いつも彼らはどこかに

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104013074

感想・レビュー・書評

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  • うーん、小川ワールド!静かな静かな世界を堪能した。

    こんなに読者に親密に語りかけてくる書き手も珍しいのでは。まるで自分だけがそっと打ち明け話をされているような気さえする。優れた書き手は皆さんそうなのかもしれないが、小川洋子さんにはとりわけひしひしと、そういう気配を感じてしまう。マジックだなあ。

    「チーター準備中」と「竜の子幼稚園」が特に心にしみた。この二作に限らず、小川作品にはしばしば、心から愛する者を失った人たちが登場する。喪失はすでに取り返しがつかず、人は無力感と共に取り残されている。美しい世界は時に残酷で、その不条理を誰に訴えることもできない。

    さして不幸な目に遭ってきたわけでもなくても、きっと多くの人は漠然と不安感を抱えているのだと思う。この世界で居心地が悪く、なにかが間違っているような感覚。何とかうまくやっているつもりでも、ふいに世界の様相が一変して、呆然となすすべもなく立ち尽くすことになるのではないかという予感のようなもの。そういう、普段は意識しない心の暗がりに小川さんの言葉が届いてくる。

    それは胸に痛いはずなのに、そして確かに締め付けられるような痛みがあるのに、同時に穏やかに癒やされるものを感じるのが、作者のすごいところだ。繰り返し読むほどに味わいが深い。

  • 生きるのがちょっとだけ上手じゃないけれどそれでも自分の居場所をひっそりと保持できている人と、無力に見えるけど気高く生きている動物たちとの関わり合いを書かせたら、小川洋子さんは天下一品ですね。.


    大好きな「ブラフマンの埋葬」「ことり」の流れを汲む掌編集で、あぁ、いいなぁ、小川さん、好きだなぁ、と思いながら最後まで読むことができました。(#^.^#)

    スーパーでの試食品販売で一人暮らしの生計をたてる女性を描く「帯同馬」。
    誰の邪魔にもならず、自分の小さな場所から決してはみ出さず、と細心の注意を払う彼女なのに、販売の際の工夫によって、行く先々のスーパーで確実に売上を上げるという設定の優しさが嬉しいです。
    押しつけがましさのないあれこれに彼女の人柄が反映されとても好ましいし、私だってこれなら買っちゃう!って思ったりもしてね。

    そんな彼女の前によくあらわれる、試食品ハンターとでもいうべき小母さん。
    あぁ、やだなぁ、彼女がイヤな思いをしないといいけど、と思っていたのだけど、そこは小川さん、そんな小母さんにもしっかり小川色をつけてくれて、骨太なガラス細工(変なたとえだぁ~!)状の背景を。

    小母さんの虚言癖さえ、哀しみと可笑しみが混合されていて、うん、色々あったんだね、なんて。

    そして、彼女がスーパーに通う際に乗るモノレールの沿線にある競馬場からフランスのレースに出場するため出国した競馬馬と、その馬の“慣れない土地への移動のストレスを解消するため”に同行する馬がタイトルの帯同馬。

    彼女は暗闇で不安がる二頭を思い、ため息をついたり、そんな中でのお互いに慰めあう彼らを想像し誇らしく感じたり。
    特に、スターではない帯同馬に思いを馳せるのは、彼女の人となりを考えれば自然なことで、そんな、彼女の日常と馬たちへの想いの小さなお話、楽しんで読むことができました。

    そのほか、

    「ビーバーの小枝」「ハモニカ兎」「目隠しされた小鷺」「愛犬ベネディクト」「チーター準備中」「断食蝸牛」「竜の子保育園」

    どれもよかったです。(#^.^#)

  • 小川洋子ワールドを堪能した8編の動物をモチーフにした短編集。
    どの主人公も、強い主張はないけれど、淡々と生きているし
    静かな中にある個性を感じさせてくれる。

    同じように、ひっそりと気高くそして優しく寄り添うかのように
    生きている動物たちの美しさにもスポットを当ててくれた。

    その当て方が、小川さんならではの世界観だから
    心にふっと染み込むラストに感じた。

    愛犬の瞳から見る人間の世界は、どうなんだろうか?と
    ふと感じてしまった。

  • 社会の片隅でひっそりと慎ましやかに生きている、
    人と動物に光を当てた短編集。
    人は皆心の中に喪失を抱いている。
    家族のない一人ぼっちの人なら、
    孤独に耐えきれないこともあるだろう。
    だけどあなただけじゃない、動物たちもみんなそうなんだよと
    静かに励ます作者の声が行間から聞こえてくる。
    実に小川さんらしい、生命を慈しむ物語だった。

  • それぞれに何かしらの動物が出てくる、短編集8話ですが、動物が主人公ではないです。
    タイトルの通りいつも彼らはどこかに…と、当たり前の様でいて、だけどもひっそりと佇んている様な存在感を出していました。

    小川洋子さんの作品は二冊目ですが、何か非日常的な雰囲気がとても良いです。本当は長編を読んでみるつもりで図書館から借りてきたのに、間違えて短編集を手にしてました。次回こそは。

    『英名:Cheetah
    チーターの最後にはhがあった。いつからチーターの一番後ろには、hが潜んでいたのだろう。』

    失った子供のh(本文では手放したとなっている)をチーターの綴りで見つけ、チーターを特別に感じる…なんてお洒落な表現なんだ!この、”チーター準備中”が1番好きでした。

    帯同馬/ビーバーの小枝/ハモニカ兎/目隠しされた小鷺/愛犬ベネディクト/チーター準備中/断食蝸牛/竜の子幼稚園

  • 小川洋子の作品は、いつも登場人物が周りの不理解で
    ひどい目に遭いませんようにと祈るような気持ちにさせられる。
    動物や植物なら、人間の生活のために犠牲にならないよう
    断絶しないよう祈ってしまう。
    儚いけれど生きている者たちに大してもっと謙虚であれと
    願わずにいられない。切なくて大切に隠しておきたい
    気持ちにさせられる。
    今回はビーバーの小枝がとても好きだった。

  • 読後、ふっ、と心に浮かんできたのは

    す く う   と言う言葉だった。

    掬う?救う? す く う?

    実家の近くを流れる浅い川は、水がとても澄んでいるので、
    小さな鰍(かじか)が流れに沿って、ひよひよと泳ぐ姿を目にする事が出来る。
    (と~っても可愛らしい!^^♪)

    霧消に接触を試みたくなる私は、思わず水中に手を沈めて待ち伏せし、すくいあげてみる。
    (簡単にはいきませんが。)

    稀にぼんやりとした鰍が罠にかかり、
    ピチピチと手の中で跳ね回る姿を見て、(確かにいる)事に納得した私は安心し、(何に?)
    再び川へ放してやるのだが、
    あっという間に彼らは、波の流れと同じ光の線と化して、チョロチョロとどこかに消えて行ってしまうのだ。

    8編の物語の主人公達を私は、
    この小さな『鰍』のようだ、と思った。

    手のひらに感じた、
    確かに感じた
    どこかにはいる(彼ら)の気配。

    誰に気付かれることも、読まれる事もなさそうなひっそりとした物語。と言った感はあるが、
    たまらない愛おしさも同時に感じてしまった。

    救ったのか
    掬ったのかは、結局はわからず仕舞いだが、

    本を閉じた後は、私もおそらく『鰍』化するに違いない。事だけは、とりあえずわかった。

  • 自分に与えられた場所で、自分に与えられた運命を受け入れ、自分の役割を日々真摯にこなしている。
    そんな登場人物たちに心が洗われた気がしました。

    ささやかな楽しみが、仕事のあとのアイスクリームって。
    ふふふ、私とおんなじだ。

    個人的には『ハモニカ兎』が一番おもしろかった。
    「犠牲」「牽制」「盗む」「重殺」・・・
    これをそのまま翻訳したら、どんな競技なんだ!?と確かに不安になるかも。
    新聞で「死球」という文字を見つけて、なにこれ、死んじゃうの!?と驚いていたうちの子どもをふと思い出しました。
    そういう日常のふとした違和感をストーリーにしてしまう小川さんって、ほんとすごい。

  • 長編の方がやっぱりだんぜん面白いと思ったので星3つ。

  • どんな表紙になってるか、先ずそれが気になる。。。

    新潮社のPR
    「動物たちがいるから世界は素晴らしい──動物たちの気高さ、優しさを、新鮮な物語に描き、震えるような感動を呼び起こす連作。 」

    立ち読み|新潮2012年6月号 「いつも彼らはどこかに 第一回 帯同馬」小川洋子
    http://www.shinchosha.co.jp/shincho/tachiyomi/20120507_2.html

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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