ニッポニアニッポン

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (158ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104180028

感想・レビュー・書評

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  •  「時代を感じられる小説を三冊紹介してくれないでしょうか?」友人にそんな話を持ちかけてみました。
     そしてゼロ年代から10年間隔での紹介なので、合計9冊を紹介してもらえました。
     
     そのうちのゼロ年代の二冊目が本書でした。

     内容は、ニッポニアニッポン(トキ)に執着した10代後半の引き籠もり男性が主人公で、ネットで買い物をして、スタンガンやら凶器を購入して犯行を計画する話です。

     Amazonとかがまだ確立していない時代だからか、個人のサイトで買ったり、BBS(電子掲示板のこと笑)で銃器購入を募集したりします。
    ストーリーも展開がスリリングで始終ソワソワしっぱなしでした。その緊張感が面白いところでした。

     出てくる男性像は共感できることが多かったりしたのですが、一方で出てくる女性像はあまりにも清純過ぎていて、リアリティに欠けるのではないだろうかとも思ったりはしました。ですがまあ、自分も女性を特別視しがちです。

     文庫表紙のデザインがずっとQUEENの「オペラ座の夜」だよなあと思っていたら、しっかりと回収するところがスッキリしました。他にも回収されていた要素があったと読後に知りましたが、そこは分からなかったです。サブカルに詳しい方なら気づいてしまうかもです。

     時代を感じるのは、やはり「インターネット」ですが、他にも「引き籠もり」と「(ネット)犯罪」があるのかなと思いました。主人公は<オタク>ではないと私は思ったのですが、どうなんでしょう。

     いずれにせよ、カッコいい感じはしなかったです。サブカル的ではありましたが、それがクールまで迫っているかというとそうではないかなあと感じました。

    しかし、ラストへの流れこみが読みどころでした。面白かったです。

  • 10年ぶりに再読。前読んだ時は気付かなかった表紙の意味に気付く。

  • 再読。やっぱり大江健三郎の「セブンティーン」と被る。こういったルサンチマン物の定石で偏執さゆえの人格描写がコミカル。そのうえこちらの主人公はなんとも軟弱でそこにアベカズの愛を感じたりする。ボヘミアンラプソディの挿入もアホらしいほど仰々しくてその按配が実に面白い。この人大好きです。

  • 三島由紀夫の『金閣寺』的な物語の構図自体は好きだったのだが、なんだか全編ダイジェストのような文体で、抑揚がないし、愛情も感じられず、読みやすくはあるがいまいち感情移入できなかった。

    作者の個人的な想いというよりも「この小説によって世の中を批評してやろう」という作為を出発点にして描かれていて、物語中でもなにやら色々と揶揄しているのだが、そんなことが言いたいのなら小説にしないで新書でも書けばいいのに、と思った。

  • すごく間違った青春が畳みかけてくるラスト、
    どうなってもいい爽快感が清々しくて胸がきゅーっとなり泣けました。

    裏切られた私の予想の乏しさよ。
    凡人には到底辿り着けない領域に連れてってくれる本でした。


  • 普通の本

  • ニッポニアニッポン。トキの学名。
    17歳の鴇谷春夫(とうやはるお)は名前の「鴇」=「トキ」の符号からトキにのめりこんでいってしまう。暇なんだろう、たぶん。自ら起こしたストーカー事件のために地元山形から追い出され一人暮らし。そのうえ潤沢な仕送りをいいことに親には受験をすると偽りひたすらネットでトキの情報を漁る。

    調べていくうちに国産のトキは既に絶滅していて、今いるのは中国産であることを知る。「ニッポニアニッポン」という学名のせいでトキの繁殖事業には常に国家がつきまとうと春夫は感じる。さらに今いる中国産トキを用いることで、いずれテクノロジーが進めば日本産トキが蘇る……そんな記事を読むうちに春夫の妄想はどんどん加速していく。

    「トキ」=「自分」という符号により春夫はトキになりかわり義憤をおぼえる。人為的なミスによりトキを絶滅に追い込んだ国家のズサンさ。「外交的」「経済的」問題としてトキを描く国家のシナリオ。
    春夫は国家に翻弄されるトキの解放を誓う。逃がすか殺すか、あるいは飼うか。最終的な選択を保留したまま、着々と準備を整える。

    あらすじが長くなった。思った以上に緻密な小説なんだろう。
    表紙絵でもわかるとおり、この物語はネットというツールがとても重要な役割、というかもはやネット記事が主要といっても過言ではないくらい出てくる。ネット記事を受け取った春夫の妄想がどんどん加速していくところに小説の面白さがある。実際、トキ襲撃に使われる装備もすべてネット通販で揃えるという徹底ぶり。

    ちょうど飼育ネットにトキがぶつかって近頃死んだというニュースを見たばかりだったから、感慨もひとしおというか…。
    過去のトキの死因一覧みたいの見ても、本当にどうしてトキはあんなにもろいのかと心配になる。ドジョウの食べ過ぎで死亡とかうける。
    小説関係ないけど絶滅する生物ってもはや生きる気がないんじゃないか、むしろ生きる気がなくなって絶滅するんじゃないかっていう気がしないでもない。

    ああ、ええと小説。
    トキをめぐる前半部分はおもしろかったのだが、阿部和重作品の登場人物にはいまいち感情移入が働かないのだ。ストーカーとかセックスとか、その手のところが。春夫が自分は童貞なのにあいつらトキはやりまくってやがるといって、「よし殺そう」と決めるところとか、おもしろいけど。

    感情移入ができない小説はやっぱりなんというか七分目くらいで留まってしまう印象。

  • 阿部は本作にて、三島由紀夫『金閣寺』の愚直なまでの反復をやってみせることで、鬱屈した若者の内面に迫る近代小説の可能性を実験したのだろうか。それとも村上春樹がリアリズムの訓練と嘯いて『ノルウェイの森』の執筆動機を語るように、技術上の要請として本作を書いたのだろうか。

    中高生は誰もが通過する届かない思慕の念を溜め込んだあまり、ドス黒い鬱屈を天然記念物のニッポニアニッポンの殺害に転化してしまうという、いびつで苛烈なロマンティシズムの破綻。比喩表現を最小限に抑えた愚直で朴訥とした文章が、私たちのの些細な負の感情を鋭敏につかみとり、かっさらうようにして滅亡への道へ誘う。

  • 阿部和重で読んだのは『インディヴィジュアル・プロジェクション』に次いで2作目。うーん、前に読んだやつよりかは読みやすかったけど、面白さは前のが上かしら。キャッチコピーが画期的とか新進気鋭なイメージを持たす感じでハードルをガン上げするので、そのせいで妙な読後感に。引きこもりの暗い輩の心理は非常にわかりやすく丁寧なのでそこは面白いけど、派手などんでん返しとかがある訳ではないので、静かにフーッと噛み締めて終えれば良かったのではないかと思う。けど、上記の無意識に抱いていた期待感のお陰でモヤンとした気持ちに。でも現代の姿を切り取ってるのは確かだと思います。

  • 鴇のように保護されることは自由ではないということを表している。私たちも国というとてつもなく大きい保護者によって自由を奪われ続けている。自衛隊によって国民は守られているのだけれども、それは同時に縛られていることであり、自由は徐々に削り取られている。それがいいことであるか悪いことなのかはわかりはしない。神ですらわかりはしない。

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著者プロフィール

1968年生まれ。1994年「アメリカの夜」で群像新人賞を受賞しデビュー。1997年の『インディビジュアル・プロジェクション』で注目を集める。2004年、大作『シンセミア』で第15回伊藤整文学賞、第58回毎日出版文化賞、2005年『グランド・フィナーレ』で第132回芥川賞受賞。『シンセミア』を始めとした「神町」を舞台とする諸作品には設定上の繋がりや仕掛けがあり、「神町サーガ」を形成する構想となっている。その他の著書に『ニッポニアニッポン』『プラスティック・ソウル』『ミステリアスセッティング』『ABC 阿部和重初期作品集』など。

「2011年 『小説家の饒舌 12のトーク・セッション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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