本格小説 上

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著者 : 水村美苗
  • 新潮社 (2002年9月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (469ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104077021

本格小説 上の感想・レビュー・書評

  • 本読みの友2人からのご推薦で、図書館の返却期限が迫った本や急ぐ本などを片づけ、準備万端ととのえて、いざ読む。けっこうなボリュームの上下巻(上が460ページ余、下が400ページ余)をついつい夜更かしして読みふけり、起きたらまた読んで、読み終わったら、とてつもなく眠くなって3時間ほど昼寝した。

    17歳から女中としておハイソな家へ仕えた土屋冨美子の「語り」、がこの長大な小説のメインと言っていいが、その冨美子の話を「いま」聞いているのが、軽井沢の別荘に迷いこんだ加藤祐介という若い編集者で、その祐介が、冨美子に聞いた話を作者である水村美苗に語る、という入れ子のようなつくりになっている。

    冨美子の話の主なところは、自分の仕えた三枝家とその三枝家と浅からぬ関係となった男・東太郎のことである。作者の水村美苗は、その東太郎が父の仕事関係の人間であったことから子どもの頃に会っている。作者が知る東太郎はアメリカに渡って、アメリカ人のお抱え運転手から出世して億万長者になった伝説の人物だが、アメリカへ渡る以前の東太郎には全く異なる境遇の過去があった、という部分が冨美子の話でずっとずっと語られる。

    作者の水村美苗が作中に登場することや、かなり長い導入話に「東太郎という名は実名である」とか「私の書こうとしている小説は、まさに「ほんとうにあった話」」といった記述があるために、これは伝記小説なのか?とも思ったのだが、どこまでがフィクションなのか、どこまでが事実なのか、読み終えて判然としない。

    ただ、40年あまりの時間のなかで、作中の関係者がどのような暮らしをしてきたのか、世代のうつりかわり(婆さんの世代、娘の世代、孫娘の世代)と、戦後ぞくぞくと人が都会に出たことや、アメリカという言葉に今から想像もできない魅力があったことなど時代の変化もまじえたその話は、やめられないおもしろさだった。

    水村美苗に、東太郎の話(を語った冨美子の話)をしにきた祐介は私と同い年という設定だった。祐介は26歳のときに冨美子さんの話を聞いている…ということは、この話を聞いてる時点は1995年頃のことやなと思いながら読む。

    東太郎は、アメリカへ渡る前、冨美子にこう語ったという。「自分は宇田川家に出入りするうちにああいう家にすっかり染まってしまい大学を出て医者になろうなどと考えるに至ったが、そんな風に考えること自体が間違っていた。日本で自分のような出生の者がまともな人生を歩もうとしたら、まともな人生をいかに人並みに歩めるかだけが最終目標になってしまうにちがいない、人並みになることが最終目的であるような人生は歩みたくない」(下p.153)と。

    東太郎は満州で生まれ(父は中国人だという)、母が死んだために叔父の東家にひきとられる。東家が引き揚げてきて住まいを頼ったところは、冨美子の仕える宇田川家の家作に住んでいたおじいさんで、太郎が母や兄からひどく虐待を受けていることを憂慮した宇田川家のおばあさまが、「手伝い」という名目で太郎を来させ、孫のよう子と一緒に遊ばせ、将来は学費も出してやると約束をしていた。

    昭和12年うまれという冨美子もまた苦労して育った。養蚕農家は苦しい時代になり、父は出征して戦死、母は父の弟と再婚し、長女だった冨美子は新しい父になじめず、自分の居場所はこの家にはないという気持ちを抱えていた。

    その冨美子が東京へ出て働くきっかけをつくってくれた源次オジは、こう言ったという。
    ▼女はむずかしいね。おまえのお母さんはね、頭も顔も並だからそこそこの人生で満足がいって始末がいい。だがね、どっちかがよくって、どっちかが悪いと不幸だね。頭より顔のほうがいいと、自惚れちまって高望みして失敗する。顔より頭のほうがいいと、高望みはしないけど... 続きを読む

  • 読了。下巻に感想を書きます。

  • ふむ。これから、なのかな?

  • これだけの濃密な世界を作り出せる筆者に感嘆。世界に、引っ張り込まれてしまった。

  • +++
    ある夜、“水村美苗”は奇跡の物語を授かった。米国での少女時代に出逢った実在する男の、まるで小説のような人生の話。それが今からあなたの読む『本格小説』…。軽井沢に芽生え、階級と国境に一度は阻まれた「この世ではならぬ恋」がドラマチックに目を覚ます。脈々と流れる血族史が戦後日本の肖像を描く。
    +++

    本格小説というタイトルだが、まず「本格小説の始まる前の長い長い話」という章があり、水村美苗のアメリカ滞在中の少女時代のあれこれが描かれていて、それがこの小説を書くきっかけになったのだという。初読みの著者なので、どんな仕掛けが隠されているのか皆目想像がつかず、自伝のような出だしに少なからず戸惑う。本編(?)が始まってからは、物語に惹きこまれはするが、冒頭の章がどうかかわってくるのかが気になったまま、上巻は終わり、物語の主人公・東太郎のこの先の生き方も気になるが、どんな構成になっているのかも気になって仕方がない。早く下巻を読みたくなる一冊である。

  • 2014.11.08 蒼井優さん推薦

  • 下巻とあわせると結構な重厚感!
    長い長い前書きでだれてしまい、一度心が折れました。
    東太郎が登場してからは一気読み。
    戦後日本、軽井沢が舞台の小説。大好きです。秀逸!

  • 途中まで、少しずつ読んでいましたが、
    フミ子が登場するあたりから、俄然続きが気になり、一気にラストまでつまみ読みしてしまいました。

    一通り読み終わった感想は、釈然としない面はあるものの、久しぶりに重厚な小説を読んだ気がしました。
    面白いです。

    下巻もじっくり読んだ上で、改めて感想を書きます。

  • 単身アメリカに渡り、ある金持ちの運転手から始まり、数十年後には、億万長者になった東太郎。その裏には、とんでもない恋話があった。

    この本の著者と同じ名前の人物が登場し、その人がこの本を書いたっぽいことになっている。東太郎が軸として物語が進むが、上巻はほとんど前置きみたいな感じだったので、退屈だった。

  • 英訳が出たという記事をみて、思い出して再読したが、やっぱり面白くて一気に読んでしまった。

  • 感想は下巻に。

  • NYで著者の少女時代に現れた謎の日本人お抱え運転手・東太郎。彼が不思議な雰囲気を持ち、正にヒースクリフの暗さを持った人物として登場する。そして著者・水村早苗の前に年月を経て現れた日本人青年が日本で聞いた不思議な話を語り始める。出だしからして期待感を抱かせます。嵐が丘の現代版ともいうべき内容が日本の戦後の変化を描き、リアリティーを感じさせてくれます。

  • 読売文学賞受賞! 生まれながらにして究極の古典、と絶賛された大長編。導入までの長い長い話の後、ニューヨークで、運転手から実力で大金持ちとなった伝説の男・東太郎の過去を、三姉妹の夏絵の住み込み女中冨美子の目を通して、伯父の継子として大陸から引き上げてきた太郎が、隣家の恵まれた三姉妹の夏絵次女・よう子との幼い出会いまでを、混乱の戦後から、まだ優雅な階級社会が残っていた昭和の軽井沢を舞台に、描かれる。

  • 日本版嵐が丘を書くにいたった経緯の部分がずいぶん長かったけど面白い。
    作者の小説は「母の遺産」を先に新聞で読んでいたが、
    二人姉妹の名前や両親の関係など共通点も多く、千歳船橋という
    地名も登場して、まるで作者のプロフィールを垣間見たような、
    いや、そう思わせながら全くの創作なのかもしれないと思ったり。
    翻弄されつつそれも楽しいなと思えた。

  • 日本版「嵐が丘」。まさに本格小説。

    導入が退屈、長いという話を聞くが、美苗という作者とおぼしき女の子が出てくるこの部分もとても好きだ。メインの物語とは思わぬつながり方をするのだけど。

    何よりも日本語が美しい。最近の作家さんの文章は軽くてちょっと、という方におすすめ。上巻は薄暗く黴の匂いの漂う昭和初期(だったかな?)の昔はぶりのよかった上流家庭を舞台に、疎外された少女と少年を軸に物語は進みます。この薄暗さ、圧迫感、重厚感、たまりません。物語の深く、奥深くまでずるずると引きずり込まれていく幸福感。ストーリーもおもしろいので、ぐいぐい進んでしまいます。

  • アメリカで財をなした、東太郎という人の数奇な運命を描いたお話。物語は作者の私小説風に始まります。

    上巻は正直言ってちょっとだれた感じがしましたが、後半、東太郎が主人公になってからはぐいぐい引き込まれて、一気に読了しました。
    お話は、東太郎のことだけでなく、その周囲の人々のエピソードがちりばめられていて、読んだ後日本人としてすごく複雑な気持ちになりました。
    しっかりした長編が読みたい方にお勧めです。

  • 実力、筆力高いなぁ。辻邦生が相手にするだけはある。

  • 軽井沢などを舞台とした作品です。

  • 何度めだろうか。社会人になってからは初めて読んでいる。この引き込まれていく感じは変わらない。変わったのは、「余分な脇役」、「入れ子の意味のない中間層」だった祐介が、今の私にとっていちばん身近に感じられたことかな。

  • 【配架場所】 図書館1F 913.6/MIZ

  • 読売新聞の土曜に連載されている小説で初めて水村作品に触れました。気になっている作家ではありましたがなかなか読むチャンスがなく、新聞小説(毎日のは読んでないのですが)は新しい作家に出会ういい機会になります。丁寧で丹念に書かれていますが、決してくどくも無駄に長くもなく、よいです。舞台や登場人物も魅力的で下巻も楽しみ。

  • ものすごい力作であることは間違いないです。
    衝撃のラストが蛇足って思ってしまうのがちょっと残念。ラストがなくても傑作です。

  • おそらく下巻で始まる、昭和の大河ドラマの導入部。
    評価は下巻でしましょう。

    導入までが、長いかな。
    ちょっと前までの日本。

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