- Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
- / ISBN・EAN: 9784104412068
作品紹介・あらすじ
セックスと性欲のふしぎを描くみずみずしく荒々しい作品集。性と生をめぐる全5篇。
感想・レビュー・書評
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最後の「mundus」が、難解だった。考えるな、感じろ、と頭に念じても、イメージを湧かせにくかった。
あえてそういう創作だとして、何を暗喩してるのか。どうして曖昧で抽象的な「それ」という登場人物を出したのか。
感情的な部分がなく、すべて感覚的な物言いで、「それ」は不吉な予感のようで、絶頂に感じる官能のようで、ご先祖の霊的なようで、幼いようで、とにかく、つかみどころがない。
初出を見ると2012年、震災の後で、度々洪水がこの家族を襲い、生活に何かしらをもたらしたり破壊したりしていくが、震災や津波のことを暗喩しているのか、とも詮索した。
が、分からない。
とにかく、最後のこの作品が難解さで強烈だったので、他の作品についての印象が薄まってしまった。
全体的に、悲しくて、各世代の憂鬱を集めたような物語。
伊勢物語になぞらえたという「ignis」が、この話知ってる、というパロディの点で面白かったのと、個人的には「aer」に描かれる産後の気持ちにひどく共感した。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ひそやかな官能を感じさせる5つの短編。
terraとaerがもうすっごく素敵だった。
terraは、身寄りのない隣人・加賀美の葬儀をだしてあげようとする男子大学生・沢田の話。
加賀美と沢田の怠惰で病んでいるような関係にドキドキした。
ただあなたがほしくて、あなたと体を重ねたくて、でもそれは性欲などというへんな言葉のものとは違うはず。
あなたがいなければ死んでしまうとか、あなたを愛するとか、そんなのでもない。
どうしてわたしはあんなにからっぽだったんだろう、という、その気持ち。わかる。
ラストでは驚かされたけど、ふわふわと漂っていた微妙な違和感の謎がとけました。
aerは出産した女性の話。
赤ん坊を「しろもの」と表現しているのはぎょっとしたけれど、あながち否定できない。
自分の産後を思い出しました。
(いつか殺してしまったらどうしよう)という感覚はたしかにあった。突然むらむらっとくる。
手を離してベランダから落としたらどうなるんだろうとか想像しましたね。
完全に「どうぶつ」だったなぁ。制御不能で自分ではどうにもコントロールできなかったような気がする。
産後の女はやばい。神話はつづく。 -
最後の「mundus」だけは読み切れなかった。でも丸々好きな一冊だと言える。
分かり易い言葉で描かれた分かりにくいお話を私は美しく感じてしまうし、読んでいくことでじわりと感じるものがある小説が好きだからだ。
「terra」は読後すぐ読み返してもうひとつの読み方を味わった。「aer」は出産前に読みたかったな。
今のところ(エッセイ数冊、溺レる、中野屋商店~)の中で一番好きな川上弘美本です。読み切れないのは私の読解力の低さのせいということで時を経てまた挑戦します。
「ignis」のベースだという伊勢物語、読みたい! -
2008年から2012年にかけて「新潮」に発表された連作短編集。最後の"mundus"だけは他と趣きを異にするが、タイトルの付け方からすれば作家には一連のものという意識があったのだろう。いずれの短篇でも、基本的には人間の心と、その入れ物である身体を語っている。篇中で最も直接的なのは"aerだろう。そこでは「どうぶつ」としての人間(あるいは女)が描かれる。この作品に限らないが、いずれも何かもの哀しさがつきまとう。"mundus"にしても、人間が宿命的に背負わざるを得ない、得体の知れなさの表現なのだろう。
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川上弘美が性欲について書いた!
って聞いて、ちょっとエッチなものを想像して読み始めたけど、
全然違った笑。
でも、とてもひりひりするものだった。
それはある意味では、本当にエッチなことだと思う。
特にふたつめは、何度か読み返した。
なんだかすごく分かるような感じで、読み返した。
女の性欲って、性欲だけじゃなかったりするから、たぶんヒリヒリするんだと思う。
生きたい
愛したい
泣きたい
触れたい
えぐりたい…
そんな無数のヒリヒリと一緒にいるのだ。性欲ってやつは。 -
短編集。それぞれの章にはラテン語で「水」「大地」「空気」「炎」「宇宙」とやけに壮大なタイトル。
人と人とが関わり合っていく中で生まれる、濃くてとろりとして生々しい感情が、川上さんの不思議な筆致にくるまれてさらりと描かれている印象。
途中、現実から激しく離脱した部分があり難しくてよく理解できなかったけれど、面白く読めた。
哀しくて、寂しくて、だからこそ愛おしい人間の愛の形がそこには詰まっている。 -
生死を超越した無常の宇宙を創造している
題名だけで判断すると全篇性的なものが主題になった作物ばかりかと想像する人がいるかもしれないが、そういうことは多少はあっても、じっさいはあんまりなくって、「なめらかで熱くて甘苦しくて」なんてふそれっぽいタイトルにしても性的な事柄の形容として使用されているわけでは毛頭なく、むしろ作者はお馴染みの生きている人と死んでいる人、あるいはそのあわいにいる人の状態をそれらしく描いて楽しんだり、妊婦と赤ん坊の微妙な関係や現代版伊勢物語など趣の異なる5つの短編をきままに並べており、そのうちの最後のものでは現代文学の先端的な実験みたいなものが敢行されている気配もありありと漂っているんだが、にもかかわらず、この書物をそとから眺めたらば、店開きはしたもののいったい営業しているのかいないのかてんでわからんやる気の無い本屋さん、みたいな感じの本であるが、ぜんたいをつうじていえることは死者を生者と同様、いなもっとも身近な存在として取り扱って生死を超越した無常の宇宙を創造するのは著者の得意ちゅうの得意といふことかしらん。
我が家に居るたった一人の女の子それがわたしの奥さんです 蝶人 -
母と子、男と女、家族、男となんだかよくわからないそれ、など、さまざまな関係を描いた不思議な印象の短編集だ。
独特の語り口と世界観に奇妙な夢を見て目を覚ましたような気持ちになる。