ちょうちんそで

著者 :
  • 新潮社
3.18
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本棚登録 : 1499
感想 : 224
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103808107

作品紹介・あらすじ

取り戻そうと思えば、いつでも取り返せる――闇の扉を開く新しい長編。いい匂い。あの街の夕方の匂い――人生の黄昏時を迎え、一人で暮らす雛子の元を訪れる様々な人々。息子たちと幸福な家族、怪しげな隣室の男と友人たち、そして誰よりも言葉を交わすある大切な人。人々の秘密が解かれる時、雛子の謎も解かれてゆく。人と人との関わりの不思議さ、切なさと歓びを芳しく描き上げる長編。記憶と愛を巡る物語。

感想・レビュー・書評

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  • なんだろう、この感じ。
    せっかく江国さんの本を読んだのに満足感が全くない。
    いつもだったら江国さんの独特の言い回しにうっとりしたり、女性たちの内に秘める強さに共感したりするのだが。
    ダメだった、今回に限っては。

    主人公の雛子は50代の若さにして老人専用の豪華マンションに住んでいる。どうやら過去には色々あったらしい。
    でもどうなんだ、架空の妹の飴子が話し相手って。
    それに小人を見た事があるらしい。
    江国さんも「いっちゃってる」と形容詞を使う位だから、常軌を逸してる存在として描いているのは間違いないけれど。
    過去の恋に囚われて現実逃避している弱い人間にしか思えなかった。

    江国さんならもっとふわふわとした恋を描いた作品を読みたい。
    中にはドキッとされるような今までにない記述もあってびっくりするけれど、そんなの正直いならかった。
    それとも、ちょっと江国さんの作品に飽きてきたのかな。
    うーん、ごめんなさい。
    しばらく離れてみようかな・・・。

  • 「ちょうちんそで」ってわかりますか?これに袖を通すのは女の子(と、呼ばれた時代、女性なら一度は袖を通したことのある、あの可愛らしい雪洞のような袖)の特権ですね。江國さんの最新本、この素敵な表紙だけでも満足(笑) 高齢者用マンションに1人で暮らしている雛子(まだ若いのに)には、若い頃の姿のままの架空の妹・飴子がいて、2人は思い出を語り合いながら、ひっそりと暮らしています・・そこに絡んでくるマンションの住人(老夫婦やら、隣人の世話好きご夫妻やら)次々と場面がかわり、一見違う話が展開されていくのですが、実はみな、密接にかかわっている人たち。大きな事件も何もおきませんが、どことなくひっかかって生きている人たち。読者が最後にようやくおぼろげにも全体像が見えてきた時に、ロウソクの火がさっと消されるが如く、物語はTHE ENDに。 記憶と愛をめぐる、とても不思議で繊細なおはなしです。

  • 久々の江國さん作品のため、もうお話そっちのけで言葉に顔を埋めた読書だった。

    “最後の恋人”と離れてから、雛子は老人が余生を不自由なく送れるマンションに住んでいる。そこでは30手前で失踪した(当時の目的は駆け落ちだったし、雛子も母もその事実を知っていた)妹(幻ではなく、雛子の意識的な“架空”の)とお茶をしたりお風呂に入ったり、ピアノを弾いたり、音楽に合わせて体を揺らしてみたりしている。そんな雛子を気にかけちょくちょく訪ねてくる隣のタンノ氏はその昔に犯した事実がために現実を自分と切り離し、いつでも優しげで悲しそうだ。タンノ氏の妻は上の階の自分たちより大分年上の岸田徳子と愛犬仲間として、そして老いた婦人のために世話を焼いたりする、なんてことのない約束を守りながら誰もが自分の信じるなんてことのない正しさを守ってくれたらと、実は切実に願っている(ように見える)。雛子の子供である正直は生まれて一年経たない娘と美しすぎる妻に母への持て余し続けた愛までも注ぎ、そして尚、女といういつか愛に生きる生き物を恐れている。一人目の夫の息子であり、二人目の父のもとですぐにできた弟と途中まで愛されて育ってきた正直は、まだ子供の弟・誠と自分、そして自分も我が子として育ててくれて父親を裏切って出て行った母・雛子を許せずに、それにすら罪悪感を覚えている(ように感じた)。誠はいなくなった母が数年後アル中で体をぼろぼろにして病院に運ばれ再開した時の落胆を抱えながらも、そんな女という生き物を愛している。次男の自由さ。母と時々面会しながら、可愛い彼女に愛されている。そして、雛子の最愛の妹は。

    この書き方の物語をいくつか江國さんは書いているけれど、年齢と、深度が今までと全く違うものである気がする。小石の少ない踏み固められた道をするする進んでいると、突然音も飲み込む落とし穴に落ちてしまう。でもそれは一瞬の夢のようにすぐに私を掃出し、もとの平坦に戻してしまう。そうすると私はほっとしながらも、次の落とし穴を心待ちにしてしまう、そんな読書だった。

  • 最初はばらばらに見えた人々のつながりが、徐々に明らかになっていく。
    それぞれの切り取り方、描き方が、筆者らしい。
    特に、空想の妹と暮らす、雛子の世界が独特。
    穏やかな現在と、苛烈な過去のバランスが、面白い。
    はっきり何かが動くわけではないが、不思議な味わいがある。

  • とても久しぶりの読書。


    私には妹がいて、主人公の姉妹のようにとても仲が良いので、かなり感情移入して読んでしまった。
    本当は主人公雛子をとりまく人間たちの主観で語られる物語も興味深く味わいたかったけど、あまりにも雛子と架空の妹が思い出話を語る時間が濃厚で-そちらのが生き生きとリアルで-現実の出来事のが絵空事のように感じてしまうほどだった。(とくに、悠々自適に暮らす老人向けマンションの住人の暮らしぶりは、なに不自由ないはずなのに、おもしろみを感じなかった)その書き分けというか、温度差が、江國さんの文章のうまさだとも感じた。
    私にも、他人とは分かつことのできない、妹とだけ話せるたくさんの思い出がある。今、妹がいるからなにげなく話していられるけども、もし彼女が行方不明になってしまったりしたら、雛子と同じようになってしまいそうな気さえした。
    架空と自分で分かりながら、そこには実在しない妹と会話する雛子は決して狂ってはおらず、妹の会話や思い出もすべて自分でつくりあげているのかと思うと、それはとてもさみしかった。
    途中に出てくる小人の話は、いるかいないかわからないもの、架空と現実のあやふやさをあらわしているメタファーなのかなと思ったり…。
    現実をほとんど排除して生きる雛子が、なぜか一番現実帯びて感じられる不思議な物語でした。

    江國さんの作品を読むたびに、女性はいくつになってもかなしいほどに少女のままだと痛感してしまう。

  • この装丁の美しさ、儚さ。手にとった瞬間から江國さんの紡ぐ物語に、世界に浸れる。そして一行、たった一行読むだけで、ああ、と思わず唸りたくなる、それほどこの作品は江國香織ファンには嬉しい江國香織ワールド炸裂だ。
    まずその一行、架空の妹、とあり、二行目には、ミルク紅茶にビスケットをひたす、とある。

    雛子は五十四歳。架空の妹は三十歳くらい、ときどき十七歳くらいにもみえる、だ。老人ばかりが暮らすマンションで架空の妹とおしゃべりしながら暮らす。たまに隣室の男がやってくるーー。

    すごく短く感じられる長編小説です。実際短いのだが。もうちょっと先が読みたかったな。雛子と、架空ではない現実の妹・飴子が決して交わらないこと。現実の飴子はカナダで姉のことを思い出してはくつくつと笑っていること。雛子が捨てた息子ふたりのこと。そのうちの上の子である正直と妻の絵里子のいざこざ。そしてラスト絵里子が雛子に会いにくるところが見たかった。けど、それらを知らないからこの物語はふわふわと完成していて、それは本当に見事な完成度の高さ。
    物語も人生もすべてがすとんとそこに収まるものばかりではないし、鮮明にすべきものではないのだから。

  • スーパーマーケットの床が雨でぬれていること。
    ぼんやりした味のいちじく、それを買ったお釣りの硬貨は50円玉と10円玉だったこと。
    ビスケットのチョイスをミルク紅茶にひたして食べることー。

    そんな、余分ともいえる細やかな描写ひとつひとつに、自分が透き通ってくるような思いを感じる、美しい作品。
    記憶とともに生きる雛子は、神様のボートの葉子のような美しい狂気とどこまでも静かな冷静さをもっている。
    初期の江國作品を愛してやまないけれど、この作品もきっとこれから何度も手に取って読み返すことになると思う。江國さんと同じ時代に生きていられたことを感謝したくなる。

  • え??読みやすくてすぐ読んでしまったけど途中でぶった斬られた感じ。感じとういうよりまさにぶった斬られた。

  • 自分の信じることしか受け入れられない人がいる。理想抜きで大事な人を受け止めるか、自分の理想を貫き通すのかどっちだろう。

    自分の行いに迷いがない人がいる。1本の芯があって強いけれど、それで傷つく人がいても曲げられない。

    周りを広く見渡して、最善の行動をする人がいる。器用に生きられない人がもどかしい。自分は相手を想っているのに、相手は自分を見てくれない。

    別の何かを拠り所にして、毎日を幸せに暮らす人がいる。ふらっと誰かが来ても気にしない。誰も傷つけないし、誰にも傷つけられない。

  • 架空の妹と暮らす女性の話。
    うん。こういう感覚分かるなあと思ってしまう自分がいる。私も架空の友達と暮らしてきたような気がする。
    まだ途中のようなところでぷっつり終わってしまって締まりなかった。

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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