どこから行っても遠い町

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104412051

作品紹介・あらすじ

男二人が奇妙な仲のよさで同居する魚屋の話、真夜中に差し向かいで紅茶をのむ「平凡」な主婦とその姑、両親の不仲をじっとみつめる小学生、裸足で男のもとへ駆けていった魚屋の死んだ女房…東京の小さな町の商店街と、そこをゆきかう人々の、その平穏な日々にあるあやうさと幸福。短篇の名手による待望の傑作連作小説集。

感想・レビュー・書評

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  • 東京の、とある商店街を舞台に、そこに住む人々が緩やかに繋がる連作短編集。
    短編が進むにつれ商店街に集まる人々の繋がりが深まり、ほっこりしたり切なくなったり。

    嫁姑関係にある時江と弥生さんが、夜中に二人で紅茶をすすりながらお喋りする様子は微笑ましい気持ちになれた。

    一番印象的なのは、魚屋「魚春」の平蔵と平蔵の妻・真紀、真紀の愛人・源二。
    この三人の奇妙な関係には一言では言えない想いが込み上げる。
    「生きていても、だんだん死んでゆく。大好きな人が死ぬたびに、次第に死んでゆく。死んでいても、まだ死なない。大好きな人の記憶の中にあれば、いつまでも死なない」
    人は一人で生きている訳ではなく、他の誰かとの関わりの中で生かされている。
    例え亡くなっても誰かの記憶に留まる限り、亡き人は生き続けていられる。
    物語の最後の真紀の言葉「…捨てたものではなかったです、あたしの人生」に胸がつまって泣けた。
    人と人との縁は異なもの。
    関わりのない人だと思っていても、案外どこかで繋がりがあるものだ、と温かな気持ちで噛みしめる。
    川上さんの中で、好きで印象深い作品となった。

  • ある商店街を舞台にいろんな登場人物が少しずつ重なり合う話。それぞれが魅力的な人達で、ちょっとした出来事での感情の動きに、はっとさせられる。
    取り上げていない人物の物語も読んでみたい。
    すっごく好きな作品でまた読み返すと思う。

  • 電車の窓から町の風景を見るのが好きです。ごく普通の住宅地を飽きずに眺めています。立ち並ぶ家々の窓の向こうには住む人がいて、それぞれ「生活」があるのだろう。そんなことを思いながら、ぼーっと眺めています。
    この本を読んで、ふとそんなことを思いました。
    古い商店街のある町に住む人々の日常。日常と言えど、それぞれの形があり、それぞれの想いがある。狂言回しとなるような人物や場所を据えず、それぞれの話の登場人物が何となく繋がり重なる。人の営みが集まり町となる。人の想いが集まり町となる。
    日常を描いているのにファンタジーじみて感じるのは、作者川上弘美の掌上に世界があり、作者のまなざしを感じるからでしょうか。そのまなざしは温かいのに、よそよそしく愛想ない。だから登場人物たちは、作者の掌上で思い思いの生活を営むのでしょう。

  • 予想以上によかった。短編集だが、次の物語に前の物語の人が一部かかわっている形式。どの人も、どの家も、幸せ不幸せというよりは、希望と不思議と悲しみとおかしさといろんなものがミックスジュースになっているようだ。自分ひとりの力ではいかんともしがたいもの、思いもしなかったことが起こる喜びや悲しみ、人間の力と弱さ、作者の観察眼と表現力に脱帽。平凡な日常を、深く切り込んで書いていくこの人の作品が好きだ。

  • とある商店街を舞台に、様々な人が織りなす人生模様が短編で綴られている一冊。
    あの人ときっとどこかでつながっている、そんな気持ちにさせてくれる一冊です。

  • 東京東部の下町〜商店街を舞台にした連作短編集。
    語り手が老若男女と次々と変わり、それぞれにまったく違った、些細で個人的な物語を進める。その物語の語り手は、いつも自立していて優しいから、読んでいてほっとする。ひとつひとつがどれかの話に薄く薄く繋がっていて、「あ、あの人はあの後こうなったのか…」ということが微かにわかる小さな歓び。読んでいるうちに、読者の中に小さな街が生まれる。
    どの話も面白くて選べないけど、おかみさんの央子さんと板前の廉ちゃんの15歳差の恋愛を描いた「四度目の浪花節」は、大人の恋愛だな〜という風情で素敵だった。
    表題作の「どこから行っても遠い街」は、”生きてきたというそのことだけで、つねに事を決めていたのだ”ってことに、瞬間気づく不倫男性のお話。人生の核心めいたことをはっきりとわかりやすく記してあって、意外な感じがした。

    最初の「小屋のある屋上」で、商店街の魚屋さん魚春の平蔵さんが、両親、義両親、実妹、奥さんと立て続けに亡くしているという事実がわかり、最後の「ゆるく巻くかたつむりの殻」は平蔵さんの亡くなった奥さんが語り手です。
    奥さんは「好きな人が死ぬと、すこし、自分も死ぬのよ」といいます。平蔵さんは、死んだ人間もまだ死んでない、といいます。奥さんが自分の記憶を「はかない」と思い起こしていて寂しい気持ちになるけれど、最後は「捨てたものではなかった、わたしの人生」と終わるから、少し救われた気持ちになりました。
    最初と最後の話のせいなのか、死に包まれたようなふわふわした気持ちが残って、「どこから行っても遠い街」は黄泉の国のような気がしてきます。ただの小さな商店街だけど、黄泉につながっているような。一生辿り着けないような。なにげない自分の生活だって死に向かっているということか。生きること自体が、すべて。

  • 下町の商店街が舞台ということもあって、昭和後半の雰囲気が漂う連作短編集。
    顔見知り程度のご近所さんの今まで知らなかった一面を、ちょっとしたきっかけで共有することとなり、それぞれの生き様に人間味を覚え、今までよりどこか親しみを感じる様になったと言う感覚。
    特に大きな事件も起こらず、各章の主人公のつれづれとした語りで成り立っているので、中途半端な印象はあるけれども、別に嫌ではない。小説を読む上での刺激には欠けているけれども、生ぬるい空気に包まれているのも、悪くはないかという感じ。
    11ある短編の中であえて言うなら、「長い夜の紅茶」のお見合い結婚のお嫁さんと姑さんのお話が好き。

  • 普通の短編集かと思って読み始めたら、
    途中で作者のたくらみに気付いてハッとする。
    面白い、と思う気持ちが加速する。
    どの話を読んでも、不思議と嫌な気持ちにはならない。
    奇妙なエピソードも川上さんに切り取られるとちゃんと様になる。
    タイトルが「街」じゃなくて「町」なのもいいと思う。
    お洒落な「街」じゃなくて、そこらへんの「町」がこの物語にはぴったりだ。
    『貝殻のある飾り窓』と『ゆるく巻くかたつむりの殻』が好きです。

  • 連作短編が大好きなんです。
    誰にでも物語はあるんだ、って考えると楽しくなりませんか。
    たとえば電車の移動中、前に座った人の性格とか、好きな音楽とか、色々想像してしまうような。

  • 好き。良い。

    「四度めの浪花節」がとくによかった。

    わたしも、うんと年上の女の人に夢中になりたい。
    と、なぜか、男の立場で思ってしまった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「四度めの浪花節」
      川上弘美の、緻密さがシッカリ出ているお話ですね。
      「四度めの浪花節」
      川上弘美の、緻密さがシッカリ出ているお話ですね。
      2012/11/08
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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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