炎の回廊―満州国演義〈4〉

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (460ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104623051

作品紹介・あらすじ

脅威を増す抗日連軍、天皇機関説に揺れる帝都、虎視眈々と利を狙う欧米諸国-満州国の混沌が加速するなか、外務官・馬賊・憲兵大尉・武装移民と、別々の道を歩んだはずの敷島四兄弟の運命も重なり、そして捩れてゆく。「二・二六事件」に揺れる満州を描く第四巻。

感想・レビュー・書評

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  •  満州国建国後、なお拡大し行く抗日運動。蒋介石を中心とする国民党、彼らに追われての敗走を長征と言い換え民衆の心を捉えてゆく天才・毛沢東指揮する中国共産党、彼らを背後からコントロールしようとするスターリンの赤化活動。入植した朝鮮農民らの非政治的抗日活動。ますます見えざる敵による包囲網に曝さた在満州の特務機関は、さらに過激で汚い策略を、秋枯れてゆく大地に展開する。寒風吹きすさぶ荒野で、敷島四兄弟の日々は、まだまだ国家的運命に翻弄され、風雪の中を転がってゆく。

     そうした過酷さを描く視点は、常に四人の兄弟の目線であり、生活の中からのものである。登場する無数の民族たち。殺傷される無数の人間たち。裏切りと策略の大地。すべてが生存競争の中にあると言って過言ではない時代である。

     もともとが南米を初めとした第三世界での侵略とゲリラ闘争とを主題に描いてきた船戸与一が、日本という国家が現在に至るまでに果たした鮮血の歴史に眼を瞑るわけがなかった。海外の火薬庫を眼にし、言霊のままに作品を量産してきたこの作家にとって、日本人としての自らの血を自らに問い詰める時期はいつか必ずくるものとわかっていた。

     その時期が来たのだ。それがこの「満州国演義」という名のサーガなのである。そして、その剣先は当然読者である我々にも向けられる。北海道人がアイヌ民族からの簒奪なき地平の上には生きなかったように、日本人全体が、飢えや貧困の解決を侵略という帝国主義によってしか欲さなくなった時代は、今も強靭な礫となって、国際世論や歴史の証言のかたちで我々の飢えに流星雨のように降り注ぐ。

     そんな時代、思想間闘争が勃発した。天皇というテーゼが、内乱を引き起こしかけた帝都の危機。二・二六事件である。本書の大団円を作るのが、この歴史のターニング・ポイント。

     二・二六事件と言えばいくつかの作品を通して、ぼくの中でぞわりとした感触を残してきた史実であった。必ずしも二・二六事件でなくとも、当時の青年兵士たちがどう考えどう行動したかの裏側に、天皇機関説という名の国家主義と個の天皇崇拝思想との世界観葛藤がどうにもならぬところまで追い込まれていた世相が、感じられたのだ。

    三島由紀夫の『奔馬』は、輪廻転生を描いた連作長篇『豊饒の海』の第二巻に当たるが、主人公は純粋死を求めて財界の黒幕を断罪し自決するまでのストレートな行動小説である。後の三島の市谷での死を思えば、大変重要な作品であることは言わずと知れたところである。

     映画『動乱』は、高倉健が青年将校を、米倉斉加年が動きを探る憲兵を演じた。吉永小百合も見事なヒロインを演じ、全体的に、美しき悲劇を映画として語らず淡々と描いていった。散る美しさ、を重みのある俳優たちに演じさせたものである。

     時代の歯車が大きく動いた事件として最も長く重く描いた小説は、五味川純平『戦争と人間』である。二・二六の下りは執拗なまでに書き込まれている。本書、『炎の回廊』は、満州にいる人間たちを軸に描いているので、帝都での激震に関しては、彼らの情報という形でしか主に紹介されない。それでも、満州に届いてくる激震の波動は並々ならぬものがあり、巻中、幾重にも当時の満州人たちの思想を抉リ出すような記述が見られる。

     その分、特務機関員、論客らが酒を酌み交わし、日本帝国主義の行く末を慮り、自らの生き様に検証を加えるようなシーンが頻出する。いつにも増して、活劇以上に思想的断面での鍔迫り合いが多い分、ある意味難物ではある。最悪のポイントに向けて、日本、ドイツ、イタリアらが同時に動き出した。運命の巨大な歯車が軋む姿は、船戸の筆により、さらに掘削を深めて行くことだろう。

  • 満州国演義シリーズ第4作。敷島太郎の長男・明満が死に、「明日の満州、明るい満州」を意味するその名前が消えていったことに象徴されるかのように満州国の未来に暗雲がたれこめ始める。抗日反満を掲げる抗日連軍、コミンテルンの暗躍に加え、内地では美濃部達吉の天皇機関説に対する反発や2.26事件という皇道派による軍事クーデタ未遂も起きる。敷島4兄弟の運命も時に交錯する。詳細→
    http://takeshi3017.chu.jp/file9/naiyou10142.html

  • 1934年溥儀の満州国皇帝即位式典からが本巻のスタート。
    満州国建国に伴って行われた溥儀の皇帝即位式の華やかさとは裏腹に、この新国家が早くも意味不明な存在であることが確認される。
    この国には(誰も満州国国籍を得たがらないので)国民がおらず、憲法すら作れないという。
    よく考えればそりゃそうなんだけど、"五族協和"なんて壮大なスローガンを掲げておきながらこの内情はちょっと寒い。

    ソ連コミンテルンや金日成や中国共産党など共産主義勢力の暗躍や、ナチス勃興などの話題も出てくるのだけど、興味深かったのはユダヤ人の話。
    1930年代当時、ドイツとソ連の両方から迫害されたユダヤ人達は逃げ先のひとつとして満州国を想定していたのだそう。
    結局実現せず終わるものの、ユダヤ人の経済力やアメリカ合衆国への影響力を計算して、日本(満州国)側でも受け入れ政策が検討されていたのだとか。
    ユダヤ人問題だけではなく、インドやモンゴルでの民族意識の高揚なんかも含めて、満州の問題がどんどん複雑な国際情勢とリンクしていく。

    この巻で起きる最も大きな事象はファシズムの台頭。
    日本陸軍内部での皇道派と統制派の対立がこじれにこじれた末、1936年には二・二六事件が勃発する。
    この事件は合理的なファシズムと神秘的なファシズムという不毛な対立構図であり、その背景にあるものは天皇の存在や機能を巡る論争。それらは明治維新の延長線に発生したもの、というのが本作での捉え方。

    明治維新期に薩長系の元勲が日本を近代国民国家とするために行った水戸学風の《天皇=神》のプロパガンダが事の発端なのだけど、年月が経過した昭和期の青年将校達の間では、それはあまりにも定説化しすぎていた。

    作中のある登場人物が口走る「とりあえず天皇陛下万歳と言ってしまえば楽になれますよ」という言葉の不気味さが、この時代における一面の真実なのだろう。

    明治維新期に為されたプロバガンダが、世代を経て大きな弊害を産み、それが二・二六事件、さらには太平洋戦争にまで繋がっていくこと。
    こういうことを考えると、《僅か数十年でロシアを破るまでになった》という日本の急激な近代化が本当はどういうものであったのか、よく考えられるべきなんだろうなという風に思う。
    いいとか悪いとかではなくて、何がどうなったのか、何を産み出して何を破壊したのか、何を変貌させたのか、そして何が今にまで残っているのか。

  • ついに二・二六を迎えた。とはいえ唐突の感もある。小説の舞台はあくまで満州国なので仕方ないけれど、事件の詳しい背景を知りたかっただけに、幾分拍子抜けしてしまった。

  • 2012/03/31完讀

    蔣介石政府終於讓紅軍敗逃,也進行幣制改革,目前和日本雖表面上相安無事,但已經漸漸鞏固內政,累積將來對抗日本的實力。另一方面,日本政府在冀東拉攏殷如耕,想複製滿州國模式。在滿州國內抗日的游擊戰勃發,共產主義、民族主義者的游擊戰,相當令日本人頭痛,但滿州國本身的警備組織仍相當脆弱,無法承擔大半的責任。

    當時的國際政治相當詭譎,蔣介石、蘇聯、共產國際、紅軍、日本政府與滿州國,甚至其他獨立運動(本卷詳細地談到猶太人,值得注意)、歐美各國在殖民地、租界和中國的利權,的,各自打各自的算盤,台面上可能互相攜手,但也在台面下不斷地離反,或者表面上處於敵對關係,實際上卻暗地利益輸送。日本國內因政府與軍部、陸軍與海軍、陸軍內部本身的紛爭,天皇機關說與國體明徵運動的爭議甚囂塵上。作者本身對這有很詳細的描寫,對身為外國人的我來說能學到很多的知識。這一切的論爭終於漸漸失控,導致皇道派主導的二二六事件的發生。

    至於敷島四兄弟,太郎雖然了解到五族共和的虛幻,但還是緊緊抱著這個「男人最大的浪漫」。二郎在這卷依然如柳絮四處飛,四處接工作,也從他的視角觀察各種抗日團體。二郎依然是四兄弟中我最喜歡的角色。不過他最後又開始接關東軍的工作,不知會變怎麼樣?至於三郎,升任憲兵上尉轉戰各地掃討抗日游擊軍。四郎依然總是作著沒有任何成效的工作,最後被派到天津庸報去工作。

    這一卷寫了很多國際政治和國內政治的內容。這一部作品本來就不是主角色彩鮮明的作品(讀這部讓我一直聯想起浅田次郎的《中原之虹》寫作的感覺,主角強烈的存在感是很強烈的對照),也不會把主角放大或擅自編入歷史的重要場景中,而是一直採取旁觀的方式,沒有《中原之虹》中那種威能主角,一直謹守著這是「滿州國演義」的框架。這一本啃起來有些硬,但相較於前三本,我反而最喜歡這一本,而且主角們編入故事的感覺也已經漸入佳境,感覺故事本身漸漸邁向成熟了。

    (460page)

  • まだ面白い。でも悲惨な結末が予想されるので歴史のIFを考えてしまう。日本人の醜い部分が容赦なく描かれている。現代史の勉強にもなる。

  • 慮溝橋事件・満州事変・上海事変・5・15事件、そして2・26事件。年表の上で『点』として存在した歴史上の大事件が線で繋がっていく!正直3巻目では中だるみ感があったり、都合のいいところに神出鬼没で現われる特務間垣徳蔵がスーパーマン過ぎたりが気になったんだけれど、間垣問題は別の手法で解決。

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