- Amazon.co.jp ・本 (235ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103892090
作品紹介・あらすじ
思えば昔、長屋で仲良く遊んでいた、男の子二人、女の子二人、が、長じて男二人が女一人に惚れたのが運の尽き。「死ぬ気だったの?」、恨めしそうに見られても。なぜ俺は、このよく気がつく女に惚れなかったのだろう…。お江戸といえばこの人!森口慶次郎シリーズ、期待の第六弾。
感想・レビュー・書評
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〈慶次郎縁側日記〉シリーズ第六作。
「うでくらべ」
何の「うでくらべ」かと思えば万引きを競う話だった。子供のしたことだから…と許せる数ではない。しかもその言い分が酷い。
それを聞いた晃之助、雷を落とすのかと思えばさらに上の行動に。阿吽の呼吸で同じ行動をする辰吉もすっかり良いコンビ。現代ならコンプライアンスだのなんだのという話になるのだろうが、時代物だと逆に爽快。
「かえる」
武士のプライドを叩き込まれた男が、それゆえに食い詰めて人の財布に手を出してしまう。よくある話だが、盗んだ男が『(幸運の)蛙を撫で、禄を離れたすべての浪人が仕官出来ますようにと願ったなら』と考えるところに切実な事情が見えてくる。玄庵が当てた30両の富くじはどう使ったのか。それも気になる。
「夫婦」
自分を裏切った妻を刺し島送りになった男。刑期明けで江戸へ戻り、自分を裏切った元妻と自分を捕らえた元同心・慶次郎への恨みを晴らそうと考える。
しかし、二人を探すまでの足しにと押し込み強盗に入ろうとした家の夫婦に調子を狂わされていく。
あんなに頑なだった恨みというネガティブな感情がほどけていく瞬間を『口惜しくもあり、肩の荷がおりたような気分』と表現するのがニクイ。
「隅田川」
自分を見てくれない男の為に、強盗の片棒まで担いだ女。なのに男が見ているのは最後まで別の女だった。その別の女もまた苦しい状況だが意地を張る。そして顧みられない女もまた意地を見せる。
『いいんです。生身の人間ですもの、多分いつまでも一人の男を思っちゃいられない。十年もたちゃ、もっといいひとを見つけて幸せになっているかもしれません』
空元気だろうが片意地だろうがキリっと言える女が格好いい。
「親心」
連れ子同士の再婚、相手の子供が懐いてくれない、相手の男は子供への接し方が分からない。これでは上手く行くはずがない。誰も幸せになれないのではないかと多兵衛親分や島中賢吾同様不安になった。だが母親の心の内を賢吾が吐かせて上げればきちんと伝わったのは良かった。一人残った悪たれ坊主が心配だけど。
「一炊の夢」
『邯鄲の夢』のような双六人生が見えてしまった男。好きでもない女になぜ土下座しなければならないのか、嫌味な将来の舅になぜ大金を借りねばならないのか。嫌なら投げ出せば良いのにそれも出来ないのが人生。男の身勝手さにウンザリする部分があるのだが、慶次郎がひょっこり出てきて佐七とのやりとりを面白く話すことで救われる。
「双六」
このままでは野垂れ死にだ、いけないと分かっているのにやってしまう空巣や盗み。慶次郎がかつて見逃した盗みと、晃之助の嘘。それが空巣常習犯を改心させられたのなら、慶次郎に押し付けられた『厄介な問題』も慶次郎の財布から盗んだ二分も報われることになるのか。
晃之助がもやもやしながらも『ま、いいか』と済ましてしまうところが、義理なのに親子だなと思ってしまう。
「正直者」
作品の中では一番好きな話。
正直であれと教えてきた母が父のことで嘘をついたまま死に、正直であろうとした自分は人に騙さればかにされている。正直者とは何なのか。賢く立ち回ることとズルいことはどう違うのか。
悔しくて悲しくて暴走していく直太が切ない。まだ十七(満年齢なら十五か十六)なのだ。『盗み癖』がついてしまったと訴える直太に慶次郎は『お前のは病じゃねえ、ただのやけくそだ』と優しく言われると泣きながらしがみ付く。まるで父親にそうしたかったかのように。
『病を直すには、四十三文を米屋に返すところからはじめねばならなかった』
このシリーズは短編だけに文章の切れが良い。特に最後をどう結ぶか。モヤモヤした気持ちや登場人物たちの行き詰った状況をどう打開してくれるのか。問題はそう簡単には片付かないが、まずは第一歩踏み出せそうなそんな気持ちにさせてくれる。
慶次郎、晃之助と島中賢吾ら同心たち、辰吉や太兵衛親分たちなど相談できる相手はたくさんいる。
晃之助もすっかり円熟味が増してきた。だが相談場所に自宅が何かと使われて、皐月も大変そうだ。
※シリーズ作品一覧(レビュー投稿分のみ)
①「傷」
②「再会」
③「おひで」
④「峠」
⑤「蜩」
⑥「隅田川」本作詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
お江戸の「生きるのが不器用」で、不幸が
集まってくる人の物語
でも、そんな人にも慶次郎がかかわることで
少しだけ、これから違う人生が送る可能性が
芽生えたりするんですかね~ -
2008.07.01
邯鄲の枕、エピローグを展開しないのがグー -
慶次郎縁側日記はとにかく面白い。今、一番面白いと思える時代小説。連載中。
「傷」のレビューを参照にしてください……。