孤児たちの城: ジョセフィン・ベーカーと囚われた13人

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104222049

感想・レビュー・書評

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  • 1920年代のヨーロッパで大人気を博した、アフリカ系アメリカ人歌手のジョセフィン・ベーカー。あらゆる人種と宗教が調和のうちに共存する理想世界を夢見た彼女は、世界中から孤児たちをひきとり、フランスの城を村ごと買い取って育てたという。日本人の長男アキオを中心に、「虹の部族」と呼ばれた孤児たちのその後を追ったドキュメンタリーだ。
    人種差別のただ中を生きぬいてきたジョセフィンの理想それ自体は、きっと純粋なものだったのだろう。それだけに、彼女の理想の世界家族を体現するために、それぞれ異なる民族と宗教のアイデンティティをあたえられていた孤児たちの悲惨な内実は、たんなるスキャンダルを超えて、時代的背景をもつ理想的世界主義の限界や、親のエゴなど、考えさせられる。
    なのだが、どうも高山氏の筆は、読者を置き去りにして感傷に走りすぎるきらいがあるように、私には感じられた。あたえられた事実について何か感じたり考えたりする前に、作家が泣きだしたり叫びだしたりしてしまうような感じ。「ホモ」に対する偏見がときどき感じられるのも、感情移入を妨げてしまった。
    作家の関心は孤児たちのアイデンティティにあり、特にアキオに対する並々ならぬ思い入れに引きずられて最後まで読んでしまったけど、実際、何がジョセフィンにあんな行動をとらせたのかは、よくわからないままだ。自分としてはそこにいちばん関心があるのだけど。

  • 1920年代のパリで熱狂的に迎えられ、一躍スターの座に登りつめた
    アメリカ生まれの黒人歌手ジョセフィン・ベーカー。

    「レビューの女王」「黒いヴィーナス」とも言われた彼女は、
    フランス南西部の城を買い取り、そこに世界各地から人種の異なる
    孤児たちを集め、人種や宗教を超えた理想郷を創ろうとした。

    虹が異なった色で見事な調和を生み出すように、そこは本当に
    理想の地だったのか。

    日本から孤児として彼女の元に引き取られたアキオ。19歳になるまで、
    「韓国人だ」と教えられ、多くの孤児たちの長男としての役割を果たす
    ように育てられた。

    その彼へのインタビューを中心にまとめてある。他の兄弟へのインタビュー
    から明らかになる家族間の問題や、彼が孤児として引き取られた当時の
    新聞記事から出自を本人にぶつけて行く。

    本文中、話が飛ぶ箇所が多く読み難い。孤児たちへのインタビューは興味
    深いのだが、取材の踏み込みの甘さは否めない。

    加えて、他の出版物からの引用があるのだが、出典を明示せずに著者が
    謝罪しているはずだな。

    唯一良かったのは、アキオが捨てられた横浜の煙草屋を訪ねているとこか。
    当時、高校生だった家人が存命で「ジョセンフィン・ベーカーに引き取られた
    ということは知っていた。見世物にされていないか、ちゃんと生活出来ている
    のか心配だった」と語り、フランスで銀行に勤めていると聞かされ喜ぶ姿は
    ちょっとじーんとした。

    ジョセフィン・ベーカーが夢見た孤児たちの城。そこは決して幸福を
    もたらす場所ではなかった。富も名声も手にした彼女は、理想郷を
    夢見て孤児たちの人生を犠牲に供したのではなったか。

    あぁ、それにしても本書は物足りない。彼女の評伝を先に読めば
    よかったかも…。

  • 黒人歌手でダンサーのジョゼフィン・ベーカーは世界中から集めた多国籍の13人の孤児と人種にとらわれない「虹の部族」を作ろうとした。その実験はどうなったのか、彼女の死後、長男のアキオを中心にインタビューを試みるといった内容。インタビューとしては、もうちょっとなんとかなったんじゃないかと思う。インタビュイーが口ごもりがちで心を閉ざしがちだということは、よくわかった。やはり、フランス語ができないというのが致命的なのでは。話したくない人がなんとか喋る言葉を通訳を解して聞き取って、またそれを通訳を介して返すとなると、必然的にやりとりは希薄になる。しかし、子ども達はそれぞれに傷つき、アイデンティティクライシスを起していて、しかし家族を愛し、ジョゼフィンが気性がはげしく、肌の色なんて関係ないんだということが主張したかったことだけは良くわかった。

  • 著者の感情的な主観が剥き出しで読みづらい。
    人物の描写がすごく恣意的。そう書かずにいられない位の人間性だったのかもしれないが本筋と関係ないしそういった評価は読み手に委ねる書き方をして欲しい。
    同性愛の男性の話す英語をオネエ言葉で訳す必要あるのか?

    当事者を断罪するような記述をしているがこの人何様なんだろうか。自分の意思ではなく巻き込まれた人が逃げることで自分の人生を歩むことを部外者が「ずるい」などと言えるだろうか。

    著者の考えというか感情は凄く良く伝わる反面ジョセフィンの思想についても子供達の心理についても踏込みが中途半端。もう少しテーマを絞ってればまだ読みやすかったのかも。
    結局アメリカのジャンクロードは何者だったんだっけ。

    ジョセフィン自体よく知らずに読んだが中途半端な知識だけがついてなんともすっきりしない。
    とりあえず沢田美喜について調べてみよう

  • この本との出会いには運命的なものを感じる。TSKで他に借りた本を手にいっぱいもち、カウンターに向かう直前、ふと、何の変哲もない背表紙が呼びかけるように目立ち、中身や表紙を見ることなくそのまま他の本の上に載せて、うちへ持ち帰った。
    それきり忘れて、ちょうど読んでいた石井好子の追悼ムックの一文に「ジョセフィン・ベーカーとのかかわり」の部分に、あれ?なんだろう?私何か知ってる気がするけど、なんだっけ??と思いつつ、まあいいか…という感じで過ごしていて、ある日「積読本」にこの『孤児たちの城』を見つけ、、、あれ?あれ?まさか?と、両方の本を見比べて、あぁ石井好子に通じるものだったのかぁとわかる。
    でも借りた時点ではまだそのことを知らなかったはずなのに、背表紙が私を呼んだのだ。

    それで内容の方。
    とても読みやすかった。ただとても不思議な本だった。
    何が言いたいのか?ルポタージュなので、事実を事実として伝えていれば十分なのだろうけれど、何とも言えない気分で読み進めた。この著者の感情が静かな文章の下の方から透けて見える気がするのだけれど、それが私には「アキオに対する嫌悪感」「アキオに対する生理的な不快感」と感じられて、でもそれが何に起因するのかがよく分からない。

    最後の最後に著者が訪ねて行った「アキオ」を拾った(置き去りにされた)家の人々が、
    「アキオちゃんは元気にしているだろうか?」と今でも気にかけていた、
    元気と聞けてうれしいと答えている部分に救われた。

  • 一人の女性の妄想に近い想いに振り回された孤児達。重い読後…

  • <>まさに、事実は小説より奇なり。高山さん二冊目かな〜。この人のノンフィクションはけっこう感情的だなと感じた。

  • ジョセフィン・ベーカーといえば、「1920年代、狂瀾のパリ」「アールデコ」に連想されるし、特徴あるダンスや衣装(あれも衣装だよねぇ・・・?)しか知らなかったけれど、たくさんの養子を迎えていたとは知らなかった。「虹の部族」って考えは立派だとは思うけど・・・しかしジョセフィン・ベーカーが話しの主役かと思ったら、養子の一人で長男の立場にあったアキオさんの物語なんだね。その分、中身が薄くなっちゃっているような気がする。それと写真があれば良かったのになあ。

  • ジョセフィン・ベーカーが何者であるのか知らなかった。差別の激しいアメリカを脱出してパリで歌姫として人気ものになり、世界ツアーをしたとか。世界中を興行する中でさまざまな国の孤児13人をフランスの古城で養育する??

    その長男役である日本人アキオやその他の孤児たちへのインタビューで構成されたこの書籍は、ジョセフィンが何を考えて彼らを「虹の部族」として理想郷作りの担い手にしようとの計画が、曖昧な構想でほころびができてしまうありさまを「捉われた」人々たちのその後として描き出そうとしているのだが、著者の態度の曖昧さもあって中途半端だ。

    養育されていた古城はいまや記念館になっていてパリのステージ写真や孤児たちの様子を写した写真がたくさん飾られているとのことだが、この本の表紙の「家族」写真1枚以外ない。肌の色の違う姉妹の資料として視覚に訴える写真があるのに本文にはないのは片手落ちです。

  • ジョセフィン・ベーカーの半生とその養子になった子供達の話。

    こや的には『あぁ、こういう人が居たんだ』というカンジの感想。

    『虹の部族』と呼ばれた子供達は生まれた所がバラバラ。
    日本から二人引き取られた事が書かれている。

    掘り下げ方が中途半端な気がするのは私だけだろうか?
    ジョセフィンが主役なのか、長男になった『アキオ氏』筆頭の子供たちが主役なのか?
    どっかでジョセフィンの写真が入っていればもう少し興味を持てたかも。

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著者プロフィール

1958年、宮崎県高千穂町生まれ。法政大学文学部中退。2000年、『火花―北条民雄の生涯』(飛鳥新社、2000年)で、第22回講談社ノンフィクション賞、第31回大宅壮一ノンフィクション賞を同時受賞。著書に『水平記―松本治一郎と部落解放運動の100年』(新潮社、2005年)、『父を葬(おく)る』(幻戯書房、2009年)、『どん底―部落差別自作自演事件』(小学館、2012年)、『宿命の子―笹川一族の神話』(小学館、2014年)、『ふたり―皇后美智子と石牟礼道子』(講談社、2015年)など。

「2016年 『生き抜け、その日のために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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