生命の意味論

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 22
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  • Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104161010

作品紹介・あらすじ

私はどうして私の形をしているのか。遺伝子が全てを決定しているというのは本当か。男と女の区別は自明なのか-。「自己」とは何かを考察して大きな反響を呼んだ『免疫の意味論』をさらに発展させ、「超システム」の概念を言語や社会、都市、官僚機構などにも及ぼし、生命の「全体」にアプローチする画期的な試み。

感想・レビュー・書評

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  • 「免疫の意味論」に続いて読了。
    本書も大変良質で専門的な内容だがとても面白く分かりやすい。重要な箇所は何度も繰り返し言及してくれる。自己、非自己、多義性、冗長性、あいまいさ、自己多様化、自己組織化、アポトーシス...刺激的なキーワードに引っ張られてどんどん読み進む。
    生命の超システムの原理が言語、都市、政治形態、民族、国家、企業大学等組織にも働いているとの説に納得。本来目的はなく自己組織化する超システムである、システムの意思はシステム自体が「自己決定」する等々。社会的組織の生成や発達の理解や分析にも非常に参考になる。
    母親の胎内での発達過程で男性ホルモンにさらされたか否かで男性になるならないだけでなく性自認や同性愛にも明確に影響するそうで決して後天的なものではないとのこと。LGBTQの理解も深まる。
    そもそも生命の「意味」とは何だろうか?事物がそこに存在するだけでは「意味」はない。人間が意味、意義を見出して初めてそこに「意味」が生じる。「有意味」「無意味」は現象論ではなく人間の営みの結果である。価値ありと判断した事物は「意味」ありとする。では価値とは何か?誰にとっての価値か?やはり哲学的な書物である。科学者は哲学的思想というペーソスを持ち合わせなかったら創造的な発見などできないだろう。

  •      ―20081023

    私はどうして私の形をしているのか。遺伝子が全てを決定しているというのは本当か。男と女の区別は自明なのか―。
    「自己」とは何かを考察して大きな反響を呼んだ「免疫の意味論」を発展させ、「超システム」の概念を言語や社会、都市、官僚機構などにも及ぼしつつ、生命の全体にアプローチする。

  • 免疫の意味論に続く多田富雄の超システム論。内容は前著と
    そう変わらない印象だったが、最後の第十章はかなり胸に
    響くものがあった。正直言うとこの第十章の先の考察を読み
    たかったのだが。官僚制に対する洞察は今この時代にこそ
    注目しなければならない気がした。

  •  私はどうして私の形をしているのか。遺伝子が全てを決定しているというのは本当か。男と女の区別は自明なのか―。
     あらかじめ決められたシステムではなく、後天的に自己に言及しながら自己生成していくシステム、即ち、超システム。その例として免疫系、脳神経系、個体発生などが取り上げられ、解説・論考されていきます。この本は専門的知識がないと、読むのは決して易しくありません。私にとってはこの本は難易度が高く、かなり集中力がいりました。ですが、この本は10章からなり、1章1章が続編ではなくわかれて書かれています。なのでまずは興味を惹かれた1章からでも手に取ってみてください。
     私は特に8章、老化―超システムの崩壊に魅力を感じました。細胞の寿命テロメア、神経細胞のアポトーシス、自己抗体による超システムの破壊。昔から、老いは若く美しいとは対照に醜いものと考えられ、詩や能で表現されてきたと記されている。だが、わたしはこの本を読んで死は決して醜いものではないと感じました。
     この本の筆者である、多田先生の前作、免疫の意味論の続編となっています。免疫の意味論をすでに読んだ方には是非、読んでない方も、是非手に取ってみてください。

    PN スピカ
    所蔵 本館2階東閲覧室(自然科学系) 461.04||Ta -, 本館1階西書庫 461.04||Ta -, 蔵本2階生命科学閲覧室 461.04||Ta -

    • tokudaidokusho2さん
       私もこの本を読みました。私は生物選択だったので、生物の授業を懐かしく思いながら読んでいました。私はウイルスが生きているのか死んでいるのかそ...
       私もこの本を読みました。私は生物選択だったので、生物の授業を懐かしく思いながら読んでいました。私はウイルスが生きているのか死んでいるのかそもそも生物なのかということを考えるのがとても難しかったですが、とても考えさせられました。
       免疫の意味論は読んだことがないので、読んでみたいと思いました。

      PN べら
      2020/12/08
  • 免疫学の専門家が雑誌「新潮」に1995年から1996年にかけて連載した内容を加筆して1冊の本にまとめたもの。筆者の直接の専門領域をこえた生命科学研究全体からの生命現象の意味についてメッセージが込められている。

  • 『生命の意味論』(青土社)で、免疫のしくみを「超(スーパー)システム」ということばで説明することを試みた著者が、生命現象にかんする最先端の研究成果をわかりやすく紹介しながら、「超システム」という概念のもつより普遍的な可能性について論じている本です。

    著者は能についても造詣が深いことはよく知られていますが、能についての言及があったり、「超システム」という発想にもとづいて人間社会についての大胆な見取り図を提出したりと、『生命の意味論』よりもさらに闊達な議論が展開されており、科学者のエッセイとして秀逸な内容であるように思います。

  • 252円購入2014-01-05

  • 古い本だが今読んでも面白い。女は「存在」だが男は「現象」とか都市が生命体のように感じられる理由、超(スーパー)システムという捉え方が20年近く前にあった新しさ。

    [more]<blockquote>P35 (種の保存や個体の生存とかを目的とするならば)脳や免疫がここまで発達しなければならぬ理由はなかった。むしろスーパーシステムとして発達してしまったために、精神病や自己免疫疾患など様々な矛盾を内包するようになったということもできるだろう。スーパーシステムは、直接の目的を持たないシステムとして発達してきた。システム自体が自己目的化しているシステム。

    P56  生物がDNAの乗り物なのではなくて、DNAのほうこそ、生物という実態を持つようになったものが自己実現のために利用してきた乗り物のように見えてくる。人間はDNAという乗り物に乗ってこの世に現れ、その全機能を利用して生き、それを乗り捨ててこの世を去る。

    P64 日本住血吸虫の生活史。成虫は雌雄が交尾したまま肝臓の血管内に寄生し生涯卵をうみ続ける。卵は排せつされると、中間宿主であるミヤリガイに寄生し、セルカリアとなって人間の皮膚を通って再び人間の血管内に寄生する。

    P72 日本では「隔離」という思想はもともとはなかったのではないかと思う。(江戸末期か明治初期のド・ロ神父の赤痢患者救済活動)

    P77 人間の伝染病を眺めることによって浮かび上がってくるのは、DNA(時にはRNAの形で)を介して成立している生物系の相互関係、すなわちDNA生態系の存在である。そこには宿主と寄生体とは、互いに厳密な特異性をもった関係を形成しながら、一触即発の緊張のある生態系を構築し知得たのだ。環境のわずかな変化が、その生態系を変化させる。それが伝染病となって現れる。

    P116 女は「存在」だが、男は「現象」にすぎないように思われる。そのためであろう。男女の間には様々なあいまいな性が存在している。【中略】女と、その加工品である男だけと言う単純化された二つの生と、それによって営まれる生殖行動しか存在しないよりも、さまざまな間性と間性的行動をもった人間のほうが、生物学的にも文化的にもより豊かな種のように思われる。

    P211 生命は、DNAから細胞に至るまで、あいまいさに裏付けられて動いていた。実はそのあいまいさゆえに、生命は「回路」を外に開いて、動的に活動することができたのである。

    P226 バルセロナの都市構成を眺めてみたが、そこにもまたスーパーシステムの技法が流用されているようにわたしは思う。まず単純なもの(住居)の複製に続くその多様化、多様化した機能を基にした自己組織化と適応、内部および外部環境からの情報に基づく自己変革と拡大再生産等、いずれも高次の生命システムが持っている属性と共通である。
    </blockquote>

  • 初めて聞く用語ばかりだが、理系名著の多くは 複雑なものを 1つの言葉で単純化しているので、わかりやすい

    自己多様化→自己組織化→自己適応の流れは 仕事や人生にも応用できる。スーパーシステムは目的を持ってシステム化されたのではなく、スーパーシステム自体が目的であることも面白い

    「免疫の意味論」も読んだが、こちらの方が読みやすい

  • アポトーシスの不思議。
    性別の不思議。わざわざ「脱女性化」をして男性になる回りくどさ。男性はやっかいな手続きの末にようやく男になれる。この複雑な手続きには様々な手違いが生じうる。
    女にはX染色体が二本あり、一般にはその片方だけが働けば支障をきたさない。男はX染色体が一本しかないので、そこに遺伝的な欠陥があるとそのまま障害となって現れる。

    人類の祖先はアダムとイブのような一組の男女から生まれたのではなく、すでにネズミなど他の哺乳動物や類人猿などに存在していた、かなりの種類のMHCの多型性をそのままHLAが引き継いだ子になる。言い換えれば、HLA遺伝子を引き継ぐことができるほどの多数の個体が、突然人間に進化したという事になる。・・・交配可能な多数の祖先がある日突然地上に現れたという結論に達する。

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著者プロフィール

多田富雄(ただ・とみお、1934-2010) 
1934年、茨城県結城市生まれ。東京大学名誉教授。専攻・免疫学。元・国際免疫学会連合会長。1959年千葉大学医学部卒業。同大学医学部教授、東京大学医学部教授を歴任。71年、免疫応答を調整するサプレッサー(抑制)T細胞を発見、野口英世記念医学賞、エミール・フォン・ベーリング賞、朝日賞など多数受賞。84年文化功労者。
2001年5月2日、出張先の金沢で脳梗塞に倒れ、右半身麻痺と仮性球麻痺の後遺症で構音障害、嚥下障害となる。2010年4月21日死去。
著書に『免疫の意味論』(大佛次郎賞)『生命へのまなざし』『落葉隻語 ことばのかたみ』(以上、青土社)『生命の意味論』『脳の中の能舞台』『残夢整理』(以上、新潮社)『独酌余滴』(日本エッセイストクラブ賞)『懐かしい日々の想い』(以上、朝日新聞出版)『全詩集 歌占』『能の見える風景』『花供養』『詩集 寛容』『多田富雄 新作能全集』(以上、藤原書店)『寡黙なる巨人』(小林秀雄賞)『春楡の木陰で』(以上、集英社)など多数。


「2016年 『多田富雄のコスモロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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