未見坂

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著者 : 堀江敏幸
  • 新潮社 (2008年10月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104471041

未見坂の感想・レビュー・書評

  • 『雪沼とその周辺』に続く連作短編。どれもしっとりとしていていい雰囲気。未見坂で“みけんざか”と読むらしい。

    「滑走路へ」「苦い手」「なつめ球」「方向指示」「戸の池一丁目」「プリン」「消毒液」「未見坂」「トンネルのおじさん」

    相変わらず手強く…一回貸出期間を延長したのに、読むのにとても時間がかかってしまって「戸の池一丁目」あたりからは、流し読みになってしまい内容が入ってこなかった…。(ごめんなさい)

    特に「滑走路へ」「なつめ球」「プリン」とか好き。少年や祖父母、アルコール依存の父親の書き方がリアルでした。堀江さんの本を読むと幼い頃や祖父母と過ごした頃を思い出す。心がきゅっと鳴る。

    途中で“雪沼”とか“河岸段丘”とか出てくるので懐かしさを感じた。読んでいるうちに折りたたまれたパイ生地みたいに物語が層(地層みたい)になっていてほれぼれした。もっと時間をかけてゆっくり読めればよかったな…。

  • 短編。

    田舎町。
    年老いて行く街の人たち。家庭の事情で一時的に田舎の親戚の家へと身を預ける子供。
    開発が進んで行こうとしている最中。移りゆく時代と共に。

    友達と見た鉄塔。
    部下に物をあげずにはいられない上司。
    祖母の家で見た父との夢。
    床屋での噂話。
    幽霊バスの思い出。
    プリンと親族のこと。
    入院中の母の代わりに店番をするようになった友達の姉。
    父の職場の部下と街の変化。
    叔父の家で過ごす夏。

    途中から似たような地名?やら噂話に、ああこの短編は繋がりがあるんだとやっと気づいた。

    哀愁漂う感じの、優しい雰囲気。

    落ち着いている文章は、大人向けだよね〜。

    中学の時に読もうとして挫折したことがあるけれど、私もこんな成熟した小説を読めるようにったんだね…しみじみ)^o^(

  • 堀江敏幸の書くものには、フランス帰りの学究肌の作家らしいちょっとした小道具がどこかにさり気なく用意されていて、作品のアクセントとなるようなところがあった。その作風に変化が見られるようになったのは『雪沼とその周辺』あたりからだったろうか。『雪沼とその周辺』は、都会にはない落ち着ける居場所を得て慎ましやかに生きる人々を主人公に据え、静謐な世界を作り上げることに成功していた。ただ、その舞台が、どことなくバタ臭く感じられるところに、それまでの堀江敏幸らしさが色濃く残っていたものだ。

    今回の『未見坂』の背景となっているのは、山林が切り開かれて宅地に変わりつつある、現代の日本ならどこにでも転がっていそうなありふれた地方都市である。それにまず意表をつかれる。設定が妙にリアルなのだ。冒頭に置かれた「滑走路へ」には、「四人乗りのセスナ一七二型スカイホーク」や、少年のアルミの水筒に対するこだわりにこの作家らしさを感じとれはするものの、二篇目の「苦い手」に登場するのは電子レンジ。その後に出てくるのは、「なつめ球」だの、走れなくなったボンネットバスだの、ぱっとしないものばかりで、なんだか堀江敏幸ではないような、落ち着かない感じをはじめのうちは感じたのだった。

    音楽に倣って繰り返し登場するものを仮に主題と呼ぶなら、主題は母子家庭か。九篇の短篇はそれぞれが主題とその変奏である。冒頭の一篇を除いて母親は不在。厄介ごとを抱えた母親は夏休みの間、息子を親元に預ける。物わかりのよい息子は、黙って休暇を田舎の親戚の家で過ごす。少年を見てくれるのは老母であったり、おじさんであったりいろいろだが、本来自分の居場所ではない場所にいなければならないという設定は共通している。

    往年のフランス映画であれば、夏休みを田舎で過ごす少年は黄金色の日光の下、小麦色に日焼けした金髪の少女に推ない恋をしたりするのだろうが、現代日本の田舎にあるのは土地の利権にからんだ口さがない噂話や老人の怪我や病気といったさえない話ばかり。しかし、そんなありきたりの話を素材にしながらも、思いがけず田舎暮らしを余儀なくされた人々の日々の暮らしをユーモアのある語り口ですくい取り、時にはミステリアスな切り口で、田舎町の日常に潜む闇を垣間見せる作家の腕の冴えは相変わらず確かなものだ。

    母子家庭という主題は、父の不在を象徴している。登場する父親像はどれもみじめで醜悪ですらある。母親も生きるのに必死で子を守る役割を果たせない。家族は解体され、帰るべき故郷は開発の波で荒れようとしている。高齢化社会や福祉、環境問題も視野に入れながら作家が描くのは、確たる論理に従って進むべき道を示す「父」を欠いた現代の日本社会の縮図である。しかし、作家は社会を告発してすませるわけにはいかない。どんな世界であってもそこに人間が生きている以上、人それぞれの生き方というものがある。人が世界をどう感じ、どう生きていくかを描くことが仕事なのだ。

    自分の思い通りに人生を切り開いてきたと豪語する人は別として、多くの人は何かしら自分の意志ではない力によって今の居場所にいる。それを嘆くでもなく、かといって運命だと諦めるのでもない。その中で他者との出会いを静かに受けとめ、日々をしっかりと生きること。人が生きることの中にある切ないようでいて凛とした気組みのようなものが伝わってくる。何度でも読み返したくなる、地味ではあるが滋味豊かな短編集である。

  • 未見坂という坂がある街に住んでいる人々を描いた短編集。

    「少年」が主人公のいくつかの短編以外はすべて「○○さんは」という三人称で進む。

    この距離を置いた主語にかすかなたくらみを感じる。

    少年の視点は少年の視点。見える部分はとても限られていて、でも大人にはいろいろあって街も時間も流れていく、という雰囲気がこのどくとくの人称と構成で浮き彫りになっているように感じた。

    作品全体を通して、このような表現で描かれた物語を読んだことが無かったのでとても感心した。

    ものすごくよかった。

    好き嫌いとか血縁とか友達とかそれだけじゃはかれない人と人の距離の温かみやえぐみが描き出されていた。

  • 少年、男児、の物語、堀江少年なのかな、なんてつい想像してしまう。

  • 未見坂にまつわる短編集。
    相変わらず文章が綺麗ですてき。

  • 連作短編集。私にとっては読みにくい彼の文章ですが、ゆっくり丁寧に読めば、その情景や雰囲気をしっかり感じ取れます。とくに大きな事件も起こらずに、淡々と紡がれる人々の暮らしが、とても身近に思えます。

  • 『雪沼とその周辺』に連なる短編集。
    日本の小説なのに、日本のことを描いているのに、どうしてだか、堀江先生いの小説にはヨーロッパの香りがします。

  • 雪沼的な、坂のある町の様々な人生。そういえば手作りプリンを習ったのが雪沼の料理教室だというから、同作の姉妹編だろうか。
    心に残るのは電子レンジを上司にもらった、肥満の独身男性。右手が苦手だという彼が、電子レンジ(使い方云々ではなく存在そのもの)と格闘する。温かいけど何か冷たい感じの町で、彼の行く末さえ悲しく浮かび上がらせる話だった。そう、たかが電子レンジなのに。それにしても、抜き差しならぬ話し合いをする夫婦が田舎に子供を預ける、という話は常に子供か第三者から語られるせいもあるが、遠いお伽話のよう。世の中には私が知らないだけで、そうして抜き差しならぬ話をしている人が実は結構いるのだろうか。

  • 橋本紡の「いつかのきみへ」とあわせて読んだら、こんぐらかったのはここだけの話。同じベクトルを持ってる短編集。というのはさておき。

    田舎の小さな町。偏屈な住人。それはどこにでも、はいて捨てるほどある日常で。そんな日常を、物語に落としこめる堀江さんの筆致力はすごいと思う。 淡々と。変わらないようで、変わる毎日。同じ家にいて、同じご飯を食べて、顔をつきあわせていても起こる擦れ違いや勘違い。でも、どうしようもなくて、それが「営む」ことなのかもしれない。

  • これといって特に事件もなく、盛り上がるようなことも
    書いていないのに、なぜか「次の話、次の話」と
    続きが読みたくなりました。

    よーく読むと、連作短編なんですね。
    私は「未見坂」で気がつきましたが、他にもいっぱい
    つながってるところがあるのかな。

    ただ、話が気になってしょうがないのですが、
    あまり典型的な「幸せ」人が出てこないので、
    少々気分が重くなりがち……。

    やけに「母親と暮らしていて、祖母や親戚の家に
    預けられる少年」という設定の子が出てきましたが、
    これらは全部同じ子?

    図書館の返却期限を気にして、じっくり読めなかったので
    そこのところがよくわからなかったのが残念。

  • p.109(「方向指示」)の、理容室の鏡越しに見える外の人、直接には見えないその風景・人のぐあいが、漱石『夢十夜』思い出す。

    堀江作品の「読みにくさ」は、なにより、フォントにあると思う。なに体というか知らないけれど、画の入りのなめらかと止めの丸みは、いかにも「純」「文学」で、すごくこちらの考える堀江像に近くはあるが!

  • ぐいぐい引き込まれるわけじゃないけど、さりげなく、じんわりと染みてくる物語たち。
    押し付けがましさがないのがいい。
    心地よい情緒とさらっとした文章に好感。

    お気に入りは『苦い手』『トンネルのおじさん』

  • 未見坂の住宅にバス停を作る話があるそうだ。
    高齢者だらけの住宅なので足が出来ることはありがたいが
    坂の途中のバス停に車椅子で乗り降りすることは不可能だ。
    しかもそのバス会社は近くの商事と因縁の関係にある。
    バスとその周辺をめぐる全9編。
    装画:清宮質文 装丁:新潮社装丁室

    さびれかけた町並みとそこに暮らす人々。
    「戸の池一丁目」の移動スーパーに惹かれる。
    雪国とその周辺がちらっと出てくるのを読んで嬉しくなってしまった。

  • 無条件に堀江敏幸小説が好きだ。『雪沼とその周辺』を初めて読んだとき身体の細胞の一つ一つがふっくらと膨らむような、しみじみとした温かさに包まれる思いに浸った。その雪沼と同じ風の吹く未見坂とその周辺に暮らす人々の心が、ほんの少しゆらりと揺れるその一瞬が9つの物語となっている。人と人の間にある微妙な距離をこんなに静かに優しく描く堀江小説が本当に大好きだ。

  • 表紙は清宮質文。清宮さんの作品の雰囲気は堀江氏の書く文章にすごく合っていると思う。

  • 父が去ったあとの母と子の暮らし、プリンを焼きながら思い出すやさしかった義父のこと、あずけられた祖母の家で、あたりを薄く照らしていた小さな電球、子ども時代から三十数年、兄妹のように年を重ねてきた男女の、近いとも遠いとも計りかねる距離。惑いと諦観にゆれる人々の心を静謐な筆致で描き出す、名手による九の短篇。

  • 堀江さんの最近の作品にはあの独特の異郷感がなくなったと思う。きっとそれは意図的にそうしているのだと思うけれど。あの異郷感があったらもっと惹き込まれるのに、と思う部分もなきにしもあらず。そのうち、再読したら印象変わるかも、と思っている。(08/12/22)

  • 途中まで連作短篇とは気づかず途中でなるほどと膝を打つ。堀江さん独特の静謐とした空気が満ち溢れている。生活を大切にしている人々の物語が、その空気でよりいっそう親密に伝わってくる。なかでも「プリン」がドラマティックでありながらとぼけた味があって面白かった。

  • 2010.3
    9の作品からなる短編集。

    滑走路へ
    苦い手
    なつめ球
    方向指示
    戸の池一丁目
    プリン
    消毒液
    未見坂
    トンネルのおじさん

  • 珍しく子どもが視点の話が多かった。
    大人の世界は何かとやっかいだ。

  • 広がっていく感じ★

  • 群像2009年2月号書評より

    新潮2009年1月号書評より

  • 小さな空港を持つ地方都市を舞台にした市井の人々の群像劇だ。
    連作短編、と呼ぶにしてはあまりにも各編のつながりは淡い。ふと、あ、これ同じ町の話だ、と気づくような、そんなうっすらとした横糸が時折垣間見える。
    どの編も地味で、人の情に味わいがあるといえばあるけれど、さらっと読んでしまったら何も残らないような話ばかりだ。
    一番最初の、友人の父親が乗る飛行機を待つ少年の話が好きかな。

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