いつか、この世界で起こっていたこと

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 163
感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104444052

感想・レビュー・書評

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  • 2015.4.13読了。
    ブクログのおすすめで見つけて、震災や原発事故がテーマになっているということで興味を持った。
    久しぶりに、「文学」作品を読んだ!と感じるくらい、読みごたえがあった。分かりやすい感動はないものの、すでに風化しかかっている原発事故や、震災についてとても考えさせられた。
    戦争や、チェルノブイリにまつわる話もあり、ロシア文学に関する話題もあり、無知な私にはかなり難解だったものの、心を揺さぶられる台詞がいくつもちりばめられていて、飽きることなく読み終えた。
    よくある、震災や戦争の経験を美化する物語ではないので、読んでいて辛く感じる部分もある。けれど、タイトル通り、いつかこの世界のどこかで起こっていたこととして、胸に刻んでおきたい物語だと感じた。

  • 声高に昨年3月のあの震災や津波、あるいは原発事故による放射線被害という一連の出来事を語るわけではなく、それらとは遠くはなれた時代や場所での出来事を通して、ゆるやかに「あの日々」を思い起こさせる物語が6つ並んでいる。

    物語の語り口の穏やかさの陰で、悲惨なことを忘れ去ってしまうことの怖さ、この日常があの日から続いているのだと言う事実を突きつけられる思いにかられる。

    ここに収録された作品の多くには本筋とはあまり関係のない作中話が挿入され、その時代と場所を越えた重層構造が物語を一見とらえ難いものにする。まるで関係のない時間軸で紡がれるいくつかの物語が、読み手の心のどこかで焦点を結ぶとき、実に印象深いものになるのだ。

    それらはロシアの森できのこ狩りをするチェーホフの人生だったり、エルヴィス・プレスリーの生い立ちだったり、関東大震災時に鎌倉で起きたある作家の津波被害による死であったりする、、、

  • 純文学。
    原発・原発事故、3.11震災がテーマの短編集。

    「波」はそのままズバリ、3.11の震災...津波...そのときの家族が描かれていた。全然お涙頂戴じゃないのに、感傷もなく、淡々と描かれているのに。「読んでてこんなにツライのに、でも読み続けてしまう」・・・そんな数少ない、上質な短編です。
    これだけでも読むべき。

    引用はほぼ「チェーホフの学校」から。(逆にこちらのほうが感傷的、)
    この2編だけで☆5つ、他はあまり好きじゃなかったので、
    ちょっと考えて☆4にしました。

  • ダイレクトに大震災と原発事故を意識した短編小説集。

  • 放射能と津波と地震をめぐる6つの物語。すべて3.11後に書かれている。
    叙情的な「お話」でなく事実と現実に狂言回しとして架空の登場人物が配されているために、そのすべてが普遍的な静かな力を持っている。

  • 凄まじいスピードで、自分の中で地震が風化して行く。そんなことを自覚した本でした。
    地震が起こった時、ある作家が現実の前に小説のできることは…みたいなことを書いていたけど、できることなどいろいろあって、いかに生々しいエピソードで、地震に備えようという気にさせるかということもあると思う。
    地震をテーマにはしているけど、ああいう未曾有の大災害の時の小説の力こそがこの作品の裏テーマのようにも思ったり。

  • 3.11がテーマ。
    黒川さん初めて読みました。
    他の本も読んでみたい。

  • 短編集。
    1、うらん亭‥震災のニュースを聞きながら、叔父さんを思い出す
    2、波‥東北大震災のある家族、アザラシの上に乗って
    3、泣く男‥プレスリーと原爆を研究するミチオさん
    4、チェーホフの学校‥キノコ狩りに出かけるチェーホフ
    5、神風‥サラエヴォの女性シンガーが福島の地震で故郷へ
    6、橋‥関東大震災の津波で亡くなった厨川白村

    現在と過去とそしてたぶん未来もが、とりとめもなく浮かび上がってくるままに綴られたような感がある。それが地震とか原発とかに触発されつつも、そこには営まれる日常がある。そして、切り取られた日常、あるいは思い出や記憶が、恐い物として差し出されている。

著者プロフィール

作家。1961年京都市生まれ。同志社大学文学部卒業。1999年、初の小説『若冲の目』刊行。2008年『かもめの日』で読売文学賞、13年刊『国境[完全版]』で伊藤整文学賞(評論部門)、14年刊『京都』で毎日出版文化賞、18年刊『鶴見俊輔伝』で大佛次郎賞を受賞。主な作品に『もどろき』、『イカロスの森』、『暗殺者たち』、『岩場の上から』、『暗い林を抜けて』、『ウィーン近郊』、『彼女のことを知っている』、『旅する少年』、評論に『きれいな風貌 西村伊作伝』、『鴎外と漱石のあいだで 日本語の文学が生まれる場所』『世界を文学でどう描けるか』、編著書に『〈外地〉の日本語文学選』(全3巻)、『鶴見俊輔コレクション』(全4巻)などがある。

「2023年 『「日本語」の文学が生まれた場所』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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