこに悪意が落ちているか分からない世の中だけど、穏やかな春を願う人もたくさんいるのだと慰められるところもありました。振れ幅の大きな物語でした。 -
一気読み。
事件がどんどん展開していく、キャラが動いていく。
「自分のなかに封じ込められたものを解き放つ」というのはこのところの宮部さんのテーマなのかなぁ。
「虐待」そして「心理的な圧迫」なんとも現代的なテーマの話であった。
最後が時代劇よろしく大団円だったのがよかった。 -
少しずつ少しずつ明らかになっていく過去に閉ざされた忌まわしい出来事,それが小気味良いぐらいピタリピタリと人々の心を照らし,囚われた心を解き放っていく.北見藩の中に恐らくは居場所を見つけて暮らしていけるであろう重興と多紀の未来を明るく照らして,見事な幕引き.さすがの宮部みゆき氏です.爺こと石野織部,いとこの半十郎など全ての登場人物がそれぞれの性格を生き生きと表現して,愛すべき人たちに囲まれた物語でした.
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重興の身に何があったのか、少しずつ分かってきたところで
下巻は先が気になり一気読み。
宮部みゆきさんの時代小説を存分に堪能できる作品だった。 -
上巻の勢いが失速した感じが否めない。時代劇とオカルト要素はものすごく相性がよくて、宮部みゆきの筆致力と合わさり、非常に魅力的な展開だっただけに、多重人格、男色と些か生臭い方向へ流れていってしまったことが残念。呪詛までは良かったが、御霊繰をもっと絡めて欲しかった。個人的な好みですが。どこか桜ほうさらをなぞるようなさわやか展開が目立ったが、それは本当に最後だけでよかったなー。まあそれでも夢中になって最後まで読めましたが。
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宮部みゆきさんの時代物。上巻はゆっくり。下巻に入ってからのスピード感が宮部さんらしくて、惹き込まれる。面白かったです。
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2023.10.19 読了
ほとんど 何書いてもネタバレになりそうなので
書けませんが、
とりあえず ハッピーエンドで 良かった!
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宮部みゆき作家生活30周年記念本……らしいけど。正直にいうと、とっ散らかっている印象を受ける。
宮部さんの描くキャラはすごく好きで、今作でも魅力的なキャラクターが多くてぐいぐい引きこまれるんだけど……なんだろ?謎が多すぎた?で、その謎が小出しに出ては小出しに解決、みたいな感じでなんか読みながら「(この子たちは)今は何をしてるんだっけ?」ってなる。
ラストも少しもやもやするし。なんだろうなぁ……上巻が面白かっただけに残念。 -
こどもが巻き込まれる事件はいつの世も辛いなと思いました。
たきが幸せになれたようでよかった… -
桐葉と五郎助をたきつけた黒幕は謎のまま。でも、その者も藩を潰したい訳ではないから捨ておく、という決断なんでしょうね。
その黒幕がこの先大人しくしているのか、重興の前に現れることはないのか不安はありますが、多紀や石野様といった真の味方が傍にいるから大丈夫かな。
呪の贄にされた子たちや琴音が生まれた訳など辛い話がある反面、半十郎のおおらかさや金一の明るさにホっとしました。