精子提供―父親を知らない子どもたち

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著者 : 歌代幸子
  • 新潮社 (2012年7月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104388035

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精子提供―父親を知らない子どもたちの感想・レビュー・書評

  • 他人からの精子提供による生殖医療を題材にしたノンフィクション。
    テーマは良いし色んな立場でかかわる人たちに話を聞いて書こうとしていることは評価できる。
    しかし見方があまりにも単純。
    それぞれが自分の経験やイメージだけで語る感情がそのまま書かれているだけで考察が薄っぺらい。
    同じ状況の人に対する配慮も敬意も感じられないのがとても嫌だ。

    生殖医療は、ずっと密室の中で行われてきた。
    この密室をつくる圧力は、知らせないことこそが幸せ、「普通」の家庭をすることこそが誠実であると、家族を沈黙の中に沈ませてきた。
    近年、生殖医療で生まれた子供が発言しはじめて、ようやく社会は気づき始める。
    生殖医療が最大の当事者である子供を無視して進められてきたことに。

    読み始めてしばらくの間、猛烈な嫌悪に襲われた。
    安全圏からああだこうだ言っているように見えた著者の書き方がまず嫌。
    な、つもりだったけど題材になっている人たちへの嫌悪を著者に転嫁してただけだ。

    「苦しい立場の人を安易に叩いてはいけない」というのが私の中の絶対的な倫理としてある。
    しかし私の倫理は同時に「本能」や「血を残す」ために「子供を道具に使う親」を嫌悪する。
    だからそういう言葉を吐いちゃう親がものすごく嫌なんだけど叩くのもなんだか嫌で著者のせいにしたかも。

    親がメインの部分ではそんな葛藤にさいなまれていたけれど、精子提供者の言葉を見たらストンと落ちた。
    これは親だとか不妊だとかそれ以前に、単純にその人か嫌いだってだけでいいんだ。
    余裕のない状況だから醜さがあらわになってしまうってのはあるにしても。

    この本に出てくる精子提供者は自分のしたことの結果を考えない、できた子供の人生なんてまったく眼中にない、出しただけだから責任はないと思いこんでいるクズだ。
    だけど、このクズっぷりは別に提供者だからじゃない。この人だからだ。(以前海外ドキュメンタリーでみた別の提供者、多分この本にも事例としてでてくる人はまともだった)
    シャーレに出すか膣に出すかの違いだけで、責任感のないクズはどこにでもいる。
    セックスした女に責められれば「面倒なことになった」くらいは考えるけれど、匿名性に守られた精子提供では反省の機会がないってだけだ。

    他の部分も同じで、親の人もAIDでつくられた家庭も研究者もみんな、個々に欠点をもっているだけだ。
    土台がしっかりした家は嵐が来ても耐えられる。嵐から守ってくれる。
    土台がぐだぐだな家は風が吹けば倒れるし倒れれば中身を押しつぶす。
    「普通」とみなされない家族構成はそれ自体が「異常事態」だから、土台のまっとうさが問われる。
    この本の中にある関係性は『カミングアウトレターズ』http://booklog.jp/users/nijiirokatatumuri/archives/1/4811807251のちょうど逆なんだ。


    だから、「AIDだから」不具合があらわれるかのような書き方が気になる。
    見えた部分だけを取り上げて、それがすべてであるかのように書くのは危険だ。
    夫婦仲が冷え切っていた、ペットのように可愛がられた、親が向き合おうとしない...
    そんな不具合は、AIDだからじゃなくてその夫婦がしっかり向き合えないからだ。これはただの機能不全家族。
    不登校でも摂食障害でも借金でも病気でも、なにがしか問題が起こったらその夫婦はきっと同じように耐えられない。


    家族の中のAIDだけでなく、社会の中のAIDも同じように一方的に描かれる。
    たとえば「親のエゴ」を語る時、「法律婚をした異性夫婦の自然妊娠」以外のケースばかりがエゴを問われる。

    卵子や精子に希望をきくわけにはいかないから、子供なんて産むのも産まな... 続きを読む

  • AIDと言う言葉はご存知でしょうか?
    私は寡聞にして本書で初めて知ったのですが、これは不妊治療の一つとして日本でも1948年から始まった医療行為の事で、無精子症などによる夫の不妊が原因で実子を持てない夫婦に対して、第3者の精子を使って子供を作ると言うものです。

    本書は、AIDによって生み出された子供たちが成長してひょんな切っ掛けからその事実を知り、衝撃を受けている事実の紹介から始まり、なぜそのような衝撃を受けるのか、AIDを受けた夫婦の治療時の経験や治療後の夫婦仲・家庭の様子、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパ諸国など諸外国におけるAIDに関する事柄(AIDで生み出された人の苦悩、AIDに関する社会制度など)、AIDを受けない場合の選択肢(養子、子供のいない夫婦になる)等について、7年越しの豊富な取材で知り得た具体例に基づき、読者にわかりやすく解説している一冊です。

    私は自分が男性と言う事もあってか、本書を読み始める前には、

    自分の不妊が原因でAIDを受けた男性が、男性として否定されたような気持ちになることや、他の男性の精子で妻が妊娠することへ抵抗感を抱くこと。
    しかし、妻を失う事への恐怖や妻に対する負い目からその気持ちを口にするのがはばまれる事、生まれてきた子供が成長するにつれ疎ましく感じられる様になると言った事があるのだろうなと、なんとなく想像していました。

    確かに本書内にはこの様なケースも多く見られたのですが、夫婦仲が破綻寸前になっていない家庭においても、子供たちは何となく違和感を抱いたり、親が何かかくしていると感じていたりしており、また、親がひた隠しにしてきたAIDと言う事実が、両親の離婚や病気など、子供に大変な負担がかかっている時に明らかにされると言う二重苦に晒される事も解説されています。

    特に印象に残った内容は

    AIDによって生み出された子供は、「自分と両親は血がつながっている」と言う認識をもとに長年に渡って人格を作り上げてきた。
    しかし、成人してからAIDの事実が明らかにされた事により、自分の人格形成の土台がまがい物であったと感じ、更に自分の人格やこれまでの人生全てが偽物であるかの様にも感じてしまう。
    そしてこの苦悩は周囲にそして親にも理解してもらえず、更に苦悩を深める。

    AIDは不妊を解決するものではなく、不妊を隠す為の技術として使われている。

    大切なのは親子間の強い信頼関係。
    出生の事実の隠蔽はこの信頼関係を大きく損ねる為、子供が成長してからAIDの事実を打ち明けるのは望ましくなく、子供が幼い頃からAIDの事実と「あなたはお父さんとお母さんが望んで生まれてきたのよ」と言う事をきちんと伝えることが重要。

    と言った所でしょうか。

    これ以外にもドナーの身元を明かにする必要性や諸外国でのドナー情報提供の動き。
    そして日本でも医療関係者やAIDを受けている(あるいは検討している)夫婦の中にも子供たちへのAID告知の必要性への認識が広がっていっている様子などが紹介されており、AIDだけに止まらず、不妊治療全般について深く読者に問いかける内容でした。


    不妊治療とは単に妊娠出産を手助けするものではなく、その本当の姿は家庭の創造を手助けすること。
    この視点が抜けた不妊治療は良い結果には結びつかない。

    その様に思いながら読了。

  • HONZより。

     精子提供、自分も精子バンクに精子提供したら自分の遺伝子をたくさん残せるのかな、、なんて簡単に考えたことはあるが、確かにその子供たちがどう思うのか、今の自分の家族がどう思うのか?という発想に欠けた、安易な考え方だったことに、この本を読むと気付かされる。

     夫の無精子症などにより、他人の精子を使った不妊治療は、遺伝的な父親を知らない子供たちを生みだした。そして、育ての親とは別にどうしても遺伝的な父親を探してしまう、それは、切実な、父親を知りたい!という気持ちの問題だったり、引き継いでしまった遺伝病の解明のためだったりする。

     解決手段としては、父親を知る権利を与えること。
    そうだね、いろいろあるけど、少なくとも、隠し事はなし、だよね、家族の中では。

     

  • 晩婚化も一因か、なかなかお子さんが出来ないカップルの比率が上昇中。対応の一つにAIDがあり、古くから行われているって事は意識していなかった。この事実を子供の目から見た本。センセーショナルに書いて有るので、AIDに反対しているかと思うと、主旨はどうも事実を隠蔽してはいけないと言うこと。
    子供の目線でとらえるとまた、AIDと養子縁組って大きく違うんですね。この種の問題って難しいですね。たまたま今日、人間ドックを受診しました。問診時に祖父母まで遡っての病歴を聞かれた。この手の質問って、辛いですね。

  • 土屋隆夫の有名作品でよく使われるモチーフだけど、現実では果たして…。

    AIDとは無精子症など男性不妊に対する生殖医療の手段で、非配偶者の精子を使った人工授精のこと。そうして生まれた子供が主に成人後自らの出自を知り、現行制度では生物学上の父親について知るすべがないため苦悩する姿から、男性不妊に起因する不妊に苦悩する夫婦や、精子を提供した元慶應医大生から、不妊治療を諦めた夫婦、養子縁組制度(5人も!)を選んだ夫婦、医学界でも様々な現状の問題に奔走する方々へのレポがバランス良く章ごとにまとめられている。

    これ、良く書けているノンフィクション(ルポタージュ)だと思うけど、作者が既婚子持ちの女性ということで、「他人事間」が気になった。鼻につくとまでは言いませんが。書き手の中立性は大事だけど、もっと熱い筆致でもいい。星一個減点です。

    男性が書き手だったら書き方や読後感が随分違っていたような気がする。私が男だからかも知れないが。もう少し書き手の怒りや個人的意見や提言や主張が前に出てもいいんじゃない? 

    それにしても、AIDを始めた慶應大学病院や以降の他の病院のやり方はひどいな。不妊に悩む夫婦にしろその子供へのメンタルケアにしろ。慶應系医療従事者へもっときついツッコミが聞きたかった。

    読んでいて腹立たしいのが、法整備が余りにも杜撰なこと。少子化対策が話題になって久しいのに。この本が出た後で国会審議や医学界では「出自を知る権利」への対策は進んだのだろうか? 

    海外ではちゃんと父親が誰か開示請求が出来るようになった国もあるらしい。日本国内でももっとこの本の中で苦悩する人々へのケアが論議されるべきだろう。

    最後の方では家族の在り方や子供を持つこととは何かへと話が大きくなって行く。ここら辺の書き方はあっさり。

    女性不妊に比べ男性不妊は研究が進んでいないそうだが、女性不妊症についても自分は知らないなあと思わされた。私が独身のせいもあるが。最近は「ブライダルチェック」という言葉も知られて来たけど、結婚前に男女共に不妊症でないか調べることは大切なことなのですね。

    この本と合わせて、ちょっと違った観点からか書かれた小堀善友さんの『泌尿器科医が教える - オトコの「性」活習慣病 (中公新書ラクレ)』もオススメです。もっと男性側の苦悩が生々しくもユーモラスに書かれてます。

  • 第三者からの精子提供を受けて生まれてくる子供たち。そしてその事実を隠される。
    今まで不妊治療の大変さが大きく取り沙汰されていたけれど、様々な生殖補助医療によって生まれてくる子供たちとその子供たちが抱える問題については殆ど触れられる事は無かったと思う。
    自分の遺伝子の半分が誰のものか分からないという事実を知って、困惑する気持ちが分かる気がする。
    家族という集合体を作り出す方法が複雑になっている現実を、どうやって把握してゆくのか。法的な手段が全く追いついていない状態で放置されている事が怖ろしい。

  • 去年、たしか新聞の書評でみかけて、読んでみたいと思っていた本が、空いていたので借りてきて読む。これを読んだちょっと後に、民間で「卵子提供」の団体ができるとかどうとかいう報道があって(*)、何をどう考えたらいいのか、ほんまに頭が混乱する。

    時代もあるのだろうけれど、壺井栄の『雑居家族』なんかを読んでも、育てられる人が子どもを引き取って育てるとか、子どものできへん人がもらい子をして育てるというのは、ふつうにあったんやなと思う。なにより、私の祖母は、結婚してからなかなか子どもができず「もらい子をしよう」と決めていたところに、母がぽこっとできたのだという。

    祖母が死んだ葬式のときに、ふと見た叔父さんの耳が、祖母の耳とそっくりで、(こういうのが血なんかなあ)と思いもしたが、一方で、やはり私のなかには、スゴイ不妊治療の話を聞くたびに(そこまでして血のつながった子がほしいものなのか?)という気持ちがあるのだった。

    この『精子提供』の本は、AID(非配偶者間人工授精)によって生まれた子どもたちがずっと秘匿されてきた「遺伝上の父」のことを知りたい探し求める話、その子の両親である夫婦がAIDを受けるに至った経緯、なぜ精子提供者の情報は隠すべきことになったのか、、、といった話が主に書かれている。

    その部分の話は、子どもの取り違え事件から「血」の関係と「育て」の関係を問うた『ねじれた絆』を思いだしたりもして、半分でも「血」がつながっているということは、親子にとって、そして夫婦にとって、どういう意味があるんかなーと考えながら読んだ。

    私が一番印象に残ったのは、8章の、里親になって子どもを育て、家族をつくることを選んだ人の話。

    不妊の原因が自分にあると分かった夫は、養い親になることを選んだ気持ちをこう語る。
    ▼「AIDを受ければ、私は血がつながらなくても、女房の身体に宿る子どもが生まれたかもしれない。でも、それは二人とも考えなかった。何よりも夫婦が同じ思いで子どもを育てることが大切だったから…」(p.197)

    児童相談所に里親登録して、「こんな子がいるんですが」と連絡があったとき、二人は本人に会うことなく、里親になろうと決めた。
    ▼「僕らは子どもにいっさい条件をつけないと話していたんです。我が子を授かったとしても、その子がどういう状況で生まれてくるのか、障害があるのかどうかもわからない。ただ、いずれは養子として迎えたいので、血縁の人と縁が切れる子どもをお願いしたのです」(p.186)

    子どもを迎えるのに条件をつけない、というのは、理想論なのかもしれない。「こんな子がほしい」と望むのは、どこか自分に近いものを求める気持ちなのかとも思うし、親のエゴなのかとも思う(サンデルの本に出てきた、不妊カップルの話を思いだす)。

    少なくとも、「子どもを迎える」のに、いまはかなり意識して"条件をつけない"と考えなければ、「こんなふうに、あんなふうに」という親のヨクボウのようなものは際限ないことになりかねないんやなと思った。その背後には、「思うようにできる」と錯覚しかねない技術がある。その技術は、ほんまに使ってええのか?と、私はやっぱり考えてしまう。 

    (1/5了)

    *卵子提供登録支援団体 http://od-net.jp/

  • 最近不妊に関する情報をTVでよく見るので、その延長上で興味を持った。読んでみてとても驚いたのは、この精子提供は実はかなり以前から行われているものであり、最新の不妊治療とは全く別物だったと言うこと。
    進化し続ける様々な治療法については個人的にはあまり賛成はしない。それらを考える時、あくまでも親としての目線でしか物事をとらえていなかったように思う。言いも悪いも、親となるかどうかの問題。けれどこの本はそれらの手段で生まれた子供の本音を訴えている。自分では選べない出生の事情。望まれて生まれてきたはずなのに、背負うものが大きすぎる現実。さはり、命は天からの授かりものとして自然に任せたいと思う。
    どうしても子供が欲しいと思っている人達、厳しいかもしれないけれど決断する前にぜひこれを読んでから決断してほしいと思う。

  • AID(非配偶者間人工授精)で産まれた子供、AIDを選んだ夫婦、医師、精子提供者など様々な人の視点から書かれたルポルタージュ。日本は養子の文化が海外ほど盛んでなく、「血の繋がり」が重要視されるだけに考えさせられる内容でした。

    ある人にとっては良い選択肢でも、ある人にとっては最悪の選択肢。一概に良い悪いを決められない、とても難しい問題だと感じました。

    あと死ぬ時ってすでに色々議論(安楽死とか脳死とか)になっているけど、現代は産まれる時から既に色々複雑なのだなと改めて感じました。

  • 資料ID: W0169647
    分類記号: 495.48||U 96
    配架場所: 本館1F電動書架C

    私は、この本で「AID」という言葉を初めて知りました。

    親や医療現場だけでなく、
    生まれてくる子どもの立場を
    考えなくてはいけない。
    そういう視点が欠けていたのだと、
    今更ながらに感じた本です。

    生命倫理・生殖医療などに興味がある方は、ぜひ。(Y)

  • 興味深く読み進めた。
    だからもいうのもあり、当事者の話をもっと盛り込んで欲しかった。あっても軽く触る程度だったり、登場人物を認識しにくい。

  • 慶応大学病院で60年以上前からおこなわれてきた
    非配偶者の精子による人工授精

    提供者は多くが医学生
    その影響の大きさを考えずに
    実施されてきました

    「出自を知る権利」という考え方がない時代のことかと思ったら、
    現在も1000人規模でおこなわれているようです。

  • 2階書架 : WQ208/UTA : 3410156784

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精子提供―父親を知らない子どもたちの作品紹介

「福音」なのか、「冒涜」なのか-AID(非配偶者間人工授精)を選択した家族、医師、精子提供者らに丹念に取材。決断までの夫と妻それぞれの葛藤、生まれた子に事実を告げる困難、そして"秘密"を知った時の子どもたちの衝撃。家族にとって最も重要なものとは何か、そして「科学技術」がもたらす幸福とは何かを問う力作ルポルタージュ。

精子提供―父親を知らない子どもたちのKindle版

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