丹生都比売: 梨木香歩作品集

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 106
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  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104299102

作品紹介・あらすじ

胸奥の深い森へと還って行く。見失っていた自分に立ち返るために……。蘇りの水と水銀を司る神霊に守られて吉野の地に生きる草壁皇子の物語――歴史に材をとった中篇「丹生都比売」と、「月と潮騒」「トウネンの耳」「カコの話」「本棚にならぶ」「旅行鞄のなかから」「コート」「夏の朝」「ハクガン異聞」、1994年から2011年の8篇の作品を収録する、初めての作品集。しずかに澄みわたる、梨木香歩の小説世界。

感想・レビュー・書評

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  • やっぱり すごいなぁ 梨木果歩さんの世界観。

    初めての短編集だとか。
    8編の短編と中核となる中編「丹生都比売(におつひめ)」。
    短編にも世界観がでているけれど、丹生都比売はさすが。
    どんどん引き込まれていく、戻れなくなる・・・
    それにしてもこの世界観をこんなきれいな文章で表現するなんてすごい。

    壬申の乱の人間関係がこんなことになっていたのは、習ったはずがまったく頭の中に残っていませんでした。

    あとがきには「ひとはみな、それぞれの生の寂しみを引き受けて生きていく、という芯を持つ蔓なのだろうと思う」。

    間違いなく自分の世界を変えてくれた作家さんの一人です。
    これからも梨木さんの本は読み続けなければ。

    • 111108さん
      いるかさん、コメントありがとうございます。
      猫丸さんもこんにちは。

      『炎のように〜』私は図書館リクエストで市内の他の図書館から取り寄せまし...
      いるかさん、コメントありがとうございます。
      猫丸さんもこんにちは。

      『炎のように〜』私は図書館リクエストで市内の他の図書館から取り寄せました。いるかさんのお近くの図書館にもあるといいですね♪
      2024/02/25
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      いるかさん 111108さん
      梨木香歩作品集版と原生林版で「丹生都比売」の内容が違うと知って、読み返さなきゃ。と思いつつ手付かず。
      「...
      いるかさん 111108さん
      梨木香歩作品集版と原生林版で「丹生都比売」の内容が違うと知って、読み返さなきゃ。と思いつつ手付かず。
      「炎のように 鳥のように」は初めて読んだ皆川博子作品で、子ども向きとは思えない構成でした。それと建石修志のイラストが素晴らしい、、、この本も手元に置きたい。。。

      相変わらず色々スローな猫でした。
      2024/02/29
    • 111108さん
      猫丸さん、いるかさん♪

      「読み比べ」したいものの、そこまで手が回らず‥は、あるあるですよね。
      『炎のように 鳥のように』は、確かに児童書と...
      猫丸さん、いるかさん♪

      「読み比べ」したいものの、そこまで手が回らず‥は、あるあるですよね。
      『炎のように 鳥のように』は、確かに児童書とは思えない構成で、しかもわかりやすいという良書でした。絵も印象的ですね。
      お二人のやりとりでこれらの本に出会えて良かったです♪
      2024/02/29
  • 短編集。『炎のように〜』で思い出してから読みたくて。以前読んだのはたぶん『丹生都比売』単独本。草壁皇子の弱さ故の優しさがここでも要になっている。『コート』と『夏の朝』大好き。久しぶりの梨木さんに不思議な温かさを感じた。

    • 111108さん
      いるかさんのレビューのところで猫丸さんとのやりとり覗かせていただいて『炎のように〜』からこちらへ辿り着きました。ありがとうございます♪
      いるかさんのレビューのところで猫丸さんとのやりとり覗かせていただいて『炎のように〜』からこちらへ辿り着きました。ありがとうございます♪
      2024/02/24
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      111108さん
      猫は原生林版しか読んでないので、此の『梨木香歩作品集』で読んでみたいと思っている。もう少し暖かくなったら図書館に、、、
      111108さん
      猫は原生林版しか読んでないので、此の『梨木香歩作品集』で読んでみたいと思っている。もう少し暖かくなったら図書館に、、、
      2024/03/05
    • 111108さん
      猫丸さん
      この作品集はお話の並びもとても良いです。暖かくなったらぜひ‥
      猫丸さん
      この作品集はお話の並びもとても良いです。暖かくなったらぜひ‥
      2024/03/05
  • 大好きな梨木香歩さん。梨木香歩さんの作品は全て読もうと密かにささやかな目標を立てているので、また新たな一冊を入手した。「初の短編集」とあった。9作品が収録されている、美しい紺色の装丁の単行本。肝心の収録作品もとても美しかった。大切にとっておきたいと思う本になった。

    なんとも不思議な短編が続き、しかもひとつひとつがとても短くて、私にとっては、”新しい梨木香歩さん”を見ているように感じていたら、急に「コート」が現実的な哀しさで満ち溢れていて、ふいに涙が出そうになった。

    そして「夏の朝」。
    今までのお話の短さからすると「あれ?」と思う長さなんだけれど、自分の世界観を持った小さな女の子「夏ちゃん」の成長を見守り、語るのは守護霊。この守護霊、幼い頃に亡くなった夏ちゃんのお父さんのお姉さんだということが後々わかる。この守護霊が語ると、一瞬悪役に思える寺内先生も頑張り屋のいい先生なんだと納得できる。「夏ちゃん、大丈夫だよ」と心から応援しながら読み終えると、なんという上品な、素敵なお話なんだ!という感動が胸に押し寄せた。さすが、梨木香歩さん。これ、隠れた名作なんじゃないか、と思った。たぶんどこにでも実はたくさんいる「夏ちゃん」のような子たちに、そしてその子を見守る大人たちに心からエールを送りたいと思いつつ、次の「丹生都比売」へ。

    「丹生都比売」・・・う~ん、読めない。「におつひめ」と読むらしい。水銀(みずがね)を産し、清らかな水が流れている吉野の地を統べているご神霊、姫神さまの名前とのこと(検索した結果)。神社もあるみたい。歴史に疎いわたしは、冒頭に記載されている系譜を何度もめくりながら読んだ。天武天皇、持統天皇・・・はて、聞いたことあるぞ?・・・もういよいよ物語も佳境に入るというところで、ようやく昔々学校で習った「壬申の乱」とつながる。我ながら情けない。歴史上の人物を主題にした物語となると、どうしても、どこまで史実なのか、どこからがフィクションなのか気になるところだけれど、まぁ、それはおいといて、というか、読了後そんなことどうでもよくなる。歴史のことが知りたければ別の書籍を読めばいい。
    ―とてもとても美しい日本語で綴られた物語だった。この物語から立ち上がる気配そのものがなんだか高貴なものに感じられるくらい。余分な言葉が一切ないと言い切れそうなほどの厳選された言葉で進んでいくので、歴史的なことをもっと知りたいという人には物足りないかもしれないけど、ひとつの物語として素晴らしく完成された世界だと思った。神様の「ご降臨」だとか、「霊験あらたかな」ことだとか、いつもは鼻白んでしまうのだけれど、梨木香歩さんの手にかかると、その世界の人知を超えた力と美しさに引き込まれてしまう。さすがとしか言いようがない。草壁皇子については、あまり多くの記録が残っていないようで(たぶん)、この草壁皇子が主人公だからこそこのような美しい物語と成り得たのではないかと思うほど、この皇子の人柄、内なる思いがわかる物語だった。草壁皇子が本当にこの物語のような人物だったとしたら、なんとも生きにくい時代だっただろうなと思う。親に間引かれそうな燕の雛を助けようと必死になる草壁皇子。自分と重ね合わせているのかと思うと胸が苦しくなった。それでも、疑惑のある持統天皇も、ただただ自分の欲のためだけではなかったのだろうと、そう思える草壁皇子の最後だったように感じた。

    ラストにそっと添えてあるような「ハクガン異聞」もなんだかすごくよかった。なんというかこれが最後に収録されていることが当たり前というような、ラストにふさわしい短編に思えた。

  • 1994~2011年のあいだに書かれた、梨木香歩さんの短篇を1冊に集めた本。

    草壁皇子を主人公にした表題作は、以前別の出版社から単行本として刊行されましたが、本書に収録されている短篇がもともとの形なのだそう。
    権力のために血族同士で殺し合う血生臭い時代において、草壁皇子は優しすぎる心を持っておられたのでしょう。
    彼は、いつか母親に殺されるだろうと予感しつつ、それでも母親を愛していました。
    親に間引かれそうな燕の雛を、一生懸命助けようとする彼の心のうちを思うと、苦しくなります。

    静かだけれど、強く胸に迫る物語に魅せられました。
    ひとつひとつの作品が心の中に引っかかりを残していくのです。
    読後、目次に並んだ題名を眺めると、ふわりふわりと物語の場面が立ち上ってきて、ゆっくりと身を浸すように余韻を味わったのでした。

  • 本をとじる。
    はぁ。泣きそう。大好きな梨木さんの世界。感想が書けない。具体的な言葉が出てこないよ。
    霧深い静寂な森のなかを、ひとりで彷徨い歩いているような感じだった。
    森へ一歩足を踏み入れたときには、何をしにいくのか、どこに向かうのか、目的や辿り着くべきところがあったのだろうけれど、気がつけば、それらのことは何の意味も持たずに、只々ゆっくりゆっくりと歩を進めている。

    そう。自分の心のなかを、冷めた自分が外側からじっと眺めている感じ。時折、どんよりした闇が胸の奥底から湧き出ては、何かに追われているように、動悸が激しくなる。

    それは、わたし自身?

    鼻の奥がつんと痛くなるような、哀愁と切なさと、戻ることの出来ない記憶のなか。しっとりと濡れた足元。それをじっとみつめるわたし。

    確かに、胸奥の深い森へと還って行く作品集。見失っていた自分に立ち返るために。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      地球っ子さん
      梨木香歩の世界は、戒めのように思えてしまうと同時に、差し伸べた手が期せずして自分自身に返ってくるような優しさを感じます。
      やっ...
      地球っ子さん
      梨木香歩の世界は、戒めのように思えてしまうと同時に、差し伸べた手が期せずして自分自身に返ってくるような優しさを感じます。
      やっと久々に「家守綺譚」を読み終えて或る想いを強くしています。そして次は「丹生都比売」を読み返そうと、、、
      2022/04/02
    • 地球っこさん
      猫丸さん、こんばんは♪

      私が梨木さんの世界に時々帰りたくなるのは、猫丸さんのおっしゃる戒めと優しさを感じたくなるからかもしれないなぁと気づ...
      猫丸さん、こんばんは♪

      私が梨木さんの世界に時々帰りたくなるのは、猫丸さんのおっしゃる戒めと優しさを感じたくなるからかもしれないなぁと気づきました。

      最近無性に梨木さんの本を読みたくなってきました。
      というのもネイチャーライティングという分野を知ったからです。
      梨木さんの世界観もそこにあるようで。
      しばらくは、私のなかでネイチャーライティング・ブームが続きそうです(’-’*)♪
      2022/04/02
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      地球っ子さん
      おー確かに「ネイチャーライティング」ですね。畏敬の念があるからこそ、サラリと人智を越えた世界を描ける、、、
      地球っ子さん
      おー確かに「ネイチャーライティング」ですね。畏敬の念があるからこそ、サラリと人智を越えた世界を描ける、、、
      2022/04/02
  • 梨木香歩さんの短編集。
    あとがきによると
    「ひとはみな、それぞれの生の寂しみを引き受けて生きていく」
    という芯を持つ蔓でつながった短編たちとのこと。

    静かに変わりゆくものたちの物語、そんな言葉にすればおそらく全ての物語がそうなんだろうけど、でもやはり梨木さんの物語の静かさと不思議さと美しさは特別だと思う。
    特に好きだなと思ったのは、「コート」と「夏の朝」。
    変わってしまうことの寂しさ、そして変わらない優しさにぎゅっと胸がしめつけられる。
    いつだって世界や人を取り巻く優しさに気付いていたい。
    そう思えた。

  • シンプルな紺地のカバーが、文学的な雰囲気の短編集。
    しんとした気持ちで読みたい。

    短篇集とはいえ、表題作の『丹生都比売』(におつひめ)は独立して一冊で出版されたことのある長さであり、あとがきによれば、これは核になるお話で、他の作品もここから同じ蔓が伸びていった…ということだ。

    対象年齢も主人公の年齢もまちまちの、「ジャンル分けできない一冊」になった、というが、確かに同じ種から伸びている蔓のように感じられる。

    登場人物も、人なのかどうなのかよく分からない物もあり、しかし読んでいて、目に見える形が人であれ植物であれ鳥であれ、それは些細なことのようにも思えてくる。

    草壁皇子に関する、吉野裕子氏の説というのは初めて知るが、ああ、あるかも知れないと思ってしまった。
    かなしい皇子である。

    月と潮騒/トウネンの耳/カコの話/本棚にならぶ/旅行鞄の中からなかから/コート/夏の朝/丹生都比売/ハクガン異聞

    『コート』は、姉妹のかさねた歴史がしみじみと、最後になつかしく哀しかった。

  • 梨木香歩の初期作品集。静かに澄みわたる9つの世界。

    部屋にあらわれる鳥『月と潮騒』『トウネンの耳』、池に住む人魚『カコの話』、山で迷う男『ハクガン異聞』…これらは『家守綺譚』を彷彿させる。
    少しわかりにくい作品、『本棚にならぶ』『旅行鞄のなかから』があるのも梨木さんらしい。
    『コート』コートで繋がる姉妹の切ない話。
    『丹生都比売』以外で一番良かったのが『夏の朝』。
    もし、我が子がすごく空想家で他の子と違ったら…
    母としてどうするだろうか。
    子を守りたい母、(空想の)友を守りたい子。
    最後のまとめ方がきれい。
    全ては夏ちゃんにとって必要だったんだね。
    絶版していた『丹生都比売』がたくさんの人に読んでもらえるといいな。
    美しい日本古代ファンタジー。
    『丹生都比売』の感想は『丹生都比売』で登録しています。

  • ほう、と読み終わった。

    ユカワアツコ氏の装画も美しく、しおりの色にも喜びを得て、ハードカバーは手痛い出費だけどついつい手を伸ばしてしまう、梨木香歩。

    初の短編集。意外。

    冒頭、「月と潮騒」から心鷲掴み。
    短いお話なのだが、耳に響く潮騒の音が不思議なエンディングを呼んでくる。

    「カコの話」では、人魚が釣れたり。

    「夏の朝」では、百合から親指姫が生まれる。

    明るいファンタジー、ではない。すぐそこにある不思議を妖しく匂わせるのが、らしくて好き。

    そうしてタイトルになった「丹生都比売」が一番長くて、切ない。
    壬申の乱を舞台に、草壁皇子の幼く哀しい優しさが、戦そのものではなく、彼を取り巻く人々の移ろう心を浮かび上がらせる。

    ページを捲る音がいつもより響くような、静寂の一冊。

  • 言葉のひとつひとつが透明で、その美しいきらめきが私を迎えてくれる。
    『月と潮騒』では、引っ越ししたてのマンションの一室がまるで海底にあるかのような豊かな描写に、思わず潮風を感じた。

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著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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