巡礼

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104061112

作品紹介・あらすじ

いまはひとりゴミ屋敷に暮らし、周囲の住人たちの非難の目にさらされる老いた男。戦時下に少年時代をすごし、敗戦後、豊かさに向けてひた走る日本を、ただ生真面目に生きてきた男は、いつ、なぜ、家族も道も、失ったのか-。その孤独な魂を鎮魂の光のなかに描きだす圧倒的長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 「橋本治は天才だ」との評をいくつか目にしたことがあります。
    ゴミ屋敷を扱った本書は,橋本氏だからこそ傑作に仕上がったのだと感じました。ゴミ屋敷をつくり出した忠市の心理描写や時代背景,家族など刻々と移り変わっていく様の描写が,坦々とした内容であっても僕の中に入ってくる感じを受けました。
    登場人物すべての心理が理解でき,普通の脇役が主役であり,主役が脇役というような不思議な感覚で,視点や時代の巡る流れが面白かったです。
    これを機会に,橋本治ワールドへ足を踏み入れたいと思います。

  • 後半が見事。ゴミ屋敷を作り上げてしまった人にも人生があったのだ。

  • とても深い内容の本だった。

    ゴミ屋敷、片付けられない症候群、そんな言葉はよく聞くけれど、その裏に込められている個人個人の意識や事情まで今まで考えた事がなかった。

    結婚もうまくいかず孤独な忠市は、幼くして死んだ自分の息子の名を母親から久しぶりに聞いて一瞬誰の事か解らなくなる。それだけ読めば、酷い父親だと思ってしまうけれど、次にこう書いてあってハッとした。

    ”「それを分かれば涙が出る」ーそう思う心が、記憶の蓋を閉ざした。”

    悲しい時間の中で止まっている忠市は、自分が他人から「ゴミ」だと言われるものを集めていることが無意味な事だと頭では分かっている。ここでも「分かっているなら止めたらいいのに」と思ってしまうけれど、彼にとってはそんな簡単な事じゃない。
    自分が意味のあることをしていると思いたい彼の心情が、無駄を省いた文章に強く表れていた。

    忠市と弟、修次の食事に関する記載がとても良いと思った。
    初盤、中学を卒業した忠市の祝いで、尾頭付きの鯛が出た時に、忠市はそれを弟の修次に分けてやった。
    終盤、修次の助けによりゴミ屋敷から出た忠市は、修次との旅中に精進揚げをうまいと喜び、そんな兄に修次は自分の分も勧める。でも忠市は修次に食べさせる。

    いろいろな事が重なって別な方向の人生を歩んだ2人だけれど、互いへの愛情は変わっていない、この最後のシーンはそんな風に思えました。少し悲しい終わりかただけど、きっとこれで良かったんだと思う。

  • 「ゴミ屋敷」の特集は、TVで何度か見たことがあった。
    でも、なぜ人がゴミを集めてしまうのか、納得がいかなかった。
    でも、この小説を最後まで読んで、
    このような理由からゴミを集める人もいるのかもしれないと
    初めて納得がいった。

    人は、頭で分かっていることを、
    必ずしも実行できるわけではない。
    それは意志が強いとか弱いとかそういう問題ではなくて、
    こみあげてくる不安とどう向き合うかという
    問題なのではないかと思う。
    それをこの小説はとてもよく描いていたと思う。
    主人公の不安や焦燥感や絶望が分かるから
    読んでてやりきれない気分になった。

    ラストは、一瞬「え、こうやって終わるの?」と思ったけど
    ラスト二行を読んで、この終わり方でよかったと思った。

    橋本治の文章は、理屈っぽいというか
    観念的というかで、ちゃんと読んでないと
    分からなくなってしまうことも多々あったけど
    中盤から読みやすくなった。
    久しぶりに重~い作品を読んだけど
    最後まで読んでよかったと思った。
    いい作品だった。

    • christyさん
      >reader93さん、この作品、本当にいい作品でしたよ~。もうぜひ、ぜひおすすめです。ものすごく奥の深い作品でした。タイトルの「巡礼」とい...
      >reader93さん、この作品、本当にいい作品でしたよ~。もうぜひ、ぜひおすすめです。ものすごく奥の深い作品でした。タイトルの「巡礼」というのも、最後で納得のできるタイトルでしたよ。
      最初のほうの文体が読みづらくてイライラして、やめたくなるのですが、途中から変わってきますので、前半だけ我慢して読んでもらいたいです。これで、またブック倶楽部したいですね~。
      2012/03/24
    • reader93さん
      これ読み終えました。何だかとても考えさせられる本でした。自分を忠市の状況に置き換えると胸がしめつけられそうでした。ラストはそうくるか〜!と思...
      これ読み終えました。何だかとても考えさせられる本でした。自分を忠市の状況に置き換えると胸がしめつけられそうでした。ラストはそうくるか〜!と思いました。でもchristyの書かれたとおり、この終わり方で良かったのでしょうね。忠市が最後に弟と一緒で良かったと思います。
      2012/07/01
    • christyさん
      >reader93さん、reader93さんのレビューも読みました。とても的確に表現されてて、「そうそう」と思いながら読みましたよ(笑)。自...
      >reader93さん、reader93さんのレビューも読みました。とても的確に表現されてて、「そうそう」と思いながら読みましたよ(笑)。自分では言語化できなかったので!
      この作品は本当に深いですよね。喪失感とか孤独とか、誰もが体験するものをどう自分の中で消化、あるいは浄化させるかというのが、大切なことなんだなあと思いました。また、やはり人を支えるのは人の愛情なんだなあと強く思った作品でもありました。
      2012/07/02
  • 数か月前の日経新聞のコラムで紹介されていた。
    ごみを撤去して終わりではない。
    当事者が抱える課題に目を向けることが大切だ、と。

    確かにそれは正しいのだとは思うのだけど。。。
    ごみ屋敷の主が抱える「課題」とは一体何なのか、
    それを理解すること自体の難しさを、本書を読んで感じた。

    私は幸か不幸か、自分の人生の意味に悩むことはないのだけど、
    その種の悩みはおそらく珍しいものではないだろうし、
    ゴミを集め続ける以外の形で、
    誰しも似たような一面は持っているのかもしれないと思った。

  • 構成に感動した素晴らしい小説。

  • ゴミ屋敷に住む独居老人。彼がなぜ他人を寄せつけず、ゴミを集めるようになったかが描かれた小説。

    ゴミ屋敷のご近所さんの人間模様が描かれる1章、ゴミ屋敷の主人がなぜそうなってしまったのかを過去から辿る2章、そして主人が自分を取り戻しはじめる3章で展開されます。

    いち凡庸な青年のいたって普通な人生が、戦後社会の変貌、価値観のゆらぎ、人間関係のトラブルなどの小さなつまづきから、少しずつしかし確実に歪んでいく様がスリリングでした。胸が痛くなりつつもページをめくらずにいられない面白さです。

    固執というものは、一見それと関係がなさそうなところに因果があるかもしれません。ゴミ集めでなくても、自分の中の偏執的な部分を紐解くと、フタをしていた「理由」がきっと見えてきます。それを見つけること、見つめることはとても恐ろしいですが、私個人としても今後の人生の中でトライしていきたいことの一つです。自分自身を知ることや考えることを諦めて、生きることが「作業」になってしまわないように。

  • 橋本さんはまなざしの温かいひとだけど
    ウェットではないな~とあらためて思った

    生きる意味ってあると思う人にはあるし
    無いと思う人にはないんだ

    意味が無いと生きられない?
    意味が無くても生きるには
    意味の有無を考えなければいいの?

    そういう生き方は幸せ?

  • 社会から隔絶してしまった老人を中心に据え、その一生を家族関係、さらには社会の激変とともにリアルに描いている。最後に兄弟という親も子供も介在しない家族(と民間信仰、と言うべきか)による「救い」の訪れも描く。商業高校に合格した主人公を家族四人が「尾頭付き」で祝う場面は、ささやかで貧しいが「家族の幸福」というものが確かにあったことを示す。そこで「尾頭付き」をほぐして兄が弟に与える場面が、最後に訪れる救いの伏線のようにも思えた。
    勝手な感想になるが、「老い」のありようを描こうとしたとき、橋本治が『恍惚の人』を思い返さなかったはずはないと思う。有吉佐和子は70年代初頭中流サラリーマン家庭での「老い」をめぐる騒乱を、昭子という「長男の嫁」中心の視点から、単焦点的かつリアルに描いた。いっぽう橋本さんは、迷惑な他者である「ゴミ屋敷老人」を複眼的に各時代のなかに位置付け、彼が家族を失う過程や、「家業とその跡取り」が意味を失っていくことなどと老人の内面を結びつけて、彼を理解しようと試みているように感じる。
    80年代のコラム?で、橋本さんは「呆け」を描いたドキュメンタリー映画の評を書いていた。自分の記憶のかぎりでは、「老い」への基本的な視点はその評と変わっていないようにも思う。

  • 空き家問題に付随するゴミ屋敷と目される現代の社会問題がこの物語の中心を成しています。ゴミ屋敷に住む人とその周辺の住人たちを状況を対比させ、その人たちの過去から現在に至った過程を描いています。
    ゴミ屋敷の住人である下山忠市は戦前に生まれ、戦後に思春期を迎えた世代。突然の世の中の価値観の転換に戸惑いながらも、高度成長時代を実家である丸亀屋を維持して生きてきました。その彼の一生を追う形で物語は進んでいきますが、昭和という年代とともに生きた彼の一生がノスタルジーを醸し出しています。
    何故、ゴミに埋もれて暮らすようになったのか今に至る心境と、その周辺の住人たちの戸惑いや苛立ち、怒りなどの心理の動きが橋本治さん特有の詳細な分析による筆致で書かれています。終章の「巡礼」の部分で物語は解決を見ますが、晩年のこの辺りの心境などあっさりしていてもう少しじっくり書いて欲しかった気がします。
    最後に橋本治さん、亡くなるのが少し早かったのでは…
    もっとこの先活躍して欲しかったと思います。

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著者プロフィール

1948年東京生まれ。東京大学文学部国文科卒。小説、戯曲、舞台演出、評論、古典の現代語訳ほか、ジャンルを越えて活躍。著書に『桃尻娘』(小説現代新人賞佳作)、『宗教なんかこわくない!』(新潮学芸賞)、『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』(小林秀雄賞)、『蝶のゆくえ』(柴田錬三郎賞)、『双調平家物語』(毎日出版文化賞)、『窯変源氏物語』、『巡礼』、『リア家の人々』、『BAcBAHその他』『あなたの苦手な彼女について』『人はなぜ「美しい」がわかるのか』『ちゃんと話すための敬語の本』他多数。

「2019年 『思いつきで世界は進む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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