故郷のわが家

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104041039

作品紹介・あらすじ

六十五年前に生まれた家を処分するため、故郷に戻ってきた笑子さん。彼女の胸にさまざまな想いが夢にうつつに去来する。家族もなく独りで世界中を旅しつづける男。いまは亡き密かな恐竜ファンだった兄さん。ガダルカナルへの遺骨収集団に参加する村の青年。人工羊水に浸るヤギの胎児-現代における故郷喪失を描く連作短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • 笑子さんの故郷の家での5ヶ月間、読んでいる間も読後もいい感じ。ただ、あのように過去を思い出すのも、あのような夢を見るのも、笑子さんが孤独だからだと思う。孤独を否定するわけではないし、笑子さん自身「寂しい」みたいなこと一言も言ってないから、「寂しいよね」みたいなことを思うべきではないかもだけど。
    両親が亡くなり、夫が亡くなり、息子たちが独立する。もちろん笑子さんはお金もあり、自由だし、これからまだまだ楽しいことがあるに違いない。でも…と思う。

  • 父や母が亡くなり、兄弟たちも戻らず、誰も住む者のいなくなった故郷の家を処分するという行為をすごく恐れている。悲しく寂しく、帰る場所を失い途方に暮れるんだろう、私はひとりでそれに耐えられるだろうかと。
    でもあと30年くらいこの世間の荒波にもまれていれば、もしかしたらそんなことは小さな悩みになっているのかもしれない。人類が繰り返す愚かな行為にため息をつき、胸を痛め、それでも最後は人間のいるところで終わりたいと思えるようになったら。私たちはどうしようもなく孤独であるけれども、必要以上にそれを悲観することはない。

  • 2005年秋、滞在した久住高原のホテルで、雲海に閉じ込められた神々しい朝の経験から生まれた連作9編だそうです。村田喜代子 著「故郷のわが家」2010.1発行。なんとも不思議な夢のような世界が描かれています。

  • 80年代に芥川賞作家となった村瀬喜代子さんが2010年に発表した連作短編小説「故郷のわが家」を読了。主人公が阿蘇と大分の間にある久住高原にある生家を人に譲る前の準備のため整理に戻った際に試み浮かぶつれづれなる思いを綴った形を取っている。都会の自宅から連れ合いとして連れ戻ったフジ子という愛犬との触れ合いの様子がどの話でも書かれているせいかほのぼのとしていて柔らかい印象の読みやすいお話として読み進む事が出来た。年老いた母が取っておいたとも割れる調味料から食器、布団や丹前など捨てるもの譲るもの、どちらも出来ないで持ち帰るものなどに仕分ける淡々とした毎日の中なくなった家族、友人、友人と行った海外旅行先、片付け仕事の中知り合った地元の方たち、森、淡々とした夜の時間のなかに流れるラジオの音などがきっかけになって思い出した過去の記憶や亡くなった同級生とのエピソードなどなどの話を読み進めるうち話のつどつど自分の故郷のことをどうしても思ってしまった。自分の場合は整理ではなく暮らしに戻るだろうけれど。そんなタイトル通りに故郷の事を思う事を助けてくれる小説を読みすすめるBGM
    に選んだのがイケメントランぺッターDon Sleetの”All Members". 落ち着く演奏です。

  • 65年前に生まれた故郷 久住高原の生家。
    今や誰も住んで無い家に、主人公の笑子は、愛犬フジ子を連れて、家を序文する為に、片付けに来る。

    そこでは、亡くなった、若き兄、両親、主人、等が、現われる書き方をしている。

    旅行好きなのか、グランドキャニオン、モニュメントバレー、ラスベガス、シルクロード、、そしてどこの土地にも登場する斎藤さんの話は不可思議な感じの話は、おもしろかった。

    砂漠回廊の話になると、モンゴル高原、、、、シルクロードの長安から北方ユーラシアへのステップ路と、中央アジアの砂漠コースのオアシス路。
    主人と、兄とがビールで、乾杯の姿を、見る思いをするが、、、

    いろんな国々が沢山出て来る。
    作者も沢山の国々へ行かれたのであろう。
    そして、音楽も、自然の事も、いろんな本や、ニュースなどを駆使して、描かれている。

    少し、懐古的で、幻想的過ぎて、この知識の豊富さが、話を複雑化しているように思える。

    目的は、故郷喪失を描いているのだろうが、、、、現実味が、少なく、家の処分の話から、離れ過ぎたように思う。
    若い人には、昔の話が、多すぎて、理解できない事が多々あるのでは、、、、

    帯の現在における未曾有の孤独を描くと、書かれている割に、インターネットで、交流の話等、、、、孤独になっていないのでは、、、、と、、、、

  • 笑子さんの母親が亡くなって後、久住高原に佇む、無人となりすっかり荒れ果てた彼女の生家。
    思い出の家、そこに何十年と蓄積された多くの生活用品と嗜好品。それらをひとつひとつ片付ける笑子さんの脳裏に、夢に現に去来するのは、先に逝ってしまった懐かしい兄弟、祖母、両親、夫たち家族、子供の頃遊んだ風景、かつて旅した遺跡の記憶――。

    作中、笑子さんが深夜のラジオ放送を聞いているのに触発され、私も深夜に放送を聞いてみたが、ラジオからノイズ混じりに聞こえてくるアナウンサーの声や音楽は独特で驚く。あれがリアルタイムで届いている音声とは思えない。時間を越えて現在に届いた、過去の音声という感じがする。

    2011年に祖母が亡くなった後、私も母とふたり、実家の整理をした。貧乏な家だったので、高価なものなど何もなかったが、昭和30年代から10年ほど前までの日用品や食器、農具、布団、母たち姉妹の若かりし頃の持ち物や衣類、私が使ったというベビー用品や子供時代の教材など、小さな家だというのにものすごい量の処分品が出た。捨てるものが廊下に積み上がり、窓が塞がって、それらの処分品がなくなるまで日中でも座敷が暗くなっていたのを思い出す。押し入れや納戸から出てくるものを珍しがったり懐かしがったり、人に譲ったり業者に買い取ってもらったり。読んでいるとそういった日々を思い出す作品だった。

  • 久住高原の故郷で過ごした笑子さんと、様々な故郷の話。とにかく夢の話が素敵で幻想的。そこに現実の世界が重なって、様々な物語を描き出している。

  • 幻想的な久住高原の風景と、実家の古農家を片付ける主人公の夢うつつが、似合う。年をとるのも楽しそう、と思えますが、主人公と同じ世代(60半ば)の方が読んだらどう思うのか、興味ある。

  • もう人のすまない故郷の家を片づけ、
    売るために帰ってきた笑子さんの話。

    夢の話がでてくるのだが、それが浮かない、
    しらじらしくならない。
    山での暮らしそのものが、すでに夢のようだからか。
    平地からはずっと遠くの山の上の、
    シーンとした暮らしがいいのかもなぁ。どっかで憧れる。
    海辺のシーンとした暮らしもいいけど。

    蜂蜜の話や檜の精油を蒸留するはなし、高原に暮らす老女たちのメール交換など、いくつかエピソードがいいのだな。

    「私」という存在が、老女が主人公だからなのか輪郭が少しずつぼやけてくるような。
    それが高原という場とあっていて、メタファーみたいで。
    半分あの世なのかも。
    だから夢の描写がよく似合う。

  • 不思議な読後感の本です。
    現在,原発が問題になっていることもあり,風力発電の風車の話が印象に残りました。

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著者プロフィール

1945(昭和20)年、福岡県北九州市八幡生まれ。1987年「鍋の中」で芥川賞を受賞。1990年『白い山』で女流文学賞、1992年『真夜中の自転車』で平林たい子文学賞、1997年『蟹女』で紫式部文学賞、1998年「望潮」で川端康成文学賞、1999年『龍秘御天歌』で芸術選奨文部大臣賞、2010年『故郷のわが家』で野間文芸賞、2014年『ゆうじょこう』で読売文学賞、2019年『飛族』で谷崎潤一郎賞、2021年『姉の島』で泉鏡花文学賞をそれぞれ受賞。ほかに『蕨野行』『光線』『八幡炎炎記』『屋根屋』『火環』『エリザベスの友達』『偏愛ムラタ美術館 発掘篇』など著書多数。

「2022年 『耳の叔母』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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