鳥と雲と薬草袋

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著者 : 梨木香歩
  • 新潮社 (2013年3月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (137ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104299089

鳥と雲と薬草袋の感想・レビュー・書評

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  • そういえばね、と始まるお話を聞いているみたい。

    例えば隣に座っている人が、
    そういえばね、これから行く鶴見半島の「鶴見」って、「実際に海の向こうへ飛んでいくツルがここで見られたからついたの」かしら?
    なんて話しかけてきたら、
    え?なになに?どういうこと?
    と引き込まれてしまうと思うのだけど、この本のお話もそんな具合なのだ。

    特に「温かな地名」に分類されたお話が好きだった。
    お話自体も温かいように思えたから。

    地名に限らないことだけど、名前って本当に大切。
    その名前になった経緯や、理由、土地の人の想いは、その土地とは切り離せないものなんだと教えてもらった。
    そして、由来を忘れられてしまったり、合併で名前が消えてしまったり、そういったことが無性に寂しく感じられるようになった。

    梨木さんの優しくいまなざしと考察に誘われて、言葉と名前の世界を垣間見た。
    そこはどうやら奥が深くて、豊かな自然に彩られた神秘の世界。
    もっと奥に行きたいかも。

  • タイトルがいい。
    薬草袋とはつながらない話になぜ薬草袋とついたのか、
    その理由がステキだ。

    あちらこちらの土地の話がつまっているのだが
    目次に見慣れた市名を見つけてちょっと驚いた。
    住んでいる県内のその市はおそらく全国区ではなく
    ならばどんな話が語られているのかととても気になった。
    そんな話を友人にすると
    「いや、結構有名だよ」と返ってきた。

    ・・・そうなのか。
    (市民のみなさま、すみません・・・)

    小箱に詰まったチョコレートをひとつずつ選んでいただくような
    そんな感覚で読んだ一冊。

  • 梨木香歩さんが西日本新聞に連載されていたエッセイをまとめた1冊。
    日本の地名にまつわる見開き1ページに収まる短い文章が、全部で49篇収められています。

    梨木さんのその土地に息づくもの・宿るものを大切にしていることが感じられる文章にじんわりと温められました。
    地名には、その土地の上に流れた歴史や厚みが降り積もっているのだということがひしひしと伝わってきます。

    一方、行政的な視点に立つと、地名は単なる記号としか見られなくなってしまうのかもしれません。
    市町村合併にともない新しくつけられた都市名の中には、地元で暮らす人にとって、なかなか馴染みのないものになってしまったものもあるようです。

    1つ1つのエッセイもすてきなのですが、章題がまた美しいのです。
    鶴見や富士見、魚見など、「見」という漢字が入った土地を取り上げた章の名前が「まなざしからついた地名」。
    思わずほぅっとため息がこぼれました。

  • 見開き2ページほどの短いエッセイなのに、まあなんと豊かな世界なんだろう。目新しいことや、インパクトの強いことが書いてあるわけではない。この空気感は著者ならでは。梨木さんの小説を思い浮かべながら、小さな旅を共にしているような気持ちになる。

    主に地名にまつわる記憶や思いが綴られている。あとがきで書かれているように「地名とは単なる記号以上のものを意味している」というのは、至極当たり前で自明のことだと思うのだが、由緒ある地名が消えていき、「四国中央市」とか「南アルプス市」とか、なんじゃそりゃ?という名前に取って代わられたりするのを見ると、ガックリする。

    本書で「武生」という名まで消えていたことを知り、悲しくなった。紫式部ゆかりの地らしく風雅で、しかもきっぱりとした、とてもいい名なのに…。いやもう、このことについては言いたいことがたくさーんあるが、詮ないことなのでやめておく。私たちは土地の記憶を断ち切って生きていけるのだろうか。それは幸福なことなのだろうか。

    「文字に倚りかからない地名」という章立てが面白い。「姶良(あいら)」「田光(たびか)」などの名があげられている。梨木さんの言うとおり、日本も(アメリカ先住民やアボリジニのように)そもそもは文字を持たない民族の国だった。文字が渡ってくる前に作られたと思われる名前には、本当にいかにも言霊が充満していそうだ。「文字抜きでは成り立たない職業を生業としながら(むしろそれだからだろうか)、文字のない世界に憧れる」という一文に、著者独自の世界の源を感じた。

    「崎」と「鼻」、「谷戸」と「迫」と「熊」、「原(バル)」など、地名にしばしば登場する語について、あれこれその成り立ちやイメージを考えていく所も良かった。蘊蓄を傾ける、という風ではなく、実感に基づいているのが梨木さんらしくていい。

    一番心に残ったのは「日向」の一篇。ずいぶん前、旅の途中で連れていた赤ん坊の調子が悪くなったとき、旧盆の最中で休みにもかかわらず、当然のように診てくれた医師のエピソードが語られている。「会計がいないから」と代金も固辞されたというこの先生の姿が、「あそこなら」と連絡を取ってくれた港の人や、病院の車寄せに立つ医師の姿に「ほら、先生、ずっと立って待っててくださったんだ」と誇らしそうなタクシーの運転手さんとともに、「日向」という土地の温かな地名と、分かちがたく結びついているそうだ。ちょっと忘れられない一篇だ。

    それとは別に「赤ん坊?梨木さんって子供さんがいたんだ」と、少し驚いた。著者は露出がきわめて少なくて、プライベートなことを明かされないので、これは初耳だった。今まであまり気にしていなかったのだが、著者略歴を見ると私と同い年だとわかって、これもまた、ちょっと虚を突かれた感じだ。どういうわけか、梨木さんのことはずっと若い女性だとイメージしてきたのだ(「雪と珊瑚と」の表紙絵の女性みたいな雰囲気で)。キャリアから考えてそんなはずはないのに、作品世界の清潔感のなせる技だろうか。

  • 西日本新聞に連載されていた49の地名にまつわる随筆集。
    四季や自然やその土地の姿をストレートに表現していて、日本の地名とはなんて美しいのだろうと改めて思った。大合併などで今はもうなくなってしまっている地名など大変惜しまれる。自分の住んだ事のある町、訪れた事のある町などの名前の由来を調べてみるのも楽しいかもしれない。

  • 筆者が新聞に連載した、地名についてのエッセイ。素敵な地名について、そこにまつわる思い出やその地の歴史などが、筆者独特の感性をまとってひとつひとつ素敵にまとめられています。

    なんとなく好きな地名とか、忘れられない地名って、誰にでもあると思います。自分にとってのそんな地名を一度振り返ってみたくなる一冊。自分の故郷や、住んだことのある土地の名前も、いっそう好きになれそうです。

  • 梨木香歩さんの地名にまつわるエッセイ。この人のエッセイはほんとうに温かくて、優しくて、好き。平成大合併で無くなってしまった地名や新しくできた味気ない地名を憂う気持ちにはすごく共感します。地名にはその土地のいろんなものが込められているんだなーとあらためて感じました。

  • 日本の地名にまつわる思いをまとめたエッセイ。西日本の地名が多いが、西日本新聞に連載していたのと、著者が鹿児島出身、関西に住んでいたことによる。
    地名の由来なら、しかるべき文献をあたれば出てくるが、これは梨木香歩の地名やその土地についての思いに読む価値がある。
    さすが、言葉を大切にするひとだなあ、ということを何度も感じた。
    しかし、一番偉いなと思ったのは平成の大合併で、由緒ある味わい深い地名を消して、お役所がつけた「四国中央市」や「南アルプス市」といったろくでもない地名に対し、あからさまな批判をしたり、怒りを表現したりはせず、でも読めば確実に、不快に思っていることが伝わってくること。
    この、抑え方が絶妙。梨木香歩って愛情でも喜びでもでも悲しみでも、このように表現する人だな、よく考えてみると。
    今までのエッセイを読んで、なんとなく独身(犬はいても一人暮らし)かなと思っていたけど、今回赤ん坊の話が出てきて(自分の子どもだとははっきり書いてないが)、もしかして、子どもがいるのかも、パートナーはいなくても、と思ったが、それにしては『雪と珊瑚と』の子どもの表現は他人事みたいだったし、カヤックに幼児を乗せられないよな・・・など、著者本人に関する謎は深まった。まあ、そういうのを事細かに語らないところがいいんだけど。

  • 地名について、新聞に連載されていたもの。
    谷戸、迫、熊についての微妙な印象の違いとか、興味深かったです。そういわれてみれば言葉とは面白い。
    岬は果てでも、鼻は始まり、とか。こういうふうに地名を見ると面白い、という、新しい視点に目覚めさせられました。

  • 1日に1篇と決めて、ゆっくりゆっくりページをめくり、ようやく読み終えた。日本には素敵な地名がたくさんあるのだなぁとしみじみ。私たちの名前に由来や想いがこめられて名づけられているように、地名にもその地名になった理由や歴史があるという当たり前のことに気づかされた。合併などで来歴のある地名が消えていくのはとてももったいないこと。どうか変えるにしてもそこに住まう人たちが親しみをもてる愛着を感じられるような地名をつけてほしいなと思う。

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鳥と雲と薬草袋の作品紹介

鳥のように、雲のように、その土地を辿る。ゆかしい地名に心惹かれる――作家の胸奥の「ものがたり」がはぐくまれる場所に、滋養を与える旅の記憶。49の土地の来歴を綴り重ねた葉篇随筆。読む者の心も、はるばると時を超える。旅に持ち歩く「薬草袋」のなかの、いい匂いのハーブのブーケや、愛着のある思い出のメモの切れ端のような……日常を生きるときの常備薬ともなり、魂を活性化する、軽やかな愛蔵本。

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