私のなかの彼女

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著者 : 角田光代
  • 新潮社 (2013年11月29日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104346059

私のなかの彼女の感想・レビュー・書評

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  • 待望の角田さんの新作。
    ここ数年の次々とドラマ化映画化されている角田さんの作品とは一線を画すある意味衝撃的な作品だった。
    娯楽作品とは程遠く、とにかく暗い。

    モラトリアムな女子大生だった和歌がふとしたきっかけで作家となって行く姿を追った20年の物語なのだが、執拗なまでに陰気。
    恋人の仙太郎から投げつけられる心ない言葉、母から吐き捨てられる暴言、彼らに傷つけられながらも和歌は決して言い返さない。
    抑圧されながらも、自らを省みない和歌は常に主観的。
    他者のせいばかりにして生き続ける。
    だが、恋人も母も失うことによっていつも孤独だった自分の姿に向き合い、もがきながらも新たな一歩を踏み出していく。

    よくぞここまで内面を書ききったなと思う。
    祖母のエピソードや細かい設定は当然小説として作られたものだろうが、どうしたって角田さん本人の姿とだぶる。
    時代背景しかり、作家として悩んで行く姿しかり、母親との葛藤しかり・・・。
    過去のインタビューなどを思い浮かべてみると、自伝的要素が強い作品ではないかなと思う。
    家事をおろそかにしてまでも仕事に没頭する和歌の姿は、規則正しい生活を送る事で有名な角田さんとは全く異なるけれど。
    しかしながら角田さんのいい意味であざとい最近の作品とは違って、自らの身を削って書いたのかもしれない。

    一ファンとして角田さんの初期の作品を彷彿とさせるような、と同時に最近のエンタメ系作品とは異なる本作は、忘れられない一冊となった。
    ただ一点、小説家を目指す和歌の動機がどうしても弱いのが納得いかず。
    そう簡単じゃないだろうと言うのが本音。
    幼いころから小説家になることだけを目指していた作者自身のようなあり方こそ王道だろうと思うから。

  • 最近の角田さんの長編はずっしりとした作品が多いため、大げさかもしれないけど「読むぞ」という覚悟を持ってからじゃないと手が出せなくなった。それほどまでに、濃く深い作品世界に取り込まれてしまうから。
    独特の暗さを孕んだような印象があった本書は何だか手に取るまで怖かったのだが、読み始めたらいつもの角田作品同様、あっという間に夢中になってページを繰った。
    バブル時代、大学で出会った仙太郎と和歌。無知だった和歌は、賢くて何事もスマートにこなし、イラストレーターとして華々しく活躍する彼に盲目的に恋していた。自分の「核」がなかった彼女が、実家の蔵で見つけた祖母の小説をきっかけに、祖母のルーツを探りながら自らも書くことに目覚めていく。
    バブル崩壊。サリン事件。少年A。そのときそのときの世相を絡めながら描かれる、仙太郎と和歌の関係。時代の流れと共に2人の環境も少しずつ変化していく。イラストレーターの仕事に翳りが見え始めてきた仙太郎に対し、作家として注目され始める和歌。嫉妬、怯え、愛憎表裏一体の感情は入り乱れ、それでも互いに離れられないのは未練なのか惰性なのか。祖母の過去を否定し、「普通の女の人生」を強要する母。少しずつ明らかになる祖母の人生、そこに関係したある男性作家。現在と過去が複雑に交錯し、自分を見失いかける和歌。息苦しい描写は多々あったけど、傷付け合い、醜い感情も容赦なくさらけ出した生き方に、心を激しく揺さぶられた。
    それぞれの登場人物の生き方に100%共感はできないながらも、何となくは理解できる。仙太郎のような男ははっきり言って好きではないけど、和歌にマウンティングし、自分が常に優位に立っていたいという気持ちはわからなくはない。尊敬の念がすっかり薄れ、彼の不在にほっとしながらも、去られることに不安を感じ、みっともなく縋ろうとする和歌の行動も。
    後半、ある人の「人は他人の才能を潰すことなんてできないと思っているんですよ。才能を潰せるのは、その才能を持っているその本人だけだと」というセリフがものすごく印象的だった。煮詰まって、追い詰められて、うまくいかないことを誰かのせいにしたくなることがある。それが全くの独り相撲だったと気付くとき、くだらないことに捉われすぎた自分が恥ずかしくなる。そこから何かを新しく始めることもできるのだと、当たり前のことかもしれないけど、そんなことに改めて気付かされた。何歳になったって、どん底に落ちた後だって、「今から」は可能なのだ。和歌の生き方から、そんなことを感じた。
    幾通りもの生き方があり、幾つもの時代を経て、幾通りもの選択ができるということ…何度も読み返してその意味を反芻すると、それぞれの登場人物達の軌跡が浮かび上がってくる。思った以上に深い作品、ただただ、脱帽です。

  • 著者に近い立場の主人公を設定すると大抵読者から
    「実体験ですか?」とか「本音ですか?」とか突っ込まれますね。きっとこの作品で角田さんはめんどくさくなるほど
    あちこちからそう聞かれたのではないでしょうか?
    あとありがちなのは「これは私のことだ!」って人(笑)

    まぁ、実体験ではないでしょうね。そういう小説もありますけれども、角田さんは少なくとも今の時点では私小説を書く人ではないように感じます。
    でも味付けは実体験から来ているものが形を変えてたっぷりと盛り込まれていると感じます。それはたくさん書いてきた作家さんだからこそ為せる技なのでしょう。
    そしてこれを書かねば、きっと後につかえているものが
    作品になってきづらかったのではないかなぁと感じました。

    主人公の恋人はヤな男ですがでもこれ、彼の立場から同じ話を書き直したらきっと主人公のほうがもっとヤな女に感じられたのではないかなと思い。
    割れ鍋に綴じ蓋というかどっちもどっちの感もあり。
    でも男が主人公の母親に電話してしてたことが露見した時は卑怯と思いましたね。

    登場人物のほとんどがヤな人間性をむき出しにしているところが何故だかそれ程ヤとは感じられず、むしろ親しみを感じます。みんな表には出さないけれど内面では多面的な人格や感情が渦巻いているものだよなぁと思い、それがちょっとひりひりするからでしょうか。

    角田さんは凄みをまして来てますね。どこまで行かれるのでしょう。ついて行きたいけれどいけますかしら。

  • 何かを表現する人の思考は、色々なことを掘り下げて掘り下げて掘り下げて…って常人には考えつかない方向まで考え抜いているんだろうか。

    この本の主人公の和歌まで偏った方向ではないにせよ、角田さんもそうなんだろうなあ、と納得する作品でした。

    和歌の一方的な感情だったので、仙太郎の目線のも読んでみたい。

  • 和歌という女性の、大学時代からはじまり作家になり、30代になるまでの物語。

    自分の考えを人に話すこともままならなかった和歌ですが、20代のバブル期や社会人生活を経て作家になっていく。
    主人公が小説家であるので、自ずと角田光代さん自身を思わずにはいられない。
    フィクションなのでしょうが、湧き上がる物書きの思いはリアルです。
    感情の負の部分がすごく密に書かれていて、奥底から言葉を絞り出していると感じました。
    勇気を持って小説にされたと思います。

    和歌を通してではありますが、小説を書くというのはなんと身を削るような仕事であるかと圧倒されました。
    書くことに集中して、それ以外は後回しになる。昼夜逆転し部屋は散らかり穴ぐらのようになりガソリンの補給のように食べ物を食べたり。そして身ごもったことさえ二の次にして…。やるせなく哀しい。痛ましいと感じた。
    書きたい書きたいという欲に絡めとられていくような和歌に危うさを感じ、気持ちがざわつきました。それほどまでにのめり込むものなのか。
    様々な思いはあるけれど、いちばんは自分にとっての怖さを再認識したことです。個人的にはバランスを失うことはとても怖い。現実を見つめられないのも怖い。判断できなくなるのも怖い。

    作中、恋人の仙太郎との関係が気になって、どんな風に別れてしまうんだろうとずっと心配していました。それはもう別れ以外ありえないというように納得の展開。辛いものですね。
    長くつきあった仙太郎に対して、つき合いの終わり頃には、仙太郎が自分をどう思っているか、仙太郎が自分に何を言ってくるかばかりで、相手そのものを思いやることも欠いているように感じた。
    小説を書くということは相当に大変なことで、特殊なモードに入り込むのかもしれない。
    決して楽しい小説ではないのですが、読み終えてもなお余韻が残っています。

  • プラチナ本という紹介があり、傑作を読み落としていたのか!?と読んでみました。
    作家になる女性の話で、具体的には違っても、自伝的要素もあるのかもと思わせます。

    本田和歌には、大学時代から、仙太郎という恋人がいました。
    仙太郎はアーティストとして個性を認められ、ちょっとしたスターに。
    とくにやりたいこともなく就職した和歌は、結婚を夢見つつ、置いていかれた気分。

    祖母のタエが作家志望であったことを知り、どんなことがあったのか想像をめぐらして、初めて小説を書いてみます。
    ボーナスでワープロを買い、記念にと応募した作品がなんと受賞。
    母親には露骨に嫌がられますが、いつしか作家として生活することに。
    祖母は若い頃、作家修行に先輩作家の元に身を寄せ、家族にとってはスキャンダルだったらしい?

    売れなくなった仙太郎と、仕事に打ち込む一方の和歌とのすれ違い。
    とうに別れてもいいのではと傍からは思うほどだけど、そんなものかも知れないですね‥
    致命的なことが起きるまでは。

    仕事にのめりこんでいく状態。
    パートナーにわかってもらいたい気持ち、認めてほしい気持ち。
    それが無理だと気づき始めても‥

    祖母のタエについて少しずつわかっていくことがあり、そのときに応じて和歌の解釈も変わっていく。
    最後のほうの解釈に救いが感じられます。
    ちょっと痛いけど、それだけ、読み応えのある内容でした☆

  • 実家の蔵を解体するための整理をしているときに偶然見つけた、祖母の名前らしき小説。

    バブル時代から平成という見慣れない時代へと移り変わり
    神戸の震災に宗教団体や少年による事件、
    大学生だった和歌のそばには、いつも仙太郎がいた。

    母に醜女と言われた祖母。
    祖母の昔話を考えていくうちに思いついて書いた小説でプロにデビューした和歌。

    学生時代から早くも才能を発揮した仙太郎とのすれ違い。
    書きたいという気持ちと、書けないという気持ち。

    小説を書き続けるために失ったもの。

    うまく表現できないけれど、平凡でいながらも壮絶な感じ。
    これが人一人が生きていく過程なのかも。

    p257「ただしいのは自分で、間違っているのはぜんぶ他者。うまくいかないのはぜんぶ人のせい」

    読んでいるときは仙太郎ってなんてみみっちくて嫌な男なんだろうって思ったけど
    読み終えると私はどちらかというと仙太郎タイプだなあとか思い彼の孤独もわかったり。
    夢中になったらそれ以外なにも見えずに生活が疎かになるタイプでは、ない。。。

    みんながそれぞれの言い分を抱えていて、
    それなりの筋道があるんだなあと。
    時代背景とよく合っていて、切なく身にしみる)^o^(

  • 偶然実家の土蔵で祖母の書いた小説を見つけ、前から気になっていた祖母の本当の姿を知りたくて、どんどんのめり込んでいく和歌。祖母の強い思いによって書かされているかのように小説を書き始めます。

    和歌より優位に立ちたい仙太郎のプライドも、自分を引き上げてくれた仙太郎の才能を信じたいけれど、信じきれない事実に気づいてしまった和歌の思いも、切なく悲しく思えました。かつての鉄治と祖母・タエの姿が重なります。

    和歌にとって、家庭を守ることと書くことの両立が非常に難しいであろうことは、描かれている仕事ぶりからわかります。著者の実際の体験なのだろうかと、つい想像してしまいました。

  • 歪んでるし複雑に絡み合って解こうとしてももうどこから解いていったらいいのか分からない。
    和歌と仙太郎の関係に、ずっと胸が詰まるような息苦しさを感じていた。
    最後まで、仙太郎が和歌の何を好きになったのかがわたしには読み取れなかった。和歌が仙太郎を好きになるのは痛いほど分かるのに。自分よりいつも一歩も二歩も先にいて、話せば新しい景色を見せてくれる。自分と相手との差を思い知ると同時に、しかし自分も何かを得た気分になる。
    結局相手に依存してるんだけど、その依存が心地よくて、うまく抜け出すことができない。
    相手の言葉がいちいち正しく思えて、その言葉に囚われる。

    仙太郎の、無神経と思えるほどの強さとまっとうさ。和歌の、たとえ恋人といても、たとえ賞を取っても、自信を持つには至らない「何をしても満たされない」感じ。
    まっすぐな仙太郎と、いくつもの自分に翻弄されてねじくれた和歌。
    もともと噛み合ってなんていなかった。どれだけデートしても、語り合っても、一緒に笑っていても、どこかでズレていた。

    わたしは、和歌が何かを「した」のが間違っていたのではなくて、そのために犠牲にする対象を間違えたのではないかと思う。というか、不器用なんだと思う。

    レビューを見ていて、仙太郎を批判する意見が多いのに驚いた。それじゃあ和歌と一緒じゃないか。恋人に何を言われても反省もせず楽なところへ逃げて言いづらいことは言わず自分が被害者かのように振る舞う。
    共感するけど、してしまうけど、だからと言って仙太郎がひどい男とは思えない。仙太郎視点の描写がないから内実はわからないけど、批判されるような人だとは思えなかった。
    一方で、がむしゃらに生きる、自分自身の生き方を手にした和歌も、悪いわけじゃない。
    単に、合わなかったんだろう。

    最後の方、「自分がほんとうには何を欲しがっていたのか、今、和歌には分からなくなっている。そしてそんなことわからなくていっこうにかまわないと和歌は思うのだった」という一文に、なんだか救われた気がした。

  • 恋人にして師匠である男。彼を崇拝する女。女に才能があり、やがて男を抜く。
    すると男はどう変わるか。

    男のほう、後半ほとんどモラハラ。アイデア盗んだとか、自分の仕事のできなさを女のせいにする。情けなさすぎるけどそれしか軸がない。女は男の情けなさに気づいてるのに嫌いになれない、崇拝の念を捨てられない。
    そして、崇拝が恨みに変わる。
    自分の行動の原因を男に求めるあたり、結局、男に依存していると思う。

    仙太郎がリアルすぎる。悪い人じゃないんだろうけど、このスカした感じ、普通にいそうで、しかも女の子が憧れそう。
    最後に忘れてるのがムカつく。こういうのも含めて、男を頼るなってことなのかも。

    主人公は書くことで恨みから抜け出したけど、祖母タエはどうだったんだろう。

    大仰な事件は起きないけど、すごく痛くてひっかかる。この小説好きです。

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私のなかの彼女の作品紹介

いつも前を行く彼と、やっと対等になれるはずだったのに――。待望の最新長篇小説。「もしかして、別れようって言ってる?」ごくふつうに恋愛をしていたはずなのに、和歌と仙太郎の関係はどこかでねじ曲がった。全力を注げる仕事を見つけ、ようやく彼に近づけたと思ったのに。母の呪詛。恋人の抑圧。仕事の壁。祖母が求めた書くということ。すべてに抗いもがきながら、自分の道を踏み出す彼女と私の物語。

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