制服捜査

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104555048

作品紹介・あらすじ

警察官人生二十五年。不祥事をめぐる玉突き人事のあおりで、強行犯係の捜査員から一転、単身赴任の駐在勤務となった巡査部長の川久保。「犯罪発生率、管内最低」の健全な町で、川久保が目撃した荒廃の兆し、些細な出来事。嗅ぎつけた"過去の腐臭"とは…。捜査の第一線に加われない駐在警官の刑事魂が、よそ者を嫌う町の犯罪を暴いていく、本物の警察小説。

感想・レビュー・書評

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  • 交番の警察官を主人公にした小説というのは珍しい。少なくとも交番のリアリスムを、小説の主題にこれほど意図的に溶け込ませ、タイトルで豪語してみせるほどの作品は。

     都市に背を向け、常に荒野を目指そうとする作家、佐々木譲が、北海道十勝の片田舎にある架空の町を舞台に、誰もやったことのない駐在小説を、ミステリという形で世に問うてみせたこの作家的積極姿勢は、とても斬新で頼もしく思える。

     事件は現場にある、と叫ぶ都会の刑事をあたかも嘲笑するが如く、現場感覚を身に纏って生きる交番の制服警察官こそが、常々土地に密着して起きる事件の本当の主役だと言わんばかりの充実した連作作品集であるところが嬉しい。

     広大な土地、わずかな一握りの人口。刑事畑一筋だった主人公・川久保は、道警不祥事のあおりで、駐在勤務を命じられる。捜査の第一線に加われないながらも、そこに町民とともに暮らし、生きる一人の男が、日常生活の営みという形で捜査を進めてゆく。

     はじめに日常職務がありき、である。パトロールがあり、交通事故や火災への緊急通報があり、待機そのものも仕事であるために、酒も呑まず、村の長老たちからの苦情を聞き、町役場からの圧力を受けては、耐える。プレッシャーと縛りの多い彼の孤独な環境が、作品全般を通じて語られる。しかし真情の吐露はどこにもない。物言わぬ一警官であることを徹した文体が、作品を紡いでゆく。

     かくも限定された条件の中で追う時間だからこそ、好奇心が擽られる。顔のない制服警察官であることは、個性を前面に出すことなく、町の日常生活に埋もれて、真相を追い詰めてゆくことを強いられる。

     大きな事件らしき事件は少ないながらも、土地に流れる時間は決して平穏ではない。少数の弱者が、わずかな権力者の圧力に負け、目に見えない被害にあっていることもある。家族と見えた一家が外には出さぬ恩讐を内に秘めて対立生活を繰り返している逼迫した状況がある。外からやってきた不審な路上生活者があれば、被害を受けて追放される余所者もいる。町にいることができなくなった出奔者の絶望だってある。

     犯罪発生率最低の町だからこそ、表面に姿を現さない事件があり、警察官はその熾火を嗅ぎ出さねばならない。人口が少ないとは言え、人の集まるところにトラブルは絶えず、人は往々にして愚かな行動を取るものだ。われわれが敬遠しがちな交番の制服警官という職業の、良心の側から見た小説が本書で書かれた世界であろう。

     良心ではなく悪徳交番警官の屈折を通して見た交番小説というものも誰かが書いてくれないものだろうか。実際の道警や、現職警察官の勤務態度、日中いつも空っぽの交番、交通取締の無意味かつ不公平な人海戦術、といったものばかりを見させられていると、本書のような善意の小説ばかりでは不公平ではないかという懐疑心が、頭の片隅にどうしても残ってしまうからである。

  • ふむ

  • 熱血制服巡査の行動の短編集。面白いので一気に読み終えた。

  • 制服捜査シリーズ 第1弾

    ・逸脱
    ・遺恨
    ・割れガラス
    ・感知器
    ・仮装祭

    道警不祥事によって同じ地域に長く赴任できなくなり、刑事から駐在勤務となったベテラン警察官・川久保篤巡査部長。

    田舎町の広尾警察署志茂別町駐在所で、地域の防犯協会や、物知り爺さんと共に町で起こる事件を解決する。


    きな臭いものあり、生臭いものありで、ベテラン刑事の活躍がいいです。

  • 面白かった。駐在所勤務の警官が主人公の短編集。いじめ、ネグレクト、少女誘拐など、子供主題のテーマで暗い結末が多かったけどリアリティーがあってひきこまれた。「仮装祭」は特に良かった。主人公の警官が物静かだけど真っ直ぐで渋い。

  • 短編小説
    ビミョー

  • 札幌の刑事だった川久保篤は、道警不祥事を受けた大異動により、志茂別駐在所に単身赴任してきた。
    十勝平野に所在する農村。
    ここでは重大犯罪など起きない、はずだった。
    だが、町の荒廃を宿す幾つかの事案に関わり、それが偽りであることを実感する。
    やがて、川久保は、十三年前、夏祭の夜に起きた少女失踪事件に、足を踏み入れてゆく―。
    警察小説に新たな地平を拓いた連作集。

  • 20140630

  • (収録作品)逸脱/遺恨/割れガラス/感知器/仮装祭

  • これもまた北海道警の話。
    不祥事起こした警部の名前がこっちでは実名が出てきて驚いた。
    『警官の血』にも『廃墟に乞う』にも似た味わい。
    同じ作者だから当たり前といえば当たり前だけど。

    とはいえ警察と地元民(自治組織?)との対立
    という構図が前面に出てるのが新鮮な気がした。
    3つめの『割れガラス』と最後の『仮装祭』が良くも悪くも印象的。
    『割れガラス』は読み終えたときに(´・ω・`)←こんな顔になっちゃいました。
    『仮装祭』は曖昧な終わり方だらけのこの短編集の中では
    ほぼ唯一のハッピーエンドに近い終わり方だったんじゃないかと。
    川久保巡査部長は他のシリーズの人たちに比べて
    淡々としていて感情移入し難かったんだけど
    逆にそれが話の厚みに繋がったんじゃないか、という気がしてます。

    たぶん知り合いの方に頂いた本なんですけど
    いざ読もうと思ってページめくったらサイン本でした。
    吃驚した。

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著者プロフィール

1950年北海道生まれ。79年「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞しデビュー。90年『エトロフ発緊急電』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞を、2002年『武揚伝』で新田次郎文学賞、10年『廃墟に乞う』で直木賞、16年に日本ミステリー文学大賞を受賞。他に『抵抗都市』『帝国の弔砲』など著書多数。

「2022年 『闇の聖域』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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