土の記(下)

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著者 : 高村薫
  • 新潮社 (2016年11月25日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103784104

土の記(下)の感想・レビュー・書評

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  • まさに人生。寂寞とした読後感。

  • 相変わらず伊佐夫はお天気を気にしながら農業にいそしんでいる。昔からのやり方にこだわらず、試行錯誤で新しいやり方も取り入れ、妻の妹に言わせるとさながら理科の実験のような農業。近隣の人たちも冷やかし半分で見守っている。

    その間にも、村では訳アリの出戻りが双子を生んだり、伊佐夫の実家の兄や、妻の妹の連れ合いが死んだり、にわか思い付きで自分と妻の墓石を作ったり、いつの間にかトイプードルとナマズの花子という新しい家族も増えている。
    伊佐夫には一人娘がいて(またしても女でしかも家を出て行き後継者にはならない)離婚の果て一人娘(またしても・・・)とともにニューヨークに暮らす。
    その孫娘と過ごす2週間や、娘が再婚相手を伴い帰郷した際の村をあげての歓迎会など、こうしてみると結構変化に富んだ日常を送っている。
    またその背景で東日本大震災がおこり、何百キロも離れた地
    に思いをはせ、心ざわつかせる。
    天気を気にかけ、茶畑を見回り、稲作に試行錯誤し、だんだん老いていきその生涯を終えるのかと思うと、最後は台風により未曽有の被害がでて、伊佐夫の村にも被害者が出た、と話が終わる。
    つまるところ、東日本大震災であれ(原発事故は別として)台風であれ、大自然の前では人間は何とも致し方がない、ということか。大自然と向き合うことの厳しさを思い知らされる。

  • 奈良の農村の老人の物語の下巻。

    妻の1周期も終えても主人公の人生にかかわる大きな事件はないものの、周辺では殺人事件などの事件は起こっているが、主人公の記憶が混濁したり喪失したりするボケに向かう表現が凄まじいです。
    一方、育苗から取り組む稲作の詳細な記述も鬼気迫るものがありました。東日本大震災が発生するので時期の特定ができたことで、8月の不穏な描写から、最後のページの台風12号で決着するのは茫然自失になりました。
    結局は時間と自然の中での人間の営みはミクロでは大変であるけれどもマクロでは有象無象の一つということなのでしょうか。

  • 棚田で農作業を営む老人の孤独で単調な肉体運動がゆえか、脈絡もなくあっちからこっちへと浮かんでは散逸する物思いと、彼をとりまく自然の圧。人が黙々と土に向かい、長雨に打たれるままにいると、やがて自然と同化していき、人間の意識はとりとめのない物思いに支配される。そんな状態の人の独白で物語をつむぐという試みは、その物思いと四季の村の自然のしつこいくらいの執着で描かれる描写だからこそ成立したのだろう。まさに高村薫の真骨頂。

  • 最後まで、ただひたすらに、土の記。少し呆けてきた老人の、農作業の日々。上巻同様に過去の思い出と現在の農作業で老人の意識はいったりきたりしているが、下巻はその現在部分が頼りなくなっている。昨日会った人のことを忘れ、娘の再婚を忘れ、…。小説の主人公ではない、普通の人の人生を辿った気分。読書経験値が上がった気がします。

  • 作り手の慈しみに支えられて,稲の育っていく様子が伝わってきます.鯰の花子,トイプードルのもも,茶畑やカエルや鳥たち,大宇陀の山ふもとの村に生きる生命全てが日常の中で息づいて,また,伊佐夫の頭の中の行ったり戻ったりする思考や彼を取り巻く人々の交流,とりわけ16年前に起こった妻の交通事故の顛末などが,脈略なく述べられて,こんなふうに生きていくのだなあとしみじみ感じた.そしての台風.人生です.

  • 最後が衝撃だった

  • 奈良が舞台なので、河瀨直美監督で映画を製作したら良い作品ができそうだなと思いながら読み進めたのですが、最後の数行で映画は無理だと感じました。まさかこんな結末を迎えようとは。なるほど、最後にきて、土留め柵やコンクリート擁壁や法枠工、さらには急傾斜地崩壊危険箇所などの言葉が結末を暗示していたのですね。それはそうと、伊佐夫の回想であったり、地の文が割り込んできたり、時制が行ったり来たりしたり。高村女史の文体は健在でしたが、作風は初期の頃とはまったく変わってしまいました。定年後は、このような暮らしもありかな。

  • 稲刈りも終わった12月。
    自分で夫婦石を作ったり実家の兄が亡くなったりしているうちに、3・11。海外にいる家族へ伝わった映像の凄まじさを、陽子のヒステリックな口調から窺われる。
    ちょいちょい回想される娘時代のエキセントリックな陽子像に親近感を感じるのは気のせいか?w
    そんな陽子の正反対の男と再婚し、娘の彩子とも意気投合したようで、昭代の事故の真相は匂わせで終わる気配。ヤレヤレと肩の荷も降りたと思ったら、未曾有の台風。え、このラストって、まさかまさか⁈

  • 読了後の最初の感想は「最期が儚過ぎ(平穏に幕が閉まると予想)」だったが、本を閉じて表題を見直した瞬間、これこそがまさに『土(自然)と、それに対峙する人間の記』だったことに気付かされた。学生時代は土に遊び、定年後は土に学び、そして最期は土に還る伊佐夫。自身の老化や妻や身内の死、殺人事件や自然災害など摂理的な事象は淡々と書き進める一方で、家族との確執や村社会の柵などは結構キツい話でも時にユーモラスに描いているのが逆に小気味良かった。最期の伊佐夫と久代の同居生活は、二人にとって最も平穏で幸福な時間だったのかな…

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土の記(下)の作品紹介

ラスト数瞬に茫然、愕然、絶叫! 現代人は無事、土に還れたのだろうか――。青葉アルコールと青葉アルデヒド、テルペン系化合物の混じった稲の匂いで鼻腔が膨らむ。一流メーカー勤務に見切をつけ妻の里に身を落着けた男は、今年の光合成の成果を測っていた。妻の不貞と死の謎、村人への違和感を飼い馴らす日々。その果てに、土になろうとした男を大異変が襲う。それでもこれを天命と呼ぶべきなのか……。

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