- Amazon.co.jp ・本 (209ページ)
- / ISBN・EAN: 9784104260096
作品紹介・あらすじ
「僕たちの運命は、どうしてこんなに切なく擦れ違ってしまうのだろう──」深夜のブダペストで、堕落した富豪たちに衣服を奪われ、監禁されてしまった日本人カップル。「ここで、見物人たちの目の前で、愛し合え──」あの夜の屈辱を復 讐に変えるために、悲劇を共有し真に愛し合うようになった二人が彷徨い込んでしまった果てしない迷宮とは? 美しく官能的な悲劇を描く最新小説集。
感想・レビュー・書評
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短編集なので感想はそれぞれだけど、総じて面白かった。特に表題作は作者独特の物語の世界に入り込む、あの感じを味わえた。最後の一篇も不思議な魅力で味わい深い。「マチネの終わりに」からの2冊目だけど、好きになった。
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平野啓一郎が24歳にして『日蝕』で芥川賞を受賞したのは1999年のこと。
当時はまだ20代だった自分も、自分より若い世代が…ということでかなり衝撃を受けたことをよく覚えている(その後、綿矢りさとかも出たが)。
あれから早や15年が過ぎ、『日蝕』以来久々に平野啓一郎の小説を読んでみた。
6編の短中編が収録されている。
いずれも、犯罪とまではいかないが背徳的な要素を含む、日常に起こる奇妙な出来事を描いている点では共通しているが、トーンはかなり不揃いな印象を受けた。
特に連作として書かれたわけではないようなので、当然なのかもしれないが。
『日蝕』はとにかく難解だった印象した残っておらず、内容もまったく覚えていないのだが、その印象に比すると作風にエンターテイメント性とまではいかないが、サスペンスで引っ張ったり、やや官能めいていたり、大衆性への歩み寄りを感じた。
ただし『Re:依田氏からの依頼』だけは観念的でちょっと読み進めるのが辛い感じだったが。
個人的には、死んだ父親の遺品から見つかった拳銃を巡って親族に波風が立つ様子を描いた『famili affair』が最も秀逸と思った。
近親間に長い年月を経て刻まれた愛憎の描き方がとてもリアル。
また『透明な迷宮』も、キューブリックの映画『アイズ・ワイド・シャット』を思わされるような題材で、隠微でありながらどこか純粋な感情を描いていて、なかなかよい。
と思うと『火色の琥珀』のような倒錯世界を描いたのもあったりして、バラエティに富んだちょっと面白い作品集である。 -
「透明な迷宮」
孤独と愛。
ムンクの「接吻」を基にデザインされた絵(作:菊地信義)が表紙を飾る一冊。表題作「透明な迷宮」はこの絵に強くインスパイアされて書かれたものらしい。全体的なテーマは孤独と愛であり、収録されている短編・中編はどれも不思議な世界観がある。
「消えた蜜蜂」は、他人の筆跡を完璧にコピー出来る男の話。その男Kが起こす事件は全く理解出来なく、一種の変態性の様な特異性を感じさせるが、蜜蜂が戻ってきたと言うKの呟きと合わせると、Kは耐え難い孤独を感じていたのではないかと思った。最後に僕が友人から受け取った葉書を見てKのことを思い出す。この時、孤独だったKは、僕に思い出されたことで孤独では無くなったかも知れない。
「ハワイに探しに来た男」は、自分にそっくりな男を探す様に依頼されてハワイで人捜しをする男の話。この話の中で主人公は嫌な悪寒を感じるのだが、読んでるこっちも悪寒を感じた笑。
表題の「透明な迷宮」は、日本人の男女が何者かに拉致されるサスペンス。と思いきや、エロティックで愛とは何か?を双子を題材に問われていると感じた。「たった一つのエピソードのために、誰かを愛するのだろうか?愛を受胎するのは、二人の間の出来事なのだろうか?そうではなく、相手の人格を全体として愛するのではないか?」と言う部分は印象的で、読者にしても論点として捉え易い。多くのものが可視化される現代で一見その論点の解も可視化出来る様に思える。が、その解に辿り着くまでの道は透明な迷宮に迷い込んでいるようなもの。
その他、「family affair」「火色の琥珀」「Re:依田氏からの依頼」と続く。この中で印象深いのは「火色の琥珀」。
女性ではなく火、しかも優美でいくらかウェットな火こそが、恋愛対象になる男が主人公であり、この火への異常な執着にも見える愛がとにかく強烈なインパクト。火に対する思いが、所謂多くの男子が通過する性欲へのそれと同じように進行する。やがて、決して触れることが出来ない火の難点すらも乗り越えてしまう。愛とは形は1つではないのだなと思わされる熱き主人公の愛だった。
「Re:依田氏からの依頼」は凄い怖さも感じる。愛は愛でも、これは・・・。終盤には時間感覚が変わっていった気がするのだが、“サド侯爵夫人が夫のいる牢に向かって脱獄しようとする”と言うこの指摘が当たっていると言うことだろうか。 -
平野先生の第四期にあたる作品。
平野先生の作品では、第三期に書かれた「決壊」を一番最初に読んだのだが、これが自分の心の中にずっと居座っていた。
この人の作品を他にも読んでみたいとずっと思っていた。私の読書史上、一番心に突き刺さった本だったのかもしれない。評価は★4つしかつけなかったのだが、それは私の頭が追いついていけてなかったからだと思う。
この作品は、「決壊」から比較するとかなり読みやすくなっている。
しかし、どなたかが高級文学と表していたが、品良く美しい表現は満載で、読んでいて心地が良い。
私は誰の作品であっても、短編集は好きではないのだが、この作品はどの作品もじっくり楽しむことができた。
特に、最後のRe:依田氏からの依頼 が個人的には一番好きだった。
「依田は、ショパンとドラクロワのことを書いた大野さんの小説がすごく好きなんです。」
大野さんは平野先生なのかなぁ~?と読み進めると、より物語にのめり込めて、
「原因を探ろうともしないカフカの主人公たちを、いつも奇怪に感じていたが、その心境が初めて理解できたような気がした。」
の場面では、先に読んだ小説の読み方の中の一文を思い起こさせて、私をクスっとさせたり。
平野先生の作品は、私にはまだまだ敷居が高く、解説本が欲しいくらいだが、それでも私はこの人の文章がとても好きだと思う。
一通り先生の作品を読んでから、再読したいと思う。 -
何より、表紙のムンクがいい。平野啓一郎は長編の方がいい。
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ラジオ版学問ノススメで、
ムンクの接吻を装丁にしていると聞き興味をもち拝読。
文学らしい文学。
エンタテイメントとしてでなく、
文学としての文学という赴き。
こういう形のある文学を、
受け継ぐ人が、きちんといるからには、
読み手もそれに応えなければならない、
ということを考える。
他者の筆跡をそっくり再現できる
人と違う時間軸を生きる
火を愛する
到底、想像もできない設定に、
しかし現実にきっとどこかにそういう人は、
いるのであろうぎりぎりのところ。
人間の多様性と、唯一性への理解。
更に、東日本大震災を扱う小説は、生まれて初めて読んだ。
「なぜ、あの瞬間でなければならなかったのか」
という答えのでない問いに、小説という形でひとつのレビューを与えてくれていた。 -
装丁のムンクがごとく悩ましく破滅的だったり、切なかったり、それでいて春の陽射しのような温かさがある作品。ゆっくりとゆっくりと読み進め、何度でも読み返したくなる不思議な感覚で、読後の余韻から抜け出せなくなる。「消えた蜂蜜」の情景描写がたまらなく好き。
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難解だというイメージに抵抗があって、今まで一度も読んだことのなかった平野啓一郎。
悪くないこの世界観。結構好みかも。
最初の「消えた蜜蜂」でぐっと惹き込まれた。
書評を読んで興味を持った「透明な迷宮」は期待ほどではなかったけれど、
「Re:依田氏からの依頼」はとても不思議な物語。
誰もが感じている時間の概念と体感している違和感。
ぐるぐる巻き込まれて囚われていく感じが、
安部公房みたいだった。 -
2014.8.15
この人の独特の世界 嫌いじゃない
むしろ気になって仕方がない
中毒性あるのかな…
長さ不揃いだが、短編集?
最初のKの話は普通に読めたが…徐々に平野ワールド全開になり最後の話は、無意識になんとなく感じる説明難しい部分を意識してよく表現した!って感じで、なんとな〜くわかるような??
何度か読み返したくなる
オススメは出来ないが自分は好きだ -
平野啓一郎の作品の中でも最も不思議な読後感。
現実から踏み出し崩れていく、その静かな絶望が妙に美しく心に刻まれる。