すべては今日から

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104495023

作品紹介・あらすじ

この名調子が、もう読めないなんて――。一周忌に贈る熱き遺稿集! もっと小説を読んでください。この国の未来を築くために――面白い本を溺愛し、何事も「今日から」と前向きに生きた稀代の“情熱紳士”が、流麗にして熱烈な語り口で書き遺したエッセイと書評を一挙収録。少年の頃からの読書人生、本と付き合う作法、絶対のお薦め本、交友、人生観、日本への思いまでを語る最後のメッセージ!

感想・レビュー・書評

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  • 穏やかな児玉さんの肖像写真。本への愛がほどばしるその中身。
    2011年に亡くなられた児玉清さんの遺稿集は、単行本未収録のものが大半。
    ひとつの章を読み終えるたびに口元が緩み、いつの間にかふふっと笑っている。
    「いちばんいい時代に生きて来られた、いちばん幸せな愛書家」という佐伯泰英さんの解説の言葉があるがその通りだと思う。

    1.本があるから生きてきた
    2.面白本丸かじり
    3.忘れえぬ時、忘れえぬ人
    4.日本、そして日本人へ
    後書きは、ご子息の北川大裕さん。更に解説で佐伯泰英さん。

    自伝的なエッセイの合間にこれでもかと出会った作品のことが語られる。
    読んで読んで、読みまくる。翻訳ものでは飽き足らず原書も。
    そしてネタバレ無し(!!)作品への批判なども、ただの一行もない。
    そこには、あふれんばかりの本への愛があるばかりだ。
    本好きさんなら思わず頷いてしまうのが、本棚を前にした時の描写。
    「僕にとって最高ともいえる幸せなひと時は、書斎で本棚にぎっしりと詰まった本を眺めながら読書をする時だ。そこには僕の心を豊かにしてくれ、癒し、励まし、勇気を、そして沢山の知識と知恵を授けてくれた本が、それぞれ個性のある背表紙を光らせて並んでいる。時には気の向くままに一冊ずつ取り出して、表紙をやさしく撫で、頁をパラパラとめくって裏表紙を確かめる。すると、その本にまつわる想い出もどっと蘇ってくる」

    他にも、本が産み出した家族の団欒や、新書が大好きな話、本屋さんの中をぐるぐると巡る高揚感や、海外旅行に時代小説をごっそり持参する話などが心に残る。
    大学院行きを決めていたのに、卒業式当日に母親の急病死。
    突然就職の道を決めねばならなかった時に、ある縁で東宝ニューフェイスに合格する。
    その縁というのがフランス文学の「プリタニキュス」」の舞台だったというのが面白い。
    目の前のことに全力投球するお人柄なのだろう。

    後半は現代日本への警告が多くなるが、どれもさもありなんで、「年寄りの愚痴」などととても笑えない。自国を離れてあらためて見える、日本人の幼稚さを憂えている。
    そして、「本の売れない時代を承認してはいけない」と訴える。
    「本の世界の愉しさを幼い時から植えつけて、やがて書店が子どもや若者で溢れかえる日を取り戻さなければいけない。」
    本によって生かされてきたと言われる児玉さんだから、この言葉の持つ意味は大きい。

    海外の、それもミステリー小説が多いため書名しか知らないものが殆どだ。
    それでも、作品と作家さんへの限りない愛に心ふるえるものがある。
    およそ本好きを自認する以上はこのようでありたい。
    今は残された何冊かの本が、私を癒し、励まし、勇気と知恵を授けてくれる。
    命日の5月16日にアップするはずだったのに、つい失念したレビューだ。
    今頃は天国でも、ワクワクしながらミステリーを読んでおられるのだろうか。
    「いつの世も、すべては今日から新しく始まるのだ」

  • アタック25もその他出演作品もそんなに鑑賞していなかったけど、のほほんとすまして失敗をものともされないイメージがあった。(作品を観ずに勝手に想像して、ファンの方に失礼…汗)
    それが本を手にする(/手に入れようとする)とたちまち少しぶきっちょな老紳士、或いは感情豊かな少年に様変わり。嬉々としてページをめくられる姿が容易に想像できた。

    男女観とか一部の考え方が昔ながらすぎて賛同できないところもあったけど、児玉さんの読書姿勢?は結構好き。好きになった作家や作品に一途で、それらへの情熱を忘れず敬意を示されたりと今更ながら学ぶところが多かった。
    正しい読書の仕方を意義づけるのは難しいけど、個人的にこの姿勢は理想だと思っている。

    こんな楽しそうに読書されるのを見ていると、何で通学・通勤中寝てばっかいたんだろうって後悔に苛まれてくる…実際本書の書評を見ていたら読みたい本が10冊以上出てきた。

    翻訳版が出る前に原書を読み切るなどの徹底ぶりは本書を読む前から聞いていたけど、『ダ・ヴィンチコード』までそうして読破したと知った時はさすがに感嘆、というか戦慄した。二度見ならぬ二度読みした。(面白かったけど)歴史的固有名詞のオンパレードで、日本語でも読み切るのにエネルギーの要る話だったと記憶しておりますが…?

    どの読書体験も幸せいっぱいだったけど、幼少期のそれが一番好きかもしれない。剣戟小説や講談ものを同級生や両親と語り合い、その思い出がその後の「楽しい読書」へと繋がる。
    笑顔の児玉少年が目に浮かび、その思い出の温かさに目頭が熱くなった。10年経った今でも夢中でページをめくっていると信じている。

  • 尊敬する児玉清さんが遺した、本への敬意と愛情と興奮に満ちた文章をまとめたもの。
    何度読んでも心地よく、もしも自分が文章を書くなら、こういうものをこういう風に書きたいと思う。
    知性と謙虚さを兼ね備えた兒玉さんが、少年のように夢中になった本を熱く熱く語ってくれる。読みたい本が次々に出てきて困ってしまうほど。
    最終章は、社会に対しての警告、問題提起。
    「もうこの辺りでしっかりと「本の売れない時代』のわれわれ人類に及ぼす悪影響を見極めて『本の盛んに売れる時代』へと転換しなければ、やがて人類は大変な時代を迎えることになることを自覚すべきだと思うのだがどうだろうか」
    コロナ禍で、児玉さんのいう悪影響をより感じる昨今、読書の大切さ、そしてシンプルに楽しい!ということを改めて享受できる幸せを思う。

  • To be or not to beに心から頷きながら読んだ。
    これは読書好きというより本好きの宿命だよね、うんうん。という具合に。

    往年の児玉清さんの役柄の多くは、物静かで知的なおじさまだったし、某クイズ番組の司会で見せるその物腰の柔らかさもとても好きな俳優さんだった。
    彼の醸し出す知的で紳士的な佇まいは、彼のいうとおり本が育んだのだろうな、
    とすれば、私もいつか、あんなふうな素敵な雰囲気をもつおばさまになれるかしらん。
    と夢想してしまう。
    道は未だ遠いがな、フッ。

    児玉さんの膨大な読書量と、本に対する深い愛情とが垣間見れるエッセイ。
    第4章の「日本、そして日本人へ」に記された日本への警鐘には、頷くばかり。
    と同時に、自分は果たして胸を張れるマナーを身に付けているだろうか、と自分を省みるいい機会を与えてくれたように思う。

    本をもっと読もう!
    限りない想像力を本によって育もう!

    • まろんさん
      児玉清さん。
      ロマンスグレーという言葉があまりにもぴったりな
      洗練された、素敵な紳士でしたよね!
      ドラマでの落ち着いた物腰から、クラシカルな...
      児玉清さん。
      ロマンスグレーという言葉があまりにもぴったりな
      洗練された、素敵な紳士でしたよね!
      ドラマでの落ち着いた物腰から、クラシカルな文学作品しか読まないイメージだったのに
      有川浩さん作品のコアなファンでいらっしゃることを知って
      なおさら好きになってしまい、亡くなられたのがさみしくて。
      私も永遠ニ馨ルさんを見習ってこの本を読んで
      一緒に素敵なおばさまを目指します!
      2012/12/02
    • 永遠ニ馨ルさん
      こんにちは、まろんさん。
      これからもたくさんの本を読んで、
      一緒に素敵おばさま目指しましょう♪
      こんにちは、まろんさん。
      これからもたくさんの本を読んで、
      一緒に素敵おばさま目指しましょう♪
      2012/12/03
  • 本をこよなく愛し、これまでの人生に関するエピソードも交えた心温まる1冊。
    タイトル項目「すべては今日から」はお気に入りのエピソードで定期的に読み返したくなります。

    紳士的なイメージの中に葛藤や情熱をむき出しにした若かりし頃のエピソードも盛り込まれ、終始氏の人柄が現れており面白い。おすすめです。

  • 本が大好きな児玉清さんの世界に触れられるのも、残された数冊の著書のみ。
    それが残念。
    お勧め本を語る語彙のバラエティ、わくわくとした少年のような心、紳士然とした見た目との落差が微笑ましい。オススメの中から何冊も読んでみたい本が見つかった。
    マナーに関するお説も、ほんとおっしゃる通り。
    ご冥福を心よりお祈りします。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「わくわくとした少年のような心」
      児玉清の紹介を読むと、面白そう~と思ってしまう(好みの違いはある筈なんだけど)。
      きっと、少年のような真っ...
      「わくわくとした少年のような心」
      児玉清の紹介を読むと、面白そう~と思ってしまう(好みの違いはある筈なんだけど)。
      きっと、少年のような真っ直ぐな好奇心が響いてくるんでしょうね、、、
      2013/08/06
    • koshian-sakuraさん
      そうなんです。
      自分の好みとは違っても、本好きの同志なんだなーと伝わってきて嬉しくなっちゃうんです。
      そうなんです。
      自分の好みとは違っても、本好きの同志なんだなーと伝わってきて嬉しくなっちゃうんです。
      2013/08/07
  • 児玉清氏の息子さんがまとめられた、遺稿集。
    今までの単行本に未収録のものを、出来る限り集められたそうです。
    児玉氏が、本好きになられた時~役者となる時~本人が書かれていらしたエッセイからの抜粋なので、流れをよく知ることとなります。
    本を探し出すくだりや、原書を読むようになったわけも、すごいです。
    本の虫と、納得です!
    ずいぶん前に、1冊だけ著書を読んだことがあります。
    今回もそうなのですが・・児玉氏の使われる言葉は難しいです!
    蔵書は、2万冊にも及ぶそうで・・いずれ手にとれるようになれたらば、嬉しいです。

  • 生前の児玉清さんのことはよく知らなかったのだが、
    柔らかい物腰と口調のおじさまといった印象を持っていた。
    しかし、この書評を中心とした遺稿集を読んでみると、
    あれ・・・ちょっと違う?

    特にハードボイルドやミステリを読んでいるときの児玉さんは人格が違うような気がする。
    "超一流のおすすめ本だ。俺は待ってたぜ"だの
    "走りだしたら、もう止まらないぜ"だのと、とてもアツい。

    のみならず、『野菊の墓』を読んで"涙の核爆発を起こした"り、当時未訳だった『The Da Vinci code』の"面白さに卒倒しそうになった"りする。

    私が知らなかっただけで、相当に情熱の人だったらしい。

    翻訳が待ちきれずに原書を読むようになったという児玉さん。
    雲の上でもきっとエキサイトしながら本を読んでいる事だろう。

    図書館スタッフ(東生駒):コロロ

    ----------
    帝塚山大学図書館OPAC
    https://lib.tezukayama-u.ac.jp/opac/volume/740080

  • 児玉さんは読書家ではなく愛書家という言葉が本当にしっくりくる。
    本の世界に浸って籠っているのではなく、本の世界からご自身のエピソードや考えと必ず結びつけ、何かしら糧にされている。そして世界を広げて行く。私も愛書家になれるようにお手本にしていきたい。
    どの本に対しても愛情いっぱいで、読んでいて気持ちがよい。
    ただ児玉さんレベルに達してない自分は読みたいと思える本が少ないのがちょっと悲しい。笑
    読めば読むほど、亡くなってしまってから児玉さんの本に興味を持ったことが惜しまれてならない。最期を想像するだけで胸が痛む。でも天国ではお母様と娘さんとザクさんと、きっと久しぶりの再会を果たしているんだろうな。
    この本から教えてもらったことは、いくつもある。
    雨の日に雨合羽で外を歩くと気持ちがいいということや、娘達に本を身近に感じされることは単に本好きにさせるためだけでなく、想像力、発想力を多いに豊かにするためでもあること。
    そして児玉さんの文章の特徴、〜と私は思うのだか、どうだろうか?と意見を言うとき相手の意見も求めると圧迫感がないということ。
    驚いたのは、2011年4月号、5月号、という原稿がいくつかあること。
    この年の5月に亡くなった児玉さんは亡くなる直前まで原稿を書いていた。
    そしてその内容はご自分の死を覚悟されているかのような、日本人への遺書のように思えてならない。
    本当にもっと生きていて欲しかった。

  • ブックレビューの児玉さんがお亡くなりになった後、まとまったものが読みたいと思い購入しました。本当に「寝ても覚めても本の虫」だったのですね。確か有川浩さんの「旅猫」の中にも応援出演していたような……

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