音楽は自由にする

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104106028

作品紹介・あらすじ

幼稚園での初めての作曲。厳格な父の記憶。高校でのストライキ。YMOの狂騒。『ラストエンペラー』での苦闘と栄光。同時多発テロの衝撃。そして辿りついた、新しい音楽-。2年2カ月にわたるロング・インタヴューに基づく、初の語りおろし自伝。

感想・レビュー・書評

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  • 月刊誌『ENGINE(エンジン)』に連載されていた、坂本龍一の語りによる自伝である。
    同誌の編集長が、坂本の幼年期から現在までを時系列順にインタビューしてまとめている(それにしても、なぜ自動車専門誌に「教授」の自伝が連載されたのかね?)。

    坂本の語りによる自伝といえば、1989年刊の『SELDOM-ILLEGAL――時には、違法』がある。本書は、あの本と比べてはるかにきちんとした自伝になっている。

    『SELDOM-ILLEGAL』は、くだけた口調で語られた、まとまりのない雑然とした内容だった。
    それに対し、本書は生真面目な印象の本で、「自分のこれまでの人生をきちんと記録しておこう」という坂本の意気込みが伝わってくる。「インタビュー中にはこのへんで笑いが入ったのだろうな」と思わせる箇所にも、「(笑)」は一切入っていない。『SELDOM-ILLEGAL』が「(笑)」だらけだったのとは対照的だ。脚注も豊富でていねいである。

    前半では、中・高・大学時代の青春模様が面白い。
    坂本とほぼ同世代の四方田犬彦が読書体験を中心に高校時代の思い出を綴った『ハイスクール・ブッキッシュライフ』という本があったが、あれの坂本版という趣がある。1960年代から70年代にかけての時代の空気――とくに、東京の知的な若者たちの世界の空気――をヴィヴィッドに伝える。

    ドビュッシーにのめりこんで「自分はドビュッシーの生まれ変わりのような気がした」とまで思う様子(中学時代)とか、自民党の塩崎恭久(安倍晋三内閣の官房長官)と新宿高校時代の親友だったという話(塩崎のことは『SELDOM-ILLEGAL』にも出てくるが、あちらではSというイニシャル扱い)とか、武満徹との出会い(大学時代)とか……。
    さすがに坂本は文化的にゴージャスな青春を送っているなあ、と思う。

    YMO時代の話は、いちばんメディアで取り上げられた時期なので、すでにどこかで読んだり聞いたりした話が多い。それでも、取り上げる角度が違うから面白く読める。

    KYLYNバンドやカクトウギ・セッションの話、りりィのバイ・バイ・セッション・バンドにいたときの話などは、ただの一行も出てこない。
    YMO前後の坂本の豊富なセッション・ワークの舞台裏は、それ自体が優に1冊の本になり得るものだと思うので、このへんはちょっと残念。

    YMO時代、坂本が雑誌のインタビューで、「ミュージシャンとしてレコーディングに参加したなかでいちばん印象に残っているのは、矢沢永吉の『ゴールド・ラッシュ』だね。彼のやっている音楽はぼくとはまったく違うけれど、人を惹きつける強い魅力の持ち主だと感心した」という発言をしていた(細部はうろ覚えだが主旨はこのとおり)。
    そのように、セッション・ワークを通じて坂本の意外な一面が浮き彫りにできたはずなのだが……。

    また、10年以上にわたって生活を共にし、戸籍上は20年にわたって妻であった矢野顕子についての話も、ほとんど出てこない。現在のパートナーに対する配慮からだと思うが、矢野ファンの私としてはこの点も残念だ。

    後半はソロアルバムそれぞれの舞台裏と、『ラスト・エンペラー』を筆頭とする映画音楽作りの舞台裏が中心となる。
    YMO再結成(1993年)当時のメンバー3人の仲はじつは険悪だった、という話など、興味深い裏話も多い。

    私がいちばん好きな坂本のソロアルバム『音楽図鑑』は、坂本自身も非常に力を入れて作ったものであることが改めてわかり、「やっぱりなあ」と思う。
    いっぽう、160万枚売れた大ヒット曲「エナジー・フロー」は「さらさらっと5分くらいで作った」曲だとわかり、これも「やっぱりなあ」と思う(笑)。

    本書で最もスリリングなのは、坂本にアカデミー作曲賞をもたらした『ラスト・エンペラー』の舞台裏を明かしたくだりである。

    監督のベルナルド・ベルトルッチは、俳優として撮影に参加していた坂本に、突如「音楽も作ってくれ」と依頼してきたのだという。しかも、期限は1週間(!)。坂本は、それはさすがに無理だと2週間にしてもらい、徹夜つづきで44曲を完成させ、過労で入院する。ところが……。

    《試写の日、完成した映画を観て、ぼくは椅子から転げ落ちるくらい驚きました。
     ぼくの音楽はすっかりズタズタにされて、入院するほどまでして作った44曲のうち、使われているのは半分くらいしかなかった。(中略)それぞれの曲が使われる場所もかなり変えられていたし、そもそも映画自体がずいぶん違うものになっていた。もう、怒りやら失望やら驚きやらで、心臓が止まるんじゃないかと思ったほどです》

    黒澤明もそうだが、巨匠と呼ばれる監督と一緒に映画を作るのはたいへんなことなのである。
    坂本はその後もベルトルッチ作品の音楽を手がけているから、この事件で決裂したわけではないのだが……。

    坂本ファン以外の人が読んで面白いものではないだろうが、ファンにとっては必読の書だ。

  • NHK Eテレ2012年2月12日(日) 夜10時放送予定
    ETV特集 坂本龍一 フォレストシンフォニー 森の生命の交響曲

    楽しみにしています。。。

  • 関ジャムの坂本龍一特集の中で紹介されていた。
    中高校時代、おニャン子クラブなど、下手な歌のアイドルに嫌気が出て、Beatlesなどの洋楽やYMO、音楽図鑑、未来派野郎などに傾倒してアルバムやCDを本当に毎日聴いていた。
    正直その時は坂本龍一のアルバムはそれぞれ全然違うなぁ。とは感じて不思議におもっていたが、その時の環境など作品の背景が分かった。
    また、以前テレビで自分の思いを言葉にする事はできないが、音楽なら出来る。的な発言をしていた。ファンではありつつ、本当に?と言う気持ちもあったが、今回随所にこの曲を聴くと当時の自分の気持ちを思い出すと言う事が書かれていて、本当だったんだ。やっぱり凄いな。と改めて感じた。

  • この自伝で語られる坂本龍一という男は、実に不思議な存在だ。時代を常にリードしてきた人物でありながらそんな野心はなかったみたいだし、文化人が一目置く知性の持ち主でありながら彼自身が著名になりたいというエゴもなかったみたいだ。いつも受動的で、音楽や文化の盛衰の波に揉まれているうちにその乗りこなし方を覚えて、そうしているとあれよあれよとスーパースターになっていく。実にうらやましいんだかなんだかよくわからない人生だが、ともあれそんな生き方だからこそポップスからクラシックまで幅広い領域を横断できることは間違いない?



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    【要約】


    【ノート】
    ・文化的な背景がまったく違うところの音楽は、聴いてもほとんど分からない。ポップミュージックという共通の基盤(P130)

    ・バリ島にはプロのミュージシャンは一人もいない。〜すごく自覚的に、音楽を商品化しないようにしている。〜共同体が長い時間をかけて培ってきた音楽には、どんな大天才も敵わないと思うんです(P187)

  • 【抜粋】
    (p18)表現というのは結局、他者が理解できる形、他者と共有できるような形でないと成立しないものです。だからどうしても、抽象化というか、共同化というか、そういう過程が必要になる。すると、個的な体験、痛みや喜びは抜け落ちていかざるを得ない。そこには絶対的な限界があり、どうにもならない欠損感がある。でも、そういう限界と引き換えに、まったく別の国、別の世界の人が一緒に同じように理解できる何かへの通路ができる。
    (p91)電子音楽に興味を持っていたのは、「西洋音楽は袋小路に入ってしまった」ということのほかに、「人民のための音楽」というようなことも考えていたからなんです。つまり、特別な音楽教育を受けた人でなくても音楽的な喜びが得られるような、一種のゲーム理論的な作曲はできないものかと思っていた。

  • 坂本龍一さんは社会の中で何かに所属するということが想像できず、いいかげんな学生の身分のままでいたかったから大学院に進んだけど、全く授業には出なかったらしい。YMOに入る前はフリーターで日雇い音楽の仕事で自暴自棄に忙しくしていて、自分を未決定な宙吊り状態にしておいたのは何かの予感があってのことだったのだろうと語っていた。未決定でありたいと直感的に思うなら、そういうことだと未決定であることを肯定することも大事だと思った。受け身で人生ここまできたと言う。自分から始めたものはあまりないと。ラッキーな人間だと。その要望に十分に応えることのできる力を蓄えた少年時代があってからこそ求められた人生なのだと思う。今、自分が求められないなら、力をつける。

  • こんなに様々なジャンルを往き来するアーティストが他にいるだろうか?
    視点の広さに常に驚かされます。
    続編希望!続きも語ってほしいですね。

  • 新潮で連載されている「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」を読んで、それ以前の坂本龍一を知りたくなり手に取った。読んでみると抱いていたイメージとは違う面があったり、YMOやBTTB、戦メリやラストエンペラーの逸話が知れて面白かった。

  • 坂本教授の自伝的エッセイ。
    YMOのあたりなど意外な事も。

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著者プロフィール

さかもと・りゅういち:1952年東京生まれ。3歳からピアノを、10歳から作曲を学ぶ。東京藝術大学大学院修士課程修了。78年にソロ・アルバム『千のナイフ』でデビュー。同年、細野晴臣、髙橋幸宏とともにYMOを結成し、シンセサイザーを駆使したポップ・ミュージックの世界を切り開いた。83年の散開後は、ソロ・ミュージシャンとして最新オリジナル・アルバムの『async』(2017)まで無数の作品を発表。自ら出演した大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』(83)をはじめ、ベルトルッチ監督の『ラスト・エンペラー』(87)、『シェルタリング・スカイ』(90)、イニャリトゥ監督の『レヴェナント』(2015)など30本以上を手掛けた映画音楽は、アカデミー賞を受賞するなど高く評価されている。地球の環境と反核・平和活動にも深くコミットし、「more trees」や「Stop Rokkasyo」「No Nukes」などのプロジェクトを立ち上げた。「東北ユースオーケストラ」など音楽を通じた東北地方太平洋沖地震被災者支援活動もおこなっている。2006年に「音楽の共有地」を目指す音楽レーベル「commmons」を設立、08年にスコラ・シリーズをスタートさせている。2014年7月、中咽頭癌の罹患を発表したが翌年に復帰。以後は精力的な活動を続けた。2021年1月に直腸癌の罹患を発表し闘病中。自伝『音楽は自由にする』(新潮社、2009)など著書も多い。

「2021年 『vol.18 ピアノへの旅(コモンズ: スコラ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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