いつか、この世界で起こっていたこと

著者 :
  • 新潮社
3.67
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本棚登録 : 159
感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104444052

作品紹介・あらすじ

ベラルーシのきのこ狩りは、74,000ベクレル/m2以下の森で-。かつてきのこは、あらゆるスラヴ料理の母だった。犬を連れ、白樺とモミの林にきのこ狩りにでかけていたチェーホフ。1977年のエルヴィスの死と、アメリカ核施設見学ツアー。内戦のユーゴを離れ、日本で暮らしたサラエヴォの女性シンガー。関東大震災の津波で生死を分けた鎌倉の文学者夫妻。世界が変わり、森が変わっても、人びとは生きる。震災後に生きるわたしたちを小さな光で導く、深い思索にみちた連作短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • 純文学。
    原発・原発事故、3.11震災がテーマの短編集。

    「波」はそのままズバリ、3.11の震災...津波...そのときの家族が描かれていた。全然お涙頂戴じゃないのに、感傷もなく、淡々と描かれているのに。「読んでてこんなにツライのに、でも読み続けてしまう」・・・そんな数少ない、上質な短編です。
    これだけでも読むべき。

    引用はほぼ「チェーホフの学校」から。(逆にこちらのほうが感傷的、)
    この2編だけで☆5つ、他はあまり好きじゃなかったので、
    ちょっと考えて☆4にしました。

  • 「チェーホフの学校」
    登場人物の誰に重点が置かれているのか
    今一つ分からなかったけれど
    キノコ狩りについて知ることができたし
    チェーホフを再読したくなった。
    「神風」で語られる
    「クロアチア」・「ドゥブログニク」そして
    「福島」この小説に出会えてよかったと
    読後に思えた。
    「橋」は、この本のタイトルにピタリとはまった。

  • 2015.4.13読了。
    ブクログのおすすめで見つけて、震災や原発事故がテーマになっているということで興味を持った。
    久しぶりに、「文学」作品を読んだ!と感じるくらい、読みごたえがあった。分かりやすい感動はないものの、すでに風化しかかっている原発事故や、震災についてとても考えさせられた。
    戦争や、チェルノブイリにまつわる話もあり、ロシア文学に関する話題もあり、無知な私にはかなり難解だったものの、心を揺さぶられる台詞がいくつもちりばめられていて、飽きることなく読み終えた。
    よくある、震災や戦争の経験を美化する物語ではないので、読んでいて辛く感じる部分もある。けれど、タイトル通り、いつかこの世界のどこかで起こっていたこととして、胸に刻んでおきたい物語だと感じた。

  • <閲覧スタッフより>
    様々な登場人物が描かれる多彩なエピソード。それらは震災や原発事故の記憶へと静かに繋がってゆく。悲しみとやり場のない苛立ちのなかに、たとえ世界が変わってしまっても私たちは生きるんだ、という小さな光が射す物語です。

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    所在記号:913.6||クロ
    資料番号:10214136
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  • 上質の文学作品。
    震災後に書かれた短編集で、
    津波や原発に触れる内容でした。
    センシティブな問題なので、
    捉え方は人それぞれだと思います。
    右か左かでしか物事が判断されかねない
    今日にあって貴重な一冊では無いでしょうか。
    「波」「泣く男」辺りが個人的には好みでした。
    面白い物ではありません。
    著者の思索の深さに着いていくのがやっとでした。

  • 今年3月30日下北沢B&Bイベント「震災後文学」
    http://bookandbeer.com/blog/event/20140330_a_ssd/
    にて著者本人も登壇もされていて、そのイベントて紹介されていた本作。

    「震災後文学」とはなんぞや?の解として「震災とあの事故を無きものとしては扱えない時代の文学」と登壇者の批評家仲俣暁生氏が定義されたように、本作品もその困難な時代だからこその、したたかさを持った作品たちです。

    3.11を直接に扱った収録作『波』は、震災後メディアに乗った多くのお涙頂戴式BGMの中での体験伝聞の感傷消費とは全く別次元の想像力から編まれており、読み切った後で「もう読み続けられない」と目を瞑ってしまいたくなるような「いつか、この世界で起こってしまった」切実さに満ちており、真っ直ぐに痛い。

    にも関わらず、チェルノブイリ後のベラルーシでのキノコ狩りの逸話から始まる『チェーホフの学校』では、強制収容所時代ソ連の詩人アンナ・アフマートヴアの力強い言葉(それはまた作家自身の)で締めらる。その言葉は同じく悲惨な事実をくぐり抜けたアドルノの有名な「アイシュビッツ後、詩を書くことは野蛮だ」の感傷を微笑でもって拒否するかのようです。

    非常に射程距離の長い作品集ではないでしょうか。

  • 図書館の今日返ってきた本のコーナーにあり、キノコの絵からあ、原発関連かな?と思い借りました。短編が5篇、様々な人々との原子力爆弾との関わりが綴られていました。少し読みにくい話もありましたが、総じて思ったのは人間が作ったもので人間が翻弄されているなっていうこと。私たち人間はホント、愚かな生き物なのかもしれません。

  • ダイレクトに大震災と原発事故を意識した短編小説集。

  • 世界が変わり、森が変わっても、人びとは生きる。震災後に生きる人たちを小さな光で導く、深い思索にみちた連作短篇集。「うらん亭」「泣く男」など全6篇を収録。

    原発や原爆に何らかの関わりのある短編が並ぶ。久しぶりに上品な純文学を読んだ気がしたが、正直言ってやや退屈だった。私の純文学を読む知性・感性が鈍ってきているのだとしたら問題かも。
    (C)

  • 放射能と津波と地震をめぐる6つの物語。すべて3.11後に書かれている。
    叙情的な「お話」でなく事実と現実に狂言回しとして架空の登場人物が配されているために、そのすべてが普遍的な静かな力を持っている。

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著者プロフィール

作家。1961年京都市生まれ。同志社大学文学部卒業。1999年、初の小説『若冲の目』刊行。2008年『かもめの日』で読売文学賞、13年刊『国境[完全版]』で伊藤整文学賞(評論部門)、14年刊『京都』で毎日出版文化賞、18年刊『鶴見俊輔伝』で大佛次郎賞を受賞。主な作品に『もどろき』、『イカロスの森』、『暗殺者たち』、『岩場の上から』、『暗い林を抜けて』、『ウィーン近郊』、『彼女のことを知っている』、『旅する少年』、評論に『きれいな風貌 西村伊作伝』、『鴎外と漱石のあいだで 日本語の文学が生まれる場所』『世界を文学でどう描けるか』、編著書に『〈外地〉の日本語文学選』(全3巻)、『鶴見俊輔コレクション』(全4巻)などがある。

「2023年 『「日本語」の文学が生まれた場所』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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