なぜ君は絶望と闘えたのか

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著者 : 門田隆将
  • 新潮社 (2008年7月16日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104605026

なぜ君は絶望と闘えたのかの感想・レビュー・書評

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  • 光市母子殺害事件裁判の記録 今は裁判員制度が施行されたが、裁判制度、弁護士、そして犯人と信じられない、いや信じたくないことばかり。読んでもなぜ闘えたのかわからない。 きっと同じ立場にならないとわかる訳もない。

  • 光市母子殺害事件の被害者遺族のルポ。
    会見でいつも見せていた冷静対応、強い言葉。そこに至るまでの苦悩の日々と使命。
    なんで彼はあれほどに強く冷静なのだろう、とテレビを通して思っていたけれど、その強さは半端ではない。
    涙をこらえきれない、心して読む重い真実の一冊でした。

  • <span style="color:#000000"><span style="font-size:medium;"> 美しい言葉はいつも抽象的であり、一般的である。しかし、その言葉の裏には、常に、具体的個別的な事象がある。明らかに存在している。

     「あの会社はいい会社ですね」という際は、その人の脳裏には、その会社の特定の社員が浮かんでいる。その社員の具体的な行為を念頭に置いている。だからこそ、冒頭の言葉が出てくる。

     私たちの仕事でいえば、「皆さんのおかげで当選できました」とお礼の言葉を述べているときは、本当に「皆さん」を思い浮かべているのではなく、自分を応援してくれた支援者の方たちの顔が明確に浮かんでいる。もちろん、その議員さんを応援してくれている一度もお会いしたことのない方を含めての具体的な方たち。つまり、直接お会いしていなくても、広い意味で、その議員さんを支援していただいた方たちにお礼を言っている。

     山口県光市母子殺人事件。

     山口県光市において、当時18歳の少年が強姦目的で社宅用アパートに押し入る。女性を殺害した後、強姦。傍らで泣き止まない生後11ヶ月の女の子を床に叩きつけるなどして殺害した。

     一審は死刑を求刑されるも、少年法に守られ、犯人は無期懲役。ちなみに、被告人(加害者、犯人)側の弁護士は、検察側の死刑求刑が退けられ無期懲役の判決が下されると、法廷内の裁判中であるにもかかわらず、思わずガッツポーズ。傍聴席で無念の思いをこらえて座っている被害者遺族の目の前でである。

     私が、この事件の被害者の夫であり父である本村洋氏を、初めてテレビで見たのは何年前だろうか。ちょうど、その判決が出たころであろう。激しい怒りを目にたたえながら、冷静に言葉を選びながらもしっかりとした口調で話している様子を見て、私は、こんなに若いのに、こんなに苦しい思いをしているのに、こんなにしっかりと話をできる青年に心から驚きをもって見ていた。この段階で、強い同情心があったことも白状しておく。

     それから9年、その青年は、何度も司法の厚い壁に跳ね返され、自殺直前までにも追い込まれながらも、犯人に対して死刑の判決を勝ち取った。

     この日まで、本村青年は、多くの方たちに助けられてきた。検察官、警察官、会社の上司、一部マスコミ、親族、なんと言っても、亡くなった妻と娘。さらには、報道を通して、私のような無責任な一般市民までもが、ささやかながら本村氏の気持ちを忖度しようとしてきた。

     こちらも一般論としては、そんなことは十分想像できるであろう。

     しかしながら、本村氏が闘えることができた、その支えてきた方たちの存在を、具体的に個別的に、圧倒的な取材力で詳らかにしたものが、この「なぜ君は絶望と闘えたのか」である。

    <img src="http://yamano4455.img.jugem.jp/20080902_508634.jpg" width="160" height="160" alt="なぜ君は絶望と闘えたのか" style="float:left;" class="pict" /> 「なぜ君は絶望と闘えたのか」<br style="clear:both" />

     この悲惨な事件の第一発見者である、夫 本村洋氏は、事件直後、山口県警から容疑者の一人として聴取をされた。その後、事件の概要が明らかになるにつれ、警察も犯人逮捕に向け全力を尽くしていくことになる。

     担当の山口県警奥村刑事。

    「言いづらいことがあるかもしれん。でも君の家庭のことを調書に残させて欲しい。どういう生活をして、どういう奥さんで、どういう娘さんやったか、そういうことを全て教えて欲しい。罪の大きさを立証するために、これがどうしても必要なんだ」

     亡くなった妻は、夫に内緒で、いくつもの通帳を作って少しずつ貯金を始めていた。子供の学資のため、家族旅行のため、クルマの買い替えのため、それぞれの通帳に目的を記したシールを貼り、つつましやかに内助の功に尽くしていた。

    「君はいい奥さんをもったなぁ・・・」

     また、残業で帰りが遅い夫とコミュニケーションをとるべく、妻は夫宛に毎日のように手紙を書いていた。夫は、忙しさにかまけて返事も書いていない。

    「君はなんできちんと奥さんに返事を書いてやらなかったんだ!」

     奥村刑事は涙をためてこの健気な妻の死を惜しんでくれた。

     また、だんだんと、当時18歳の犯人には、少年法という壁で近づくことができないことが分かってきた。

     奥村刑事は、1997年に起こった神戸の酒鬼薔薇事件の被害者土師淳君の父親土師守氏が書いた著書「淳」を手渡した。「私も少年法のことはよく分からない。一冊は君、一冊は僕の分だ。この本を読んで、一緒に少年事件や少年法のことを勉強しよう」

     奥村刑事は、本村氏の精神状態は極限状態にあると察知した。

     奥村刑事は兵庫県警に電話をし、一度もあったこともない酒鬼薔薇事件の担当警官にお願いをした。

    「土師さんに、一度、(本村氏に)電話をしてもらえないだろうか」

     それを聞いた、土師氏は「たしかに、危ない」と直感し、その申し出を受け入れた。なんといっても、わざわざ兵庫県警にまで連絡してきて、この青年を助けようとする警察官がいることに土師氏は感激した。そして、その熱意に応えなければと思った。

     本村氏の身近な周囲の人たちも彼を力強く支えてくれた。

     気力も失い、また会社にもこれ以上迷惑をかけられないと思った本村氏は、上司の日高良一氏に辞表を提出する。

    「君は、この職場にいる限り私の部下だ。その間は私は君を守ることができる。(中略)君がやめた瞬間から、私は君を守れなくなる。」

     一息置いて、こうも付け加えた。

    「君は特別な体験をした。社会に対して訴えたいこともあるだろう。でも、君は社会人として発言していってくれ。労働も納税もしない人間が社会に訴えても、それはただの負け犬の遠吠えだ。君は、社会人たりなさい」

     「社会人たれ」という言葉は、重たい。発言する権利は、社会人としての義務を果たした上で初めて生まれてくるものだ。

     上司だけではない。

     山口地裁の一審判決を前にして、本村氏は意を決していた。少年法なる法律のため、犯人は極刑を免れることになろう。それならば、自分も死のう。

     「自分が死ねば、事件に関連して死んだ人間は『三人』になる。そうすれば社会も声を上げてくれるかもしれない。そうだ、社会に訴える手段として、自分が命を絶とう」

     本村氏の言動に不安を感じた職場の同僚は、上司に伝え、本村氏のパソコンに遺書があるのを発見。自殺を思いとどまらせる。

     いよいよ一審判決。残念ながら、本村氏が予期したように、その判決は無期懲役。判決後、本村青年は、会見の席で言った。

     「司法には絶望しました。控訴、上告は望みません。早く被告を社会に出して、私の手の届くところに置いて欲しい。私がこの手で殺します」

     私が、初めてこの事件を明確に意識し、本村氏に強いシンパシーを感じたのはこの会見からだったかもしれない。

     その判決直後、遺族がどうにもならない重い気持ちでいる時に、担当の吉池検事は声を絞り出した。

     「僕にも小さな娘がいます。母親のもとに必死で這っていく赤ん坊を床に叩きつけて殺すような人間を司法が罰せられないなら、司法は要らない。こんな判決は認めるわけにはいきません」

     「例え上司が反対しても私は控訴する。百回負けても百一回目をやります。これはやらなければならない。本村さん、司法を変えるために一緒に闘ってくれませんか」

     涙を浮かべた吉池検事に遺族の方が圧倒された・・・・。

     そんな人たちとは別に、「死刑廃止」を錦の御旗に、被害者遺族、ひいては社会を嘲笑するような出来事や登場人物も出てくる。詳細はここでは書きたくない。

     差し戻し控訴審で死刑判決が出された被告人に、この著者は、判決が出た翌日、面会に行った。

     被告人は、開口一番こう言った。

     「胸のつかえが下りました・・・」

     あの差し戻し控訴審での弁護団の戦術は一体なんだったのか。いや、あのような荒唐無稽な言動を繰り返したがために、被告人の「胸につかえ」がたまり、死刑判決を受け、それらが、憑き物が落ちたような感じになったのだろうか。

     本村氏の思いなのか、著者の意図したところなのか、この本の最後は、本村氏のこういう言葉で締めくくられている。

     「死刑がなければ、これほど皆さんがこの裁判の行方に注目してくれたでしょうか。死刑があるからこそ、F(被告人)は罪と向き合うことができるのです」

     感情移入せずに、読みきることはできない。
    </span></span>

  • 最愛の妻と娘を殺害された若き夫が、たくさんの人に支えられ励まされ勉強しながら、長い月日をかけ裁判で戦っていく姿を記した光母子殺人事件の本だ。

    いつもと同じように家に帰った夫は、いつもとは違う家の様子に妻と娘の姿を探す。押し入れで変わり果てた姿の妻を発見する。そこから長く苦しく辛い戦いが始まる。

    逮捕されたのは18歳少年。少年法によって固く守られていた。

    若き夫が絶望から退職を願い出たときの上司の言葉が胸を打つ「会社を辞めて自分の部下でなくなったら、君を守る事ができなくなる。労働も納税もしない人間が社会に訴えてもそれはただの負け犬の遠吠えだ。君は社会人たりなさい」

    「天網恢恢、疎にして漏らさず」事件当初から関わって、そう言って支えてくれた刑事。一緒に戦ってくれる検事。

    最終的に下された刑は死刑だった。涙なくしては読めない内容だった。

  • 9年間お疲れ様でした、と思わず口にしてしまった一冊。強く印象に残っている事件。被害者の必死の闘いの周囲には、すごくたくさんの力強い味方がいたんだなぁ、と。それもきっと人柄もあったろうに、そんな人の幸せが無惨に壊されて、最初から涙がでました。被害者に厳しく、犯罪者をいかに守るかの法廷。この事件はそれを少しづつ壊していこうとする、重大な意味も含まれていたなんて。…で、現状は被害者に優しくなったんでしょうか。ちなみに死刑に関しては、じゃ他人を殺すなと思う次第です。被害者を貶めてまで、犯人を助けようとする方々の気持ちが理解できません。

  • 帰宅したら奥さんと生まれたばかしの娘が殺されてたなんて信じられない話なのに、それを実行したのが18歳だったなんて。。。
    その結果実行犯は少年法に守られる事になり名前は公表されないし、地裁高裁判決では改善の兆しがあると言われるし、自分だったら憤死してんじゃないかって内容。

  • 被害者の夫である本村さんの視点で事件発生前の本村さんの生い立ちから始まり、事件後、本村さんがどう裁判を通して事件と向き合ってきたのかというのを時系列に事実をもとに淡々と書かれています。
    また同時に加害者(被告)のほうも裁判での証言などで人物像が事実に基づいて客観的に書かれています。
    さすがにノンフィクションだけあって淡々とした事実が逆に生々しくて話に引き込まれるとともに内容に圧倒されました!
    本村さんの長い裁判を通した一貫した使命感やその真っ直ぐなメッセージが司法や法律を変えていくだけの力を持っていたこと、但し、本村さん1人の力ではなく、それを支えたたくさんの人々の存在が非常に大きかったことが、とても印象に残りました。
    死というものに向き合うことで、家族の痛みや生きることの尊さの意味を知るというのは深かったですね。
    この事件を通じて、日本の抱える司法制度の問題や被害者家族保護よりも加害者擁護(更正)が優先されるような、ある意味、民主主義へのアンチテーゼに踏み込むまで社会問題とした本村さんの影響力(姿勢)に脱帽です。
    また作者の門田隆将の作品は「甲子園への遺言」に次いで2冊目となりましたが、両方ともノンフィクションならではのリアルさがハンパなく、内容的にもグイグイ胸に刺さる作品ですね!

  • 正義とは、司法とは、人が人を裁くこととは・・・
    色々と考えさせられることがある。
    見切り発車的に間もなくスタートする裁判員制度はやはり間違っているのではないかと再認識させられた。

  • この事件の事を思うたび、心がギュッと縮こまります。うちの長男と被害にあった夕夏ちゃんは同い年。事件が報じられた時、我が家にもハイハイする赤ちゃんがいたのです。夫が仕事中、子と二人で過ごしてたところに設備点検の業者さんが訪れて家に上げたわけです。ここまでは日常です。突然背後から襲われ絞殺ののち屍姦され、我が子は床に叩きつけられ…と、妻弥生さんの恐怖、無念、帰宅してその惨状を目の当たりにした本村さんの心中を、我が事のように思うのです。少年法や被害者救済、人権、死刑制度などについて考えるきっかけをくれる名著。

    涙、涙、涙。犯人が死刑になっても、弥生さんと夕夏ちゃんは帰って来ない。

  • 光市母子殺害事件の被害者遺族、本村氏を追ったノンフィクション。
    本当に辛い戦いで、涙無しには読めない。。。という感じ。かつ、彼を中心とした被害者遺族の会の活動がどれだけ司法に影響を与えたか、というかそれまでどれだけ被害者遺族が裁判から置いていかれていたかがよく解ります。そういう意味でも一読の価値有りというか。
    かなりさくさく読めるので図書館でいいかも。

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