抱擁

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 42
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  • Amazon.co.jp ・本 (136ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104563043

感想・レビュー・書評

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  • 凍りつく一冊。

    最後に全て持っていかれた。

    2.26事件直後、侯爵家、5歳の幼いお嬢様、そのお嬢様の小間使。
    もう好きな時代設定と要素が詰まりに詰まったゴシックホラー。

    しかも小間使の"わたし"語りの形式なのが心地よく好き。

    遠い昔の時代背景、お館でのお嬢様との時間。

    この時代のごく普通の穏やかな日常が次々と脳裏に流れていく。
    ただ一つ、お嬢様の不可解な行動を除いては。

    誰かがいるのか…見えそうで見えない、つかめないざわめき。

    思いもよらぬ展開からのラスト一文に凍りつき、思わず戸惑いの目眩。

    これまた歪んだ鏡のような世界観。

  • ホラーだと思わなかったので何の話かずっと解らないまま…うっとりする世界に引き込まれていった。
    緑子さんが愛らしく魅力的で虜になってしまう。

    「わたし」がなぜあんなことをしたのか、確かめるため、そして信じたからだろうか。
    謎はたくさん残るけれど、とても優しい物語だと思った。

  • 映画の「回転」をみて、日本を舞台にリメイクしたら面白いのではないかと思った矢先だったので、すぐに手に取った。
    想像以上の翻案の巧みさにうなった。まさか、5.15事件と2.26事件とは。
    ただやっぱり、原作では兄・妹がいてこその怖さ倍増だったので、緑子に加え男兄弟の存在も欲しかった。それを期待しながら読んだのでちょっとだけがっかりした。

  • 著者自信が語っているが、ネジの回転を下敷きにした小説。

  • 226事件を材料にした物語といえるか。226は謎めいてるからなのか、どうもオブラートに包むとき、ゴシックホラーというか、ファンタジーのような物語が多いような気がする。

    語り手から見た少女の行動が内部を作り出す。

  • すごい。こんなに短く簡単に美しく「ねじの回転」日本版が!

    「ねじの回転」、新潮版はちょうど昨年の今頃読んでて、すごく好きなタイプの小説だったから、岩波のデイジーミラーも入っているほうも買ってある。「抱擁」読んだし、近々読もうかな。

    「ねじの回転」のわからなさ、見通しのわるさがシンプルに表されているのがすごいです。

    「ねじの回転」にはふたつ説があって、「抱擁」は幽霊説じゃないほうを採用したのね。もちろん、こっちのほうが面白味あって好き。

  • すごく好みな世界観でした。
    淡々と語られていく事柄にどんな意味が込められているのか、どんな結末に繋がっていくのかと、多少やきもきはしましたが。
    自分は小説として楽しむことが出来るけれど、ずっと黙って聞いていた検事さんはすごいな。

  • 「ねじの回転」「レベッカ」を連想させる。

    ん?抱擁?なんで抱擁?…ああ、そうね、そういうことね。
    怖さよりも、かすかに残る抱擁の切なさがキモなのでは。

  • ぼんやりとしたうす靄の中で一滴ポトンと滴を落とし、それがいつまでも波紋を広げて静まらない。時間が経つごとにこのお話がもたらす不穏な空気がじわじわと浸食してきて息苦しい。幾通りもの解釈がなされるものだと思うのだけど、これが現実か虚構(妄想)かによっても大きな意味を持って成すのでしょう。衝撃を持って本を閉じ、表紙の絵と金文字のタイトルを見るとぐっと迫るその意味。ゴシックロマンに溢れ、歴史と虚構が絡み合った濃密な世界にくらくらしてしまいました。「わたし」の静かな語りが儚さと哀しみをたたえます。

  • ちいさな女の子のみつめる世界の独特で不思議な空気感。
    最後の一文が発する謎に対する衝撃が、印象的で。
    魅力的だった。

    世話係の主人公と、ちいさなお嬢様の緑子。そして、ゆきの。

    閉鎖的で、依存しあったちいさな世界が、不安定で心地よく感じた。
    読んでいて少し、ねじの回転を思い出した。

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著者プロフィール

辻原登
一九四五年(昭和二〇)和歌山県生まれ。九〇年『村の名前』で第一〇三回芥川賞受賞。九九年『翔べ麒麟』で第五〇回読売文学賞、二〇〇〇年『遊動亭円木』で第三六回谷崎潤一郎賞、〇五年『枯葉の中の青い炎』で第三一回川端康成文学賞、〇六年『花はさくら木』で第三三回大佛次郎賞を受賞。その他の作品に『円朝芝居噺 夫婦幽霊』『闇の奥』『冬の旅』『籠の鸚鵡』『不意撃ち』などがある。

「2023年 『卍どもえ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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