水曜の朝、午前三時

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104500017

感想・レビュー・書評

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  • 脳腫瘍のため45歳の若さで亡くなった翻訳家で詩人の四条直美。亡くなる二週間前、直美の娘・葉子のもとに4巻のカセットテープが届く。そこには、叶わなかった恋、歩まなかったもう一つの人生、そして、愛する娘への最期のメッセージが残されていた・・・

    アジア初の万国博覧会が開かれた1970年、大阪。コンパニオンの直美の目を通して描かれる万博、大阪、昭和の空気感。自信家で行動的、何より、前向きな四条直美という女性にとことん魅了された。

    「この人生に私が何を求めていたのか・・・私は時間をかけてどこかにあるはずの宝物を探し回っていたのです。ただ漫然と生きていては何も見つけることはできない。でも、耳を澄まし、目を見開いて注意深く進めば、きっと何かが見えてくるはずです。」

    そこには、人生を宝探しと言い、人生を主体的に強く生き抜いた女性の姿があった。

    平野啓一郎の「マチネの終わりに」とか乙川優三郎の「ロゴスの市」にも似た、翻訳小説を思わせる言葉で語られる、直美の切なくて苦しい恋に久々に胸が疼く。
    直美が娘に語りかける言葉の一つ一つに思いが巡り、何度も本を置いて思索にふける楽しさ。

    蓮見圭一という作家に遅ればせながら出会えてよかった~。しばらく追っかけてみよう。

  • 大阪万博の時代に生きた四條直美の結ばれなかった恋に生きた半生を、娘にあてた記録という形で描いた小説。

    才色兼備だがどことなく世の中に対して斜に構えた直美と、彼女が惚れた、どこか影のある臼井さんとの恋愛が中心となっている。
    物語は直美の記録したテープという書き口で書かれており、彼女の目線で書かれていたこともあり、読みやすかった。大阪万博のコンパニオンとして働いた事がきっかけで臼井さんと知り合うので、大阪万博や当時の時代背景などを知っていると、より楽しみながら読むことが出来たと思う。
    作品中では臼井さんが北朝鮮出身であることがキーとなって結ばれない2人となっている。工作員というと恐怖心を抱いてしまうが、妹が不審な死を遂げるものの、臼井さん自身の恐ろしさが作品中では描かれていない。直美目線ということもあってか、逆にそこが彼に対する想いを完全に断ち切れなかった理由になっているのかなと思った。
    娘のことを考えながらも素直にそれを出せずに老いていく父、父の目を気にしながらも娘の幸せのために行動する母の描写がとても胸に刺さった。

    私自身の知識不足や年齢もあって、当時の雰囲気だったり人々の考え、気持ちが完全に理解出来ていないのが悔しい。それでもどことなくノスタルジックで切ない気持ちにさせる作品。きっと数年後に呼んだらまたさらに切ない気持ちになるんだと思う。まだ私には早すぎたかも。

  • 1/13読了
    大阪万博をきっかけにひとりの男に惹かれた女が娘に残したテープをその娘の夫がきく。ほとんどがその女の自叙伝みたいな感じ。

  • 広島に単身赴任時、理由は定かに記憶していませんが、おそらくはS&Gのソング・タイトル名と同じというのに惹かれたのでしょう、広島市内の大きな本屋さんに行ったところ、陳列されていません。地方都市では発売日が遅れることを初めて知りました。店員さんがバックヤードまで探しに行ってくれてようやく手に入れてことを覚えています。その日、一気に読み終えてしまいました。1970年大阪万博、安保改定の目をそらすために巨額の資金を投入し、当時のあらゆる若い才能を注ぎ込んだ宴。世界中からオーケストラ、音楽家も集まってきました。その一方で、治外法権化した会場内では、マリファナ、LSDパーティは頻繁に行われていました。山田洋次の映画「家族」で描かれたとおり、日本中の人たちが憑かれたように大阪の万博会場に集まったわずか半年ほどの宴の裏で起きた一組の男女の物語は、斎藤美奈子さんにノスタルジーと言われても、やはりあの時代に生きた私には、あの頃の空気を感じさせてくれる特別な小説です。文庫化されて読み直し、最初の単行本とともに大事に保管しています。

  • 主人公は45歳でガンで病死します。才女であり、品行方正なだけでなく不良女と呼ばれる一面もあり、自信家だった彼女。闘病中に娘に自らの回顧録を4巻のテープにふきこみ、送ったものを書き起こした物語です。
    大阪万博が開催された年、自分の気持ちに素直に行動した彼女。そして、出会った最愛の人。人生の終焉に語られる物語は選ぶことのなかったもう一つの選択肢であり、忘れられない人でした。
    高度成長期、国民の誰もが熱狂した大阪万博の雰囲気や人々の考え方などがよく伝わってきます。
    若い人が読むと「なんでこんなことで?」と思うかもしれませんが、当時を一生懸命に生きた女性のメッセージのいくつかは胸を打つものがあると思います。

  • 時間があれば。

  • 万博でのコンパニオンをしていた時に、身に降りかかった恋。今はもう亡くなってしまった人が最後の力を振り絞って伝えた話の体裁をとっています。

    あの時代親の言う結婚って絶対だったんだろうか。
    非の打ちどころのない許嫁がいて、それでも他の人を好きになったと娘が言ったら、親は困惑するだろう。

    しかも相手は実は北朝鮮の人だった。差別するつもりは毛頭ありませんが、反対する理由にはなると思う。それはどの国の人でも同じかもしれない。

    親の目線で読んでしまった。

  • 複雑な気持ち。既婚者のほんとうのこと。

  • 1970年代の雰囲気を良く表せていて、最初はとても引き込まれて読んだ。
    冒頭の娘婿の語る直美も魅力的だった。

    しかし、いざ直美本人の口から語られる本人の出自、過去…などは、とても娘婿の言う直美のイメージから遠く、薄っぺらく、あまり素敵だとは感じられなかった。

    途中まではよかったのだか、ストーリーが途中で空中分解してしまったような感覚にさせられる。

    ムードのある、素敵な始まりだったので、とても残念。

  • 1970年の万博開催時の大阪御堂筋・千里、京都出町柳周辺そして神戸・須磨等を舞台とした万博コンパニオンと京大大学院生の若き日の恋が、20年を経て、亡くなっていく(元コンパニオン)母親の手記として語られますが、自分自身が70年に京都に入学したものですから、過ごした日々、あの景色などを懐かしく思い出しました。才色兼備のヒロインと約10カ国語に堪能な男性が不自然でなく、あの時代・場所であれば、あり得たことだと思えてきます。やや冗長だな、と思っているとある日突然、コンパニオン仲間からの驚くべき発言。北朝鮮が登場するのも衝撃で、急にドラマティックに展開していきます。そして身近な死と悔悟の日々。70年代のあの新鮮な感動が蘇ってきました。

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著者プロフィール

1959年、秋田市生まれ。立教大学卒業後、新聞社、出版社に勤務。2001年に刊行したデビュー作『水曜の朝、午前三時』が各紙誌で絶賛されベストセラーになる。他の著書に『八月十五日の夜会』などがある。

「2023年 『美しき人生』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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