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著者 : 小川洋子
  • 新潮社 (2006年10月28日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104013043

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海の感想・レビュー・書評

  • 机の引き出しの生ぬるいサイダー。
    キリンの柄のパジャマ。
    海の音がする鳴鱗琴(めいりんきん)という楽器。
    間違えられた死体。
    濡れたように鈍く光る糜爛(びらん)の活字。
    すり硝子の向こうに潜む活字管理人。
    見捨てられた抜け殻たち。
    ふわふわと柔らかそうに着色されたひよこ。
    忘れたくない記憶にタイトルをつけてくれる「題名屋」。

    どれも不思議な余韻を残す七つの短篇集。


    なぜか定期的に読みたくなる小川作品。
    またお気に入りの一冊が増えて嬉しい。

    小川洋子ほど「静謐」という言葉がピッタリな作家はいないと思う。
    甘美で濃密なのに
    ヒヤリと冷たい質感。

    どの作品にも共通する
    巧みに隠された死の匂いや喪失感。

    ページをめくるたびに
    どこか不思議で幻想的な物語世界に引き込まれていく。

    ガラスケースや透明なフィルターや卵の殻の中から
    薄い膜を通して世界を見ている感じ。
    もしくは白く煙る音のない雨の中を
    ベンチに座って一人きりで本を読んでる感覚。

    そんな閉じた世界に侵蝕されていく自分が心地いい。

    彼女の作品がアメリカではなく、フランスで支持されているのにも妙に納得です。

    本書は様々な味わいの短篇集だけど、
    これぞ官能小説と勝手に呼びたい(笑)
    フェティシズム溢れる
    『バタフライ和文タイプ事務所』
    が一番好き。
    活字がこんなに淫靡でエロティックだとは初めて気付きました!
    (またそういうエロさを「活字(漢字)」で表現してみせた小川さんはやはりスゴい!)

    他にも、
    幼稚園送迎バスの運転手の優しい嘘を2ページで描いた掌編
    『缶入りドロップ』、

    動物の抜け殻を集めるのが好きな声を失くした少女と
    孤独なホテルのドアマンとの触れ合いを描いた
    『ひよこトラック』、

    観光ガイドである母のピンチを救った少年の
    長い1日を描いた
    『ガイド』

    なども印象深く記憶に残る物語だった。

    小川洋子にしても
    吉田篤弘にしても
    よしもとばななにしても
    今はない、失われてしまったもの、
    忘れられて消えゆくものへの思いを慈しむように言葉にできる人に
    僕は惹かれるのだと
    あらためてこの作品を読んで思った。


    ちょっと不思議であたたかい短篇集を探してる人、
    静謐な物語世界に浸っていたい人、
    同じく小川洋子の『薬指の標本』の
    どこか淫靡な世界観にハマった人にオススメします。

    クラフト・エヴィング商會が手がけた本の装丁も素晴らしい!

  • 長め、短めを織り交ぜた7つの短編はあわせて200ページ足らず。
    さくさくと読み進んであっという間に読み終わり、そして、もう一度読みたくなってすぐに再読しました。
    すぐに再読、はそうそうないことです。

    結婚相手の実家に挨拶に行った僕が、彼女の小さな弟と同じ部屋で過ごした夜を描いた「海」。
    ツアーで同室になった年配女性がかつて恋人だった人を訪ねると言う。その養老院訪問につきあうことになった「風薫るウィーンの旅六日間」。
    欠けてしまった活字を新しいものと交換してくれる謎めいた活字管理人がいる「バタフライ和文タイプ事務所」。
    祖母とのあたたかな思い出がよみがえる一瞬を捉えた「銀色のかぎ針」。
    幼稚園の送迎バスの運転手の不器用な優しさを描いた「缶入りドロップ」。
    言葉を失った少女と下宿人の孤独な男性との言葉のない交流を描いた「ひよこトラック」。
    観光ガイドの母に女手一つで育てられた少年が経験した小さな冒険を描く「ガイド」。

    物語の中に静かに流れる優しさと哀しみが、胸をじんわりと満たしていきます。
    どこか不思議で、でも大げさでなく、淡々と。
    それでいて強い印象を残してしまう作家の技量には「参った」という感じ。
    内容はもちろんですが、それぞれの短編の個性、特徴をいかした並べ方もすばらしい。

    日常と独特の世界観がまじりあった小川洋子ワールドへ導く「海」を最初に持ってきて、
    ちょっとコミカルな「風薫るウィーンの旅六日間」の後に、ノワール調でセクシュアルな「バタフライ和文タイプ事務所」が来て、
    その後に、数ページしかない小品を2作続けて、読み応えのあるラスト2作につなげていく。
    そんな構成の妙も味わえる短編集です。

    この短編集で私の中の小川洋子株がさらに上昇しました。
    「好きな作家」殿堂入りも近いかも。

  • 7つの短編集。
    吉田篤弘・浩美夫妻の爽やかな装幀のイメージ通り、静かな水面を眺めているような心穏やかな余韻の短編が続く。

    「バタフライ和文タイプ事務所」はマニアックな言葉が続き笑ってしまった。そしてそんな言葉でひたすら真面目にやり取りする彼らにもちょっと苦笑い。
    「銀色のかぎ針」は短文ながらも祖母との何気ない温かな思い出にちょっとホロリ。
    そして「ひよこトラック」。男と少女の微妙で少し緊張感の伴う距離感がとても良かった。少女からの贈り物を男はこの先忘れることはないだろう。

  • 小川さんが紡ぎだす文章は、本当に静かで濃やかで美しいのだけれど、ただ美しいばかりしゃないのが素晴らしいと思う。

    表題作「海」の、泉さんの弟が隠し持っているベタベタの温いサイダー。
    「風薫るウィーンの〜」の、琴子さんの恋人の老いて朽ちてゆく姿。
    「バタフライ和文〜」の、活字倉庫へと続く埃っぽい階段。酷使したせいで欠けてしまった『糜』や『睾』や『膣』の活字。

    どれも潔いほどに醜く哀しいのだけれど、それがむしろとっても小川さんらしくて心惹かれてしまう。

    「ガイド」は、心に沁みる素敵なラストが良かった。少年が頑張る姿、大好物です。

  • 久しぶりに小川洋子さんの文章が読みたくなって、サクッと読める短編集を借りました。
    なんとも言えない素敵な装丁は吉田篤弘さんと吉田浩美さん。

    どの話も、読んでいると静かな気持ちになり、小川洋子さんだな〜って感じの良作揃いでしたが、とりわけ「バタフライ和文タイプ事務所」が好きでした。
    医大生の論文を打つタイプ事務所のお話で、その描写が作為的にエロティシズムに溢れています。活字管理人とタイピストのやりとりを、固唾を呑んで見守りました。ラストも良かったです。

  • 装幀はクラフト・エヴィング商會。短編7編。「バタフライ和文タイプ事務所」の薄暗い雰囲気が好きだなぁ。小さな活字から様々なことを読み解く活字管理人。「膣」という字は静かな活字。まるで、巻貝の中に潜む、深海の生き物のよう…。「ガイド」も良かった。不完全なシャツしか作らないシャツ屋のおばさんに、お客さんの記憶に題名をつける題名屋さん。それだけで物語ができそう。

  • 短編集7編
    どの作品も良かったけれど,表題作「海」と「銀色のかぎ針」が好きだった.

  • ○海(☆2)
    泉さんの実家は遠かった。気を遣い、遣われもてなしを受けた。弟さんと同部屋で寝る。彼はメイリンキンという楽器の弾き手だという。
    淡々とした雰囲気は好きだけど、言わんとするところがよくわからない話だった。
    ○風薫るウィーンの旅六日間(☆5)
    45年前の恋人ヨハンを見舞う婦人に連日同行する羽目に。ひとさじの悲しさを抱きつつも穏やかに終わっていくのかと思いきや驚きの結末が待っていた。巻き込まれ体質というか断り切れないというか親近感の湧く主人公よ。
    ○バタフライ和文タイプ事務所(☆5)
    医学生の論文をタイプする仕事。子宮膣部の糜爛……の「糜」、左副睾丸を摘出……の「睾」の字が破損する。
    活字管理人がそれを新しいものに取り替える。
    どんどんエロティックに持って行くんですね。マニアックで面白い。
    ○銀色のかぎ針(☆5)
    超短編。電車で向かいの席のおばあさんが編み物をする姿から、自分の祖母を回想する。
    ○缶入りドロップ(☆5)
    超短編。バスの運転手のおじさんが、ドロップで園児を泣き止ませるという話。
    ○ひよこトラック(☆3)
    下宿先での、男と話さない少女との交流。
    抜け殻を次々に運んでくるのが健気。言葉を抜きにコミュニケーションをとるところに主題があるのかと思ったのに、最後少女の声がプレゼントだとするのがよくわからない。
    ○ガイド(☆4)
    ママはツアーガイド。僕が一人で留守番するのは心配なので同行することになった。バスで隣席になった初老の紳士と一緒に観光先をまわる。乗船後、一人足りないと分かり慌て出すママ……。僕は行動する。
    「博士の愛した数式」でもそうだが、落ち着いた雰囲気のおじさんをうまく書けている。ゆったりと会話が流れ心地よい。僕がしっかり者すぎ、ママが打たれ弱すぎで奇妙な感じ。

  • 小川洋子さんの作品は、一言で言うなら温かみのある繊細、かな。
    中でも「ガイド」が良かった。

  • ガイドが一番良かった

  • 7話からなる短編集。

    『風薫るウィーンの旅六日間』が好み。こうなるといいなぁという展開で終わってくれた

  • 静謐に耳を澄ます。

  • 「バタフライ和文タイプ事務所」がよかった。

  • 文学小説。物や周辺状況から飛躍する世界。短編集だが出色の作品が含まれていた。

  • みんな真剣なんだけど、ちょっとおかしい。
    「風薫るウィーンの旅六日間」が一番よかった。
    死を迎えるという重い空気とユーモアの加減が絶妙。

  • 短編集。「バタフライ和文タイプ事務所」は『注文の多い注文書』を、「ガイド」は『博士の愛した数式』との少年を思い出させる。

  • 小川洋子さんらしぃ短篇集。

    この人の書くありそうでない楽器や
    職業が大好きです。
    和文タイプライターに私もなりたい・・・

    『ひよこトラック』は何だか切なくて
    『ガイド』は優しい気持ちになれました。

  • 短編集。海。風薫るウィーンの旅6日間。バタフライ和文タイプ事務所。銀色のかぎ針。缶入りドロップ。ひよこトラック。ガイド。みな、ちょっと不思議な話。ひよこ、、、が良かった。

  • *バタフライ和文タイプ事務所
    ぞくりとする、きれい。
    台詞の間、句読点の位置までなんとも言えない艶っぽさ。

  • 最近ちょいちょい読んでる小川洋子。まだ博士にも猫や象にもいきませんよv
    単行本の表紙が木綿の手触りっぽくてなんかいいと思っていたら、クラフト・エヴィング商会だったので、またやられた!ってかんじ。
    短編集。不思議で、ちょっとエロくて、切なくて、可愛くて、色々楽しめる。

    装幀 / 吉田 篤弘・吉田 浩美
    初出 / 『新潮』2004年2月号・6月号、『小説現代』2004年4月号、『週刊新潮』2004年5月13日号・8月26日号、『群像』2006年10月号、『New History 街の物語』2001年7月刊所収。

  • 小川洋子のさまざまな魅力を一度に味わえる短編集。
    短編であっても、ページをひらくと彼女が作り出す不思議な世界が茫洋に広がっている。

    <収録作品>
    海/風薫るウィーンの旅六日間/バタフライ和文タイプ事務所/銀色のかぎ針/缶入りドロップ/ひよこトラック/ガイド

  • 短編集。海からの.風がある時だけに鳴る不思議な楽器・鳴鱗琴を奏でる少年、動物たちの抜け殻をプレゼントしてくれる無言の少女、町の公認ガイドの母と同行している少年と「題名屋」の小父さんの心の交流など、子供に関する心温まる小品が多かったです。「博士が愛した数式」に通じるところがありそうですね。また「風薫るウィーンの旅6日間」はひたすら老人ホームに毎日付合わされるヒロインの気持ちに思わず同化してしまうこれも楽しい小品でした。

  • 今 小川洋子さんの作品にはまっている。
    言葉を大切にする人の作品は つくづく言葉の芸術だなぁと思う。
    こんな風に 自在に表現できたらきっと楽しいだろう。

    心がほんわか温まる作品集。

  • 『バタフライ和文タイプ事務所』は、活字に関わりのある人なら胸を打ち抜かれないはずがない、と言ってしまいたい。
    そんな静かな力があった。

    ラストの『ガイド』は文句なく良かった。
    小川洋子の描く少年は礼儀正しくて純粋でかわいらしい。

    最後に老人に今日一日の題名をつけてもらう下りがとても好き。

  • 小川洋子さんの雰囲気たっぷりの短編集。時間の合間に1話づつ読むのにちょうどいい。
    ホントに短い短編でも心にトンと何か残るかんじ。

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