赤猫異聞

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 526
感想 : 88
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  • Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104394043

作品紹介・あらすじ

鎮火後、三人共に戻れば無罪、一人でも逃げれば全員死罪。
数奇な運命に翻弄されつつも、時代の濁流に抗う人間たち。
激変の時をいかに生きるかを問う、傑作長編時代小説です。

感想・レビュー・書評

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  • 本当に、切なさの残る、こんな人間でありたいと思えるかっこいい人間に出会いたければ浅田次郎作品だなあと再認識。
    不浄役人の正義。
    真っ当に生きるとはどういうことか。
    御一新から人々はどう生きたのか。
    タイムスリップしてきたかのような読後感。疲れたけど、話が聞けてよかった。最後の、最期の言葉を、私たちもまた背負っていかねばならないと思う。
    「ちちははのこころもて、おたのみもうす」。
    限りない未来に向かって。

  • 久しぶりに浅田次郎で面白い!!と思った。まだまだこんな面白い作品が書けることがわかって嬉しかった。
    まずテーマがすごくいい!200年以上続いた江戸時代からガラッと変わる明治維新のドサクサな時期に行われた火事に伴う囚人の解き放ち。
    そこで働く人のことなんて考えたこともなかったけど、なるほど不浄な仕事というので成り手がなくずっと世襲で太平の世にあって唯一人を切り殺す武士。そんな仕事が嫌でも世襲なら仕方ないこと。
    それでも罪なき人を切れば鬼になってしまう、それだけは絶対に断る!という代々の不浄役人の意地と誇りをかけた所業に胸があつくなった。
    とにかく、いい。皆におすすめしたい。

  • 思いがけず一気読み。Amazon に掲載されているあらすじを読んだときから面白そうだなと思ってはいたのだが、ふと図書館でみかけて読了。

    時は明治元年、鳥羽・伏見の闘いを制した新政府が江戸入城を果たしたものの、牢屋の運営は旧体制を引き継ぐとも引き継がぬとも言われぬままという不安定な状態。江戸の町を襲う火事に、牢屋奉行石出帯刀は囚人を一時、伝馬町牢屋敷から解放する「解き放ち」を宣言する…という物語。当時牢屋を管理していた同心 2人と明治の新時代で第二の人生を生きる元囚人 3人への聞き取り調査という形で語られる「解き放ち」の詳細は、読み進むに従い徐々に核心へと迫る。

    腐敗した司法制度によって不相応な罪を着せられた囚人たちが、許された一時の中で自分自身の正義を追い求める一方、牢屋同心は牢屋同心で法とは何かを問いつめ、自ら正義を全うした…と書くと陳腐だが、浅田次郎の筆にかかるとあら不思議、江戸から明治へ、そして現代へと流れる一大エンターテイメントに一変するのだ。

  • 登場人物、みな粋な男に女!
    語り口が変わるのも、たまんねぇ。
    それぞれの視点は違えど、持っている魂は一緒。
    人の心を大切にし、真の義の道を貫く、素晴らしさ。
    結末に、あっといわされたのは、流石の浅田次郎。

  • 個性あふれる3人が主役:七之丞、お仙、繁松
    伝馬町牢屋敷の役人:石田帯刀、丸山小兵衛、杉浦、中尾
    悪役:内与力猪谷権蔵、貸し元麹屋五兵衛
    最初はまず全体を把握するために、若い中尾が話す。当然だが、上っ面しか知らないところもある。
    次は英国人おかかえ技官の妻となっている、白魚のお仙。それぞれの立場で語る。そしてだんだんと核心に迫って行くところがうまい。
    繁松の「命が二つあっても足らねぇ」と言うくだりはなかなか。
    お仙の話で、「これはもしや...」と思うのだが、うまくまとめている。お仙が心変わりするところが見せ場だ。星を見ていて思うところも自然な感じ。
    繁松と七之丞の場合は比較的に容易と思うが、さすがにうまくおさめている。
    最後はどんでん返しが待っている。

    結末の言葉も重くどっしりと来る。
    おもしろかった。感謝。

  • ひさびさに浅田節全開です。キャラがたった主人公たち、それぞれの語り口から明らかにされる明治元年暮れの大火に際しての罪人放免=伝馬町牢屋敷の解き放ちの顛末。三人の話し手が終わり、残る最終章は語り手がいないと思いきや、あっと驚く事実が明らかにされます。魅力的な登場人物たちと深い余韻を残すエンディング、浅田次郎が帰ってきました。

  • 話の途中から、オチは大体予想はついたけれど、文章を手繰って行くと胸にずんとこたえるものがあった。

  • 良かった!
    話の流れも
    内容も
    そして、最後の顛末も
    読んで良かった。

  • 自分語り形式の作品なので個人的にムリだった。
    「え、○○だって?そんなワケあるかい」
    みたいな一人ノリツッコミ説明台詞に鳥肌が立つ。
    どいつもこいつも喋り過ぎ、なんて全否定。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/59105

  • 江戸から明治に代わったばかりの時代、獄舎にて一人の打ち首の刑がまさに執行されようとしていた。そのとき半鐘の鐘が鳴り響く。数年ののち、その関係者に当時のことを語ってもらう形式で話が進んでいく。とても面白い。

  • 明治元年の年の瀬、徳川幕藩体制が崩壊し、明治新政府への移行がまだ落ち着かない混乱の江戸が舞台。
    大火事が起こると牢獄の囚人たちを解放する「赤猫」という慣習により縄を放たれた三人の大物囚人を巡る物語。

    明治に入った数年後、司法省の役人が当時の関係者に事情聴取をするという設定で、各登場人物による独白文といった形式で小説は進んでいくのですが、各々のキャラクタに合わせた生き生きとした口上が見事の一言で、著者の筆力には感心させられます。
    江戸から明治へ、社会が大きく変わる時代感や、牢屋同心という下級役人の悲哀など、考証的な部分でも興味深いところが多く。

    が、物語自体は大して面白いものではないので、口上が見事な分、やや冗長さを感じてしまったのも事実。
    個人的に、人情モノはあまり好みでないというのもありますが。

  • 人に定められた道を全うすることが「正義」その儀を問う浅田作品、今回は江戸伝馬町の牢屋敷囚人が迫り来る大火のため解き放ちの命を受ける。九死に一生を得た三人の囚人と牢の管理同心二人の生き方を、義という視点から考察する。許された限られた時間の中で自分の信ずる義を大罪を犯してでも遂行試みる三人、一方白砂の裁きを厳格に執行っする同心二人。不徳の義が徳の不義を嘲笑う、そんな流れに嫌気がさしたのか、天は同心に力を与えたのか?お白砂に不正、裁判に冤罪は付き物なのか!義に生きた「壬生義士伝」を思い出される。

  • ネタバレ連発です/読み終わったあとは腑に落ちなかった。さいしょに、こんな仕事してて慈悲のある丸山は怖いなにかあるという目線から入っちゃったし、お仙、繁松の昔語りが明かされるうち、ああこれは丸山なんだろうと、見当もついてしまったし。ひとの恨みを代行して命までとるってのはどうなんだろう、それはやっちゃいけない領域じゃないのか、なんて受け止め方で読み終えてしまった。
    でもあとあと考えて、じわじわ腑に落ちてきた。
    牢屋勤めという特殊な立場。仕事で罪人の首を刎ねる半生のなかには、生きるべきものを自らの手で殺し、死ぬべき悪人は生きている理不尽を反吐が出るほど繰り返し見ていただろう。己の命の使いどころを、ずっと考える人生だったろう。ふと奇跡が重なって赤猫騒動が起きたとき、命を捨てに走ったあの3人の行き先を知っている自分なら。ほんとうの罪人の命を奪うことに今更迷いのない腕と理由を携えている自分なら。あの3人を生かすことができるなら。
    いまが命の捨て所だとおもったのだろう。それを理解してくれる友がいることも、後押ししただろう。

    あとになって思い返して、じわりじわり胸が熱くなった。正義とは言えない、でもきっと丸山小兵衛はすこし救われただろう。
    ひとは、なにかの役どころを持って生まれるものなのかもしれない。私はきちんと演じられているだろうか。台詞を間違えちゃあいないだろうか。
    深く考えさせられる1冊でした。

  • やっぱり浅田作品は引き込まれる!

  • 登場人物達の語りで物語を構成する浅田次郎得意のパターンですね。
    各登場人物達が魅力的で、特に最後の丸山と杉浦の関係性には驚かされました。
    もう少し丸山を描いてくれたらもっと良かったかな。

  • こういうの泣いちゃうんですよね〜
    年を取って涙もろくなったのもありますが、やっぱり曲げられない正義ってのがあるんじゃないかと思います。

  • 明治初期の江戸で大火事が起き、小伝馬町の牢獄の囚人たちが解き放たれた、これを赤猫の解き放ち、というらしい。

    主役の囚人三人と二人の看守の役割は比較的はっきりしていて、浅田節の人情味溢れるセリフでホロリとさせるもいかんせん題材の火事での解き放ちってのがイマイチグッとこないんだなぁ…
    やはり武士の本懐的な話が好きです。

  • 泣ける、という内容ではないし、全面的に独白で書かれているために大変読みにくい。だが、内容はとてもユニークで楽しめた。価値観が大きく変化する時代にあって、人としての矜持とは何なのかを深く考えさせられる内容に感じた。

  •  赤猫とは,火事時の囚人解き放ちのこと。
     そんな赤猫の際に起きた,三人の囚人と,二人の役人のお話。


     時代が個人に与える影響は大きいな。

     特に江戸時代までは,自分そのものの価値なんてどうでも良かった気がする。
     与えられた立場や関係性の中にある自分の”分”をいかに正しく生きていけるかが,一番の粋だったんだろう。

     そこに,個人の利益や合理性などはほとんど影響しない。 お上の威光を預かる役人として,親に育てられた子分として,朝廷ではなく幕府の末端である旗本として,そんな自分が通すべき筋は何なのか。その筋を通すことで自分が被る不利益は,筋を曲げることへの恥,怯懦と比べたら些細なこと。

     同じ事象でも,人によって見方が変わる点が多いところが面白かった。当然のことだけどね。

     そして宇江佐さんといい,時代小説では登場人物があっさり消されてしまうなあ(笑)

  • 2015年2月22日
    すごくよかった。武士の矜持、牢名主の男気。三大美人の真っ直ぐなところ。
    杉浦の役回りに驚かされた。憎まれ役をずっとやりきったとは。
    丸山と身ふたつのひとりと分かりあっているこの濃さ。友情、家族を越えたつながりに現代にない何かを感じる。

  • 江戸から明治への混乱のさなか、大火事による牢屋敷からの囚人の解き放ち。浅田次郎お得意の時代を描く時代小説。

    無宿重松、辻斬り七之丞、白魚お仙。3人の曰くつき罪人たちの解き放ち後の物語を数年後の本人たちの語りで紹介していくストーリー。しかしながら、キーマンはまさかの丸山小兵衛なんですよねえ。と、ネタバレですが。

    罪人たち3人にとっては、生きて世の役に立ちなさいという天の情けか、様々な運命の中、真っ当に生きてきたことへの天の情けか、自分の手をこれ以上汚さずに本懐を果たすことができたという、浅田次郎らしい人情あり奇跡ありの物語でした。
    小兵衛は、なぜ、このような行動に出たのか。役人としての正義を貫くということなのでしょうが、解釈が難しいところもありました。
    そういった部分がスッと頭に入ってきていないことからしても、時代小説を読むには、まだまだ修行が必要だなと思う今日この頃ですね。

  • ぬるくない時代の話。混乱、不安、変遷入り混じりながらも中途半端な時代。
    そんな中の本当の武士としての生き様が胸を打つ。

  • 浅田次郎の幕末・御一新モノ。腕に覚えのある武士が、己の天分を全うする話。だが、まさかここに話が落ちるとは読めなかった。憑神を思い出した。

  • 幕末から明治へと向かう混沌の時代。
    獄中にあった囚人たちが、火事のために解き放たれた。
    後年、その中の重罪人であった3人、夜鷹の大元締めの白魚のお仙・信州無宿繁松・岩瀬の若様である七之丞に加え若き牢屋敷同心・鍵役同心杉浦にその時の事を聞き書きしたものがこの書である。
    どの話の中にも出てくるのが杉浦と同じ職分の丸山小兵衛である。
    3人を死なせず、解き放つために丸山小兵衛が出した条件は「三人とも戻れば無罪放免、一人でも逃げれば全員死罪」というもの。しかも誰も戻らねば丸山小兵衛が腹を切るという。
    丸山の覚悟に、三人の囚人はどう向き合ったか。
    最後に明かされる丸山小兵衛と杉浦の絆は感動ものである。

  • どなたかが言われてましたが
    確かにこの「一人がたり」の語り口が多いですよね。
    オフィス街の図書館だからか浅田次郎本は予約待ちで大変なんです。

  • 浅田さんお得意の人情モノ。
    一見悪者のように見える人が、実はものすごい善人だったってお話です。
    確かにラストに感動するんだけど、ちょっとこのパターンに飽きてしまったというのも事実。
    それと、浅田さんの1人称で書かれた小説は、疲れているときは気分がノラなくて楽しく読めません。
    浅田さん好きとしては、ちょっと微妙なお話でした。

  • 明治初年、まさしくと舞台は時代の変換期。火事による囚人の解き放ちを巡り、ミステリー仕立ての寸劇が展開する。時代劇であるが、良質の法廷ミステリーを読んでいるようだ。

  • 最後は男の友情と正義感で締める。いかにも、浅田次郎さんを感じる作品。読みやすく、いいなぁと思えるが、やや重厚さにかける分、感動するわぁ、とまではいかない感じ。

  • 赤猫とは伝馬町牢屋敷に火事が押し迫った際 の囚人を解き放つ事。幕末から明治へと時代が移りゆく時代、3人の囚人が解き放ちを受 ける。解き放ちの条件はともに火事が収まっ たならば決められた時刻までに帰って来ること。全員同時に戻れば無罪放免。一人でも欠 ければ戻ってきた者は死罪。そして全員戻ら なければ牢同心が切腹。縁もゆかりもない四 人が、江戸から東京に変わったばかりの時代 を各々過去の因縁を背負いながら必死に生き る様を描く秀逸な作品。博徒、夜鷹、旗本の 御曹司、それに牢屋敷の同心をうまく絡めて 生きる事の意義を問う。武士の動なる矜持。 グゥときます。

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著者プロフィール

1951年東京生まれ。1995年『地下鉄に乗って』で「吉川英治文学新人賞」、97年『鉄道員』で「直木賞」を受賞。2000年『壬生義士伝』で「柴田錬三郎賞」、06年『お腹召しませ』で「中央公論文芸賞」「司馬遼太郎賞」、08年『中原の虹』で「吉川英治文学賞」、10年『終わらざる夏』で「毎日出版文化賞」を受賞する。16年『帰郷』で「大佛次郎賞」、19年「菊池寛賞」を受賞。15年「紫綬褒章」を受章する。その他、「蒼穹の昴」シリーズと人気作を発表する。

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