著者 :
  • 新潮社
3.53
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感想 : 148
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104013043

感想・レビュー・書評

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  • まさかのジョシュアw

  • とても読みやすい短編集です。相変わらず神秘的な要素が含み、読む側は遠い世界までに運ばれます。小さな旅です。言葉のメロディも美しい。おすすめします。

  • 前に読んだことがあったけど、また借りてしまった…
    不思議な空気感のお話が7編、淡々と綴られています。大人のお伽噺、といった感じ。
    バタフライ和文タイプ事務所が一番好き。

  • 定期的に、小川洋子さんの文章に溺れたくなります。
    なにもかまえず、意気込まず、
    すーっと力を抜いて。
    生きていると、この作業の意味は?とか
    あの人の言葉の裏にある感情は?とか
    そんなことで頭がうめつくされて
    とっても疲れてしまうので。
    そんなときは、小川洋子さんの本で
    深々と深呼吸をして。
    究極のリラックス本です。
    わたしにとって。

  • 1時間20分

  • 登場人物達がリアルに居る人のように錯覚しました。サクサク読めました。一つ一つ読み終わる事に気持ちの良い余韻に浸ることが出来ました。

    特にお気に入りは2つ目の風薫るウィーンの旅6日間という話です。旅の中の忘れられない思い出話のような感じがして、自分も旅をしたいと思いました。

    寝る前に読む本を探してる人にオススメです。

  • 『わざわざ休暇を取って彼女の実家を訪問するとなれば、そう簡単な話では済まない。結婚の承諾を得るためとなれば、尚更だった』

    このレビューをご覧になってくださっている方の中には既婚という方もいらっしゃると思います。”結婚をする”ということは”様々な初めてを経験する”ことでもあります。過ぎ去ったそんな時代を振り返った時、あなたはどんな初めてに大変さを感じたでしょうか。私はもう間髪入れずに答えます。”妻の実家に挨拶に行った時です”。うんうんと同意いただける方もいらっしゃると思います。人生でこんなにも緊張感の真っ只中に立たされることもそうはないでしょう。そして、そんな緊張の場面が遠隔地だった場合、これは相手方の家に宿泊を余儀なくされます。結婚前にまさか彼女と同室はないでしょう。そんな時『僕は小さな弟と一緒に彼の部屋で休むことになった。正直、気が重かった』という展開が待っていたとしたらどうでしょうか。『それならむしろ、おばあさんと寝る方が気楽なくらいだった』と、まあ、そんなわけにもいかないでしょうが、いずれにしてもこれでは緊張感を解くこともできません。しかも、『家に到着してから、まだ一度も彼と口をきいていなかった』という関係であれば尚更です。『どんな話をすべきなのか、見当がつかなかった』という気重な時間。これはもう『すぐさま眠りにつくしかない』というのが正解でしょう。知らない人とゼロから関係を築いていくことは大変なことです。それが、絶対にその関係を壊すわけにはいかない相手だったとしたらそれはある意味試練の時間です。さらに、その相手が年齢の大きく離れた、自分と共通の話題など何もないと思われる相手との時間だとしたら、それはもう拷問の時間と言ってもいいかもしれません。でも、これを前向きに捉えたらどうでしょう。普通だったら、話すことなどなかったはずの歳の離れた相手との二人の時間。自分とは全く違う世界に暮らし、自分とは人生の時間の帯がずれたそんな相手と偶然にも関わることができた時間。そんな二人の時間には、本来だったら経験できなかったはずの貴重な時間が待っている、そんな風にも考えることができるのではないでしょうか。そう、この作品は、色んな事情から偶然にも同じ時間を共にすることになった二人、そして、ひょんなことをきっかけにそんな偶然の時間に心が通い始める二人。この作品は、年齢の大きく離れた二人の微笑ましい時間を垣間見る物語です。

    七つの短編からなるこの作品。それぞれの作品に繋がりはなく、極めて多彩な登場人物、シチュエーションが設定されて描かれています。短いものだと、まさかの2ページ!、一方で後半二つの作品だけで作品の半分を占めるというように長短も極端です。そんな七つの短編は、偶然にも同じ時間を過ごすことになった二人の登場人物の繋がりに焦点を当てて描かれていきます。そんな中で、えっ?というか、まさか?というか、どうしてそんな感情が湧き上がるの?と驚愕した作品が〈バタフライ和文タイプ事務所〉という三編目の作品でした。

    『大学の南門を出てすぐ、道が二手に分かれる、まさにその分かれめのところにありました』という『バタフライ和文タイプ事務所』。『特殊な立地上、建物は三角形の三階建てで、一階は学帽を商う帽子屋さん、二階が事務所、三階は倉庫になっていました』というその事務所。『医学部の大学院生たち』が訪ねて来るそんな事務所は『安価で迅速、なおかつ丁寧な仕上げ』をモットーにしています。『一日中、タイプの音が響』くというその事務所。そんな『事務所にタイピストたちの声が響くのは、読み合わせの時だけ』というその読み合わせは『…精管から精嚢腺へ運ばれた段階での精嚢液の培養濃度を表3に示すとおり設定すると…』と何か意味ありげな医学用語に満ち溢れています。五人のタイピストの中で『一番新米の私』、『バタフライ和文タイプ事務所とは妙な名前だ』と感じます。『見てご覧。レバーを握り、広い活字盤の中から一つの文字を探す手の動きが、花の蜜を求めて飛ぶ蝶のように見えないかね』とこれまた何か意味ありげな説明を所長から受ける主人公。10日ほど経ったある日、『「糜爛(びらん)」の「糜」の活字が欠けて』しまったことを所長に相談します。『倉庫へ行って、活字管理人に新しいのを出してもらいなさい』と言われ三階に上がった主人公は、そこにもう一人、従業員がいたことを知ります。『活字が欠けてしまったのです』と管理人に告げる主人公。『ついこの前、新しく採用されたタイピストです』と自己紹介する主人公。やがて奥から活字を持ってきた彼は『よく見ると、不思議な字ですね』と語り始めます。『淫らな感じが漂っています。特にまだれの中の、上部のあたり』、『全部のハネが、まとまりなく勝手気ままな方を向いているところ。粘膜が脱落して、元々の滑らかさが失われてしまった様子を、よく伝えているように思います』と語る管理人。『視線がこちらに寄ってくる気配』を感じるも『気のせい』と思う主人公。『またいつでもいらして下さい』と言われた主人公は、それからも活字が欠けるたびに管理人の元へ向かいます。そして、そんな欠ける『活字』は艶やかなものばかり。そして、欠けた『活字』の特徴を熱く語る管理人の言葉にどんどん魅せられていく、惑わされていく、おかしくなっていく主人公。そして…。

    …という短編。タイピストたちは『ただひたすらうつむいて、活字を探し、ガチャン、ガチャンとレバーを押し付けるだけ』という官能とは無縁の硬質な空気感漂う事務所の中で、『活字』に彫られた字をきっかけに徐々に世界の色が変わり始めます。『活字』を意識し、『活字』に妄想し、そして『活字』に欲情していく主人公。まさかの官能世界の扉が開かれていく物語。ただ『活字』に彫られた字の説明を受けているだけなのに、『活字』の特徴を聞いているだけなのに。『活字』に艶を感じ、『活字』に溺れていく主人公。ただの『活字』を題材にこんなにも官能的な世界を描き出す小川さん!大人な皆さんには是非体感していただきたい”『活字』のイリュージョン”。これは、すごい!そう思いました。

    そして、官能世界の他にも、一転して、えっ?オチがあるの?という真面目な話の中にユーモアに溢れた物語が展開したりとその表現の幅の広さだけでも飽きさせないこの作品。

    たった2ページしかない〈缶入りドロップ〉では、『男は四十年間、バスだけを運転してきた』と人生の重みを感じさせる冒頭からはじまり、たった2ページの中にその『男』がどういった人物か、四十年間どういったバスの運転手としての人生を送ってきたかが鮮やかに伝わってくるほど、短い物語の中に密度の濃い描写がなされていきます。『短篇と長篇の違いは意識していないんです』と語る小川さん。そんな小川さんの手にかかると、たった2ページの作品に、たっぷりとした余韻を感じる読後が待っていました。これも、すごい!です。

    そして、後半の〈ひよこトラック〉では、不思議な組み合わせの二人の人物が登場します。『新しい下宿先は七十の未亡人が孫娘と二人で暮らす一軒家の二階だった』という主人公。『十代の終わりから四十年近く、ただひたすらホテルの玄関に立ち続け、定年がもうすぐ間近に迫っていた』というドアマンの主人公が出会ったのは、『黒目がちの大きな瞳を持つ、痩せっぽち』という大家の6歳になる孫娘でした。『いつどんな時も、誰に対しても、一言も喋らない』という少女。なんとも不思議な二人の静かな交流が描かれていくこの作品では、あるモノを二人の共通の宝物、秘密ごととして、二人は交流を深めていきます。なんとも微笑ましい限りのその展開。そんな物語で二人の時間を小川さんはこんな表現を使って比喩的に描写します。『男が窓辺で過ごす時間のなかで一番好きなのは、夜明け前だった』という書き出し。『闇が東の縁から順々に溶け出し、空が光の予感に染まりはじめる。一つずつ星が消え、月が遠ざかる』というなんとも詩的でうっとりするような描写。『世界がこんなにも大胆に変化しようとしているのに、物音は一切しない。すべてが静けさに包まれて移り変わってゆく』というこの描写。『一言も喋らない』という少女と作り上げていく世界観そのものだと感じました。そんな音のない静かな世界観に包まれた物語には、だからこそ、ハッ!とする動きのある結末に、新鮮な驚きと、これから始まるであろう動きのある世界への期待を感じることができるのだと思いました。

    年齢も立場も、そして境遇も色々な事ごとが全く異なる二人の人間が偶然にも出会い、交流を深めていくそんな時間を切り取ったこの作品。それはぎこちなく、所在なく、そして本来は関わり合うことなどないはずだった者同士の偶然の出会いから生まれました。そんな七つの短編から構成されるこの作品。

    偶然の出会いの中で何かしらのきっかけで緊張した二人の感情が打ち解け、あたたかさに包まれる時間が刻まれていく物語。たった2ページの作品を含め、こんな短い作品たちの中に、ふわっと印象に残る独自の世界を作り出す小川さん。静かな世界観の中に、人と人との優しい繋がりを確かに感じた、そんな作品でした

  • 短編集。7作品は各自独立しており何か全体で追う主題はなし。
    久しぶりに小川洋子さんの小説を読んだが、やはり静かで独特な切り取り方をする世界。大局や構成に秀でたものはないが、「偏愛」の作家、細部に宿る描写がオリジナリティがある人だなと改めて思った。

    表題作「海」を読みたくて、手に取った本だったが、個人的にはあまり。。あの小川洋子が書く海という題の物語はどんなものだろう?と、期待が大きすぎたのかもしれない。 つづく「風薫るウィーンの旅六日間」も、他人から搾取されてもその場その場の居心地を優先させる語り部の態度が発端になっているので、すんなり物語に入っていけず(それに、語られていないから正解はないが、男の立場からすると、45年前に異国で手をつけた15歳も歳下のちょっとズレた世間知らずの外国女性のことを、死に瀕したホスピスで、もしもの時に知らせたい人のリスト末席に記す、誰も見舞いに来ないような男がまともなわけが無い。迎えにいく約束も履行しなかったくせに。と思ってしまうと、物語のオチも相まって終始ズレている具合の悪い話に見えてくる)。 「バタフライ和文タイプ事務所」は小川洋子らしさ溢れる小品だが、かえって「らしさ」が誇張されすぎているような印象を受け、作家自身によるパロディのような。。(いくら色気を演出させるためとはいえ、活字にする論文に睾丸やら膣やらを連呼させるのは過剰な気が。別の「字」になぜしなかった…)  「銀色のかぎ針」も4ページと短い文だが、だから何なのだろう…という感想しか持てず。収納巻が違ったらまた良さが出たのかもしれないが。。
    小川洋子さんは、静かな文体、モチーフや偏愛、官能性など個人的に好きなようでいて、たまに話の構成や主題のつけ方が微妙に好みとはいえない作家かも…と疑念があったのだが、今回は完全にハズレ短編集かと唸ったところ、幸運にして後半3編は楽しむことができた。

    少女と中高年男性の交流や、様々な抜け殻に寄せる偏愛、シャツ屋という名前の不完全なシャツを売る店や、昔詩人だった老人が依頼人の思い出に題名をつけて売る店など、「ひよこトラック」「ガイド」は彼女らしさが光る作品である。
    個人的には「缶入りドロップ」が1番好きだった。「バスのおじちゃん」と子供たちから馴々しく呼ばれる、40年間様々なバスを運転してきた単身の男性がドロップ缶で子供を笑顔にする、優しい話だ。

  • 「思い出を持たない人間はいない」

  • 目次
    ・海
    ・風薫るウィーンの旅六日間
    ・バタフライ和文タイプ事務所
    ・銀色のかぎ針
    ・缶入りドロップ
    ・ひよこトラック
    ・ガイド

    現実の世界と少し肌合いの違う世界。

    例えば表題作に書かれているのは、鳴鱗琴(めいりんきん)という、魚のうろこで作った世界で一つだけの楽器を演奏する、恋人の弟と過ごす一夜。
    よく読むと、家族の中での人間関係がちょっと不穏。
    しかしそれには全く触れずに静謐なストーリーは終わる。

    好きなのは「缶入りドロップ」
    たった2ページと3行の物語の中に、バスの運転手さんの人柄がしのばれる。
    たとえ相手は子どもとはいえ、こういうふうに人を思いやれる人になりたいものだ。

    「ガイド」もいいね。
    『思い出を持たない人はいない』
    人生に、いくつ忘れられないシーンをもつことができるか。
    それは生きていく上でのテーマなのかもしれない。

    ”題名のついていない記憶は、忘れ去られやすい。反対に、適切な題名がついていれば、人々はいつまでもそれを取っておくことができる。仕舞っておく場所を、心の中に確保できるのさ。”

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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