土の中の子供

著者 :
  • 新潮社
3.11
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本棚登録 : 1023
感想 : 216
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  • Amazon.co.jp ・本 (140ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104588046

感想・レビュー・書評

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  • 読んでしばらく経ったけど
    この本のあのシーンが抜けない。
    凄すぎて、というか怖いというか。
    口の中にあの触感が。
    でもあぁそのままでもいいや。
    ってなんか気持ちわかるかも。
    最後 かっこよかったです。

    2007年のを初読み。
    読み落とさなくてよかった。

  • 中村文則の作品の主人公の多くは自らの過去、幼少期に大きな精神的傷を負っている。
    目も当てられないような、息が詰まるような純粋な狂気。悪。
    世界はそのような悪が生み出した惨状を一瞥しただけで何事もなかったかのように過ぎ去り世界の均衡状態を保つ。
    多くの人間が通り過ぎ忘れ去られた事件の時間、空間の中に被害者はいつまでも取り残され悪意にさらされた精神は歪む。
    この作品の主人公も恐怖にさらされ続けたせいでその恐怖に支配されず恐怖を支配することこそが復讐であると考えるようになってしまった。
    自らの意思で恐怖の根源、すなわち死へと向かう行動を取ることでしか自らの生を実感できない。
    幸せを望むと同時にどこかで破滅する未来を無意識に予感してしまう。
    それは同じような境遇を持つ不感症の同居人白湯子も同様である。
    自らの過去を内側に封印するのではなく振り返り、白湯子とともに共有することで死を伴わない生を実感できるようになる。
    これは悪によって歪められた世界の一部の再生へと向かう物語。

  • 私にとって読書の意義とは、
    自分でない何者かになる
    全く違った価値観を得る
    知らなかった世界、事象、知識を得る

    挙げればきりがないが、この小説は『浸る』という言葉がとにかくしっくりくるほどに、
    その世界(実際的には狭いにも関わらず、無限の果てまで見渡せるような)にどっぷりと浸かってしまう。

    性別すらを超えて、自分自身がこの男になってしまう。
    非常に危険な小説だ。

    この小説を、暗い、と片づけてしまうのは間違っている。
    ただ暗いたけの小説など、吐いて捨てるほどある。

    とても一言では言い表すことができないが、
    ただただ、この社会で生きることの非常なる息苦しさ、煩わしさ、圧迫感、
    そういったものを、これでもかというほどに思い出させられる。

    一個人として生きることの、苦みの部分とでもいおうか。

    少なからず自分も持つ部分で、
    しかしそれを全面に押し出して生きることは不可能に近く、(蜘蛛の声しかり)
    ただ、うまくやりすごすしかないこの感情を、
    ここまで掘り下げ、このような作品にした作者に畏敬の念を感じずにはおれない。

  • 養父母に虐待を受け、施設で育った青年のお話。

    とても陰惨で悲しく、気持ちのやり場がなくなるが、どうにも、地の文章で抱く人物のイメージと、実際に会話する人物のイメージが重なりにくい。この人がこんな風に話すかな、こんなことするかなという違和感を感じてしまう。
    非凡な体験をした人物の内面を描くという難題を、独特の着眼と洞察でクリアしているところはさすがだが、逆に鋭く描ききったことがかえって違和感を際立たせてしまった。
    そのために、そこまで乗ってきた話の流れを断ち切られてしまい個人的には今ひとつ。

    この印象は、一緒に収録されている短編『蜘蛛の声』でも同じだった。

  • 『土の中の子供』

    中村 文則 新潮社

    私の中村 文則さん、二冊目はこれでした。

    幼少期に酷い虐待を受けた子供の多くは、こんな風に感じながら生きるのだろうか…。

    陰鬱としか言いようの無い、また想像すると陰惨で残酷な話が何回も出て来るのに、何故かこの人の文章は美しい。読み止める事が出来ない。

    そして、ずっしりと重く、強く、忘れる事を私の頭に許してくれない。



    虐待され続け、恐怖にさらされ続けた人間は、恐怖を求めて自滅の引力に引きずられるのか?恐怖を克服して生きようとする力が勝るのか?



    環境。遺伝。産まれて来る赤ん坊は、親を選ぶ事は出来ない。最後、彼を捨てた親に心理的に訣別し、お世話になった施設長との大切な思い出に感謝する主人公に、一筋の光を見た気がした。

  • 親に虐待され、土に埋められて命を奪われそうになりながら、奇跡的に助かったという悲惨な過去を持つ男が主人公。
    この作者の作品を手に取るには、いつも覚悟がいる。社会の底辺で、理不尽な暴力と死の影が付きまとい、苦しむ人ばかりが登場するから。芥川賞を受賞した本作も、重苦しくて、読んでいて辛くなる。
    でも、いつもどこかに一筋の光が見える。やりきれない環境のなかで、ささやかなこの光を頼りに、主人公は何とか一歩踏み出せるんじゃないかと思わせてくれるところが、魅力なのかも。

  • 共感した自分に傷ついた。恐ろしい。
    どうしてこういう運命的なものに選ばれてしまう人間がいるのだろう。自分だから、とずっと考えていたけれどそうでもないのかなと思いついたのは大人になってからだった。

    無駄な言葉をそぎ落とした抑制の効いた文章が余計に彼のうちに秘めている傷に共感を誘う。

  • ★ここまで掘り下げるのは体力が要る★暗い、といってしまえばそれまでだが、どこかに光はあると微かに信じたいが信じ切れず、自問を繰り返している若者の姿といえるだろうか。幼いころにうけた恐怖の大きさのあまり、恐怖を求めているのか、乗り越えたいと思うためか、もしくはあまりに身近すぎてそれなしでは生の実感がないのか。破滅型とはまた異なる、行き場のない鬱屈を抱え込んだストーリー。

  • 説明 (Amazonより)
    受賞歴
    第133回(平成17年度上半期) 芥川賞受賞
    内容紹介
    私は土の中で生まれた。親はいない。暴力だけがあった。ラジオでは戦争の情報が流れていた——。重厚で、新鮮な本格的文学と激賞された27歳、驚異の新人の芥川賞受賞作。

    主人公は27歳の青年。タクシーの運転手をして生計を立てている。親から捨てられた子供たちのいる施設で育ち、養子として引き取った遠い親戚は殴る、蹴るの暴力を彼に与えた。彼は「恐怖に感情が乱され続けたことで、恐怖が癖のように、血肉のようになって、彼の身体に染みついている」。彼の周囲には、いっそう暴力が横溢していく。自ら恐怖を求めてしまうかのような彼は、恐怖を克服して生きてゆけるのか。主人公の恐怖、渇望、逼迫感が今まで以上に丹念に描写された、力作。表題作に、短編「蜘蛛の声」を併録。


    私の読解力の無さなのか 共感も感情移入も出来なかった。
    終始、暗い空気が漂っていて 気持ちがどんよりする。
    虐待されて育った人の内面が描かれてあり 誰にでも心の闇みたいなモノはあるのだろうとは思っているが 私はここまで死について深く囚われてはいない。
    本当の親と会わないと決めた事は 今までの自分と決別出来たと思いたい。そして、白湯子と共に救われて欲しい。

  • 芥川賞を取った時からずっと気になりながら、そのタイトルのあまりの不穏さに手に取れずにいた本。10年越し。ようやく読了です。

    著者は同じ大学で、私の一年後輩…となれば、きっとあのキャンパスのどこかに彼はいたのだろうなあ。

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著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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